超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──流石、と驚愕の一言に尽きる。
グリーンハートの長槍を打刀で穂先を逸らし、ホワイトハートの戦斧を足で打ち返し、アイリスハートの蛇腹剣を防ぎきり、反撃に転じるブラッドハート。だが、その左腕に蛇腹剣が巻き付いて刃が食い込む。しかし、グリーンハートに刃を振り下ろして避けられると、血を手繰り寄せて赤い魔法円を描き、戦斧による強打を防御した。歯を食いしばり、地面に跡を残しながら耐える。左腕にはますます刃が食い込み、出血していた。
ワイヤーの部分を掴み、逆にブラッドハートがアイリスハートを引き寄せる。アトランティス・ストライクで蹴り返すと同時に蛇腹剣を緩め、左腕の拘束を解除した。グリーンハートが受け止め、ホワイトハートが氷塊を撃ち出して追撃しようとする足を鈍らせている。
「大丈夫ですか?」
「ええ。これくらい平気よぉ」
「プルルートがここまで苦戦するとは、珍しいですね」
それどころか、三人掛かりで互角とは。グリーンハートは感心していた。腕が鳴るというものだ。気合を入れ直し、上段からの打ち下ろしを防ぐホワイトハートの援護に向かおうとして、アイリスハートに引き止められる。
「言っておくけどぉ、まだエヌラス。本気じゃないわよぉ?」
「……まだ、手加減しているというんですか。彼は」
「うふふ。アタシと二人きりの時なんて、あ~んなに焦らしてくれちゃって……」
二人の近くに弾き飛ばされたホワイトハートが受け身を取りながら睨んでいた。
「テメェ等、アタシに任せて休憩してんじゃねぇ! 手伝いやがれ!」
「はいはい。短気は損気ですよ、ブラン」
「ブランちゃんに怒られちゃったぁ。わかってるわよぉ」
ブラッドハートは紫電を纏わせた野太刀を納刀し、打刀に手を掛ける。しかし、動きを止めると眉を寄せて上方へ向けて抜き放った。
高度から直下してくるブラックハートの大剣を打ち払い、続く蹴撃を蹴り上げて応戦する。離れ際に、大剣と打刀が再び衝突するとアイリスハート達の近くへ着地した。
「三人共、無事かしら」
「ノワールちゃん、遅かったわねぇ。びりっけつよぉ?」
「しょうがないでしょ! ラステイション方面のモンスターが多すぎたのよ。避難は済んだから人的被害も最小限に食い止めることは出来たけど」
「それで。モンスターの群れは?」
「メガネに丸投げしたわ。それよりもアナタ! 勝てるなんて思わないことね!」
大剣を突きつけるが、ブラッドハートは鼻で笑っている。それに不快そうにブラックハートが顔をしかめた。
「だったらそっちは、殺されない程度に気張れよ。そうでなけりゃ、殺す気で来い」
「言ってくれるじゃない。こっちは女神が四人掛かりよ──」
「誰に向かって口聞いてやがる」
ヂヂッ──耳障りな電流の音に、ブラッドハートが血染めのプロセッサユニットが帯電する。ヒビ割れ、亀裂の入っていた箇所が修復されていくと全身に紫電が迸った。銀鍵守護器官による再生を果たし、神気と邪気と殺意を叩きつける。
息を呑み、ブラックハート達は武器を構え直した。アイリスハートだけは、背中を震わせて恍惚とした笑みを浮かべている。
「こちとら世界を滅ぼして回った絶望の魔人様だ。名実ともに世界の敵になってやるってんだ。どっかの平和主義のパンドラ・イルバードに取って代わってわかりやすく。せいぜいぶっ壊されないようにしっかり守れよ、女神様」
「──ああ、そう。そういうこと。本性現したっていうなら、やってやろうじゃない! アナタが例えプルルートの友達でも容赦しないわよ!」
先陣を切るブラックハートに続いて、グリーンハート、ホワイトハート。そして最後にアイリスハートがブラッドハートへと飛んでいく。
