※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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54 メガネの憂鬱

 

 

 

 ──マジェコンヌの魔法を避け、スライディングで教会騎士の股下を抜けたソラが一際大きい扉へ向けて突入する。呆気なく開いた扉の先、謁見の間に辿り着いたソラの視界に映るのは十体前後の教会騎士達。すなわち、パンドラの親衛隊。腕章を付け、赤いマントを羽織った教会騎士達が一斉に得物を構えて侵入者へ突きつける。

 

「あーもー、ちくしょう。やってられるかこんな仕事!」

 拡張装備(パッケージ)の残量を確認し、まだアクセス権が回復していないことに舌打ちしながらソラは踏み込んでくる親衛隊の振り下ろしを最小限の動きで回避する。すれ違いざまにつま先に向けて焼夷弾を撃ち込むが、効果は薄い。これまでの教会騎士達に比べて堅牢さが段違いなことにますます顔をしかめて、大きく振り上げられた鉄槌を横っ飛びで避ける。

 メガネの縁に触れて、レンズを切り替えて親衛隊の内部を解析するとエラーを吐き出した。情報解析不能。該当データ無し。未確認情報の塊に悪寒が走り、ソラは突き出されるランスを避けて玉座の前に転がり込む。

 そこへ、追いついたマジェコンヌと教会騎士達が唯一の出入り口である扉の前を陣取る。

 

「ハハハハハ! さながら袋のネズミと言ったところだな。いいや、袋のメガネザルとでも言った方がいいか」

「誰がサルだよ!」

「逃げ込んだ先が謁見の間とは、つくづくツイていない奴だ。ここが貴様の死に場所となるだろう、覚悟はいいか!」

 ソラは室内を見渡し、エネルギー反応のある一点を見つけた。それはずっと追っていた反応であり、今は動きを止めている。額の汗を拭ったワイシャツの袖が赤く滲んでいた。擦り傷や切り傷で身体のあちこちから出血している。

 ──どうして自分がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。なんでこんなしんどい思いをしなきゃいけないんだ。目の前に迫る教会騎士達の剣を避けて、槍を防いだ拳銃が壊れる。肩を掠めたランスで更に服が破れ、傷みが走った。

 魔力反応確認。咄嗟に両手で顔を防御するが、爆発の衝撃で身体が吹き飛ばされて壁に背中から打ちつけられる。全身が痛む。胃袋からこみ上げてくる嘔吐感に咽れば、血が吐き出された。

 

 ──嗚呼、腹が立つ。どうしてこう、酷い目に遭うのか。全部アイツのせいだ。全部エヌラスのせいだ。人の都合とか予定とか何にも聞かず、勝手なことばっかりやって。それに人を巻き込んで知らん顔をして。本当に腹が立つ。

 いつもだ。いっつも────お前は自分勝手に傷ついて、頼んでもいないのに僕たちの為に戦ってきた。腹が立つ。嗚呼、腹が立つ。許すものか。

 教会騎士の鉄槌を斥力フィールドで動きを封じてから避ける。だが、大剣の腹で殴りつけられて床を転がり、玉座の前に叩き返された。

 

 ──大嫌いだ。記憶を掘り返せば、人を殺してきたのに。いつも、いつも。毎回毎回、インタースカイまでご丁寧に攻めてきた。全部ぶち壊しにしてくれたお前が大嫌いだ。僕の幸福を、日常を。未来も何もかも、台無しにしてくれた。笑いながら。戦火に身を焦がして、破壊して。壊し尽くして……地べたに這いずる僕を見下して、お前はいつも笑いながら──僕を、殺してきたんだ。

 

「ッ……!」

 教会騎士の振るう大鎌を転がって避け、立ち上がる。拡張装備(パッケージ)のハンドガンを新たに取り出して応戦するが強固な甲冑は撃ち抜けず、弾かれた。そのうちの一発がシャンデリアに跳弾して、破片を散らす。

 

 ──許すものか。誰が許すものか。それが、僕たちを救うための犠牲だって? ふざけるな。ふざけるな。誰がそんなことを頼んだと言うんだ。ただ全てを忘れて、笑って生きていた僕たちを殺してきたのは他でもないお前だろう、エヌラス。それを自分勝手な理由でぶち壊しにしてきたお前のことを、誰が許すもんか。

 僕は、お前のことが嫌いだ。僕は絶対に許さない。

 

「いい加減に、往生際の悪いメガネだな!」

 謁見の間に広がるマジェコンヌの魔力が、杖の穂先に集中していく。壁に足を掛けて、薙ぎ払われるランスを宙返りで避けながら照準を合わせる。その密度が最大限に高まった瞬間にソラが引き金を引いた。弾丸はまっすぐに杖を弾き、収束していた魔力が一斉に霧散する。

 着地したソラの身体を、鉄槌が今度こそ殴り飛ばした。

 

 ──お前のことが大嫌いだ、エヌラス。だけど、それ以上に僕は弱い自分が大嫌いだ。

 

