超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「それそれ~♪」
「そぉれー! きゃははは!」
「手加減ってもんを知らんのかぁお前らはぁ!!」
前門のプルルート、後門のイエローハート。退路にユウコ。まさに四面楚歌。エヌラスは容赦のない二人のボディシャンプーによるダブルソープアタックに手も足も出なかった。
イエローハートは身体が大きくなっても中身は五歳児のままに無邪気な攻勢。その爆乳を押しつけたり背中に当てて洗ったりと、無知なだけにどう説明するべきか分からないエヌラスはされるがままだ。
その一方でプルルート。正面に座り込み、身体を密着させてスポンジで胸板に触れる。その手が徐々に下の方に向かっていくだけでも生きた心地がしない。とても気持ちいいのだが、それを口に出すことも顔に出すことも許されない状況はある種の緊張感、あるいは拷問だった。
ユウコは浴槽の縁に頬杖をついてそんな様子を見守っている。髪の毛を団子にしてまとめ、なすがままにされているエヌラスを黙って見ていた。
「楽しそーだねー二人とも」
「うん! すっごくたのしいよ! ユウコもする!?」
「私はいーかなー」
「ユウコちゃんもエヌラスのこともみくちゃにしようよ~」
「やめてくれプルルート、これ以上相手が増えると俺がどうなるか分からんから!」
「……めちゃくちゃにしたいな~」
「しないでくれ。そんな風に頬を赤らめて上目遣いでも、ダメなものはダメです!」
「もっとやっていいの!? よぉーし!」
「やっちゃえ~ピーシェちゃ~ん」
「俺の話聞いてないな!? ユウコも見てないで、助けろぉ!」
「えー? だって、今の状況でどう助けろって」
プルルートとイエローハートの二人にもみくちゃにされながら、エヌラスの頬は緩んでいた。そんな顔を見せてくれたのはいつぶりだろう。ユウコはそんな顔を眺めながら、浴槽の縁に身体を預ける。
傷跡だらけの身体は生半可な鍛え方をされていないのか、薄っすらと筋肉が浮かび上がっている。左胸の魔術紋様も鈍く輝いていた。後ろ足で立ち上がっている獅子を象った銀鍵守護器官の上をプルルートの手が撫でていく。
「きもちい~い~?」
「すっごく気持ちいいんだけど、それを口にすることがとても辛い」
「我慢してると身体に悪いよぉ~」
「一刻も早く俺を解放しようという気はないでしょうか、プルルート様」
「どうしようかな~? ね~、ピーシェちゃん~」
「やだ!」
「だってさ~」
「俺の発言権が五歳児に劣る件について」
そうこう言っている間に、イエローハートはプルルートと並んでエヌラスの前に居座る。バスタオルを巻かず、生まれたままの姿で視界に入れるには少し刺激の強いスタイルに思わず目を逸らした。かろうじて腰に巻いているタオルに反応は出ていない。よくやった理性、死んでおけ野生。
「ぷるるともえぬらすもなんでタオル巻いてるの?」
「え~」
「いや、そりゃ……」
「ぴぃが背中洗ってあげるから、脱いで脱いでー♪ それー!」
「ひゃあ~!」
「ちょっ、まっ……!」
イエローハートの手が二人のバスタオルを掴み、ひん剥いた。裸のプルルートの前には、バスタオルを引き剥がされたエヌラスの身体がある。最初こそ見つめ合っていた二人だが、プルルートの視線が不意に下の方へ移動していく。それにつられてイエローハートの目線もだんだんと下の方へ。
「あ、ぞうさんだ!」
「やめろ、口にするなピーシェ! 頼むから!」
「エヌラス。お前反応したらぶっ殺すからな」
「お前は俺に死ねって言ってるんだな、よーしわかった」
「ねぇねぇ、えぬらす! さわってもいーい?」
「ダメです!」
「えーケチー。ぴぃのも触っていいから!」