大剣を避け、続く長槍を捌き、戦斧を足がかりにして青空へ逃れたそこへ、蛇腹剣が迫る。拮抗し、二人の間に無数の剣戟が走る。いずれも決定打とならないが、頬を掠めて再び刃を合わせると鍔迫りあって顔を迫らせていた。
「うっふふふ! あっはっはははは! アナタって、本当に──アナタって本当に救いようがないおバカさんなのねぇ!」
「ああそうだよ、知らなかったのか?」
「知ってたわよぉ。だけど、まさかここまでバカだと逆に清々しいくらいよ! アタシを飽きさせてくれないアナタが大好きよぉ」
「……俺もだよ」
弾かれるように離れ、ブラッドハートにグリーンハートが迫る。長槍を弾き、逸らしながら引いた手に合わせて穂先に打刀の刃先を衝突させて間合いを詰めた。
「ッ……! どうやら、先程までは本当に手加減していたみたいですね!」
「役者も揃ってない状況で本気出すわけねーだろバァァーカッ!」
「それならば、こちらも遠慮なく!」
長い足でブラッドハートを払いのけると、槍を引いて構える。気迫を込めた一閃を防ぎ、二人が割って入る戦斧に距離を取った。
ホワイトハートが手にすると同時に、上空から全身を使って振り下ろす。刀の背に手を当てて渾身の一撃を防ぐと舌打ちが聞こえた。
「そんな細っこい刀でどうやって防いでやがんだテメェは!」
「企業秘密だ!」
僅かに切っ先を反らして受け流すと、蹴りを見舞ってグリーンハートへ押しつける。そしてブラッドハートが殺気にその場から飛び退くと、髪の毛を数本斬り飛ばしてブラックハートが目の前を通過した。しかし、外れるとすぐに反転して大剣を切り返してくる。
「口だけじゃなくて、安心したわ! こっちも本気出せるってものよ!」
「そりゃこっちの台詞だ!」
防いだ衝撃で距離を取りながら打刀を収めると、野太刀に手を掛けた。だが、それを抜かせまいとブラックハートが速度を上げて迫る。
野太刀の鞘が展開し、電撃が走ると刀を“射出”した。それに面食らって真正面から受け止める形となったブラックハートの体勢が崩れる。奥の手、もとい崩しの型として柄頭で相手を殴打する手法が功を奏した。野太刀を掴み取り、距離を詰めながら振り下ろすが空振る。
アイリスハートの蛇腹剣がブラックハートの身体に巻きつき、引き寄せていた。
隙を見せたそこへ、ホワイトハートが横殴りに戦斧を打ちつける。避けられないと判断し、紫電を大袖に集中させて威力を軽減。それでも相殺しきれない衝撃を堪えながら野太刀の刀身を掴み、薙刀のように振るって引き離すと柄頭に手を置いて掌打から電撃で撃ち出す。
「ぐぁ!?」
プロセッサユニットを叩く衝撃にホワイトハートが苦悶の声を上げ、ブラッドハートは野太刀を掴んで離脱する。その眼前を今度はグリーンハートの長槍が掠めた。刀を回し、器用に打ち払いながら野太刀を収める。
「はぁ──!!」
そして、長槍が身体を穿つその寸前で掴み取っていた。驚愕に動きを止めたグリーンハートに紫電を打ち込む──鬼哭掌。
生身の相手には効果が薄いが、それでも打ち込まれた電撃で動きは大きく鈍る。蹴撃でホワイトハートへ押しのけると、無手で上空へ逃れた。その進路を妨げるようにアイリスハートとブラックハートの二人が立ちはだかる。
「私の剣から逃れられると思わないことね! インフィニットスラッシュ!」
「どこへ行こうというのかしらぁ! サンダーブレードキック!」
「──
ブラッドハートの帯びていた電撃が霧散する。視界から消えるブラックハートと、自ら意思を持つかのように唸る蛇腹剣が紫電を帯びて襲いかかった。
「
