超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――いずれ“コレ”と、戦わなければならないのだ。それが、ノワールの背中を寒くさせた。
エヌラスも十分メチャクチャだと思っていたが、アルシュベイトはその上をいく。
“コレと、決闘だなんて馬鹿げてるわよ……”
ムルフェストもさすがに苦い顔をしていた。アヴェンジャーは完全に機能を停止している。鏡のように綺麗な断面部からムルフェストの血が溢れていく――それは、意思を持って動き出した。
不定形の液体は徐々に形を成していき、やがてフォートクラブの形となる。鋼の骸より抜け落ちた超常の生命は、憎悪に駆り立てられていた。
『――ス、ロス――コワ、ス――』
「ふん、もういいよ。興醒めだよ、ふて寝するもん! しーらない! じゃ、後始末頑張って」
遂にはムルフェストでさえも匙を投げる。付き合いきれないとでも言いたげに血風の中へと身を翻して消え去った。
残されたのは、フォートクラブの群れ。そして、復讐者の怨念。司令塔を失った途端に、挙動が怪しくなる。今までは統率した動きでエヌラス達に襲いかかっていたが、突然野に放されて混乱状態に陥っていた。
『……ガ、エ――シタガエ』
より純粋に魔力を扱う形となったアヴェンジャーがムルフェストより譲り受けた瘴気を噴出させてフォートクラブ達の装甲の隙間から内部を侵食していく。それはやがて、駆動系から組み込まれている人工知能を侵し、自らの指揮下に加えていった。最初こそ挙動が固かったものの、すげ替えられた司令に従い始める。
アルシュベイトに向けて殺到しようとしていたフォートクラブ達がエヌラスとノワール、ドラグレイスによって蹴散らされた。それに手間取っているうちにアヴェンジャーがユノスダスへ向けて移動を始める。
「くそ、アルシュベイト! 手を貸せ!」
《すまんが動けん! 先の一撃で駆動系がイカれた!》
「早く直せ!」
《やっている! エヌラス、頼めるか――》
「ノワール、此処は任せた!」
「え、えぇ!? そんな身勝手……って、今更よね。いいわ、やってあげるわよ!」
引き止める間もなくエヌラスは既にハンティングホラーを召喚して走りだしていた。
ノワールはシェアクリスタルを展開して変身する――その実感に改めて驚きながら、女神ブラックハートは大剣を振るってフォートクラブを両断した。
「まったく、もう。本当、勝手に突っ走るんだから、後で覚えておきなさいよエヌラス!」
《うむ。上出来だ》
「しかしヤることはしっかりヤってるのは本当だったようだな」
「う、うるさいわよアナタ達!?」
《修復完了だ、ぬぅんッ!》
最低限の破損箇所を自動修復プログラムで治したアルシュベイトが復帰する。長刀を地面から抜き放ち、感覚を確かめるようにフォートクラブを横薙ぎに吹き飛ばした。
《肩慣らしにもならん! 朝のラジオ体操よりもな!》
「するのか、ラジオ体操……」
「するの? 機械の身体で……」
《……してはならんのか?》
不思議そうに首を傾げるアルシュベイトを余所に、ノワール=ブラックハートはフォートクラブを翻弄するように飛びながら大剣で沈黙させていく――。余談だが、各関節の稼動チェックの一環としてアゴウではラジオ体操が運動メニューに組み込まれている。
一連の騒動はユノスダスでも確認していた。ネプテューヌ達が途方に暮れながら街を歩いているとユウコが空から落ちてくる。だが華麗に着地すると、三人に会釈する。
「わっしょい。どうしたの三人共? エヌラスについて行かなかったの?」
「それがぁ~……」
「エヌラス、なんか怒ってたんだよねー」
「置いていかれちゃいました」
「あー……そういうところあるからねぇアイツ」
うんうんと我が身のように頷くユウコ。
「なんかごめんね、面倒なことになってて」
「いえ、ユウコさんが謝ることじゃないですよ」
「そうそう。エヌラスのせいだから私達は気にしてないよー。それよりも、なんで肝心なことは何一つ話さないのかなぁエヌラスは。おかげでこっちも大変なのに」
「聞きたいことも沢山ありますし……」
「積もる話は、あの三馬鹿が戻ってきてからだね」
「さ、三馬鹿……」
