超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ユノスダスの飲食街にたまには足を伸ばしてみる。時間が時間だけに中々客足が引いた様子はない。そこへ、見慣れた眼鏡の青年を見かけたので声を掛けた。
「珍しいな、お前がこっちの方に来てるのは」
「そうでもないよ? 夜はこっちで兼業してるし」
「なにをしているの?」
「簡単な集計作業。帳簿とかの管理はうちが一番だからね。二人はこれから食事かい?」
頷くと、ソラはタブレット端末を操作して画面をスクロールしていく。
「この時間帯なら、空いている店の席を予約できるけど。どうする? 候補ならいくつか」
「助かるわ」
「あんま敷居が高くない店で頼む」
「はいはい。それじゃ、程々なお店で。僕の名前出してくれれば悪いようにはされないと思うよ」
「俺の名前出したら相手がどんな顔するだろうな」
「ガタガタ震えて部屋の隅で命乞いするんじゃないかな?」
店の場所をD-Phoneに送ってもらい、エヌラスはそれを見ながら予約してもらった店を探す。ソラが予約してくれた場所は、ホテルの中にあるらしい。
ブランと一緒にエレベーターに乗り、飲食店の並ぶ階層で降りる。店を見つけて、エヌラスはソラの名前を出すとすぐに奥の席に案内された。窓際の一角、禁煙席なのはブランを気遣った結果であり、同時に喫煙を控えているエヌラスに対する心配りでもある。
──そういうところだぞクソメガネ。エヌラスはさりげない気遣いに感謝しながら、ウェイターから手渡されたメニュー表に視線を落とした。
周囲の利用客も、家族連れからカップルまで幅広い。他の客の顔が見えないようにパーテーションで仕切られている。
エヌラスは、とりあえず腹にたまりそうな料理を。ブランはまだメニューを見つめていた。
「決まったか?」
「もうちょっと待って」
「ゆっくり選んでくれ」
「……この、プレートメニューが気になるわ」
メニュー表をペラペラとめくり、組み合わせ自由なプレートのバリエーションにブランは悩んでいるようだった。
「もし食いきれなかったら俺が食うぞ?」
「じゃあ、そのときはお願いね」
エヌラスが片手を挙げてウェイターに注文をする。
程なくしてテーブルに並べられる料理の数を見て、ブランが目を白黒させていた。
ハンバーグステーキに始まり、シーザーサラダとハヤシライス。大盛りで。追加のステーキもジュウジュウと肉の焼ける音を立てながら運ばれてきた。それに比べれば、ブランの注文した料理は控えめだ。
「いただきまーす」
「……お金、大丈夫なの?」
「ああ。そりゃ問題ない」
最悪、大魔導師にツケる。ユウコが何かとコネを利かせてくれる上に、これまで受け取り損ねていた報酬も回してくれたおかげで使い切れない程のクレジットが手元にある。正直、使い道に困っていた。そのためここ数日でかなりの散財をしている。なお、ベールの服代に関する大魔導師への請求書は半ば嫌がらせだ。
エヌラスとブランは料理を一通り平らげて、しっかり支払いを済ませると店を後にする。夜のユノスダスともなれば否応なく、店のキャッチが増えていた。
ソラはそういった手合とは距離を置いてタブレットを操作している。
「紹介したお店、どうだった?」
「ああ。美味かった」
「それはよかった」
「……何してんだ、お前」
「悪質なキャッチのお店を片端からユウコに報告してる」
ユノスダスの品を落とす店に監査が入れば、即刻営業停止処分を食らうことになるだろう。ソラは治安維持にも一役買っていた。ブランもその手元を眺める。操作が早すぎて目で追いきれない。
「あなたは働き者ね」
「慣れた仕事ですし、これくらいは手伝っておかないと。仮にも出店させてもらってる身だし」
「正直、驚いているわ。電脳国家? には、行ったことがないのだけれど」
「特にすることないと思いますよ。人もいませんからね、退屈かと」
「ゆっくり本が読めそうで、わたしは良いと思うわ。機会があれば、寄らせてもらってもいいかしら?」
「その時は、図書館でも開放しておきますよ」
そこで、ふとブランが思いついた。
「ねぇ、調べ物は出来るかしら?」
「簡単なものなら」
「伝奇物の長編大作……えぇと、タイトルはなんだったかしら……アレの作者を知らない?」
「あーーーー………………知らない方が良いかと思います」
「どうして?」
ソラの顔色が一気に曇る。タブレットの端を指先で叩きながら視線を泳がせていた。
「まぁ、その、なんといいますか、えーと、非常に言いにくいことなので……」
「知ってるのに教えてくれないのは、意地が悪いと思うわ」
「……ゲフンゲフン、です」
「なに?」
「…………あの伝奇物書いたの、大魔導師です」
「────」
ブランが一瞬にして凍りついた。詳しく聞けば、余興で書き上げたものらしい。ただそれを出版するともなればとんでもない量の校正や編集作業が待っていた。出版が遅れているのはそういう理由かららしく、物語自体は完結しているらしい。
「マジかよ」
「ていうか、キミも知らなかったのか」
「知るわけないだろ、興味なかったし」
「それもそうか。いや、僕も一時期読んでたんだけどね。作者のことを知ってからは追いかけにくくて。ついでにいうとそれどころじゃなくなったし」
