超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
白いフリルのついた、肩出しニット。加えて、淡い緑のロングスカート。見せブラというファッションで色気も醸しつつ、動きやすさと通気性を確保。試着室から姿を見せるベールに、エヌラスは深く頷いた。
「よし」
小さくガッツポーズをとる。戦闘に不向きなハイヒールで、さらに付け加えて髪留めもエネラルドを豪華に使ったもの。正直値段の六割がその髪留めだったりするが、知らんぷり。ベールは着心地を確認して、スカートの裾をつまんで翻していた。眩しい太ももがちらりと覗くと店内の男性客が見惚れて立ち止まる。しかし、エヌラスがひと睨みすると蜘蛛の子が如く散っていった。
「ベール、どうだ?」
「着心地はとてもよろしいですわ。流石エヌラスですわね。今のわたくし、まるでお嬢様のような気分です」
お嬢様、どころか女神なのだが。それはさておき。会計のお値段、ひぃ、ふぅ、みぃ──なんか八桁くらいになってるが、エヌラスは大魔導師にツケた。請求書もきっかり大魔導師名義にしておく。
ベールが思いついたように、ポン、と。指先を叩いて合わせる。
「そうですわ。せっかくですし、エヌラスの服もわたくしが選んで差し上げますわね」
「いや、別にいいよ。これ一丁あれば」
「ダメですわ。それでは、お嬢様のボディーガードにしか見えませんもの。せっかくですし、カジュアルな格好をしてみてはいかがですの?」
「とは言われてもなぁ……」
自分で服を選ぶとなると、まぁ無難というか。面倒くさいので黒一色、しかも無地という地味一辺倒の面白くない服装になる。そも、サイバネティックコートなどが戦闘用や局地用などといったものが大半であるのがいけないのだが。
「さぁさぁ、紳士服コーナーに参りますわよ。どちらの方でしょうか」
「あちらの方になります」
「エヌラス、行きますわよ。わたくし直々にギャルゲーの主人公もかくや、エロゲーの主人公ばりのベストマッチファッションを選んでみせますので、ご安心くださいませ!」
「不安要素しかないんだがぁ!?」
鼻息荒く、エヌラスの腕を掴んで紳士服コーナーへ突撃するベール。
あれがいいこれがいい。ああだがこちらも似合う。目移りしてしまう、等など一人問答を繰り返すこと一時間──。
ハウンドスーツのネクタイを弛めてワイシャツとジャケットを脱ぎ、ベルトを外してスラックスも下ろす。
試着室で着替えたエヌラスが顔だけ出してベールを探す。いつの間にかギャラリーが出来ているが、声をかけようとする男性客はいなかった。気のせいか女性客も混じっている。──おい、写真撮ったやつ誰だ。携帯割るぞ。
「エヌラス、着替え終わりましたの?」
「……ちょいちょい」
「どうかしました?」
手招きするエヌラスにベールが近づくと、腕を掴まれて試着室の中へ引き込まれた。
「きゃっ──! もう、なんですの。普通に見せてくだされば、十分ではありませんか」
「恥ずかしいんだよ、悪いか」
「どうしてです?」
「……着る服選んでもらったことなんかねぇし。自分じゃ似合ってるかわからん」
「──鼻血ものですわよ」
「へ?」
ベールが選んだものは、七分袖の白いワイシャツに二重構造のアシンメトリーベスト。裏地がチェック柄でさりげないアピールをしながらも、エヌラスの要望により動きやすさ重視。余計な装飾を着けないシックな色合いで落ち着けた。紺のジーンズは腰回りの頑丈なもの選び、ホルスター等の装着を妨げない形にしている。そしてお洒落の基本は足元から。