最強と破壊神と傭兵の三人をまとめて馬鹿呼ばわりされて許されるのはユウコただ一人だ。腰に手を当てて笑うと、トレードマークと言える八重歯が覗く。
「うん、三馬鹿! ドラグレイスは融通効かないし、アルシュベイトは戦闘以外であまり役に立たないし――エヌラスは来る度に問題起こして私があっちこっち後始末に駆り出されるし。そのくせ自分は素知らぬ顔で「だからなんだよ?」みたいな態度だし。もー、腹立つ! 以前なんて人がご飯作ってあげたのに黙々と食べてたんだよ! 美味しいとかなんか一言あってもいいのにさー! あ~思い出すだけでも腹立つ~、人がどれだけ頑張って作ったと思ってんだあんにゃろめー! ムキー!」
「…………」
「…………」
「え、えっと……ユウコさん?」
「――へっ? え、あー……今の話、忘れて!」
「なんかやけにエヌラスだけ具体的に言ってたけど……もしかしてエヌラスのこと好きなの?」
「好――好き、ってわけじゃないよぉ!?」
声が裏返っていた。慌てて顔を赤くしながら否定するが説得力はない。
「だってさ、ほらアイツって甲斐性なしなところあるじゃん!? 度し難いクズじゃん! 戦闘行為禁止って言ってるのに平気な顔で町の中で銃ぶっ放すし! 食生活なんてグッダグダだし生活リズムなんてクソみたいに不安定だし、不器用なくせに人のこと気遣うし! も、もーなんだって感じだよねぇあの野郎、あははははは……――」
「じー……」
「じ~……」
「じと~……」
「あははは……はは……あの、えっと……え、ええい何見てんだコンチキショー! 見るなー、私をみるなー! みゃー!」
真っ赤になりながらユウコがフライパンで自分の顔を隠す。隠しても隠し切れないボロが駄々漏れである。あまりの恥ずかしさに涙目になっていた。
「……でも。アイツさ、誰かを守るってことだけは本気なんだよね……」
「そうなの?」
「うん。自分のことなんて簡単に投げ出して、命懸けで助けに来てくれる。そこだけは、本当に、本っ当にそこだけは、信頼してる――」
と、その時だ。ユノスダスの城壁が崩れた。魔導生命体と化したフォートクラブ、アヴェンジャーが咆哮する。その頭頂部からはワイヤーカッターを八基、まるで触手のようにくねらせながら。その姿はもはや蟹というよりも蜘蛛のようだ。その足元を抜けて立ちはだかるのは、血を滴らせながらレイジング・ブルマキシカスタムの引き金を引くエヌラス。
マグナム弾は血液の凝固体であるアヴェンジャーの身体を突き抜ける、だがそこに一切のダメージは見られない。物理攻撃は無駄だろう。アレは魔法で倒す他にない。
人々が悲鳴を上げて逃げ惑う、そこにユウコはどこからかメガホンを手にして大きく息を吸い込んで高い所から声を張り上げた。
『コラー、勝手に逃げるな市民諸君! 避難場所はあっち! 走っていいけど押さない喋らない! キビキビ動く、はいそこ! お年寄りには手を貸してあげなさい! 大人は子供の面倒見る、抱えて走れー!』
あらぬ方向に走り去ろうとしていた人々だったが、ユウコの避難誘導に従って商店街方面の大橋に向かう。それとは逆に、ネプテューヌ達はエヌラスの元へ駆け出した。
「エヌラス、大丈夫!?」
「見りゃ分かんだろうがピンピンしてる!」
「ビンビンの間違いじゃなくて!」
「テメェあとで素っ裸にひん剥くからな覚悟しとけよネプテューヌ!」
「まさかの事案発生!?」
冗談を言っている場合ではないのは一目瞭然だ。口端からも血が垂れている。服も黒いせいか目立たないが、ドス黒いシミが斑点のように出来ていた。アヴェンジャーが新手を確認して、両手のハサミを向ける。
「避けろ!」
『コロォォォォス!』
六連装レーザーランチャーは見る影もない。だが、それは魔法の追尾弾を発射する魔法陣を浮かび上がらせて赤い軌跡を描きながらネプテューヌ達に襲いかかった。なんとか防ぐネプテューヌだったが、エヌラスは防御を仕損じて地面を転がる。
「エヌラス!?」
「――ッ」
倭刀を握る手が震えていた。血が足りなくなってきている。指先の感覚が薄れていた――だが、それでも立ち上がる。拳を地面に打ち付けて、身体を押し上げ、幽鬼の如く形相でアヴェンジャーを睨む。銃を撃つだけの力はない。だが、手に馴染んだ倭刀を構える。
