超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ソラは次元座標から自分の位置を特定し、インタースカイにまで転送される。エヌラスは見送ってから半ばほどまで飲んだ瓶ビールの残りを飲み干して新しくもう一本。六本も買っておきながら自分で飲んだのが二本で酔っ払うとは。とはいえ最後の一本だ。ルウィーからの色鮮やかな打ち上げ花火を眺めながら飲もうとして、人の気配にレイジングジャッジハントカスタムを突きつける。
立っていたのは、魔女風の出で立ちの女性だった。両手を挙げている。敵意が無いことを確認してから、エヌラスは銃口を下ろした。
「驚いたな。気配は消していたつもりだったが」
「悪いな。俺の勘は乙女の肌より敏感なんだ」
「いまいち冗談か判別できんことを言うな」
「で。俺に何か用か?」
「貴様のことは知っている。パンドラと戦い、あのメガネと知り合いのようだな」
「そういうアンタもな」
お互い共通の知り合いがいるということもあり、エヌラスはマジェコンヌと名乗った女性を隣に座らせるとビールの王冠を捩じりとって差し出す。それに目を丸くしていたが、恐る恐るといった様子で受け取った。
「素手で開けられるものなのか……?」
「鍛えてるからな」
「いや、鍛えてもそうはならんだろう」
まさかのマジレス。どうせソラからの奢りだ、一本くらいくれてやってもいいだろう。マジェコンヌはビールを含み、苦い顔をしていた。そういえば冷やしていない。魔術で霜が下りるほどキンキンに冷やしてから再度手渡す。
「貴様、相当高度な魔術が扱えるようだな」
「鍛えてるからな」
「それで通せると思うなよ?」
「いや、マジなんだが……」
「どういう修練を積めばそれだけの魔術を修めることができるというんだ」
「神性生物の巣窟で一ヶ月無一文生活させられればこれぐらいは」
「冗談も休み休み言え。んっ……ぷはぁー。やはり冷えてなければ酒は美味くない」
残念だが本当の話だ。他にもバーベル担いで街をフルマラソンさせられたりと──今にして思えばよく生きていられるものだ。
「あのメガネと戦っている途中で貴様のことを見かけてな。聞きたいことがある」
「スリーサイズは秘密だ」
「誰が聞くか。さては貴様酔っ払ってるな?」
「その程度のアルコールでぶっ潰れるほどヤワじゃない」
ハウンドスーツの内ポケットからスキットルを取り出すと、エヌラスは中身を一口だけ含む。相変わらず喉の粘膜を爛れさせんとばかりに流し込まれる業務用アルコールも真っ青な度数を誇る神殺しである。
「まぁいい。貴様の振るっていたあの力だ。女神達とは正反対のネガティブエナジーを使う貴様がなぜ女神のために戦っている」
「……」
「その力で世界を救うことなど出来ないはずだ。貴様のやっていることはただの破壊でしかない」
「やり方ってものがあるだろう。女神の敵を俺が倒せばそれで万事事はなし」
「だが、その結果何が起きるかわからんバカでもないだろう? 貴様一体、何を考えている」
「初対面だってのに、随分踏み込んだ話題だな」
「──魔人だろう、貴様」
白を切り、スキットルに口をつけようとしてマジェコンヌにひったくられた。ビールを飲み干して、空き瓶を突きつけてくる。
「質問に答えろ」
「……ああ、そうだよ。それがどうした」
「女神とともに在ろうとするなら、その力は手放すべきではないのか」
「そんなことは言われなくてもわかってるよ。だけど邪神を狩り尽くすまでの辛抱だ」
「惜しいな。それだけの力が私にあれば、女神達を倒せただろうに……」
女神を倒すどころか、次元世界一つ丸ごと滅ぼせるだけの力だ。それを振るうのが、ヌルズ・エクス・モルテスであり長年追い続けた最後の一柱でもある。だが、不完全な魔人と生まれついての邪神。力量差は口にするまでもない。それを埋めるためにこれまでどれほど無茶をしてきただろうか。
「……これだけの力があってもな、倒せない敵はいるんだよ」
「ふん。貴様の事情など知ったことか。いらぬ、というのなら私によこせ」
