超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ルウィーでのパンドラ複製体が出現してから、数週間。ラステイションとリーンボックスでも同様に出没した複製体はブラックハートとグリーンハートによって撃破された。
そして今、プラネテューヌにも出没したパンドラ複製体がアイリスハートとイエローハートの手によって撃破されようとしている。
両腕を蛇腹剣に変化させた相手の攻撃をかいくぐり、イエローハートのクローが胴体を貫くとコアとなるクリスタルが破壊されたのか全身が黒く変色し、急速に朽ちていった。アイリスハートは髪をかき上げて、女神化を解除する。
「おつかれさま~、ピーシェちゃん~」
「ぷるるとも!」
「うん~。あ、そうだぁ。メガネくんに言われてたのぉ、ちゃんと回収しないと~」
複製体の核となるコア・クリスタルを回収して、プルルートとピーシェは教会へと戻る。
そこでは、エヌラスとソラ。そしてノワール、ブラン、ベールの三人も揃っていた。
「メガネくん~、言われてたの回収してきたよ~」
「ありがとうございます、プルルートさん。さて、これで四つか……」
「ルウィーの一件以来、急に現れるようになったわね。パンドラのやつに聞いても、身に覚えがないの一点張り。何なのかしら、もう」
「まぁまぁ、ノワール。そう焦っても仕方がありませんわ。それに、そのクリスタルについてもメガネさんがお調べになっていたんでしょう?」
「それで、メガネくんは調査でなにかわかったかしら……?」
「それもそうね。そこのところどうなの、メガネくん」
「僕の名前誰一人として覚えてないんですかっ!!?」
「うっせぇぞクソメガネ。さっさと説明しろ」
「理不尽という暴力に慰謝料請求できないかな……」
目頭を押さえて理不尽に耐えながら、本格的に名札の導入を検討するソラが咳払いを挟んで思考を切り替える。
今回、他の三人を呼んだのは他でもない。これまで独自に調査を続けていたパンドラ複製体の核となる、コア・クリスタルについての情報が集まったからだ。
「それじゃあ、僕の方で調べていたあの複製体についての情報ですが──まず、あいつの原動力となるのは女神と同じシェアエナジーであるということです。大体察しはついていたかと思いますが」
「まぁね。元々それに似た波長は戦っている時も感じていたもの」
「問題はそのシェアをどこから獲得しているか、ですわ」
「それについてなんですが……」
共通点として──まず、出現する付近一帯からモンスターが消失すること。生態系の崩壊を招く存在だ。次に、こちらの武器を模倣するということ。シェアエナジーを原動力としていることと、付け加えて胴体に核となる女神メモリーに酷似したクリスタルを保有していること。
肝心なのが、どうやってシェアを獲得しているかということだ。
ソラは、それをモンスターから吸収していると結論づけた。まさか、と鼻で笑う女神達だがふざけているわけではない。
「簡単に言ってしまえば、複製体はモンスターからシェアを経験値代わりに溜め込んでいるということです」
「それなら、倒したらその経験値となるシェアエナジーは私達に還元されるんじゃないの?」
「元々モンスターから奪っていたシェアは、倒されればその周囲に散布される形になります。それがつまりは──」
「モンスターの大量発生に繋がる、ということ?」
「そういうことです」
自然発生したうちは、モンスターと敵対している。それが経験値を積み、モンスターを掃討するまでレベルアップすれば、次は女神を狙う。もしモンスターに倒されれば、コア・クリスタルを残して消える。
「さて、クソメガネの話の続きは俺が。ひとつ疑問が残っている。それは、オリジナルになるパンドラ・イルバードだ。コイツはシェアを狙っているわけでもなければ女神に敵対しているわけでもない」
「確かに。そうよね……でもそれなら、シェアエナジーをどうやって」
「コイツは極めて高純度のエネルギー伝導体、言うなら意思を持ったシェアクリスタルみたいなものだ。こいつが正当な手段で信仰心を集めた場合……どうなると思う?」
