※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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60 祭りを肴に

 

 

 ──プラネタワーでは、ユウコが荷物をまとめていた。こちらの次元で起きていた事件も解決して、これ以上の長居は無用だ。非常に不本意ながらピーシェ達とお別れの時間が迫っている。だけどもう少し! もう少しだけ! もうちょっとだけワガママ言わせて! ルウィーのお祭りにぴぃちゃん達と行くんだから! ──そんなユウコの強引さに呆れながら、ソラは承諾した。

 

「ちっちゃいーちゃんとお別れなんて寂しいなー。ぴぃちゃん達ともしばらく会えなくなっちゃうと思うだけで……はぁぁ……」

 ユウコが肩を落とす。だが商業国家国王としての仕事がある。さすがに放置しておくわけにもいかなかった。今回を機に、多次元交易を視野に入れておこう。そんなことを考えながらバッグを閉じると、ピーシェが両手にぬいぐるみを持って駆け寄ってきた。

 

「ゆっこー!」

「ぴぃちゃーん! どうしたの?」

「はい、これ! ぷるるとから!」

「私に?」

「うん!」

 それはデフォルメ化されたピーシェとユウコを模したぬいぐるみ。プルルートが密かにお土産として編んでいたらしい。

 

「ありがとねー、大事に飾らせてもらうよ。ぴぃちゃんはぬいぐるみになってもかぁいいなぁ……もちろん本物が一番だけど」

「ゆっこもー!」

「あーもーぴぃちゃん持ち帰りたぁーい!」

 ぬいぐるみと一緒にピーシェを強く抱きしめる和やかな空気のそこへ、ソラが顔を覗かせる。

 

「朝から騒がしいなぁ……おはよう」

「あ、クソメガネ。おはよう」

「おはよー!」

「キミ、荷物まとめないの?」

「僕はもうインタースカイに転送済みだから」

「なんだよズルいなぁ! 私のもユノスダスに転送しといてよ!」

「無茶言わないでくれよ。君の教会、今工事中だろ? それが終わらない限りはこっちの回線も安定しないんだから、どうなることやら」

 超次元からならば安定性は増すが、神次元からではまだ回線が不安定だ。次元間光速回線はリアルタイムで更新されている。

 

「それで、今夜はルウィーのお祭りに行くんだろ?」

「ソラは行かないのかよぅ」

「誰が行くかよ。自分からわざわざ空気悪くするような真似はしたくないし、そんな場所にいられるほど僕は顔の皮厚くないからね」

 あの事件以来、ソラに対する四女神の風当たりは強い。そして、ソラ自身も進んで交流を深めようとはしなかった。

 

「そんなわけで、ユウコには悪いけど僕は一足先に帰らせてもらうよ。私用も片付けなきゃいけないからね」

「あっそ。まぁ帰りは私一人でも大丈夫だけどさ」

「それじゃ、僕はギルドの方に行ってくるよ。この前受注したクエストの報告まだだったから」

「お昼は?」

「いらない。ピーシェちゃんも元気でね。ちゃんといーすんさんに書き置き渡しておいてね?」

「うん! バイバーイ!」

 ソラは最後に一度だけ手を振ると、教会を後にする。

 その姿が消えてからプルルートが欠伸をしながら部屋から出てきた。遅いお目覚めで、寝起きの頭は寝癖でいつもより二割増しでボサボサになっている。

 

「おはよぉ~……むにゃ……」

「おはよー、ぷるちゃん。顔、洗ってきたら?」

「ぷるると、おはよぉ!」

「ユウコちゃんも~ピーシェちゃんも~……おはよぉ~……」

「ぬいぐるみ、ありがとね。大事に飾らせてもらうから。いやいっそこのデザインは商品化も検討していいかもしんない……」

「今日はぁルウィーのお祭り楽しみだな~。ピーシェちゃんも~ユウコちゃんも~、いっぱい楽しもうね~」

「わぁーい!」

「私ってお祭りとか基本的に開催する側だったからなー、楽しむ側なのは久しぶりかも」

 商業国家で開かれる祭りらしい祭りと言えば……まぁほぼ毎日がお祭りのようなものだ。それでも正式にユウコが開催するお祭りは国境を問わず人が集まる。あの大魔導師ですら足を運んで楽しむ程には。

 

