超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ラステイション教会では、ノワールが出かける準備をしていた。姿見の前で服装の乱れがないかチェックし、リボンも弛んでいないか、持ち物も忘れ物は無いか念入りに確認を怠らない。
「……うん、よし。完璧ね」
再三確認したのだ、確認漏れなどないはず。ノワールは腰に手を当てて胸を張る。
昇降機が動き、ユニと一緒にスピカとカルネが昇ってきた。
裏駅バーの営業時間外は暇を持て余しているメイドを、ノワールはラステイション教会で嘱託職員として雇用している。場合によっては教祖である神宮寺ケイの護衛も務める形での雇用契約となっていた。普段は仕事の補佐として活動してもらっているが、驚くほど有能で仕事がこれまでにない程スムーズに進むとケイも珍しく喜んでいる。
「お姉ちゃん、そろそろ時間だけど」
「ええ。ちょうど身支度も整えたところよ」
「ノワール様の不在の間、こちらで留守を預からせていただきます。ご安心くださいませ」
「もちろん、ちゃんユニのご指導ご鞭撻もお任せあれです!」
「変なこと教えないでよ?」
「大丈夫ですって、手取り足取り夜のご指導ごべん」
ゴギャンバッキャン。カルネがスピカの足払いからのショットガンによる殴打で床に叩き伏せられた。何事もなくスカートの中にソードオフ・ショットガンをしまい込み、裾の汚れをはたき落とすとスピカは一拍置いて、ノワールに頭を深く下げる。
「大変失礼を致しました」
「……本当に大丈夫?」
「ええ。場合によってはふん縛って教会から吊り下げておきますので。首から」
「やめてよ!?」
不安しかない。何かを思い出したようにポケットを探ると、スピカがノワールに歩み寄り、手を取って小箱のようなものを握らせた。
「ささやかなものですが。よろしければお使いくださいませ」
「?」
かぶせられたガイノイド特有の冷たい両手から覗くのは、ゴム。
『業界最薄! まるで生!』とウリ文句が宣伝されていた。ノワールの顔が一気に赤くなるが、スピカは口元に指を添えてクスクスと笑みを浮かべるばかり。
「足りませんでしたか?」
「そ、そそんなことないわよ! というか、なによ、これは……!」
「ゴムですが? ご不要でしたらご利用いただかなくても」
「だってこれって……その、そういう用途の……ゴニョゴニョ……でしょ……」
「九龍アマルガムにおいては非常用の水筒代わりとしても活用される方が多数。専用の物もあるくらいです」
「そういう使い方もあるのね……」
持ち運びに便利なゴム水筒。しかも破れにくいと評判。かさばらず大容量。そのうえ本来の用途としても活用可。目当てのあの子と頂を目指せ! ──などとコマーシャルが流れていたりする。お茶の間スプラッシュである。
「ともあれ、どうぞお納めくださいませ」
「え、ええ……ありがと……」
ノワールを見送ってから、ユニは気合を入れた。
「よーし、お姉ちゃんが居ない間はアタシが女神として頑張らなきゃ。一日でも早くお姉ちゃんみたいに立派な女神になるんだから!」
「その意気込みは大事ですよ、ユニ様。僭越ながら私もサポートさせていただきます」
「ありがとうございます、スピカさん」
「そういえば、ご紹介されたガンショップですが。例のパーツ、入荷の目処が立ったと耳にしました。お時間があればどうぞお立ち寄りのほどを」
「ホントですか! やったぁ! ラステイション海軍御用達の新型高精度倍率スコープ、やっと入荷されるようになったのね! 今日は頑張らなきゃ!」
「そういうわけですので、寝てねぇで起きろ愚妹」
「うぅ、スピカ姉の放置プレイは辛辣……ご主人様の温もりが欲しい」
「フレイムスロワーなどいかが?」
「ファッキンホッッット!!!」
一体、そのスカートの中にどれだけの銃火器を隠しこんでいるのか。少しだけ興味を惹かれながらユニはスピカと共に意気込んで女神の仕事に取り組んだ。カルネはこの後ケイのボディーガードとして予定が入っている為に別行動となる。
──刀剣メイドを侍らせるボーイッシュ教祖様の噂が良くも悪くも業界に流れるのはそう遠くない話であった。
ノワールがユノスダス教会に到着すると、間もなくしてユウコが手を振って駆け寄ってくる。世間話を一言二言交わし、応接室に案内された。
表向きは外交ということになっている。国を空ける理由を考えるのも楽じゃない。しかし、形だけとはいえユウコは抜かりない。現時点でラステイションへ出荷予定の品々をリストアップさせていた。なにせここはアダルトゲイムギョウ界の台所、金さえあれば何でも揃う。かもしれない。
「ハァド大戦の件で、ラステイション海軍への防衛費に資金をうまく回せないかと悩んでるのよね。ただでさえ防衛軍極東支部にも物資の配給が追いついてないのに」
「んー、それならうちでフォートクラブ用意しようか? アゴウならレーダーとかも揃ってると思うし。でもそれじゃ規格大丈夫かな……」
「……ユウコ、アナタ目が悪かったかしら。赤縁メガネなんて掛けてどうしたの?」
「ふふん、今のユウコさんはお仕事モードなのです。気分の問題、気分」
「へぇ。似合ってるわよ」
「ありがと。のわちゃんも良かったら付けてみる? 伊達だけど」
余談だが、ソラからすれば伊達メガネは邪道らしく非常に不愉快な存在らしい。ファッションのひとつとして理解はしているが、眼鏡という視力矯正の道具としての用途から外れて形ばかりのものであるのはいかがなものかと──以下略。
