超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──リギホウテン・ラステイション方面居住区画。
バラバラになった教会騎士の残骸を踏みしめて、一際巨体を誇るモンスター達が人々に襲いかかる。逃げ惑う背中を追いかけ、建築物を破壊しながら一家に迫る爪を人影が割って入り、防いでいた。
「ぶ、ブラックハート様……?」
「なにしてるの、早く逃げなさい!」
「は……はい! ありがとうございます!」
「アンタの相手は、この私よ!」
爪を弾き、股下を抜けるように足を切りつけて上昇すると背中に向けて大剣を力の限り突き刺す。苦痛に満ちた絶叫に、ブラックハートは更に押し込んでから大剣を振り抜いて背中から引き裂いた。すぐに消滅するモンスターに鼻を鳴らし、通りを埋め尽くすモンスターの大群に向けて大剣を突きつける。
「さぁ、かかってきなさい! ラステイションの守護女神、ブラックハートが相手し──」
口上を言い終えるよりも先に、流星が駆け抜けた。それは手短な獲物を撃ち抜き、大挙していた群れの中央に穴を開けて。
滑空していた全身翼型フライトシステムが群れの右翼に突撃し、燃料と誘爆して大爆発を引き起こすとますますモンスター達が混乱の悲鳴を上げていた。
光の正体は、散弾銃と突撃銃の二丁を手にしたソラだった。銃口から硝煙が漂い、それもすぐに粒子となって消える。
「て、やるん……だから……?」
「いや失礼。一番近かったのがこちらだったもので」
「誰かと思えば、メガネじゃない。アイツと一緒にリギホウテンにまでトイレでも借りに来てたわけ?」
「言っておきますけど僕はあいつに脅されて協力させられました。被害者です」
「でもこうして手を貸してるんだから共犯でしょ。その手は食わないわよ」
「トイレだけに水に流してくれませんかね、そこら辺は。まさか僕だってこんなことをしでかすとは思いもしなかったんですよ。いや、まぁそりゃ確かに連れションとか珍しいこと言うなとは思いましたけど」
「だったら止めなさいよ! 見なさいよ! アナタ達のせいで、私の国の住民達がこんな酷い目に遭ってるのよ! どう責任取るつもり!?」
「これは手厳しい。責任問題は後々言及するとして、今はモンスター退治手伝いますよ」
「当たり前でしょ! なに考えてるのよ、まったく!」
怒り心頭、憤慨した様子でブラックハートが大剣を大きく薙ぎ払うと飛びかかっていたフェンリルが切り飛ばされる。鼻を鳴らしてソラを睨みつけ、そのまま残った群れの中に飛び込む姿を勇ましく思いながら、肩を落とした。
「ええ、まったく。ほんとうに……なにを考えてるんでしょうね」
「グズグズしないで、早く手伝いなさい!」
「はいはい。じゃあそこを動かないでくださいよ。手元狂うといけないので」
ソラがタクティカルサングラスの奥、目を細めて目標を捕捉していく。指を鳴らし、一定範囲内にインタースカイから転送された重火器を一斉に向けるとマズルフラッシュが瞬いた。それは逃がす暇もなくモンスターの群れを撃ち抜き、ブラックハートだけがポツンと立ち尽くす。足元には無数の銃痕が残り、ソラは涼しい顔で位置を直した。
「今の僕は半径十五メートル以内なら外さない自信がありますよ。とはいえ弾数に限りはありますが、さっさとしましょう。僕もこんなふざけたテロリスト紛いの活動に協力させられて辟易してるんです」
「……アナタ、何者よ」
「電脳国家インタースカイ国王、琴霧ソラですよ。言ってませんでした? ノワールさん」
急所を外れたモンスターが起き上がり、瀕死の重傷を負ってなおも逃げ出そうとするが、ソラは見逃さずボルトアクションライフルで確実に仕留める。排莢し、次弾を装填すると左手を宙にかざして追加のフライトシステムを召喚して足を乗せた。
流石にこの状況でフォートクラブを用意すると新種のモンスターとして倒されかねない。そして、自分の本来の姿である機械の身体も、まかり間違って女神達に襲われかねない一触即発の状態だ。今しばらくは不自由な生身の身体で辛抱するしかない。
「僕がモンスターを足止めするので、ノワールさんは避難の方を」
「なら、任せたわよ。今だけは信じてあげるわ」
飛び立つブラックハートに、ソラはフライトシステムを稼働させる。
今だけ。今だけは。その言葉を胸中で反芻した。それは、自分ではなくエヌラスに言ってやってほしいものだ。
ラステイション方面居住区画での避難誘導のさながら、ソラは教会の方を見やる。そこでは、教会前広場まで派手に蛇腹剣で吹き飛ばされたエヌラスが体勢を立て直したところだった。アイリスハートが振るう鞭の軌跡は荒れ狂う大蛇のようで、自分はあそこに立ちたくないな。などと他人事のように思いながら近隣のモンスターを足止めすべく、飛行を開始する。