「どうって……それは、女神と同じように国を治めて──」
「もしも。リギホウテンのシェアが他国を上回った場合は女神に対抗する存在になる」
「私達が、アイツに劣るとでも言うのかしら」
心外といった様子でノワールが睨む。しかし、各国のシェアが下がっているというのは事実であり、エヌラスもそれは確認していた。バインダーに挟んだ一枚の紙にはここ数週間のシェアがグラフで書き起こされている。
「ラステイションが、二割。ルウィーが二割。リーンボックスが二割。そして、プラネテューヌが、約二割。──リギホウテンが、数値上は二割。ギリギリだ、のっぴきならない状況にまで来ているんだよ。なんとか手を打たないと取り返しがつかない」
「でも~、あの国の人達って元はあたし達の国民なんだよね~」
「そうですわ。それなら、あちらの国から引き戻せばいいだけの話で──」
「それが出来てればこんな話になってねぇんだよ」
「私達だって、何もしていないわけじゃないわよ!」
「それも知ってる。だが、モンスターに怯えて暮らすのと、モンスターと一緒に仲良く暮らすならどちらが魅力的かなんて言わなくてもわかるだろ。まったく、大した裏技だよ。そんな手段で女神をどうこうしようなんて、とてもじゃないが俺には思いもつかなかった」
目指すべき平和の道筋が根本的に違う。モンスターを脅威とするのではなく、受け入れる。その寛容な政治に感化された結果、女神をモンスター虐待の筆頭とまでする反対派運動まで起きていた。だがそれはパンドラの目論見から外れている。しかし、それが結果として他国のシェアの低下を招いていた。
「……悔しいけれど、わたし達にはどうすることもできないわ。もし、力づくで国民を奪いでもしたらそれこそ戦争になる。それだけは絶対に避けたい」
「ならどうするっていうのよブラン。このまま黙ってるつもり!?」
「誰もそんなことは言ってない。わたしもルウィーで色々と施策はしているけれども、結局は後手に回るしかないわ」
「拉致されているわけでもなく、国民が自らの意思で移民を希望されてはわたくし達が引き止めるわけにもいきませんもの。厄介極まりないですわ」
「正当な手段の、正攻法で、かつ真っ当なやり方で上をいかれたんじゃあ……お手上げですね」
ソラが肩をすくめてみせる。
「そこまで言うなら、なにか解決策でもあるんでしょ。メガネくん」
「そうですわ。ここまでクリスタルの解析を進めた貴方の慧眼なら、なにか策があるのではないですか、メガネくん」
「慧眼というよりも近眼じゃないの? メガネなんだし。それで、どうなのかしらメガネくん」
「もしかしてみんなわざとですか。いえ、まぁ確かに方法が無いわけではないんですが……」
「あるなら言いなさいよ! 言ってみなさいよ!」
ノワールが食い気味に身体を乗り出すが、ソラは目を逸らして言葉を濁した。エヌラスと視線を合わせるが、首を横に振る。
「先程も言った通り。パンドラ自身が極めて高純度のエネルギー伝導体です。なので実力を疑うわけではありませんが、もしも。シェアが上回った状態のアイツを相手にすることがあれば、その時は……」
「なによ、メガネくんまでわたし達が遅れを取るって言いたいわけ? バカにするのも大概にしなさいよ二人とも。大体なに、あなた達はそうやって情報をよこすだけで根本的な解決策が無いじゃない」
「不安を煽って、もっと頑張れって言いたいだけ? こっちだって頑張ってるのよ……」
「残念ですが、わたくしもノワールとブランに賛同ですわ」
「方法ならあるぞ」
『え?』
エヌラスが頭を掻きながら指を立てる。手段が無いわけではない。それに賛同が得られるとはとても思っていないが、それしか解決策はない。
「ひとつ、パンドラ・イルバードを殺す。ふたつ、リギホウテンを潰す。以上だ」
これ以上ない程の最適解。それにはさすがのプルルートも言葉を失っていた。
「はぁ~!? 何を言っているのよあなたは!?」
「なんだよ、解決策を言えって言ったのお前だろうが。文句あんのか」
「あるに決まってるでしょ! それが出来たら苦労してないのよ! 自分で言ってたことも覚えてないわけ!?」