磁場による空気抵抗の軽減による加速。そして、大魔導師との死闘の中で見出した電流操作による引辰制御。重力の鎖から解き放たれた機動力は女神の双角による剣の檻すらも最小限の損傷で切り抜けた。
高度優勢──ユニット各部損害、軽微。戦闘行動支障なし。
ブラッドハートが青空に手をかざす。空に描かれる赤蜘蛛の魔法円は禍々しく、歪な魔力を孕んだ。速度を一切緩めずに足場へ急反転しながら足を掛ける。人体で行う空中戦闘機動──インメルマンターン。
野太刀に収束していた電撃が最高潮に達し、鞘が展開される。柄を手にして、地面を
「
紫電が黒く色づく。周囲の景色を歪めながら、それは重力を纏って担ぎ上げられていた。四女神が一斉に防御へ転じる。
「──“
全身全霊で振り下ろす野太刀は黒い光と共に四女神を飲み込み、リギホウテンの教会前広場を更地にしながら大地を穿つ。最早それは、魔剣に類した破壊の一撃だった。
野太刀を収め、違和感に額を拭うと血が垂れている。ブラックハートとアイリスハートの剣を切り抜ける時に全身を掠めていたらしい。それを鼻で笑い飛ばした。
(あの時か……いや、流石だな)
地面へ激突した四女神が起き上がろうとしている。ブラッドハートもまた、クレーターとなった広場に降りると膝をつく。思いの外、自分でも気づかないうちに消耗していたらしい。
リギホウテンのブリーダー達から始まり、パンドラ・イルバードとの戦闘、そこからクロギアとオルタ。アイリスハートとの前哨戦、そして四女神と立て続けに疲弊していた身体からの危険信号を無視していた結果が──魔力のバックファイアによる自壊。込み上げてくる鉄の味を堪えるが、口端から溢れた血が垂れた。視界が霞み、たたらを踏む。それでもまだ倒れるわけにはいかない。
整息して、まだ立ち上がる四女神にブラッドハートは打刀に手を掛ける。
大剣を支えにして一番に体勢を直したブラックハートが構えた。しかし、プロセッサユニットは半壊し、息を切らしている。時折身体を苛む電撃に顔をしかめていた。
「っ、アナタみたいな……魔人が──なんで……!」
──脳裏をよぎるのは、嬉しそうに手を繋いでいたプルルートの顔。照れくさそうに頬を赤くして、自然と笑みを形作って。人前でも気にした風もなくくっついて。
「なんで、プルルートと一緒にいたのよ!」
ゲイムギョウ界を守護する女神を相手に引かず、それどころか破壊の爪痕を残して世界を傷つける魔人の存在が──どうしてかブラックハートの神経を逆なでる。
振り下ろされる大剣を居合で弾き返すブラッドハートの表情は険しく、苦い顔をしていた。
「アイツは俺の命の恩人だ」
「だったら! 恩を仇で返すような真似、してるんじゃないわよ!」
なぎ払い、息を切らしながらブラックハートは押し返す。そこへグリーンハートとホワイトハートも加勢し、ブラッドハートは今度こそ数の不利に劣勢となった。
「テメェの、事情は知らねぇが! アタシ達女神に喧嘩売ったんだ! ルウィーに来た時はそんな悪い奴とは思わなかったけどな、今はちげぇ!」
「貴方は、危険過ぎますわ」
「……知ってるよ」
静かな呟きに怒りを滲ませて、ブラッドハートは打刀に紫電を収束させる。超電磁抜刀術を再び放つが、威力は大幅に減少していた。それでも女神を三人押し返すには事足りる。
歯を食いしばり、逆流してくる魔力と血液に吐血しながら女神を睨む瞳には一切の衰えを感じさせなかった。
「俺の存在が危険なんて、俺が一番よく知ってるよ。くたばった方が世のため人のためになるんだろうこともな。俺も何度死んだ方がマシだと思ったことか」
自嘲的な笑みを浮かべて、額の血を拭う。刀にまで垂れた腕の血が、切っ先から垂れて地面に赤く染みを作っていた。
