超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ユノスダスに降り立ったブランは、改修工事の最中の教会を見渡す。すると、すぐにユウコが駆け寄ってきた。
予定していた時間よりもだいぶ早い。というのも、ブランもスケジュールの都合で忙しかったため計画を前倒しにしたからだ。
「おはよう、ユウコ」
「おはよー……」
「なんだか眠そうね、どうしたの?」
「いやー、ね。大魔導師の野郎がカジノ都市であれやこれやとやったせいで色々と仕事が増えて。ちょっと徹夜で立て込んでるの……あーはは、ごめんね」
「わたしこそ。無理を言ったみたいでごめんなさい」
「ブランちゃんは気にしなくていーよ。ホテルのスタッフから連絡聞いた限りじゃこっち戻ってきてるみたいだし、べるちゃんと交代してあげて」
「ええ。そうさせてもらうわ。それと、これ……つまらないものだけど、良かったら」
ブランから差し出されたルウィーの人形焼を受け取り、ユウコはお礼を言ってから駆け寄ってきた教会職員と連絡を取り合い、指示を出している。昼夜問わず多忙なようで、見習わなくてはとも思う。
「それじゃあ、長居しても悪いみたいだし。わたしは行くわ。時間があったら、また話しましょ」
「うーん、ごめんねー。お茶も出さないで」
「気にしなくていいわ……」
教会を後にして、ブランはひとりで街の中を歩く。朝方ということもあり、まだ人気は少ない。店の開店準備に追われる店員が軒先で掃除をしているくらいだ。
その中に、見覚えのある顔があった。不機嫌そうにキセルを咥えた白スーツの男性。片羽の装飾をあしらったネクタイに、赤いワイシャツ。ジャケットを肩に羽織っていた。
「ドラグレイス」
「……ん? なんだ」
「おはよう。珍しい顔に会ったと思っただけよ」
「こちらこそ。別次元の女神に挨拶されるとは思っていなかった」
何をしているのかと聞けば、頼まれごとで足を運んできたらしい。朝からご苦労なことだ。軽食を済ませて、今は食後の散歩をしている。キセルから紫煙をくゆらせていた。
「それで? お前はどうした」
「エヌラスの監視よ、外交も兼ねて」
「大層なことだ。俺には関係のない話だがな」
名前を出されただけで不機嫌そうにドラグレイスは鼻を鳴らす。
「エヌラスのことを毛嫌いしてるのね」
「俺の勝手な事情と一身上の都合だ、関係ないだろう」
「ええ。そうね……それじゃ」
「それではな」
片手を振ってドラグレイスは猫背気味に歩き始めた。その風体も体格もあってか、人々は避けるようにしている。しかし、すれ違いざまにブランは消毒液の臭いに顔をしかめた。
寄り道をせずにまっすぐエヌラスが監禁──もとい、宿泊している家屋へと向かう。インターホンを鳴らしてみるが、開けられる気配はなかった。だが、なにやら慌ただしい音が聞こえてくる。バタバタと急いで準備をしているような、一悶着あるような……。
ドアが開けられると、そこにはスーツを着崩したエヌラスが汗だくになっていた。
「ど、どちらさま?」
「わたしよ……おはよ、エヌラス」
「ブラン。来るの早かったな、ちょっと待っててくれるか」
「……ベールは?」
「あーはは、ベールは今ちょっと……バカ、お前やめ──!」
エヌラスが振り返り、肩に頭を乗せる形でベールが身を乗り出す。裸に見えたが、ちゃんと服を着ているようだ。ただ、ブランの目が座っている。
「あら、ブラン。だいぶお早い到着ですのね。そんなに待ちきれなかったのですか?」
「バカを言わないでちょうだい。スケジュールを調整したのよ。ベールこそ、なによその格好は」
「お気づきになりました? うふふ、ご覧の通り。バニーガール、ですわ」