「ダメったらダメだからな!?」
「なんで?」
「…………えーと、それはだな……」
盗み見るプルルートは、股間をガン見している。やめろ、そんな熱っぽい視線で見つめるな。
「そういうのはな、ピーシェ。好きな人とじゃないと」
「ぴぃ、えぬらすのこと好きだよ? ぷるるとも、ゆうこも!」
「そっかーありがとなー。やべぇ詰んだ」
「だから触っていーい? いいでしょー?」
「身体を寄せるな密着するな! 胸を! 俺に! 押しつけるな!」
イエローハートの無知極まりない攻勢にはエヌラスも手に負えない様子だった。助けを求めてプルルートに視線を向けても上目遣いでこちらの顔色を窺うばかり。
「だっておっきいんだもん。ぷるるとも変身するとおっきくなるもんね」
「うん~。して、あげようか~?」
「死ぬほど勘弁してもらっていいっすかね」
俺はまだユウコに殺されるわけにはいかないんだ。めっちゃ睨んでる。めっちゃ目が座ってるユウコがこっちを睨んでる。というかお前は見てないで本当に助けろ。──エヌラスの助けを乞う心の声が聞こえたのか、深いため息をついてユウコがバスタオルをしっかりと押さえたまま浴槽からあがる。濡れたタオルが肌にまとわりついて、豊満なスタイルがくっきりと表れていた。
「ほぉら、ぴぃちゃん。私が背中流してあげるからそのへんにしときなよ」
「ゆうこも脱がしたげるね! それー!」
「──へ?」
「あ」
イエローハートがバスタオルの端を掴んで一気に引っ張ると、ユウコの裸がエヌラスの眼前に広がる。
豊満な胸は自重をしっかりと支えて、乳頭がやや上向きで。腰のくびれも、お尻から太腿にかけて健康的な肉つきだが、決して多すぎない。色気づいた火照った肌に、しっかりとお手入れされているデリケートゾーンは綺麗な色をしていた。
驚きのあまり、硬直して目を見開いたユウコの赤い瞳と目が合う。一瞬で真っ赤になって口をパクパクと声も出ない様子だ。
「ユウコちゃん、身体キレイ~」
「ゆうこもぽよんぽよんでぴぃとお揃い!」
「ぇ……ぁ……あ……!」
「…………いやほんと、キレイだよな」
「冷静に、見るんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
ユウコの怒声と共に振り上げられた拳がエヌラスを沈める。
「おかえり、どうしたんだい? その顔」
「ユウコにぶん殴られた」
「ざまぁみろ、いい気味だ」
「それに見合うだけの価値はあったな」
「死んだほうがいいんじゃないか?」
辛辣なソラの言葉を聞き流しながら、エヌラスはソファーに湯上がりの身体を預けた。小難しい顔をしてまだ配管の見取り図とにらめっこをしているソラの指先が図面をなぞっている。
「それで、そっちの調子は?」
「七割といったところかな。明日には全部記憶できそうだ」
ことさら、記憶能力に関してソラの右に出るものはいない。いうなれば、大容量人型記憶端末のようなものだ。
「休憩がてら、さっきの結晶について調べてみたけど」
「ああ。どうだった」
「こいつは人型結晶体のコアだったんだろ? 他の部分は」
「倒すなり、黒く変色して消えちまったよ」
「ふぅん……となると、エネルギー伝導効率の問題かな……シェアエナジーで稼動するモンスターだと仮定したとして原動力がどうなのかだ」
「殺してでも奪い取ってるんじゃねぇの?」
「君じゃあるまいし──いや、待てよ……」
冗談と聞き流そうとしたソラが、なにか思い当たる節があるのか考える素振りを見せる。テーブルを指先でノックしながら虚空を見つめていた。
「……大魔導師も似たようなことをしてなかったっけ?」
「あー、師匠のはちょっとな」
「そもそも、死体からどうやって信仰心集めてるんだよ」