 殴り飛ばされた衝撃で外れたメガネを、大剣を担いだ親衛隊が踏み潰す。左腕が痺れたように動かない。懐から新しくアンダーリムメガネを取り出したソラは小さく息を吐き出した。

 

【……システム:オンライン】

「────」

【接続解除:オフライン】

 一瞬。ほんの瞬きをする刹那、インタースカイとの接続が回復する。そして、それと同時に窓の外が光ったのを。ソラは咄嗟にその場から転がり、斥力フィールドで防御した。マジェコンヌもそれに気づいたのか、杖を手元に引き寄せて魔術で防御壁を作り出す。

 次の瞬間、リギホウテン教会に振り下ろされる超電磁抜刀術・零式“終焉(ヱンドゲイム)”が謁見の間を引き裂いた。電磁波が教会騎士達に迸り、数体がまとめて黒煙を吐きながら瓦解する。

 

「なん──!?」

 驚愕に目を見開くマジェコンヌの前を吹き飛んでいくケイオスハートが、空中で激しく切り結びながらブラッドハートによって黒い結晶大剣を崩壊させられながら地面に叩きつけられた。

 天井を切り裂かれた謁見の間に、血染めのプロセッサユニットを装着したブラッドハートが着地する。ソラと視線が合うと、鼻で笑った。

 

「なぁに死にかけてやがんだクソメガネ。勝手にくたばるんじゃねぇぞ」

「君のせいだよっ!! 僕までぶった斬るつもりかこのクソ野郎!」

「知るかバァーカッ! テメェがそんなところにいたなんて知るかよ! 大体なんだよ、その怪我は。お前まさか負けそうになってたとか言うなよ」

「君に殺されかけたんだよ! 今! 数秒前に!」

「知らねぇよ!!!」

「あぁぁぁぁもぉぉぉ!! これだから──!」

 大嫌いだ。僕はお前が大嫌いだ。誰かのために自分が傷つくことを厭わない、強いお前のことが大嫌いだ、エヌラス──。

 

「こっちは任せるぞ、クソメガネ。パンドラの野郎、意外としぶとくてな」

「そっちは任せていいんだろ、バカ。なんとかしてみせるさ」

 ブラッドハートが飛び去り、吹き飛んだケイオスハートの後を追う。なんとか窮地は脱したが教会騎士並びに親衛隊はまだ健在だ。マジェコンヌもまた同様に。

 

「チッ、なんてやつだ……! ただの一撃でこれだと? 何者だ、アイツは」

「色々と呼び名はありますが、まぁ強いて言うなら──バカですよ。どうしようもない人でなしでろくでなしで、救いようのないバカです」

「ならば、それに付き合っている貴様も命知らずの大馬鹿者だ!」

 杖を振り上げて、周囲に火球を生み出したマジェコンヌがソラ目掛けて振り回す。

 

(さっき、一瞬だけどインタースカイとの接続が回復した。次元間光速回線の経路さえ確保出来れば──だが、原因はなんだ? エヌラスの電撃か? いや、多分違う……)

 魔術弾頭で火球と相殺させながら思考する。教会騎士達の攻撃を避けて、ソラは焼夷弾で手足を撃ち抜いて動きを封じた。

 観測していたエネルギー反応が、移動している。先程の一撃で場所を変えたらしい。しかしそれが通常移動で成されたものとは考えがたい。明らかに空間転移に等しい移動手段だった。恐らくは、それこそがこの次元を歪めている正体なのだろう。

 

「……」

【システム:オフライン】

「賭けるか……」

 ソラは壊れた壁の隙間から謁見の間を抜け出して、移動したエネルギー反応を目指して走り出した。

 

「逃がすな! アイツは私のナス農園に忍び込んだ侵入者だ、生かして帰すな!」

「野菜泥棒にしては、随分と手こずっているようですが……」

「なにぃ? 貴様、私に何か文句でもあるのか? 貴様をナスにしてやろうか?」

「いえ、申し訳ありませんでした。追うぞ!」

 教会騎士達が甲冑を鳴らしながらソラの追跡を始める。その背中を眺めて、マジェコンヌは顎に手を当てた。

 先程の一撃──教会を切り裂いた強大な破壊力。それは明らかに女神たちとは異なる力によるものだ。

 

「……世界を壊す力というのは、ああいう力を言うのかもしれんな」

 この手にしてみたいものだ。笑みを貼りつけながら、マジェコンヌも教会騎士達に続く。目的はどうあれ、まずは侵入者の排除だ。それからあの力を手に入れる。そうすれば、忌々しい女神たちなど──。

 

 

 

 教会騎士達が一斉に転ぶ。ソラは手にしていたワイヤーガンを放棄して、瓦礫を飛び越える。立ち止まり、振り返ると同時にマグナムリボルバーを飛び越えた親衛隊に発砲。両手が反動で持ち上がるのを抑え込みながら、一体、二体と足止めをすると再び駆け出す。教会内部の構造を解析しながら走り続け、移動したエネルギー反応を目指して階段を一段飛ばしで駆け上がった。

