超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
魔導的加護と呪術に特化した兵装であるエヌラスの両手に握られる紅の自動式拳銃と白の回転式拳銃がフォートクラブの装甲を穿つ。ドラグレイスの剣戟とムルフェストの“拳”が衝突した。
ノワールもまた、エヌラスのリロードの隙を補うようにしてフォートクラブの動きを封じていく。
アヴェンジャーに搭載されている武装は上部装甲のワイヤーカッター八基。そして、口部に備えられた呪砲兵装『
《クッ――!》
当然ながら質量兵器に特化した機人である長のアルシュベイトに魔法防御など皆無に等しい。ひとたび直撃しようものなら装甲が消し飛ぶ。然しながら、卓越した戦闘技術と経験の差は埋められない。砲撃をかいくぐり、ワイヤーカッターの六連撃を反撃の手で斬り落とす手腕はもはや疑いようもなく彼我の実力差だ。前腕が開き、その内部に覗くのはカメラの光学レンズのような砲塔――バルド・ギア考案の六連装レーザーランチャーが閃き、青白い光が木々を薙ぎ払う。出力を調整次第ではレーザーブレードのようにも使用できるのか、アルシュベイトへ斬りかかる。長刀と斬り結び、火花が散った。擬似魔術動力回路“
「アン・ドゥ・トロワ!」
都合、三手。一手が大剣の腹を打ち、切っ先を逸らす。二手がドラグレイスの顎を強烈に打ち抜いた。三手――下から打ち上げるアッパーカットが騎士甲冑を高く宙に吹き飛ばし、しなやかに足を振り上げてドラグレイスが蹴り飛ばされる。
「にひっ。どうよ?」
「今のは……効いたぞ――」
真正の吸血鬼。生まれながらにして人ならざる者――吸血姫、ムルフェスト。その真価は夜の闇の中でこそ発揮されるが、しかし。それでも人間を超越した存在の神格者であるこの女性の戦闘能力は例え昼間であっても他のモノに遅れを取ることはない。治めるべき国を持たず、守るべき国を持たない二人でも神格者に名を連ねるもの。エヌラスの魔弾を血を含ませたカマイタチで相殺する。
「ちょっとー。横槍?」
「いやワリィ、手元が狂った」
そう言っている間にもエヌラスの指先からは血が滴り落ちていた。その窮地にあっても目に宿した闘志だけは衰えない。
「ふん。死にかけのくせに」
「地獄に嫌われてるらしい」
冗談にムルフェストが笑うと、ドラグレイスの大剣と再び拳を交わす。
「おい、大丈夫かアルシュベイト」
《人より先に己を案じろ! 足回りの損傷が気になるが、問題はない!》
「そうかよ。生産工場の電源は落としたが、止まりそうにねぇ。そこで提案だ」
《聞こう》
「工場ごとまとめて潰す、どうだい」
《その提案、面白い! 乗った!》
「そうくると信じてたぜ、アルシュベイト!」
アヴェンジャーから大きく身を引いたアルシュベイトがエヌラスの隣に並ぶ。
「
《ノワール、我らの直線上より退避せよ!》
「え、えぇっ!? “ココ”から工場を潰すの!?」
距離にしておよそ、五十メートル。フォートクラブの群れと戦闘を繰り返し、ムルフェストとアヴェンジャーの相手をしているうちに離れていた。“ソコ”から“工場ごと潰す”と宣言しているのだ。ノワールの驚きも尤もだが、どこか納得もしている。
この二人ならば、或いは――エヌラス=ブラッドソウルが“銀鍵守護器官”に魔力を奔らせる。それは間もなく紫電となって“
《エヌラス、身体は良いのか?》
「はんっ、テメェにいつかブチ込むつもりだ。気遣ってる暇あんのかよ」
《ふむ、ないな。なればこそ、征くぞォッ!》
「最大出力だ、消し炭一つ残さねぇ!」
エヌラス=ブラッドソウルの右手には長大な野太刀が握られた。その左手が鞘を顕現させて跳躍する。
《乾坤一擲! “
アルシュベイトが身の丈に匹敵する豪剣を召喚する。ひたすらに分厚く、鉄塊のようでありながら洗練されたフォルムは日本刀のごとく刀身を輝かせていた。全身から火花が散る。
大上段に構えた二人が、アヴェンジャーとフォートクラブ生産工場を睨んだ。
「
《いざ征かん――!》
同時に振り下ろされる閃光の白刃は、世界を白く染め上げていく――。
「DAAAARAAAAA――!!」
《チェェェストォオオオオッ!!》
絶大な破壊力は相乗効果により、フォートクラブ生産工場だけでなくその先にあった山の麓までを消し飛ばした。距離にしておおよそ、二百メートル余り。消し炭すら残さない魂心の一撃だった。
然しながらその中に異物が一つ――いや、今は一匹というべきか。