「……朝からお盛んね。わたしはお邪魔だったかしら」
「むしろ助けてくれ」
珍しくエヌラスが弱気だ。だが、ベールは背中にのしかかって胸を押しつけている。
「もう少しだけ、良いではありませんか♪ ささ、ブランもお入りになって」
「わたしは朝からそんなことが出来るほど元気じゃないわよ」
「あら、では夜にお二人で……?」
「バカなこと言ってないで、早く着替えてリーンボックスに戻りなさいよ……そういう約束だったでしょう?」
「はぁ……仕方ありませんわね。うさちゃんプレイはまた今度のお楽しみにしておきますわ。ではわたくしはシャワーを浴びてきますね♪」
ベールが浴室に居なくなってから、エヌラスはブランをリビングに招いた。コーヒーを淹れて、ついでに朝食も用意する。とはいっても買い置きしていたサンドイッチだが。
ソファーに腰を下ろすなり、深々と溜息をついて目頭を押さえ、こめかみもマッサージするエヌラスは疲労困憊といった様子だ。
「だいぶお疲れみたいね……」
「ベールが寝かせてくれなくてな……」
「だいぶお盛んみたいね……」
「なんていうか、タガが外れたみたいに積極的でな……」
「……ベールも必死ね」
「なんか言ったか?」
「なんでもないわ……それより、カジノ都市で何かあったみたいだけど」
「ああ、それは解決してる。気にしなくていい」
サンドイッチを食べながら、コーヒーで流し込む。
「それにしても、早めに来てくれて助かった……」
「大変そうね」
「ベールの実験台にされててな……休ませてくれなかったんだよ……」
「それは、なんというか……おつかれさま」
ご愁傷様、と言ったほうがいいだろうか?
「シャワー、いただきましたわ。スッキリいたしました♪」
「そりゃあお前、あんだけヤれば……ぶっほぅ!?」
バスタオル一枚で出てきたベールに、エヌラスが盛大にブラックコーヒーをスプラッシュした。その反応を見てイタズラが成功した子供のように無邪気な笑みを見せて、ベールは胸を揺らす。ブランが舌打ちした。
「まぁ、エヌラスったら。昨夜はあ~んなに、わたくしのオッパイを好きにしていたというのに」
「チッ……朝からたゆんたゆんと鬱陶しい肉だな……!」
「服を! 着ろ! むやみに肌を晒さないでくれ」
「いいではありませんか。わたくしと貴方の仲ですもの、ささ。たぁんとご覧になりまして?」
「そういうのは二人きりの時にしろ!」
「そんなに怒らなくてもいいですのに……しょんぼりですわ……」
エヌラスに怒られてベールは肩を落とし、脱衣場へ戻っていく。
「あんな調子なの?」
「ずっとな……」
「まぁ仕方ないんじゃないかしら。ベールには妹がいないから、誰かに甘えたがるのも分かる気がするわ」
「節度を持って欲しい……」
あんなダイナマイトセクシーな身体に一晩中寄り添われれば頭もおかしくなろう。男の理性を弄んで楽しいか。最初こそ肉欲に溺れた濃厚な絡み合いをしていたが、疲労感からくる眠気とスケジュールと諸々の都合もお構いなしにベールは迫ってきた。どこにそんな体力があるのかと。ゲーム廃人の女神は流石に桁が違った。
「俺も歳かね。体力が持たないってのは……」
「あなたの場合、歳というよりはこれまでの無茶が回ってきただけでしょう? 今日はゆっくりしましょ」
「ほんとブランで助かった……ネプテューヌだったら──」
間違いなく、こちらの都合など考えずにベールと悪ノリするか無遠慮に振り回すかのどちらか。それを見越した采配かはともかく、エヌラスはユウコに感謝した。
「考えるのは止そう、頭痛くなってきた……」
「ベールにも困ったものね。あなたのことを考えずに自分勝手なところはネプテューヌにも言えるけれど、その点わたしは安心してほしいわ」
