超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネタワーのトイレに向かう二人だったが、エヌラスはその前を素通りする。疑問符を浮かべるソラが慌てて後を追った。
「エヌラス? おい、どこに行くつもりだよ。トイレはこっちだぞ」
「知ってる」
「はぁ……まさかとは思うけど」
「そのまさかだとしたら?」
歩みを止めず、エヌラスは街へと出る。ソラは嫌な予感はしていたが、それが的中したことでますます浮かない顔をしていた。
「リギホウテンに乗り込むとか言うなよ」
「ああそのつもりだ。わかってるなら話が早い」
「僕を巻き込むな。君一人でやれよ」
「いいや。お前が必要なんだ」
雑踏をかき分けて、二人はプラネ商店街を歩いていく。立ち並ぶ店からは景気のいい声が聞こえるが、エヌラスは前だけを見ていた。
「俺が手遅れになりそうな時は、お前が止めてくれ」
「馬鹿言うなよ。とっくに手遅れだろう?」
「……さて、どうだろうな」
「正気の沙汰とは思えないけど? たった二人で戦争を仕掛けるなんて」
「俺一人で十分だ。だから、お前はその保険だよ」
「さっきも言ったけれど。僕を、巻き込むな」
「ソラ」
──お前の力が必要なんだ。俺は、自分のことを止められない。止まらない。今までずっとそうだった。
壊して。壊して。殺して、死にかけて。歯を食いしばって一人で戦い続けてきた。だけど、それじゃ駄目なんだよ。今までと同じように、何でもかんでも壊してまわって、取り返しがつかなくなる。
「なんかあったら俺を背中から撃ってでも止めろ。頼むぜ」
「……はいはい。僕はストッパーってことか。エヌラス、もし女神様達になにか言われたら、僕は君に脅されたって言うからな」
「ああそうしろ。事実だしな」
商店街を抜けて、ギルドの前を通過して二人が街道を進む。
「勝算はあるのかい」
「さぁ?」
「おーい、しっかりしてくれ」
「俺がパンドラをやる。お前はリギホウテンの教会だ」
「? なんで教会なんだ? 二人で狙った方が……あ。さては君、全部自分ひとりでおっかぶるつもりだな?」
「お前も俺の被害者なんだろ。なら、恨まれるのは俺だけでいい」
「なーにを今更。共犯に誘ったくせに」
変な気を使うな。一言だけ付け加えて、肩を小突いた。とはいえ。もし教会にシェアクリスタルがあればそれを破壊さえしてしまえばパンドラの戦闘能力は大きく下がるだろう。或いは、そのまま形を保てずに消滅も考えられる。ソラは承諾した。
「今更、国のひとつやふたつ。楽勝だ」
自嘲気味に笑うエヌラスに、ソラは何も答えない。
記憶の中にあるのは、電脳国家インタースカイを攻め落とす姿。
戦火を背負い、ただ笑みを浮かべていた。だが、あれは本当に笑っていたのか──おぼろげな記憶を辿ろうとしていると肩を叩かれる。
「リギホウテンの地図は覚えてるか」
「ああ。ルウィーだけじゃなく、他の区画の見取り図も全部記憶済みだ。プラネテューヌ区画だけは覚えてないけどね。ピーシェちゃんが落書きしたらしいから」
「そうだっけな。リギホウテンに着いたら、お前はルウィー区画に回ってくれ」
「君はどうするつもりだい?」
「正面突破だ」
「了解、派手に暴れてくれ」
二人の視線の先。遥か地平線には、リギホウテンの城壁が見えつつあった──。
中々戻ってこないエヌラスとソラに、四人が首を傾げていた。
「ま、まさかこれは……! ハッテン──」
「それ以上いけないわよ、ベール。いい加減にしないと私も怒るからね」
「みなさん、大変ですー!(;・∀・)」
「いーすん~、どうしたの~?」
慌てて飛んでくる小さなイストワールに、プルルートが尋ねると、事の詳細はともかくテレビを付けてくれとだけ必死に言うもので、四人は顔を見合わせて言われた通りにした。
チャンネルがたまたまそうだったのか、新番組が流れ始める。
「イストワール、アナタもしかしてこの新番組見たかったの?」
「そうそう、そうなんですよ(^_^) いやー間に合ってよかったです──って、そんなわけないじゃないですか! ふざけないでくださいノワールさん!(# ゚Д゚)」
小さな身体で必死に怒りを露わにして、小さなイストワールはノワールの顔の前で両手を振り回していた。
「じょ、冗談よ。そこまで怒らなくてもいいじゃない」
「それで。いったいどうしたの、イストワール。あなたがそんなに焦るなんて」
「えーと、えーと。とにかく! チャンネル回してください! 見れば分かりますから、急いでください!(; ・`ω・´)」
「こ~お~?」
「プルルート、リモコン回しても意味ないわよ。貸しなさい」
ノワールがザッピングしてチャンネルを変えていくと、パンドラの姿が映る。
「パンドラ……? なんでテレビに映ってるのよ」
「しかもこれ、生中継みたいだけど」
「そう言えば今日は、なにか特番のようなものが組まれていたような気がしますわね」
「私は興味なかったからテレビ欄見てなかったけど。知ってるの、ベール」
「ええ。確か……時の人を追う。リギホウテン、その指導者パンドラ・イルバード特集。とか」
「わたしもそれは知っていたけれど、興味はなかったわね」
だが、小さなイストワールが焦る理由がわからなかった。
「見てわかるっていーすんは言ったけど~。どうしたの~?」