アヴェンジャーは健在だった。その装甲表面が黒く焦げ付き、それでもまだ葉脈状に走る血管が脈打っている。魔力の胎動はまだ衰えていなかった。
「無駄、無駄、無駄ァァ! アッハハハハ、貴方達まさかそれでワタシの血をどうにか出来ると思ってた? 魔導兵器搭載ってだけあって実によく馴染んでくれたよアヴェンジャーは!」
《――――ギ――》
ぎこちない動きで再稼働しようとしている。機械部分は殆どが焼け付いて使い物にならない。心臓の鼓動が重なる度にエヌラス=ブラッドソウルは自分の体を駆け巡る魔力の暴走を抑え切れなくなっていた。その度に血管から血が爆ぜる。損傷からアルシュベイトもまた脚部の損害が拡大していた。
ドラグレイスもまた、ムルフェストの拳によって打ち崩される。
「死にかけの全力なんてたかが知れてるよ、エヌラス」
「――っ……!」
「貴方もそうだよ、アルシュベイト。たかが機械の分際でさ、偉そうに説教垂れてくれちゃって。アゴウがなんだのこうだの理由をつけてるみたいだけど、そうなるようにプログラムされてるんじゃないの――?」
《…………――――》
「そうだなー、ここで貴方を倒したら、次はアゴウに行こうかな。どんな顔するだろうねー? ただの機械を信仰しているあの国の人達は――」
《――おい》
「――――」
《もう一度言ってみろ……》
ギ、ギ、ギ、ギ――。
《もう一度、言ってみろ。ムルフェスト》
アルシュベイトが、立っていた。長刀を携えて、各部の損傷すら気にも留めず、アヴェンジャーを前にして立っている。その怒気はムルフェストを押し黙らせ、隣にいるエヌラス=ブラッドソウルですら寒気に身を震わせた。
威圧感が、木々を戦慄かせる。大地にすらヒビを入れるその一歩を踏みしめた。長刀の切っ先をアヴェンジャーに突きつける。
《貴様は今、愚弄した。俺のアゴウを毒牙に選んだ。それだけは、我慢ならん! 俺を、倒す? 寝言を言うなムルフェスト! 貴様の眷属、貴様の隷属であろうが、例え貴様の真価を発揮する宵闇の手中であってもこの俺は倒れん! 俺は、“輝望”だ。アゴウで戦う者達の明日を照らす輝きで在り続けなければならんのだ! あの者達の望みを曇らせることは、ならんのだッ!》
「――アゴウは、いずれ」
《いずれ滅ぶことは百も承知! だからこそ、ならば!》
天上に切っ先を向ける構え――大上段より更に上を行く。頭上に掲げた一刀。
《貴様の道理など、言語道断ッ!》
「生意気を――アヴェンジャー!!」
その叱咤で、再稼働する。鋼鉄の猛獣が駆け出す。憎悪で、執念で。それは彼の魂だった。
「ただの機械の分際で、ワタシのペットに勝てるとでも思ってるの!?」
《――――チェェストォオオオオオオオッ!!》
裂帛の一閃。
もはや愚策を通り越した呆れるほどの単純な一撃。
大上段よりの打ち下ろし。ただの機械が振るう一刀、超常を纏う鋼鉄に敵うはずがない――ムルフェストは確信していた。
アヴェンジャーの突進によってアルシュベイトの豪剣が弾き飛ばされる。そして、無残に轢き殺される最強の軍神の姿がエヌラス達を絶望させるのだ。例え昼間であっても人の安眠を邪魔する輩がどうなるか。最も邪魔な障害を排除した後は、気の向くままに世界の滅びと共にこの生涯に終わりを告げよう。
だが、そんなことは起こり得なかった。
《――――――――――――――!!》
音を超え、光を超え、更にその先へ往く魂の一撃。無想剣の極致、兜割。
最強の名に、偽りはない。それがどんなデタラメで荒唐無稽であっても、それを成すからこそ彼はこう呼ばれる。
護国の鬼神にして鋼の軍神、守護神――アダルトゲイムギョウ界最強の国王、アルシュベイト。
アヴェンジャーの正面装甲に切っ先が触れるまで、事実、ムルフェストは笑っていた。だが、今はどうだ。間抜けに引きつらせた口をポカンと開けたまま閉じることも忘れた間抜け面をしている。――その場に居た全員が呆気に取られていた。
長刀を地面に突き立て、柄頭に手を置く――剣礼。
《俺は“勝つ”のだッ! 分かるか! この俺を突き動かす魂の鼓動は、プログラムなどではない! 俺の胸を深く穿つ、この衝動こそは、そう――!》
動きを止めたアヴェンジャーが、アルシュベイトの背後で真っ二つに割れる。
《――愛ッ!!》
「愛!? そんな滅茶苦茶な理由で、ワタシの血が――!?」
《無茶でも滅茶苦茶でもへっちゃらだろうが、この俺の愛国心に敗れたのだッ! 敗北を認めよ、ムルフェスト!! 吸血姫よ!》