超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「二度と来んなバーカバーカ!」
「うるせぇクソメガネ! レンズ割れろ!」
──結局、喫茶店を後にするまでお互いに憎まれ口を叩いて会計を済ませる。その様子を従業員たちは微笑ましく見守り、止めるような素振りは一切見せなかった。それが気になり、ノワールは手短な従業員に尋ねてみる。「なんで止めなかったの?」と。
「え~、いやそれはもう。眼福、です」
「あ、ああ。そうなの……」
どうやらベール寄りの思考の持ち主が多い模様。
パルフェ通りを後にして、ノワールとユノスダスを歩く。平和そのもの。働く人々の活気もさながら、客を呼び込もうとする店主達の声が張り上げられていた。道ですれ違う男性の視線が気になるのか、ノワールがそれとなく距離を詰めてくる。
「なんか、さっきから見られてる気がするのよね……」
「お前がかわいいからだろ?」
「やっぱりそうよね。みんなわかってるじゃない」
(あの子かわいいな……)
(パンツ見えてるんだけど気づいていないのかな……)
(ファミチキください……)
「なんか今、脳内に直接語りかけてきた奴がいないか?」
「気のせいじゃない? それより、これからどこに行くつもり」
腕を組み、身体を寄せるとエヌラスが寒気に身体を震わせた。男たちの視線が怖い。
「そうだなぁ。どこか行ってみたいところあるか?」
「うーん……それならちょっと寄りたいところがあるわ」
ノワールと共に向かった先は、シルヴィオの経営する喫茶店。いつもの調子で店内では超人的な光景が広げられていた。
カップソーサーと共に店内を飛び交うホットコーヒー、紅茶、ミルクティー。回転を利かせて表面張力ギリギリでこぼれない位置をキープしながら注文したテーブルにナイスランディング。続けて、サンドイッチを竹串で固定しながら同様に皿の上へ滑り込ませる。
すべての注文をテーブルへ載せると、シルヴィオは穏やかな笑みを浮かべて会釈した。
「それではお客様、どうぞごゆっくり」
「……相変わらず凄いわね」
「まぁ、この店はコレ見たくて来る客も多いからな……」
「うん? おや、君は確か──」
ノワールが会釈し、エヌラスは片手を挙げて挨拶をするとカウンター席に腰を落ち着ける。
「売上の調子は?」
「店の経営に支障がない程度をキープしてるさ」
ユノスダス喫茶店ランキングではトップテンには入らずとも、常に中堅。激戦区である上位店舗とは無縁なため、落ち着いた時間を過ごせる。シルヴィオの経歴を知る人間は本当にごく僅かであり、利用客はそういうパフォーマンスなのだろうと思い込んでいるが実際は違う。
「君は……ああ確か、あの時の」
「その節はお世話になったわね」
「それについては深くお詫びを。何か頼んでいくかい? 持ち帰りも良ければ」
ノワールは考え込む素振りを見せて、何かオススメはないかと尋ねる。シルヴィオは、それならば、とコーヒー豆を棚から取り出した。
「それなら、コレなんてどうだろうか」
「わざわざ九龍アマルガムから取り寄せたのか?」
「上層都市で栽培される無農薬栽培による農園はとても品質が良いものばかりだ。私も気に入っている。よければ譲ろう」
「ええ、ありがとう」
「それにしても……エヌラス」
「ん? なんだよ、爺さん」
「お前はこの間連れてきた子といい、この子といい。趣味が広くないか?」
「やかましいわクソジジイ」
「そこのところ、お嬢さんはどうお思いかな?」
「まぁ、そうね……」
あまり褒められたものではない。というか人としてどうかと思う。だが不快感よりもプライドの高さが幸いしてか、むしろ自分に振り向かせようと躍起になってしまう。良くも悪くも競争相手として見ていた。つまりは、いつも通り。
「特に気にしてないわ。なんていうか、もうちょっとしっかりしてくれると嬉しいんだけど」
「だ、そうだ。甲斐性くらいはしっかりな」
「善処する」
「そんなお二人さんには、ひとつ耳寄りな情報をあげよう」
『?』
ブライダルフェアのモデル撮影と聞いて、エヌラスとノワールは会場へと足を運ぶ。そこにはモデル撮影の案内を聞いて集まったカップル達で賑わっていた。
シルヴィオから渡されたチラシを手にしながら、エヌラスは少しだけ唇を尖らせている。
「……その、ブライダルフェアのモデルって」
「……新郎新婦、だな」
「もし、採用とかされちゃったりしたら……」
「雑誌に載るな」
「アナタ、大丈夫なの?」
「ユウコ辺りに何を言われるかわかったもんじゃないな」
スタッフの案内に従って共通の番号札を受け取り、続いて面接会場へと。並ぶカップル達は誰もが落ち着かない様子でそわそわしていた。
「面接……って、何をするのかしら?」
エヌラスがなんとなしにチラシをくまなく読み進める。ある一点を指差して、ノワールに見せると目を白黒させている。
『当日会場では面接を実施させていただきます。ワンペアにつき五分程度の短いものとなりますがお互いの愛を確認させていただきます』
「…………」
「…………」