「あれぇ? メガネくんはぁ~? せっかくぬいぐるみ、編んだのにぃ……」

「あー、アイツならギルドに行くってさ。多分、その足でまっすぐ帰るだろうから私が渡しておくね」

「じゃあ、おねがいしちゃおっかなぁ~。よろしくね~」

「おまかせあれ」

 まとめられたユウコの荷物を見て、プルルートは頬に指を当てて首を傾げた。

 

「エヌラスの荷物はぁ~……?」

「邪魔なら一緒に持って帰っちゃうけど、どうする?」

「……う~ん。このままでいいかな~」

 プルルートも、ユウコも。エヌラスが死んだとは露程も思っていない。ノワール達は頭と胸を撃たれた姿を見て死んだものとばかり思っているようだが、それは大きな間違いだ。アレの経験してきたこれまでの戦いは想像を絶する。

 

「きっとぉ、ふらぁ~って帰ってきてくれると思うし~」

「だよねー。フラッと来るよねー、アイツ」

「うん~♪ だからぁ、それまでこれはあたしが預かっておくね~」

「そうしちゃって、ぷるちゃん。さーて、それじゃ私は大掃除でもしようかな」

 立つ鳥跡を濁さず。割烹着に三角巾を身に着けて、ユウコは気合を入れて教会の掃除を始めた。

 

 

 

 ──プラネ商店街。

 朝からギルドに足を運び、クエストの報告を終えたソラはその足で追加のクエストを受注して賃金を稼いだ。昼食を外で済ませ、休憩を挟みつつ夕方までにキッチリ終わらせると商店街の酒屋を訪れる。気がつけば顔馴染みになってしまっていた事に申し訳なく思いながら、瓶ビールを数本まとめて買っていく。

 プラネテューヌを後に、ソラの足はリギホウテンへ向かっていた。

 もはや見る陰もないプラネテューヌ方面居住区を抜けて、リギホウテン教会に辿り着く頃にはすっかり日が落ちている。星空を見上げながらソラは壊れた城壁を乗り越え、瓦礫に腰を下ろした。

 ラステイションとルウィーの国境近辺というだけあり、祭り囃子が聞こえてくる。その賑やかさを肴にしようと眺めていると足音が背後から近づいてきた。間もなくして隣に腰を下ろした相手にソラは汗ばんだ瓶ビールを差し出す。

 血の滲んだスーツを着込んだ相手はそれを受け取り、まじまじと見つめていた。

 

「……今日はルウィーでお祭りだってさ」

「お前は行かなかったのか?」

「冗談だろ、誰が行くものか。ああいう賑やかなのは苦手なんだ。君こそいいのかよ、エヌラス」

「死人が出歩く祭りなんて九龍アマルガムじゃあるまいし。というかソラ、お前これどうした」

「僕だってたまには飲みたい時があるんだよ。付き合え、バカ」

「栓抜きはねぇのかよ、バカ」

「…………あー……忘れてた。くそ、これだから古いのは……」

 ──エヌラスは、呆れた様子で王冠を掴むと。

 

「ふんっ!」

 ガキュッ!

 ──素手で捩じり取った。手を振り、開けた瓶ビールを魔術で冷やし直してソラに手渡す。それと入れ替わりで新しいのを受け取り同じように開けた。

 

「……ゴリラ」

「なんか言ったかモヤシメガネ」

「言ってない。乾杯」

「へいへい、乾杯。ルウィーでお祭りだってのに、なんで野郎二人で管巻きながら酒飲まなきゃならないんだか」

「十割がた、キミのせいだからな」

「うるせ。人のこと丁寧丁寧丁寧に撃ちやがって。三発も」

「ちゃんと頭にはペイント弾使っただろ? それに心臓だってちゃんと弾は貫通させてやったんだからありがたく思ってくれよ。ホローポイント弾じゃなかっただけありがたいと思え、バカ」

 胸に手を当てて、さする。実はまだ心臓の辺りに違和感が残っているのだが、それも再生をわざと遅らせたせいだ。額の辺りもまだ塗料が付着しているような気がする。弾を貫通させたのもソラが銀鍵守護器官による再生を考慮してのことだ。

 