ベールが選んだハーフブーツは、軍用の型落ち品モデルをベースにした安全靴。爪先と踵に合金を仕込んでいた。もちろんアゴウ製。編み紐もフェイクで、横のジッパーで手軽に着脱できる安心設計。少々お値段は張るが、性能はお墨付きだ。
「……落ち着かない」
「それはそうでしょう? 試着室で、こんな風に密着してるんですもの」
「いや、それもそうだが……」
「……♪ エヌラス──」
照れて顔を赤くするエヌラスが、思い出したようにハンガーに引っ掛けていたジャケットからヘアピンを取り出す。姿見で前髪を整えて、邪魔にならないように髪を別けて留める。
耳を隠し、襟元まで隠すほど伸びた黒髪をハーフアップにして後ろで縛ると赤いラインの入ったリボンでまとめた。それをベールに嬉しそうに見せるエヌラスが、今まで見たことがない無邪気な笑みを向ける。
「ベール、ベール。ほら、これでお揃いだろ? 横髪の辺り」
「……」
仰げば
「エヌラス……お待ちになっ、こふっ……!」
「だ、大丈夫か? 鼻血出てるが。ほら、ティッシュ」
「ええ、ありがとうございますわ……」
お会計、無事に六桁。こちらも大魔導師に請求書を投げた。
『ありがとうございましたー』
九龍アマルガム関係者とだけあって羽振りの良さに、店員からの対応も手厚い。そもそも公安局の制服を着ていた時点でベテランの店員が常に付き添ってくれた。着替えの入った紙袋を手にして店を後にする。
エヌラスと腕を組み、日が傾き始めたアクア・エデンの商店街を歩くベールの笑顔は知らず知らずのうちに見つめているものまで頬が緩むほどの輝かしさを放っていた。
「嬉しそうだな、ベール」
「ええ、もちろんですわ。まさかこのような、恋愛ゲームのようなシチュエーションを体験できることになるとは思ってませんでしたもの♪ イベントCGもきっとありますわよね」
「いやぁ、そんなこと言われてもなぁ……」
「あまり嬉しそうではありませんわね、エヌラス」
「そりゃあ、ゲームみたいと言われたらそうなるさ」
「わたくしとしたことが……ごめんなさい。最近攻略中のゲームに、とても似たシーンだったもので」
「そうか。でも、ベールの楽しそうな顔見れて俺も嬉しいな」
徐々にカジノ都市の本性が見えつつある。人通りが増えてきて、エヌラスが時間を確認すると空から大魔導師が降ってきた。街灯を足場にして、ワンクッションを挟んでから目の前に着地する。
「どわぁ!? 驚かせるなよ、大魔導師」
「勝手に驚いたのはお前だろう。着替えたのか」
「まぁ、ちょっとした息抜きで……」
「……」
「なんだよ、なんか言いたげだな」
「似合ってるぞ。そちらもな。さながら令嬢のお忍びデートのようだ」
「まぁ、嬉しいですわ」
そう言ってもらえるのなら、お互いの服を選んだ甲斐がある。大魔導師がエヌラスに差し出したのは、ホテルのチケットだった。どうやら今夜はそこに泊まれということらしい。
「さて、仕事の話をしてきたわけだが──少々面倒なことになっている」
「というと?」
「拠点がもぬけの殻だそうだ。腹が立ったから更地にして警告代わりにしておいた、逃げ回るようならこのカジノ都市がどうなるかわからんぞ、とな。ははは」
「ははは、じゃねぇ! 沈めるなって言われただろうが!」
「沈めはしない、更地になるだけだ」
そこに何の違いも──いや大違いだわふざけろ大魔導師。エヌラスは早急に残党が発見されるのを願いつつも、先にホテルのチェックインを済ませようと足を向けて、呼び止められる。
「今度は、なんだよ?」
「受付で服も受け取っておけ、仕事の時は着替えてこいよ」
「わかった。それじゃ、また後でな。師匠」
「私はもうしばらく街を見て回る。のんびりしてこい。お前が来る頃には一匹残らず駆除しておいてやる」