「わ、私そんなの聞いてないんだけど」
「いや、俺も知らなかったんだが」
モデル採用になれば賞金も貰えるというだけあり、それ目当てのカップルの対策だろう。面接会場から出てくるカップルは一喜一憂。番号札を回収されるのは面接落ち、ということなのか揃って肩を落としていた。
「次の方ー、どうぞ」
そして、エヌラスとノワールの番が来る。全くのノープランで面接会場に入ると、パイプ椅子に座ったブライダルフェアの企画者が三名ほど。
「えー、それでは時間も限りありますので。お願いします」
「お、お願いしますって……それだけ?」
「ええ」
「例えば、こう。何かお手本的なのはないの?」
「まぁそこは各々自由ということで」
「適当ねぇ……」
参考までに、これまでのカップルはキスをしたり、愛の告白をしたり、指輪を渡したりと様々な形でアピールしていた。問答無用で面接落ちとなったカップルは脱ごうとしたらしい。
(え、ええ……でも、そのこういうのってアレよね……)
「ノワール、何かないか」
「……キス、とか?」
「いや、ちょっと弱いな。もう少しパンチの効いた奴」
「舌でも入れる……?」
「俺が我慢出来るか怪しいな」
「なんでそう我慢弱いのよ!」
「お前がかわいいからだよ!」
「か、かわいいって何言ってるのよ! 当たり前じゃない!」
「いくら言っても足りないんだよ悪いか!」
「どうかわいいのか説明してもらおうじゃない! ここらでハッキリさせておきたいわ!」
「全部だよ!!」
「ぜ、全部ってことはないでしょぉ!? 何か、欠点のひとつくらい無いの?」
「それ含めて全部って言ってんだよ!」
「あーもー止めて! それ以上聞きたくない! これ以上アナタにかわいいなんて言われたら顔がにやけちゃうでしょ!」
「じゃあ他にどうしろってんだ!?」
「褒め殺しにでもしたいの!?」
既に面接官達が悶えているが、エヌラスとノワールは気づいていなかった。
「あ、あの……面接時間もそろそろ……!」
「え、ええ!? えっと、えーっと」
「愛の告白もなぁ……他人に聞かせられるようなものじゃないし」
「言ってくれてもいいじゃない……」
「俺はお前にしか聞かせる気はない」
「ど、どうしてそう! アナタは、あぁぁぁもぉぉ!」
真っ赤になった頬に手を当てて顔を覆うノワールが、スカートのポケットの違和感に手を入れると硬直する。一転して静まり返る面接会場で、固唾を飲み込みながら小箱を取り出した。
「…………あ、あの──え、っと…………」
両手で小さく持ち上げながら、口元を隠して。あまりの恥ずかしさに耳まで赤くなっている。
それは、スピカから渡されていたゴムだった。エヌラスもその小箱の正体に気づいたのか赤面して顔を逸らし、ニヤける口元を手で隠す。
「こ、これ……持ってるってことで……いいかしら……?」
「すいません、もうお二人で結婚してもらっていいですか……」
問答無用の合格を勝ち取った。それどころか採用確定だった。面接官が致命傷を負いながら次の面接の為にコーヒーをがぶ飲みしている。
「恥ずかしさで死にそうだったわ……」
「なんでゴム持ち歩いてるんだよ」
「し、仕方ないでしょ。スピカに渡されたんだから」
「あのダメイドめ……」
「ええ、そうなのよ…………」
「…………」
「…………」
「……それで」
手を繋ぎながら更衣室に向かう廊下を歩くエヌラスがノワールの手を引いて、耳元でささやく。
「ゴム、使う予定あったのか?」
「~~~~……! わ、渡されたんだもの……使わなきゃ、勿体無いじゃない……それに、持ち歩くの恥ずかしいのよ……?」
「すごくエロかったけどな。さっきの」
「怒るわよ……」
「やめてくれ、このあと撮影なんだから。そんな眉をつり上げてたらかわいいのが台無し……でもないか」
「もぉ……バカ」
むくれるノワールの頬をつつき、からかいながらエヌラスは笑って更衣室に向かう。その背中を見送り、少しだけ胸を撫で下ろした。
どうやらもう心配することはなさそうだ。プルルートに何を言われて何をされたのかは分からないが、説教は勘弁しておこう。
ノワールも女子更衣室へ入り、そこで待機していた女性スタッフと言葉を交わしながらウェディングドレスに着替える。
いくつか候補があり、その中から好みのものを選ぶ。どれもこれも目移りしてしまうような汚れ一つ無い純白のドレス。金の装飾をあしらった漆黒のウェディングドレスもある。ラステイションの守護女神として強く惹かれるものがあったが、ノワールは脳裏に自分の結婚式を思い描いた。
「それじゃあ──これにしようかしら」
──男性更衣室。
「あのーすいません。顔の傷はどうにかなりませんか? 自由業の方はちょっと」
「自由業じゃない」
しかし、左目の刀傷があるのは流石に撮影NGか。いざとなれば編集ソフトで修正できるだろうが、気になるようだ。
後ろ髪をまとめ、前髪も留めておく。鏡の前で左目を閉じて、エヌラスは魔力を指先に集中させる。幻術魔法で傷跡を誤魔化すと、スタッフに確認させた。
「これでいいか?」
「ええ、大丈夫です」
「それはそれとして、夜道に気をつけろよ」
「ヒエッ」