「はいはいさーせん、俺のせい俺のせい」
「本音を言うと、電子版が出ないから中々手元に置けないってのが理由」
「この近未来野郎め。本は質感だろうが」
「キミも変なところこだわるねぇ……」
帰宅してから、ブランがソファーに沈み込んでいた。見るからに落ち込んでいる。なんと声を掛けたらいいかエヌラスも悩んでいた。
「だ、だいじょうぶかブラン?」
「……大丈夫じゃないわ…………」
明らかに凹んでいる。ソファーのクッションを枕代わりにうつ伏せに寝転んでいた。白い足が眩しい。見えそうで見えないキャミソールの奥地……とまで視線を向けていたのを背中に移す。落胆の色を見せているのが雰囲気で分かる。
「ショックだわ……でも面白いのよね……何がいけないのかしら……」
「さ、さぁ……?」
「鼻で笑われたのがわかった気がするわ……」
「ほら、あの人頭どうかしてるし。ブランも女神の仕事で忙しいだろ?」
「それとこれとじゃ違うのよ」
「とりあえず、風呂に入って気分転換でもしようぜ。いつまでも落ち込んでたら気が滅入るぞ」
「ぐすん……そうね……」
エヌラスがジャケットを脱いでソファーに掛けておく。着替えを一通り用意してから脱衣場へ入り──ブランも一緒に入ってきていた。
「……何故にホワイ?」
「お風呂に入ろうって誘ったのはあなたでしょ」
「いや、それはその通りでまったくの弁解の余地がないわけだが……」
「背中流してあげるわよ?」
「ありがたく」
服を脱いで浴室へ。シャワーで身体を温めてから、バスタオルを巻いたブランが背中を流す。
ベールのようなイタズラもしてこないので、とても心穏やかな気分で背中を預けていた。
「ん、しょ……どうかしら」
「気持ちいいぞ。そのまま頼めるか?」
「ええ、任せてちょうだい」
「終わったら、次は俺の番だな」
「わたしの背中も流してくれるの? 変なことしないでよ……?」
「しないっての」
「……断言されると、それはそれでなんだか腹立たしいわ」
「俺にどうしろと!?」
理不尽な選択肢を押しつけられた気がする。
今度はエヌラスがブランの背中を流す。バスタオルを解いて、小さな背中を洗い流していく。
「……、ん」
「変な声出すなよー」
「だって、なんか……くすぐった、ぃっ」
「人に変なことするなと言っておきながら、変なことしたくなるような声出すなーブランー?」
「あ、あなたの手付きがいやらし……」
「俺なんもしてなくねぇ!?」
普通に洗っているだけだというのにこの始末。なんて言われようだ。エヌラスは一度手を離して首を傾げる。さて、そう言われてしまってはこちらもどうしたものか。
「優しく洗ってるつもりなんだけどなぁ……それがいけないのか?」
「……わからないけど」
「そいっ」
「ッ!?」
ならば、と。エヌラスがブランの背筋を指先でなぞった。身体を跳ねさせて反応を見せた姿に、これはまさか──?
「ブラン、もしかして背中弱かったりするのか?」
「し、知らないわ……」
「ふむ……ならもうちょっと……」
「ん、ひゃ……やめ、くすぐった……!」
背筋をなぞり、肩に触れて撫でていく。そのまま脇腹を軽く掴んでみると、細い腰が跳ねた。身体を丸めて離れようとするので、エヌラスはブランの身体を引き寄せる。小さな体はあっという間に抱き抱えられてしまっていた。
頬を赤らめて、口元を押さえて視線を逸らす。
「……へんなこと、しないって言ってたじゃない」
「別に変なことしてないだろ? 身体を洗ってるだけだ」
「そう、だけど……」
「だから別に何の問題もない。変なところも触ってない。俺は悪くない」
「うぅ……」
「な・の・で──このままブランを丸洗いする」
「ま、丸洗いって、んひゃう!?」
スポンジ片手にブランの全身を弄るように撫でていく。背中は一通り終わったので、今度は腕。肩から指先に向けて。次は反対側。お腹も洗い、太ももからつま先までまんべんなく。小振りなおしりも一緒に洗い、胸も容赦なく洗っていく。
途中から抵抗していたブランが弱々しくなり、ひとしきり全身を洗い終えた現在はすっかり力が抜けた様子で息を乱れさせていた。シャワーで全身の泡を流していく。
「よしっ」
「よし、じゃ……ないわよ……! なにをするの……!?」
「気持ちよかったか?」
「あ、え──その、気持ちよかった、けど……そういうことじゃ」
「ならよかった」
「むぅ~……わたしだけっていうのは、不平等よね」
「どわっ」
ブランの細腕に掴まれ、エヌラスの身体がマットに押し倒される。馬乗りになるブランの手にはスポンジが握られていた。新たに泡立てられて妖しく微笑むブランが胸板を洗い始める。
「そのまま、ジッとしていてちょうだい」
「お、おう……」
「……」
ゴシゴシ。ごしごし。ごし……。ブランの手が不意に止まった。
「どうした?」
「~~、恥ずかしくなってきたわ……」
「なんでだよ」
「だって、この体勢──思い出しそうで」
「……やめような?」
「わたしじゃダメなの?」
「ブラン」
「?」
「休 ま せ ろ」
こうも連日節操なしにイベント盛りだくさんではこちらの精神が保たない。
必死な説得の甲斐あってか、ブランは身を引いてくれた。こういうところは他の女神と違って助かる。だが、引き換えに一緒のベッドで眠ることになった。頭脳派プレーには頭が下がる。