「パンドラさんの演説が今、全世界に流れているんですよ! そのせいか各国のシェアが徐々に下がっている状態なんですー! ゲイムギョウ界の関心が今、全部リギホウテンに向けられているんです!ヽ(`Д´)ノ」
「なんですって!?」
「でも、パンドラ自身は何もしていないわ……」
「自分の国のシェアが下がるからといって、攻め入るわけにもいきませんし」
問題はそこだ。その一点に尽きる。
リギホウテンはそもそも、四カ国の移民者とモンスターで成り立っている。事実無根、人畜無害に徹しているパンドラに対して女神が実力行使でもすれば、人々は女神に不信感を募らせるだろう。
パンドラは、何もしていない。ただ自国の統治と市政に尽力しているだけだ。その点で言えば女神と何も変わらない。願うのも、人々の安寧と平和。それを誰が咎められる。
──アナログテレビから流れる映像では、パンドラが演説をしていた。場所を察するに、教会の前だろう。真鍮の教会騎士達が周囲を厳重に警備している。
『──私は、人々を導くために生を受けた。しかし、遺憾ながら女神達とは同じ未来を見ていながら、共に歩むことは叶わない』
「……」
アレは、人に危害を加えていない。モンスターを保護しているのも当然、人に危害を加えないようにだ。どうあろうと、倒すべき相手とは思えなかった。
守護女神としての立場もある。しかし、それ以上に無害な相手に危害を加えるなど──。
『だがそれでも私は──』
言葉を続けようとした次の瞬間、画面が揺れた。
人々が狼狽えるが、それもすぐに教会騎士達によって騒動が治められる。カメラが動き、向けられた先では黒煙が立ち上っていた。
「……まさか、襲撃ですか?」
「間が悪いと言うかなんというか。とんだバカがいたものね」
「どこのバカなのかしら……」
「確かに、わたくし達の知らないところで反対派がいたかもしれませんわね」
「…………」
プルルートだけは、画面を黙って見つめる。手にした黒いぬいぐるみを抱きしめて。
「クトゥグア──」
右手に深紅の自動式拳銃を召喚する。
「イタクァ──」
左手に白銀の回転式拳銃を召喚し、両手を重ねる。炎と風が混ざり合い、光と共に一本の杖へと形を変化させていた。
「神銃形態……!
魔術による大規模砲撃がリギホウテンの城門に吸い込まれ、閃光と爆音。炎と風の混ざりあった爆炎が地面を焦がし、凍てつかせていた。
隣に立っていたソラが手を叩く。
「お見事。やりすぎだ」
「いつものことだ。宣戦布告にしては派手すぎたか?」
「いつものことだろ? それじゃ、僕はルウィー区画に行くよ。こっちは任せたよ、破壊神」
エヌラスの肩を叩いて、そのまま走り去っていった。
「……破壊神、ね。中々どうして、捨てられねぇもんだな」
肩を回して両手の拳銃を転送すると、倭刀を帯びてエヌラスは破壊の痕を踏みしめる。破壊された城門から現れたエヌラスに人々が逃げ出し、同時に警備隊が入れ替わるように走ってきた。防具を身に着け、手には警笛を持っている。そして、傍らにはタグを付けたモンスターが控えていた。
ブリーダーと呼ばれるリギホウテンの自警団。それから遅れて教会騎士達が駆けつけてきた。
「貴様──なんのつもりだ! ここをリギホウテンと知っての狼藉か!」
「用があるのは、パンドラだけだ。邪魔をするなら容赦しねぇぞ」
「ならば我らが教会騎士は務めを果たすのみ! 市民は至急避難を!」
甲冑を鳴らしながら、大剣を構えた教会騎士がエヌラスへと襲いかかる。倭刀と刃を合わせた瞬間、刀身が半ばより切り裂かれた。へし折られた大剣を見て呆気にとられていると、頭部から一刀のもとに甲冑が割れる。
甲高い笛の音を鳴らしてモンスター達が続けて襲いかかるが、倭刀とレイジング・ジャッジフリークスハントカスタムによって急所を切り裂かれ、撃ち抜かれて絶命していく。
「なっ……!?」
「先に言っておくがな。俺は戦争しに来たんだ」
「何のために──!? 我々はただ、人々の為に」
「知ってるさ。お前らにはなんの罪もない。用があるのはパンドラ・イルバードだけだ」
間違っている。
そんなことは分かっている。だが、他に方法がない。黙って見ているだけでは状況は悪化していくだけだ。だから、誰かが道を踏み外してでもパンドラを止めなければならない。
それは守護女神達にやらせるわけにはいかない。それだけは──プルルート達が手を汚すくらいなら、それは全部自分が背負えばいいだけだ。
「最後の、警告だ。俺の邪魔をするんじゃねぇ」
倭刀が閃き、教会騎士がまた一体。胴体を両断される。倒れた甲冑の中身は空洞だった。エヌラスはその空洞を一瞥し、小さな欠片のようなものを見つける。
「……なるほど。そういうカラクリか。テメェらつまりは──」
「かかれッ──!」
リギホウテンのプラネテューヌ区画に戦禍が広がっていく。だが、エヌラスを止めることは叶わず──残るのは瓦礫と、廃墟と、破壊の痕跡ばかり。
人々の生活の営みを蹂躙する感覚。一方的な破壊と殺戮。息も絶え絶えとなっているモンスターはブリーダーに見捨てられたのか、耳にタグがついていた。
《────》
「……」
その目が助けを求めていた。人に飼われて手懐けられたからか、近づくエヌラスを見上げている。だが、その視線を銃口が遮った。
地面に弾痕と血痕を残し、死骸の頭を踏み潰して通り過ぎていく。
目指す先はリギホウテン教会前広場。パンドラはそこにいる。