「ま、そのおかげでこうして俺はリギホウテンを自由に歩けるわけだが」

「こっちはいい迷惑だ。二度とやらせるなよ、まったく……下手したら、本当に死んでたんだからな」

「お前がその気になってりゃな」

「はいはい、そーですね」

 あの後──エヌラスは四女神が去った後に、行動を再開。元々教会はパンドラの配下である教会騎士達しかいなかった為、身を隠すにはうってつけだった。傷を癒やすのと同時に教会の中を探索していたが、目立った収穫はない。強いて挙げるならば、いくつか隠し扉のようなものを見つけた程度だ。

 ビールを飲みながら、ルウィーの様子を眺める。星空を見上げて、月を見ながら二人はあれやこれやと憎まれ口を叩いていた。

 

「ああでもしなきゃ止まらなくなる前に止めればよかっただろうに」

「バカ言うな、歯止めきくわけねぇだろ」

「あーそうだった。キミはそういうバカだったなバーカ。よく女神様と本気で殺し合えるよ」

「不思議と違和感を感じないからな。相手もそうだろうし、お互い様だ」

「僕を巻き込んだことについて何か一言あればどうぞ」

「どんまい」

「ほんともう腹立つなキミは……」

 反省の色なし。ソラはビールをあおり、むせる。

 エヌラスは穴の開いたハウンドスーツを恨めしく見ながら、改めてインタースカイ製の弾丸の威力を思い知る。仮にも犯罪国家九龍アマルガムで制式採用されている服を撃ち抜く、というのは些か信じられない威力だ。

 

「そういうお前も、よくもまぁ貫通させられたものだな」

「ああ、あれ? これくらいは出来ないとキミ達に勝てないからね」

「っていうか回線接続できてたとは思わねぇっての」

「僕も驚いてる。原因は──」

 元凶たるのは、クロギア。エヌラスがリギホウテン教会を調査した結果、それらしいものを見つけた。剣の台座に接続された無数の配管。だが、次元世界をひとつ丸々“切り離す”等というのはそれこそ神業に等しい。そんなことが可能だとするならば、それは例えば──銀鍵守護器官くらいのものだ。

 見慣れない紫色の剣を持っていた。禍々しい波長に、一撃とはいえ超電磁抜刀術を防ぎ、耐えてみせたことから生半可な強度ではないだろう。それが本命だ。

 

「……次元世界一つまるごと切り離せるほどのエネルギーを持っていたなら、確かに納得がいく。その剣を通して僕も回線が復活したからね」

「なら間違いなさそうだ」

「問題は、それをどうしてクロギアちゃんが持っていたかだ」

「俺が知るかよ。ソラ、もう一本」

「はいはい」

 ネプテューヌとネプギアが相手をした、という点からやはりそれはない。並行世界から喚び出された、と考えるほうが自然だ。とはいえそれも現時点ではこれ以上の答えはない。

 

「……エヌラス。キミはこれで良かったと思ってるかい」

「少なくとも俺はこれでいいと思ってる」

「本当に死んだと思われてるぞ。こっちのノワールさん達に」

「ならいいじゃねぇか。願ったり叶ったりだ」

「一人を除いてだけど」

「…………」

「もう一回聞くぞ、エヌラス。本当にこれでよかったのか?」

 王冠を素手でこじ開けて、エヌラスは何も言わずにビールを飲み干そうとして──ソラに瓶を撃たれた。手元には拳銃が握られている。

 

「……おい、折角のビールどうしてくれんだ」

「僕の奢りだ。文句言うな」

「クソメガネめ……もう一本貰うぞ」

 何食わぬ顔で割れた瓶を捨てて、買い物袋から新しいのを取り出す。

 

「エヌラス。僕は、君が嫌いだ」

「知ってるよ」

「自分と他人を平然と切り離せる、君の強くて脆いところが大嫌いだ」

「そうかい、初耳だ」

「なんで君は、そうやって平気な顔をしていられるんだ」

「……俺は独りでも大丈夫だからな」

「君はそうでも、他の人達も同じだと思うなよ。僕は別に女神様達なんてどうでもいい。嫌われようがなんだろうが、知ったことじゃない。だけど君は違うだろ……なのに、なんであんな事をするんだよ」

 自分が嫌われるのは構わない。女神様よりも、大切な一人がいるから。今までずっと救うことができなかった人がいる。どうして忘れてしまっていたのだろう。記憶を取り戻した今となっては後悔することばかりだ。なら、独りで戦い続けてきたエヌラスはどうなのだろうか。