蛇腹剣の切っ先を弾き、捌き、紫電で防ぐ。地面をめくり上げて、瓦礫と破片を舞い上げながら叩きつけられる刃を打刀で凌ぎ切るとアイリスハートの手元に巻き上げられていった。口元にはいつもの余裕を含んだ笑みを浮かべて。損傷したプロセッサユニットに、露出した肌もあちこちが傷を負っている。それでも笑みだけは崩さなかった。
ブラッドハートも連戦続きで血染めのプロセッサユニットは損傷を負っているが、戦闘に支障はない。蜘蛛の足にも似た八本の羽は一部が欠け、足の母衣もヒビ割れ、両肩の丸みを帯びた大袖にも亀裂が走っていた。
腕の感覚を確かめるように篭手を鳴らす。刺すような鈍い痛みに不快感を覚え、アイリスハートを睨む。蛇腹剣が帯電していた。
「あなたぁ、そんな程度だったかしらねぇ?」
「そういうお前もこの程度だったか?」
売り言葉に買い言葉。挑発してみせる互いの口ぶりにはまだ余裕が見て取れる。蛇腹剣で手を叩き、打刀で肩を叩くと再び得物が閃き、甲高い金属音を鳴らした。
電撃を纏いながら振るわれるアイリスハートの剣戟をかいくぐり、ブラッドハートが
強かに顔を踏みつけられて、躙られる。ふと足を上げたと思えば、再三ブラッドハートに向けて勢いよく叩きつけられた。蛇腹剣を巻き上げて切っ先を向けてくるが、足を振り上げて剣を逸らす。間一髪、顔の横に突き立てられた。
アイリスハートが面白くなさそうに舌を打ち、その間にブラッドハートが反撃に転じる。膝裏に腕を掛けて、引き寄せる。かくん、と折れ曲がった膝に咄嗟に踏み留まる相手に向けて拳で突き放した。自由になった顔を上げて今度は足に鋼糸を放ち、引き倒す。バランスを崩して這いつくばったアイリスハート目掛けてブラッドハートは全力で紫電の蹴りを放った。
地面を滑り、瓦礫に叩きつけられる相手に口内に溜まった血を吐き捨てる。切れた口の端を拭いながら、取りこぼした打刀を足で引っ掛けて持ち上げた。宙に浮かせた刀を手にして、土煙の中から突き出される刃を弾き返す。
「ひどいことするわねぇ」
「人のこと言えんのかよ」
「あらぁ。あなたはひどいことぉ、されたいんでしょ?」
「お前がしたいだけだろうが」
「あたしだけじゃないから安心しなさい。ほぉら」
つい、と顎で指し示した先からは、グリーンハートが険しい表情で長槍を構えて飛んできていた。高速で接近し、すれ違いざまに放った勢いを乗せた刺突をブラッドハートは踏み込んだ打ち下ろしで弾く。
「ベールさん、いちばんのりぃ~♪ 早かったじゃなぁい」
「ええ。リーンボックス方面での避難はプラネテューヌと隣接していたこともあり、早急に対応されていたみたいでした。モンスターの数の多さは厄介でしたけどね」
これで、二対一。そう思った矢先に重い風切り音が聞こえてきた。戦斧を野太刀で打ち返すとホワイトハートがブーメランのように戻ってきたそれを片手でキャッチする。
「チッ、アタシが二番かよ」
「ブランちゃんも早かったじゃない。そうなるとぉ、びりっけつはノワールちゃんね」
「女神が来るっていうのに、逃げなかった度胸は認めてやるぜ。覚悟はできてんだろうな!」
「早くしないとお楽しみがなくなっちゃうのにぃ、なにしてるのかしら?」
「まぁノワールはいいじゃありませんか。わたくし達だけで十分ですわ」
「そういうことだ。いくぜ!」
グリーンハートの長槍を打刀で捌き、入れ替わりにホワイトハートの戦斧を刀の背に手を当てて防御してブラッドハートが苦痛に顔をしかめた。どうやら次元が変わっても馬鹿力は同じらしい。肩に走る鋭い痛みに目を向けると、槍の穂先を引っ掛けたのか、かすり傷が出来ていた。
「こりゃ、手ぇ抜いてる暇なさそうだ」
「そうみたいねぇ。さっきまでみたいにぃ、遊んでもいられないわよ?」
「あれで遊んでたのかよ、お前ら!?」
「当たり前じゃなぁい。だって、じぃっくりたっぷりと愉しませてもらうんだから。ブランちゃん達の分も残しておいた、あたしの気遣いに感謝してもらいたいくらいよぉ?」
「あ、あぁ。そりゃ、ありがとよ……」
まだアイリスハートの怒りは治まっていないのか、黒い笑みを浮かべている。それにホワイトハートはたじろぎながら、グリーンハートの長槍と刀を合わせているブラッドハートに向かって戦斧を再び振り下ろした。数の不利など物ともせず、的確に攻撃に合わせて防いでいる姿を見て肩をすくめる。
本当に、心底思う。バカに刃物を持たせるべきではない、と。こうなることは目に見えていたのに。アイリスハートもまた、ブラッドハートへと剣を振り下ろした。