八基のワイヤーカッターが打ち据えられる。先端部は音速を超えて不規則な軌道を描いて地面を爆砕した。その破片に身体を殴打されても、エヌラスは気にも留めない。ネプテューヌとネプギアが取り付いて剣を振るうも、まるで水を殴ったかのような手応えに歯が立たない。それを鬱陶しく思ったのか、アヴェンジャーが口を開いた。
魔砲陣――『
「ハンティングホラー!」
建物に叩きつけられそうになるネプギアを辛うじてハンティングホラーが救助する。ネプテューヌの身体を、エヌラスはアクセル・ストライクで自分を撃ちだしながら抱き留めて庇った。
べったりとした血糊に、背筋が凍る。
「――は、クソ……手間かけさせんじゃ、ねぇ……!」
「エヌ、ラス……」
「んだよその情けない顔は。そう簡単にくたばらねぇから心配すんな。
そんなはずがない。とうに失血死してもおかしくない量の血が出ている。真っ赤に染まった自分の手を見て、服を見て、それが全てエヌラスの血だ。ネプテューヌを庇って、さらに傷が開いている。ボタボタと血を垂らしながら、それを振り払ってアヴェンジャーに向かって歩む背中。
六連装魔法陣が、ワイヤーカッターが、魔砲陣が、エヌラス=ブラッドソウルを叩きのめす。それでも、折れない。砕けない。“
「なぁおい、どっちでもいいから魔法使えねぇか?」
「か、回復魔法ならできます」
「必要なのは回復じゃなくて攻撃魔法なんだよなぁ……」
「回復の方が必要だよ! そんな怪我してたんじゃ死んじゃうって!」
「で?」
「……で? って――そんな他人事みたいに」
「だから、どうした。それがなんだよ、ネプテューヌ。手前の命を後生大事にして、守れるもんがなんかあんのか? 俺は“その程度”で守れるもん、守る価値すらねぇと思うがな」
エヌラス=ブラッドソウルが血を拭いながら笑った。狂気を秘めた猛獣の笑み。
「命懸けだから、面白いんじゃねぇか。命懸けで守れるからこそ、価値がある。俺のようなクソみてぇな野郎でもそれぐれぇ出来る。度し難いクズと呼ばれようがなんだろうが、俺は“諦めねぇ”ぞ――お前らとは、何が何でも笑顔でお別れだ。ここまで来たらとことん付き合えよ、ねぶた祭」
「もうそれ名前とカスってすらないよ!?」
「間抜けな語感そっくりじゃねぇか」
ケッケッケと笑うエヌラス=ブラッドソウルだが、その表情に余裕がなかった。
「魔法――そうだ!」
ネプギアが思い出したようにポケットから宝玉を取り出す。その中では炎と氷が渦巻いている。マジェコンヌが拾ったと言っていた力――。
「エヌラスさん、これを」
「お前、どこでこれ――」
「私達の世界に落ちてたみたいですけど、多分エヌラスさんのだと思って持ってきたんです。使ってください!」
「――ありがとな、ネプギア」
ボロボロの手で、髪を撫でる。宝玉を受け取り、エヌラス=ブラッドソウルは握りしめてアヴェンジャーに歩み寄った。その隣に、プルルートが並ぶ。
「ん?」
「あたしもぉ、混ぜてほしいな~」
「頼りにしてるぜ、プルルート」
ピシッ――。
エヌラス=ブラッドソウルの手の中で宝玉がひび割れる。
――あの日、失った“能力”の一つだ。
「まずは、一つ」
宝玉が砕け散る。その中から溢れだした炎と氷が二重螺旋を描きながらエヌラス=ブラッドソウルの身体を焼きつくし、凍てつかせる。
「こんな
炎の獅子が、氷の翼竜がエヌラス=ブラッドソウルの手中に収まっていき、銃となって顕現する――深紅の
「こいつ喰らって平気な
深紅の自動式拳銃が爆ぜた。マズルフラッシュが爆炎の如く噴き出し、撃ち出された灼熱を纏う弾丸は再生しようとしていたアヴェンジャーの左顔面を消し炭にした。それは再生すら敵わないほど蒸発して、沸騰している。
『GGGGYYYYYY!!!』
奇怪な雄叫びを挙げながらワイヤーカッターが振り上げられ、それらがプルルート=アイリスハートの蛇腹剣で逃さず軌道を逸らされた。
「あらぁ、化け物のくせにいっちょまえな悲鳴あげるのね」
「風に乗りて疾走れ、イア・クタカ!」
白銀の回転式拳銃から装填数六発、全弾放たれた弾丸は冷気を纏い、空気を凍てつかせながらワイヤーカッターの基部を直撃する。着弾点から氷が広がり、それは完全に凍結して動きを止めた。凍りついた基部に向けて鞭となった剣を振るうと、それはあまりにも呆気なく落としたガラス細工のように砕け散って再生することはなかった。