「うーん、流石にうちから出資は難しいから……かといって機人も派遣できないし。そうなると技術提供とかくらいかな……つるちゃんと話つけてみるね。進展あったらまとめておくから」
「お願いね。出来れば、海軍関係だけじゃなくて、物資輸送とかの援助もしてもらえると助かるんだけど」
「あー……インフラ整備とかかー……難しいなー……ま、なんとかしてみるね」
なんとかしちゃうのがユノスダス国王である。お仕事の話はここまで。ここから先は、私用であり、同時に本命でもある。
「それでユウコ。エヌラスはどうしてるかしら?」
「そろそろ時間だから来ると思うけど……」
執務室がノックされ、赤い髪の警備職員が入室してきた。ピンと立ったケモミミの間に軍帽が窮屈そうにしている。
「失礼いたします、国王様!」
「お、噂をすれば来たかな。エヌラスのこと?」
「はい! ご案内してもよろしいでしょうか」
「いいよー」
気楽な返事をして、アイルは頭を下げるとすぐに去っていった。
それから程なくしてエヌラスとプルルートが案内されて入室すると、ノワールは咳払いを挟んでから腕を組んで睨みつける。それに気まずそうに顔を逸らすエヌラスにプルルートが思い切り足を踏んだ。たまらずかがみ込んで足を押さえ、肩を震わせている。
「ノワールちゃん~、元気ぃ~♪」
「ええ、アナタも元気そうね。プルルート」
「じゃあ、エヌラスのことよろしくね~。あたしも、もうちょっと居たいけどぉ……いーすんに早く戻ってくるように言われてるから~」
「任せなさい。それじゃまた、そのうち」
「うん~」
「じゃあ、ぷるちゃんのこと案内してあげなくちゃ。エヌラス、いつまでしゃがんでんの」
「おまえ……おまえにはわかるまい……! この俺の身体を通して出る痛みが……!」
確かにさっき、なにかとんでもない音が聞こえた気がする。ボウリングの玉を落とした時みたいに重量感のある足音が。
ユウコとプルルートの二人と別れ、ノワールとエヌラスが二人きりになるとこれ見よがしに思い切り呆れた溜息をつく。
「……もう呆れて物も言えないわね。ユウコから話は聞いたわよ。どうしてこう、もうちょっと上手く立ち回れないのよ? その、リギホウテンの調査だってもう少し踏み込んでればそんなことにならなかったでしょ」
「お前と瓜二つの顔見た時点で俺の正気が疑われた」
「だからプルルートのところにずっと居たってわけ? はぁ……顔が同じ赤の他人だなんて、確かに調子は狂うかもしれないけど」
「お前にゃわかるまい……」
瓜二つの顔と言えば──。ノワールは考えかけて、思考を中断した。嫌なことばかり思い浮かぶからだ。
「そうやって一人で悩んでばっかよね。そんなに頼りない?」
「ただでさえ迷惑かけてるのに、これ以上頼るのは申し訳なくてな」
「これ以上ないほど迷惑かけてるんだから、今更よ」
「いざ口にされると凹むな」
「もう過ぎたことだし、これ以上言う気もないわ。さぁて、それじゃ。お詫びに何してもらおうかしらね♪ やっぱり、なにか奢ってもらうくらいしてもらわないと割に合わないわよね」
「あんま高いのは無しな……?」
「そうねぇ。それじゃ、手堅くデザートなんかが良いかしら。たまには甘い物食べないと♪ ほらエヌラス、行くわよ」
「はいはい……」
「返事は一回!」
「へぇーい」
「だからなんで僕の店に来るんだよ!!!! おかしいだるるぉ!!!」
「うるせえぞクソメガネ、コーヒー」
「何がオススメかしら……」
「店長特製パルフェだな」
「じゃあまずはそれで。オーダーお願いね、ソラ」
「ちくしょう僕の話聞く気まったくねぇなこいつら……! 人の店でイチャつきやがって……」
ソラは突然店に来たエヌラスとノワールに接客しながらタブレットを操作して厨房へと姿を消した。愚痴りながらもちゃんと仕事をする辺り、真面目だ。
「あれから何かあったか?」
「特に何もないわ。でも平和な時だからこそ有事に備えるものよ。女神の転換期も控えてるし、対策チームも設営しないと」
「……転換期?」
「ええ。まぁ……女神に対して不平不満が集まる時期、とでも言えばいいかしら。あることないことまことしやかに広まったりするのよ」
「へぇ」
(意外と落ち着いてるわね)
ノワールの想像では──「根絶やしにすればよくね?」とか平気な顔で言いそうだったが。
「そういう時期なら、会うのは控えた方がいいか?」
「世間体を考えるならそうね。でもアナタは教会で管理してる服役囚だからそういうわけにもいかないじゃない?」
「なるほど」
ソラが早くもコーヒーとケーキのセットを並べていくと、二人が顔を見合わせる。
「ケーキは頼んでないわよ、私達?」
「試作品だから品評よろしく」
「おい、ソラ。ファッキンホットコーヒーなんだが」
「うるさい、時間掛かるんだから冷ましてろ」
「じゃあそうする」
「店で魔術を使うな!」
カップの縁を鷲掴みにしたエヌラスの手の中で冷えていくコーヒーは程よい温度にされ、なけなしの嫌がらせが無に帰した。
「あー、そうだエヌラス。昨日のケーキはどうだった?」
「美味かった。ボリュームが欲しい」
「君に聞いた僕がバカだった」
「やーいバーカ」
「なんだとこのやろぉぉぉ……! 人の親切をぉぉぉ……!」
「やんのかテメェぇぇぇ……!」
「取っ組み合ってないで、仕事しなさいよ……」