超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「おい、侵入者だ! まったく、教会騎士の木偶の坊どもめが!」
声を張り上げながら廊下を走るソラの背中へ向けて火球を撃ち出す。ハンドガンで相殺させながら逃げるが、その道を阻むように教会騎士達が大盾を廊下に打ちつけて長槍を向けていた。
右手の自動式拳銃を左手に持ち替えて、ソラは新たに銃を呼び出す。近未来的なフォルムの丸みを帯びた自動式拳銃。ウイングバードと銘打たれた、使い捨て式の魔術弾頭を採用した複属性の銃器は、インタースカイの技術で可能な限り九龍アマルガムの技術に近づけたものだ。
あまり趣味ではないが、備えあれば憂いなし。即席の壁と化した教会騎士のタワーシールドに向けて発砲。曲面に触れた次の瞬間、爆炎と共に火の粉が舞う。しかし、それにあっさりと耐えてみせる教会騎士達は陣形を崩さないままソラに向かって詰め寄る。
「失礼!」
再びウイングバードを発砲し、今度はその爆風で塞がった視界に潜り込みながら、盾を足場にして飛び越える。幸いなことに突き出された長槍がステップ代わりになってくれた。
教会騎士達を飛び越えて、ソラはウイングバードから持ち替えたワイヤーガンを足元に向けて撃ち込む。
大盾を持ち上げて振り返った教会騎士の足に絡まり、ひとりが転倒するとドミノ倒しのように次々と雪崩が起きた。
「はんっ、ざまぁみろ!」
捨て台詞を残して走り出そうとしたソラの進路上に、今度は氷柱が突き刺さる。宙に浮いたマジェコンヌがさらに自らの周囲に火球を作り出していた。
「私があのような子供だましに引っ掛かるとでも、思ったか! 喰らうが良い!」
「お断りぃ!!」
咄嗟に壁を蹴って横っ飛びに避ける。一瞬遅れて火球と氷柱が衝突し、瞬く間に蒸発して周囲を水蒸気で覆った。ちりつく肌に、ソラがマジェコンヌを見上げると不敵な笑みを浮かべて雷球を手にしている。
「私をただのナス農家と侮ってもらっては、困るなぁ!」
「そういう攻撃も僕は困るんですがぁ!?」
「問答無用!」
「魔法なんか大っ嫌いだ!! ちくしょうめぇ!!」
咄嗟に取り出したアクセスキーの防御アプリケーションを起動。全方位をカバーするドーム状の斥力フィールドでマジェコンヌの魔法によるコンボを防ぐのに成功するが、ソラは歯噛みしていた。
予想以上に手強い。相性の問題もあるだろうが、手練の魔術師であることに間違いない。まともに相手をしていてはジリ貧で追い詰められるのは目に見えていた。とはいえ、ソラの目的は教会内部のシェアクリスタル。そのエネルギー反応のあった方角へ向けて一目散に走り出した。
「待て! まだ逃げるか、すばしっこいメガネめ!」
「一応聞きますが僕の名前忘れてませんよね!?」
「知ったことか! 貴様などメガネで十分だ!」
「どいつもこいつもぉぉぉっ!!」
半ギレになりながらソラはメガネのセンサーを調整し、リギホウテン教会の中を駆け抜ける。
──パンドラとエヌラスの攻防は、一進一退のまま互いに譲らなかった。
倭刀とレイジング・ジャッジフリークスハントカスタムによる異種二刀流は、相手との距離を選ばない。それに攻めあぐねていたパンドラも、しかし自らの身体を変化させた自在な攻撃によってエヌラスの攻撃に対応していた。
丁々発止、弾かれると同時にお互い距離を取る。すると、教会内部からの騒ぎにパンドラの注意が逸れた。すかさず発砲するが、見向きもせずに掌で受け止める。弾丸が届くことはなく、力場のようなもので防がれていた。
《……貴様の仲間か?》
「さて、どうだかな。騒ぎに乗じた火事場泥棒でもいたんじゃないか?」
《どちらでもいい。教会に忍び込むとは、命知らずなものだ》
パンドラの広げた五指が切り離される。その矛先を向けられたエヌラスが倭刀を閃かせて一つ残らず切り落として迎撃した。
再生する指先が形成されていき、今度は両手を突き出す。レイジングジャッジを転送し、整息すると機関銃のように撃ち出される結晶の弾丸を切り払った。
《私はただ、人々を導くために生きてきただけだ。争いは望んでいない》
「お前は女神と争うのを望んでいないって話だろう? 生憎と俺はお前を殺したくて仕方ねぇんだよ!」
《貴様──》
「ああ、なんでだろうな。お前は何もしちゃいないのに、お前がいるだけで次元が歪んでく気がしてならねぇ!」
《…………》
パンドラ・イルバードは自分が生まれる以前、この世界は女神達が自分たちの国を治め、平和だったと聞く。しかし、そこに一石を投じられたのは、自己の存在。人々を導くために。そう信じてやまなかった──だが本当にそうだろうか。
「お前は知らぬ存ぜぬで通したが、だったらお前のご兄弟はどう説明するつもりだ!」
《──私は》
各国に侵攻したというパンドラの複製体。その全ては守護女神の手によって撃破された。そして体内からは女神メモリーの模造品。それがモンスターの大量発生の鍵でもあった。