不穏な一言を残しながら、大魔導師は再び街灯を足場にしてビルを飛び越えて去っていった。どっちが吸血鬼だかわかったものではない。ともあれ、ベールと共にホテルへ向かった。
予約されていたホテルの受付で仕事着を受け取り、鍵を持って番号通りの部屋へと入る。
ツインベッドの寝室は照明を挟んでおり、シャワールームを覗いてみると二人で入っても充分な余裕がある広さだった。きちんとマットも敷かれている辺り、顧客層の質の高さと行き届いたサービスが感じられる。
ベールは荷物を置いて、室内をなにやら物色していた。特にベッドの枕元を。
「おかしいですわね……わたくしの予想では……置いてありませんわ……?」
「なにしてるんだ、ベール……」
「コンドームを探しているのですが、見つからなくて」
「わざわざ探すなぁ!!」
「いけませんの!? ノワールとは空っぽになるまで朝までヤッてたではありませんか! ズルいですわ、ぷんぷん」
「くっそぉ、ぷんすか怒るのが可愛いだけに何も言い返せねぇ……!」
ベッドに四つん這いになってお尻を振るベールの誘惑に、エヌラスは顔を背けた。大体にして大魔導師が選ぶホテルだ、そんな気遣いまでしてくれるはずが──。
視線の先。備え付けの机の引き出しを見て、なんとなく開けてみる。山のような大人のオモチャを見て即座に閉めた。多分、コンドームもある。
「ふぅ……ダメですわ。ベッド周りにはないですね。エヌラス、そちらは?」
「なにもなかった。というか探さなくても」
「生も良いですけれど……この後のお仕事を考えると、処理も考えて」
「ちょっと待て。今使うのか?」
「あら、いけませんか? 一回くらいは」
「いやぁ、それはちょっと……別にホテルに戻ってきてからでもいいじゃねぇか……」
「わたくし、おあずけされてばかりですわよ」
絶対にこの机の引き出しはベールには見せられない。もし見られてしまったらその時は……仕事どころではない。
「ま、まぁとにかくだ。お楽しみは後に取っておこう。な?」
「では、まずは仕事衣装に着替えてサイズを合わせてみますわ」
「俺もそうするか……」
あのクソ師匠、後で覚えてろ。そういえば昼に頭蓋骨粉砕されそうになったお礼もしていない。仕返しに何をしてやろうか──そんなことを考えながら、エヌラスはベールに背中を向けてワイシャツのボタンを外し始めた。しかし、それがいけなかった。
ベールが忍び足でエヌラスが開けた引き出しの中を覗き込み、顔を赤くする。
(こ、これはまさしく大人のオモチャ箱! 流石は、本場のアダルトゲイムギョウ界ですわね……この豊富なラインナップ……! 今夜が楽しみですわ♡)
気付かれないように服を脱ぎ、ベールもまた、大魔導師が用意した仕事着へと袖を通し始めた。
「てっきりバニーガールかと思いましたけど……わたくしの服、ディーラーですのね。んっ、胸元がキツイですわ」
「お前のバニーガール姿は本当に刺激が強いと思うぞ……」
「想像しましたの? わたくしのバニーガール姿。際どいハイレグに、こぼれそうなおっぱい♪ てっきり見たいものかと……」
「超見てぇけどな、仕事だからな。俺はこれでも仕事とプライベートは別けてる人種だからな!? 多分誰も知らんだろうけど! だから俺の劣情を煽るな!」
「だってわたくし、ムラムラしてるんですもの!」
「それを言ったらお前のせいで俺もだよ!」
「また、ヌイてさしあげますわよ?」
「ぐ、ぬぬ……!! むむむ……ぬぅぅぅぅ……!!」
悩んだ。悩んで、悩み抜いて、ひたすら悩んで、苦悶の声をあげてエヌラスが必死に悩み苦しみ考え込んだ結果、その結論は──ノー、だった。
「残念ですわ」
「お前がそういうことを言って、どうしてもそうしたいって言うなら俺にも考えがある」