「死者の魂を肉体に封じ込めるんだとよ。正気じゃできねぇよそんなん」
「それだ。同じ原理で、こいつも信仰心を集めて自分の原動力にしてたはずだ。それなら不規則な波長も納得がいく」
「だが、仮にそうだとして。パンドラのやつも同じ結晶体だ」
「逆かもしれない。コイツが、同じなんだ。いうなれば模倣体みたいなもの。だけど、なんで急に現れたりしたんだ……?」
「俺が知るかよクソメガネ」
「君が調べろよクソ野郎。僕に丸投げするな、忙しいんだから」
「何いってんだ、俺はもう寝る。んじゃまた明日な」
「この野郎! おやすみ!」
身体を伸ばしてからエヌラスは寝室へ向かう。そのあとすぐに、お風呂から上がった三人がぞろぞろで出てきた。
「あれ、エヌラスは?」
「もう寝るってさ。僕はもう少し起きてるよ、お風呂もまだだしね」
「ふーん。ま、頑張って。コーヒーでも淹れる?」
「頼めるかな、ユウコ」
「はーい」
寝間着に着替えたユウコがキッチンに向かう。プルルートは欠伸をするとフラフラと頭を揺らしていた。
「あたしも~、今日は疲れちゃった~」
「ルウィーとプラネテューヌ往復しましたからね」
「メガネくんは~?」
「僕も疲れてますけど、まだやることがあるので」
「じゃあ~、あたし先に寝ちゃうね~。おやすみぃ~……」
「ぴぃもー」
「おやすみなさい。…………今度から名札でも下げておこうかな……」
名前を覚えてないのだろうか。そこへコーヒーを淹れたユウコが戻ってくる。テーブルに湯気の立つコップを置いて、ソファーに座った。
「ありがと。ユウコはまだ寝ないのかい?」
「んー……もうちょっと、身体冷ましてから……」
「……あ、そう」
「うん……」
コーヒーを冷ましてからソラは一口だけ含む。ほのかな苦味と、それを上回る溶かした砂糖の甘さが口の中に広がる。
「あっま……」
「砂糖四つでしょ」
「いや、そうなんだけどさ……」
ユウコもホットミルクを飲み始めた。
取り立てて仲が良いというわけでもない関係。顔なじみで、仕事仲間という距離感。
「ソラはさ。やっぱ、ステラちゃんのこと諦めてないの?」
「当たり前だろ。何を言ってるんだ。昔も今も、ずっと彼女と一緒だよ」
「一途だねぇ」
「誰かさんと一緒にしないでくれ」
「はいはい、ごめんねー」
「……ユウコはいいのかい? エヌラスのこと」
「…………ん、どうなんだろ」
「というか、なんで同行したんだよ? ピーシェちゃんに会いたいのは本当のことだろうけれども、なにも付いてこなくてもよかったじゃないか。君も忙しいのに」
「それは──それは……、そうかもしんないけど……」
「別に邪魔とか言ってるわけじゃないから、あしからず」
「んー」
ひらひらと手を振って「わかってますよーだ」と言わんばかりに返事をする。
「ちょっとでもさ、一緒にいたいじゃん?」
「気持ちはわかるけどさ。肝心のアイツがあんな態度なのは、いいのかい?」
「いいの。アイツはぷるちゃんに会いたくてこっちの次元に来たんだから。余計なお世話だっての、ほっとけ。私の事情なんかどうでもいいでしょ、クソメガネ」
頬を膨らませてユウコはソラを睨みつけた。それに手を振って「すいませんでしたねー」と答えてみせる。
「僕としては、こんな事件さっさと終わらせて帰りたいよ。今頃はインタースカイでも大急ぎでシステム復旧に躍起になってる頃だろうからね。忘れないように。僕らはあくまでも、お客様なんだから。アダルトゲイムギョウ界以外で起きている事件なんて僕は知ったこっちゃないよ」
「……やなやつ」
「はいはい、そーですね。悪いけど、僕は今回やなやつで通すつもりだからそのつもりで。コーヒーごちそうさま。お風呂入ってくる」
「私はもう寝る。じゃ、また明日ね」
「おやすみ」