攻撃の手が止み、エヌラスは倭刀を突きつける。
「答えろ。お前の背後に、誰がいる」
《……私が。私が守るべき、私の国の人々だ。それ以外には、いいやなにも。何もない》
無貌の結晶体を睨みつけながら、倭刀を収める。それを休戦と見たパンドラだが──違う。両手に走る稲光に、全力で力場を形成した。
無言の超電磁抜刀が力場によって軌道を逸らされて、教会の屋根を吹き飛ばしていく。もしも防御に失敗していれば、背後に避難していた市民までもが消し飛ばされていた。
《貴様……貴様──! 自分が今、何をしたか理解しているのか!?》
「いっちょまえに感情表現はできるんだな。顔が無いくせに」
《答えろ!》
怒気を放ち、全身の結晶から放つ輝きが虹彩を変えていく。黄金色だった色合いが赤と混色して滲んでいた。どうやら感情によって結晶体の色が変わるらしい。
《今、私が防いでいなければ人々がどうなっていたと!?》
「死んでただろうな」
《そうと分かっていて──》
「ああ、理解してるさ。何の罪もない人々が、俺の攻撃で危険に晒された。つまりは……これで俺を倒す大義名分が出来たな。パンドラ・イルバード。女神も同様に」
《……貴様》
「女神はお前と戦えない。なぜならお前と戦う理由がないからだ。なら
《……女神のために、世界を敵に回すと? 私を倒して、その後はどうする! 四女神を相手に貴様が代わりに戦うというのか!》
「テメェが気にするようなことじゃねぇよ。ちょうど、都合よくテレビも回ってくれてることだしな。俺の悪評が広まる分にはなにも問題ねぇよ」
──プルルートの笑顔を思い出して、振り払う。
「……なにも、問題ない」
《貴様の理由はどうあれ。何の罪もない人々に危害を加えるというのなら、手加減はしない》
「手心加えてくれていたのか? そりゃ見くびられたものだ」
倭刀の背で肩を叩きながらエヌラスは鼻で笑った。
リギホウテンについて調査を進めていた時から、ずっと悩んでいた。ずっと考えていた。自分に何が出来るか。どうすれば各国のシェアを取り戻せるか。
──だが、どれだけ考えても自分にはこれしか思いつかなかった。
女神に代わり、パンドラを倒す。例えその結果として、みんなを敵に回すことになろうとも構わない。何もしていない相手に危害を加えるなど、正気の沙汰ではないが──生憎と自分はとっくの昔に“ぶっ壊れている”。
何の罪も無い人々を手に掛け。何の罪もない友人を手に掛け。何の罪もない恋人を手に掛けて──それに比べたら、今さら何を躊躇う。
《……出来ることなら、この力は使いたくなかった。だが、貴様のような危険人物が相手では致し方ない!》
パンドラの掲げた手に浮かぶのは、黒く澱んだ光を放つシェアクリスタル。
「……変神はしない。テメェを殺すのだけは、俺の手で片付けてやる」
《それこそが手加減ではないのか?》
「もう一度だけ言うぞ?
女神の信仰、信頼による変神には頼らない。これは、自分が自分のためにやる自分勝手な破壊活動だ。だからシェアエナジーは使わない、頼らない。
黒い双角錐の結晶──ゼロクリスタル。それを見たパンドラが驚愕していた。
《なんだ……なんだ、貴様のそのクリスタルは》
「お前こそ何なんだよ。全身結晶体野郎め」
脳裏を掠める絶望の邪神、ヌルズ・エクス・モルテスが笑っていた。出来損ないめ、と。
「血こそ我が源泉──
それを黙らせるように、エヌラスは血染めのプロセッサユニットを纏う。右肩に長大な野太刀を担ぎ、左腰に刀を帯びて。
漂う血臭、死臭。瘴気の類は、魔人のそれだ。人の姿を借りた化生を前にして、人々は恐れおののいている。
怯える人々を庇うように、パンドラが前へ出る。教会騎士に目配せをして、逃げ遅れた市民たちを連れて逃がす。
この力だけは、使いたくなかった。力を使うことが怖かった。争いが恐ろしかった。人々を導くために何故戦わなくてはならないのだろうと。
《……
だが。その平和を乱そうと、平穏を崩そうとする輩が相手では道理が通用するはずもない。女神は、同志のようなもの。だから、コレに手を出すことはなかった。
黒く澱んだシェアクリスタルを身体に埋め込むと、パンドラの背後の空間がガラスのように割れる。異次元から転送されるプロセッサユニットによって全身余すところなく覆い隠した姿は、戦機の如く。
周囲に浮遊するのは、色鮮やかな結晶体が四つ。
エヌラス──ブラッドハートの目が細められる。その姿に似た相手を知っているからだ。
「……シロトラ、じゃ、ねぇな……テメェ、なにもんだ」
《パンドラ・イルバード改め、今の私はさしずめ──ケイオスハートとでも名乗ろうか。覚悟はいいか、逆賊》
アイラインが輝き、ケイオスハートが手をかざす。掌から結晶が伸びていき、それは粗削りの剣となってブラッドハートへ突きつけた。
それに応じるように左腰の打刀を抜き、構える。