「何も知らずに死んでいた方が、俺は幸せだったんだろうな。知っちまったら放っておけないだろうが──ああ自分でもバカだと思うよ」
世界を覆う悪意と敵がいると知ってしまった。自分が、そのために生まれたのだと。作られたのだと。今さら見て見ぬふりをして、目を背けて耳を塞ぎ口を閉じることなど出来やしない。
「お前と出会ってなければ、俺はどれだけ幸せだったことか……なぁ、プルルート」
「…………本気で言ってるのかしら」
アイリスハートの声に、三人が振り返った。蛇腹剣を手にして歩み寄る。
「俺は何も知らないバカのまま死んでりゃよかったんだ──」
「ッ……」
肩から袈裟斬りにされて、ブラッドハートの変身が解除された。相手を睨みつけながら、互いに胸倉を掴んで引き寄せる。
「だから」
「……だから? なに? アタシに殺してほしいなんてぇ願い下げよ」
「なんだよ、よく分かってんじゃねぇか。どうせ死ぬなら惚れた女に殺されたいくらいのワガママ言わせろよ」
「死に方を選べるほど上等な生き方してこなかったくせに」
「はっ、ちげぇねぇや……!」
傷跡は深く、止めどなく血が流れ出ていた。それもすぐに銀鍵守護器官は修復してしまうだろう。死すらも戦いから逃げる理由ではないとでも言うように。
「でもな、プルルート。お前と出会ったことを、俺は後悔しちゃいない。だからな、命の恩人様──お前が拾った命だ、どうせならお前の為に捨ててもいいだろ」
「ダメに決まってるでしょ? アタシが許すわけないじゃなぁい。そういう自分勝手なところがダメなのよ。そこのところ理解できる脳みそぉ、ここに詰まってる?」
額を合わせて、互いの瞳を睨む。紅色の瞳と、血のように赤い瞳には自分の姿が映っていた。
「アタシが飽きるまで勝手に死んじゃダメよ、エヌラス。それが、アタシ達の幸せの為でも。大体、あなたが傷ついてどうにかなるようならとぉっくにアタシ達がどうにかしてるわよぉ、お・バ・カ・さん♪」
「……だが、俺は他のやり方なんて知らねぇよ」
「ね~ぇ、バカって本当に死ななきゃ治らないかぁ試してみない?」
冷ややかなアイリスハートの視線と言葉に、思わずエヌラスは笑ってしまう。手を離し、刃を交わしながら二人が距離を取る。
「……いいの、プルルート」
「ええ。バカだから何を言っても聞かないしぃ……もっと痛めつけてほしいみたいよ。よかったわねぇノワールちゃん?」
「なんでそこで私の名前が出るのかわからないけど、そういうことなら倒れるまでやるわよ」
変身するだけの余力もないのだろう。スーツ姿のままエヌラスは倭刀を召喚して、鞘を放り捨てる。
スコーン、と。何かに当たった。
目を向けると、そこにはソラが額を押さえている。
「よぉ、クソメガネ。モンスター駆除は終わったのか」
「終わってなかったらここに来てないよ。それぐらい分かれよ、くそバカ野郎」
「そりゃよかった──」
パァン──!
乾いた音にエヌラスが一歩、二歩とたたらを踏んだ。じわりと広がる熱い痛みに、手を当てると脇腹に風穴が空いている。
「ここらが潮時だ、エヌラス。悪く思うなよ──撃ってでも止めろと言ったのは君なんだから」
ソラはタクティカルサングラスを外しながら、エヌラスに向けたハンドガンの銃口を左胸に当てて引き金を引いた。
パンッ。パンッ。バスンッ──!
二発は心臓へ。最後の一発は、額に撃ち込んで。
仰向けに倒れたエヌラスから流れ出す血は止まらず広がっていった。耐刃、防弾繊維を織り込んだハウンドスーツを貫通する弾丸を排莢して、ソラは予備のオーバルフレームメガネを掛け直すと腰に手を当てて息を吐き出す。
「……バカ野郎が」
だから嫌なんだ。人のことを面倒に巻き込む君のことが。
ソラは、呆然としている女神達を前にして帰りたい一心だった。