 二階に出たソラは、遠方で落雷と爆発。盛大な土煙と破壊音に大きく肩を落とす。遠慮も手加減もしないブラッドハートの破壊活動は留まることを知らず、聞こえてくる甲高い衝突音にパンドラがまだ存命していることに驚きながら再び走り出した。

 徐々に反応へ近づいていく確信を持ちながら、ソラは再三、インタースカイメインサーバーとの接続を試みる。

 

【システム復旧:オンライン】

(やっぱりだ。この反応の近くだと接続が回復する。だが何故だ?)

 背後から迫る甲冑の音に、ソラが舌打ちした。振り返ると、窓に黒い影。そこには宙に浮いたマジェコンヌが不敵な笑みを浮かべて稲妻を突きつけている。

 大きく吹き飛びながらも、体勢を整えてソラはインタースカイのサーバーに接続した。そこでは、仮想現実世界で慌ただしく駆け回っていたステラ達の姿があった。ソラのコール音に応じた顔が安堵に包まれるが、傷だらけの姿に驚いている。

 

「説明は全部後回しだ、ステラ。今すぐ拡張装備(パッケージ)を転送してくれ! ありったけ、全部だ!」

《────》

「いいから早くよこせっ! 時間がない、早く!」

 珍しく語気を荒げるソラに涙ぐみながら、力強く頷いたステラが電脳空間に保管されているインタースカイの武器庫へのアクセス権を譲渡する。

 

「誰と話しているかは知らんが、貴様もここまでだ! これに耐えられるか!」

 マジェコンヌの手には、業火が渦巻いていた。それを電撃で覆い、更に氷柱を纏わせる。すばしっこく廊下を走り抜けるソラに向けて撃ち出した。ハンドガンで迎撃しようとするが、氷柱に弾かれて弾丸は逸れていく。

 教会の壁諸共に土煙の中に消える姿を見て、マジェコンヌは帽子を直した。仮に今の一撃を耐えたとしても、前後を挟み打ちにした教会騎士と親衛隊を突破するのは不可能だ。ハンドガンでここまで凌いだのは確かに良い腕だと認める、だが相手が悪すぎた。

 

「ふんっ」

 鼻を鳴らして、その場を後にしようとしたが──次の瞬間、稲妻が廊下を奔る。教会騎士達が全身を破壊されていく。親衛隊がランスを構えるが、胸部を大きく穿たれていた。

 

「なに……!?」

 風穴が空いた胴体に散弾銃が突きつけられて、吹き飛んでいく。教会騎士達よりも大きな欠片を埋め込まれた親衛隊は、クリスタルを破壊されて機能を停止していた。

 

「……人のことを、散々よくもまぁ追い回してくれたな」

「貴様、まだ生きていたか」

「勝手に殺さないでくれ。これでも僕は一国の主だ」

 土煙の中から姿を見せるソラは、やはり全身ボロボロのままだった。アンダーリムメガネもレンズがヒビ割れている。白いワイシャツも擦り切れ、血が滲んでいた。ズボンも破れている箇所があちこちに見える。

 

【ポート開放:次元隔壁解除】

【二十六次元拘束:解除確認】

【電界突破:発動】

 電脳空間に保管していた黒いタクティカルサングラスを装着すると、ソラは両手に白いブリーフケースを召喚して教会騎士の足元に向けて滑らせるように投げた。

 

「先に言っておくが、今の僕はめちゃくちゃ機嫌が悪いからな! 覚悟しろよナスババァ!」

 パチン! 指を鳴らしと同時に留め具が外されてケースが開く。その中から覗くのは、無数の銃口。収まりきらない量の銃器が一斉にマズルフラッシュを瞬かせて教会騎士達の装甲を撃ち抜き、蜂の巣にしていく。唯一銃撃を防いでいた大剣の親衛隊がソラに向けて走り出した。

 大剣を全身を使って振り下ろそうとして──全身をワイヤーガンで拘束される。マジェコンヌを睨みながら、ソラは鼻で笑って指を鳴らした。親衛隊の身体を締めつけるワイヤーが巻き上げられて廊下に宙吊りにされ、パイルバンカーで胴体を撃ち抜かれて機能を停止する。全身を覆っていたエネルギーが消失すると、ワイヤーで全身が砕け散った。

 

「貴様、どれだけスペアを持っているんだ?」

「メガネガチ勢舐めるなよ。今度はこっちの番だ」

 タクティカルサングラスを直しながら、ソラは両手にバヨネット付きアサルトライフルを二丁召喚してマジェコンヌへと突きつける。

 ──教会の敷地では、雷鳴が轟いていた。

 

 それを一室で見守っていた一人の少女は小さく吐息をもらす。嗚呼、ここまでか、と。

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