左胸に手を当てる。銀鍵守護器官──無限の魔力貯蔵庫。魔人としてのネガティブエナジー、本来持つ力の源であるゼロクリスタルすら覆い隠す程の魔力があるからこそ、エヌラスは
もしも。銀鍵守護器官を失えば、その時こそ自分は最弱の魔人となるだろう。薬物と外法で補填した能力のみでようやく、といったところが精々。
なるほど、第二の心臓とはよくも言ったものだ。
「悪いが手放せないし、アンタにくれてやるつもりもない」
「そうか。それは残念だ」
「素直で助かる」
「力づくで……とも思ったが、貴様とやりあったところで勝ち目は無さそうだからな」
「大体、女神の敵は俺の敵でもあるからな」
「そんなことは百も承知だ。無実のパンドラを手にかけた時からそれは理解している。だからこそ疑問が残る。何故貴様は、パンドラが魔人の手先だと知っていた」
「ただの同族嫌悪だよ。胸糞悪い生理的嫌悪感だ」
そんな理由で、とも思う。しかしそれが一番慣れ親しんだものだ。これまで殺してきた邪神ないし、魔人を思い出す。
亡霊の少女。吸血鬼殺しの吸血鬼。剣鬼。機械仕掛けの魔人。黒甲冑の魔人──もちろん、それだけではないがキリがないほど戦ってきた。いつ終わるのだろう、いつ終わるのだろうと戦い続けてきて、その終わりがようやく見えてきた矢先に、この始末だ。
もはや戦いだけが己の生存理由でしかない。だからこそ、死ぬ理由が欲しい。
ヌルズ・エクス・モルテスを倒したその後で、自分が生きる理由など無い。
パンドラ・イルバードと一緒だ。ただ存在するだけで世界に危機が訪れる。
「……どうした」
「いや、別に。ただな──いい加減、疲れてきただけだ」
「戦うことにか? 私も、女神達と戦うのに疲れてナス農家を始めたくらいだからな」
「農家ねぇ……」
「少しは戦いから離れてみたらどうだ?」
「どいつもこいつも、似たようなことを言いやがる……それができりゃ苦労しねぇよ」
「貴様根本的にバカだろう」
「初対面の相手にバカ呼ばわりされたのは初めてだ」
「そもそも、戦い続けること自体がバカだと言っているんだ」
「マジェコンヌ」
「なんだ」
「酒、返せ」
エヌラスはスキットルを奪い返すと中身を一口だけ含み、蓋を閉めた。
「……俺が生きてていい世界なんてねぇのかな」
「弱音を吐くほど参っていたとしても私は助けんぞ」
「酒の勢いだ。忘れろ」
マジェコンヌは鼻を鳴らし、ルウィーの打ち上げ花火を見上げる。
「ところで、マジェコンヌ。お前なんでこんなところに来たんだ?」
「忘れ物を取りに来ただけだ。ナス栽培の肥料に使っていたレシピを忘れてな」
「農家は大変だな」
「貴様のような魔人もな」
「大きなお世話だ」
「余計なお世話だ」
二人は立ち上がり、お互いに背中を向けて後手を振るとそのまま別れた。
──アダルトゲイムギョウ界・九龍アマルガム教会。
大魔導師が魔導書を整理していると、資料室の扉がノックされる。血の臭いに振り返れば、そこには血の滲んだハウンドスーツを着たエヌラスが立っていた。
「こんな夜更けに何の用事だ、バカ弟子」
何かを言い掛けて、言いづらそうにそっぽを向く。頭を掻いてから、顔色を窺って口を開く。
「……あー……ただいま、師匠」
「…………よくもまぁ、帰ってこれたものだな。人が手がけた一張羅を台無しにしてくれて」
「悪かったな……」
「それで? 何の用だ。まさかただ帰ってきただけではあるまい」
「……悪いのかよ、ただ帰ってきて」
「──は?」
大魔導師は思わずエヌラスの正気を疑った。書物から目を離せば、不機嫌そうにしながらも照れくさそうにしている。着の身着のまま帰ってきたのだろう。ワイシャツも真っ赤なままだ。どうりで血の臭いがしたわけだ。大魔導師は呆れて魔導書を棚に戻す。
「風呂にでも入ってこい。今なら空いているはずだ」
「それと悪いんだが」
「悪びれるようなら頼むな」
「替えの服とか、頼むわ師匠」
「承ろう。しっかり休め、エヌラス」
風呂場に向かおうとする姿を呼び止めて、エヌラスの浮かない顔色に大魔導師は目を伏せた。とにかく酷く参った顔をしている理由は、敢えて尋ねまい。
ただ一言、労いの言葉を投げて──正気を疑われたのがひどく不愉快だったので廊下ごと吹っ飛ばした。