「そもそもアイツを消せばいい話だろうが。指導者がいなくなれば国民も離れる。そうすれば元の鞘に収まって、万々歳。それになんの問題がある」
「解決方法と手段に問題があるっていうのよ!!」
「ノワールちゃん~、エヌラス~。二人とも喧嘩しちゃ、やだ~!」
口を開けば衝突しそうになるノワールとエヌラスを引き離し、ソラが肩に手を置く。ベールとブランも肩を怒らせる姿をなだめていた。
「なんで君はこっちの次元だと彼女たちと仲が悪いんだよ。向こうと大違いだ」
「知るか。顔が同じ他人なんて、俺に取っちゃ悪夢でしかねぇよ」
「君はほんっとうに面倒くさい奴だな……」
「俺もそう思うが、俺じゃどうしようもないんだ」
頭にきている理由はそれだけではない。こうして手も足も出せない状況に甘んじている自分自身にだ。手段と方法がありながら、それを実行に移せないでいる。
「ねぇ~、エヌラス~。なんでノワールちゃんと仲良くしてくれないの~?」
「…………」
「みんなと仲良くしてくれないと、あたしやだな~……」
「プルルートの気持ちはわかるつもりだ。俺だってそこまで鈍感じゃあないし、お前を悲しませるような真似はしたくない」
「じゃあ」
「──だけどな。俺はこれでいいんだよ。これで、いいんだ」
「……エヌラス?」
きっと。
きっと、今。これ以上に彼女達と歩み寄ってしまえば、引き返せなくなる。自分が壊してしまう笑顔がこれ以上増えるのはゴメンだ。
もう二度と誰も失わないと決めたんだ。
例え自分がどうなろうとも──!
「俺はプルルートがいれば、それでいい」
「あたしは、みんながいないとやだなぁ……」
「お前にまで嫌われたら生きてく自信なくなるな、この先」
「嫌いになったりしないよ~」
「そっか……」
「うん~。だから、喧嘩しちゃだめだよ~?」
エヌラスは渋々頷いて、ソラと肩を組む。
「なんだよ、いきなり肩なんか組んで。気持ち悪い」
「トイレ行こうぜ、クソメガネ」
「はぁ? 一人で行けよ、なんで僕も一緒に行かなきゃならないんだ」
「連れションだ連れション。たまにゃいいだろうが」
「女の子ばかりの状況でよくそんなこと言えるな。その度胸だけは真似できそうにないよ」
「うっせ。で、どうすんだ?」
「はいはい、行けばいいんだろ。それじゃちょっとトイレ借りますね」
二人がリビングを後に、姿が見えなくなるとノワールがこれ見よがしに深い溜め息をつく。心底呆れた様子で。
「まったく、なんなのよアイツは。真面目な話をしているってのに連れションなんて。デリカシーってものがないのかしら。あなたもよくあんなのと一緒にいられるわね、プルルート」
「男同士……トイレで……うふふ、うふふふ。滾りますわ」
「ベールは別な意味で興奮してるみたいだけどね……」
「放置よ放置。それで、どうするの」
「あたし~、みんなが喧嘩しないで~。仲良くしてくれたらそれだけでい~よ~……」
「……こっちだって歩み寄ろうとは思うわよ。でもあんな態度されたんじゃ、無理そうね。あなたに夢中みたいだし」
「だけど~……う~……やだなぁ~……」
髪を指先で弄ぶプルルートの声色が沈む。
「アイツが、あの態度を改めるなら私も一考の余地はあるけど。あなたがそういう風に甘やかすからああなってるんじゃないの?」
「そんなことないよ~。あたし、ちゃんとしつけてるもん~」
「言い方がちょっと引っかかるけど、本当かしらね」
「今日のノワールちゃん、いじわる~……」
「か、勘違いしないでプルルート!? 別にいじめてるわけじゃないのよ!? ほんとよ!? ただ私はあなたのことを心配して……」
「何も知らないのに~、そういうこと言っちゃうんだ~……」
「う……わ、私が悪かったわよ。ちゃんと謝ればいいんでしょ。はぁ……」
機嫌を悪くするプルルートに、あっさりとノワールが引き下がった。なんとか女神化だけは避けることが出来て胸を撫で下ろす。
「ああきっとお二人はトイレで……」
「あなたはいい加減に戻ってきなさいよ、ベール」
まだ妄想の中にトリップ中のベールに、ブランが呆れていた。