「ああ、信じてるからな……」
「任せて」
いつものプリンセスドレスに着替え終えたベールが脱衣場からリビングに戻ってくる。エヌラスが飲みかけていたブラックコーヒーを横から手を伸ばし、自分の口に含んだ。
「……♪」
「飲みたかったら用意したのにな」
「いいではありませんか。朝チュンとモーニングコーヒーもセットで楽しませてくださいませ」
「はいはい、イチャイチャするのはそこまでよ。あなたのせいでエヌラスがお疲れみたいだから、後はわたしに任せてもらえる?」
「わたくしをそこまで邪険にしなくてもいいではありませんか。ねぇ、エヌラス。そうは思いませんこと?」
首に手を回し、頭を擦り寄せてくるベールが胸を押しつける。しかし、エヌラスの表情はあまり浮かなかった。それでもリラックスはしているらしい。
「うぁ~だめになるぅ~……」
「プルルートみたいなことを言わないの。ベールも離れなさい……しっしっ」
ブランが二人を引き離し、エヌラスの膝の上に陣取る。ベールはむくれるが、降参した。荷物をまとめるが、思い出したように振り返る。
「ではエヌラス。リーンボックスに来た際は、二人きりで──♪」
「……今度な、今度」
力なく手を振って見送り、リビングに静けさが取り戻された。
サンドイッチの袋とコップを片付けて、ソファーに横になる。だがすぐにブランに起こされた。
「そこで寝ないの、みっともないでしょ。寝るならちゃんとベッドで寝なきゃ」
「ああ……そうだな──」
ベッド……? 階段を上がるブランに、脱力しきったエヌラスが跳ね起きる。今はマズイ。ものすごくマズイ。だが、気づいた時には手遅れだった。
慌てて後を追いかけようとしてテーブルに足をぶつけ、階段を踏み外し、手すりをなんとか掴んで二階に上がるが、既にブランは寝室の扉を開けて立ち尽くしている。
「………………」
「…………掃除、まだしてなかったんだ」
「その、ええっと……ごめんなさい……」
「いや……俺の方こそ……」
──あの後、ホテルではシャワールームだけでなくベッドでも情事は続いた。前も後ろも、上も下もベールの肢体を堪能して夜明けと同じくらいに戻ってきた。しかし、そこでもベールに無理矢理ベッドに押し倒されて、汗ばんだ身体を重ねていた。当然、着替えも後始末もそのままで。
シミの出来たシーツ。丸められたティッシュが山のよう。乱れたベッドに、空のコンドーム。室内の蒸し蒸しとした空気が鼻から脳を揺さぶる。思わずブランが袖口で顔を覆った。不快さからではない、自分までそんな気分にさせられては堪った物ではない。
ブランが頬を赤らめながら、睨んでくる。
「……がんばりすぎ」
「返す言葉もございません……」
「ノワールとも、エッチなことしてたのかしら……どうなの?」
「……してました……」
「……呆れるわね、ベールにもあなたにも」
「今回に限って言えば俺は被害者側だと主張したい」
「じゃあ、さっきのバニースーツは?」
「嘘言ったわ、ごめん」
脇腹をブランに殴られて、エヌラスが悶絶した。
結局、二人でなんとか掃除と洗濯をしてリビングでくつろぐこととなったものの……ブランは頬を膨らませている。何も言わずに隣に座り、肩をくっつけていた。
エヌラスは天井を仰いで身体から力を抜いてリラックスしている。一緒に疲労感も抜け落ちていくようだった。
「……すんすん」
「な、なんだブラン? 臭いなんか嗅いで……」
「エヌラス、あなたまだシャワー浴びてないでしょ……」
「……汗臭いか?」
「それだけ、じゃないから……早く身体を洗ってきてもらえないかしら……隣にいるだけで頭痺れてきちゃうわ」
「わかった、今すぐ行ってくる!」