 きっと、自分ではとても耐えられない程の苦痛に苛まれているはずなのに、平気な顔をしているのが信じられない。

 

「……俺さ、今まで邪神と戦ってきただろ?」

「また唐突だな。それが?」

「お前達を殺すより、よっぽど楽しくてな。それこそ痛みも忘れるくらいに」

「────」

「死ぬほど楽しいんだよ、あいつ等殺すのが。もうお前達を手にかけなくて済むのが、俺にとっての救いだった。殺して殺されてなんて、もうゴメンだ。お前達を殺すのはいい加減飽きた」

「それでも、戦いは止めないのか」

「戦いは止めない。俺が死ぬまで。俺が、俺を殺すまで。絶対に止めない、諦めるものか。だが──もしも、俺を女神が殺すっていうのなら。俺はそれでいいと思ってる。あいつ等ならきっと、邪神を殺せるだろう」

「……馬鹿野郎。馬鹿野郎、気が狂ってる。エヌラス、君は自分が何を言っているか分かっているか? 本当にそれを理解しているか。君のそれは、ただの破滅願望で自殺願望だ。それを理解していると言うなら、それこそ君は壊れてる。君が死んで、誰が喜ぶんだよ!」

「なんで怒ってるんだよ」

「僕が知るか! 誰かの為に死にたいなんて許されると思うな、それなら誰かの為に生きるほうがよっぽど痛くて辛くて難しいことなんだからな! 死んで楽になれると思うな、ああそうだ。楽になんてさせてやるもんか──! どうせ苦しむなら、生きて苦しめこのバカ!」

 キョトンと、間の抜けた顔をしている。どうして自分が怒られているのかも分からないくらいにエヌラスは既に壊れてしまっていた。痛みを感じないんじゃない、痛みに慣れてしまっただけだ。

 自分が傷つくことに慣れてしまって。

 自分が壊れていくことに慣れてしまって。

 自分が傷ついて、壊れてしまうほど殺して。殺して、殺して殺して戦って戦い続けてきて──。

 

「君は、自分が結局生きるのを諦めているだけだろう! 死にたいだけだ! それに理由が欲しくて他人に押しつけて、それがどうして否定されてるのかまだ分からないのか! だからバカなんだよバァァァーカッ!」

「…………すげぇ、反論できねぇ」

「だぁぁぁもぉぉぉう、いい加減にしろよこのバカ! くそ! 開けてくれ!」

「ほらよ」

 ソラがビールを飲み干して、最後の一本をエヌラスが開けて渡す。

 

「ぷはーっ。いいか、エヌラス。よく聞けよ」

「酔ってるだろ」

「酔ってない! 僕は君のこと許さないからな。だから、勝手に死ぬな。死のうとするな。全部終わるまで、全部終わってからもだ。殺すのも殺されるのも僕はゴメンだ。もう二度と──僕に、君を撃たせるな。分かったな」

「ああ、よく分かった。お前が底なしのお人好しだってことが。ありがとよ、クソメガネ」

「本当に理解してるのかよ、このクソ野郎は……」

 夜空がパッと明るくなり、二人が顔を上げるとルウィーから花火が上がっていた。

 

「なぁ、エヌラス。最後にもうひとつだけ聞きたいことがある」

「なんだよ」

「……お前、僕を殺す時に──泣いてなかったか? どうにも記憶が曖昧なんだ」

 インタースカイを壊し、サーバーを破壊して、自分に銃口を向けていたその時。確かに泣いていたような気がする。だがエヌラスはビールを飲みながら花火を見ていた。

 

「おい──」

「さぁな。忘れたよ……だけどまぁ、多分。笑っていたんじゃないか? 自分じゃどうしようもないくらい、泣くほど楽しかったんだろ」

 しらばっくれやがって。ソラは飲みかけのビールをエヌラスに突きつけた。

 

「どうした、酔っぱらい」

「うるさい。話しかけるな」

「飲みきれないほど買ってくるからだ、馬鹿野郎」

「君に言われたくない」

「悪いが酔っ払いの話は聞かないことにしてるんだ」

「……僕はもう、帰るからな。君は自前で帰れるだろ」

「ああ。それじゃあな、ソラ」

「そのうち奢れよ、エヌラス」

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