超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ユノスダス教会の朝は早い。ユウコは身体を伸ばし、昨夜のうちにまとめていた資料を広げて目を通す。書類不備なし、チェック良し。午前の分の仕事はこれで間に合うだろう。
お昼にはネプテューヌが来る予定だが、来客の一人や二人くらいどうってことはない。
問題はエヌラスだ。聞けば、やはりソラを巻き込んでいるらしい。やはり手元に置いておくにはあまり向いていないのかもしれない。むぅ、困る……。いや、何がどう困ると聞かれても答えに困るくらいには困る。うーん、困った。扱いに困る。
悩みながらも、着替えを済ませる。知り合いから譲ってもらったネコちゃんパジャマを脱いで、いつもの服。シャツ良し、上着良し、スカート良し。エプロン良し。オッケー。
おっと、髪留め忘れてた。今日はゆずのヘアピンで。バッチリオッケー。
「む~……! んっ、よし。がんばろー」
寝室を出て、鍵を閉める。戸締まりオッケー。書類を持って執務室へ。すれ違う職員達と挨拶を交わしながら労う。
執務室の扉を開けて、机に書類を置いて、引き出しから必要な資料を取り出して。仕事の用意を済ませてから食堂へ。
厨房に顔を覗かせて、一角を借りて朝食の用意。今日は和食の気分。サクッとパパっとお手軽に味噌汁と焼き魚と卵焼きとほかほかの白米。釜炊きが一番香り高いのだけれども本日は妥協。
料理に際限なく時間を使えるのなら一日中厨房に引きこもりたい。
生唾を飲み込んで物欲しそうにしている職員たちに笑顔で振る舞う。さぁたんと食べるが良い、そして今日も頑張ってくれ。私も頑張る。頑張りすぎないように頑張る。
「いただきまーす」
朝食を済ませてから、職員たちと情報共有。あれやこれやと昨夜のうちに起きた出来事やら仕事やら業務やらがてんてこ舞い。それはこっちで片付けるとして。
「御姫ちゃんから連絡あった?」
「はい。明日、来訪予定だそうです。本日は国務に集中するとのことで」
「ありがとう。じゃあ明日までにラステイションの件もまとめておかなきゃ」
今やユノスダスは、アダルトゲイムギョウ界だけでなくゲイムギョウ界との流通を一手に担う商業国家。次元を超えた商売とか初の試みな気がする。このプロジェクトは慎重にかつ大胆に計画を進めていかなければ。間違ってもどこぞの大魔導師とか、つるちゃんとか、大魔導師とかに渡すわけにはいかない。
充実したお仕事の時間。でも何か物足りない。はてなんだろなー。トラブルとか持ち込まれていない順調さが逆に怖い。うーん?
書類と向き合って片付けること一時間。一段落。次、昨夜のうちにソラから報告のあった悪質商店の監査。決して善意だけで成り立たないのは分かっているけれども、うちはそういうところじゃないので店を出したければ犯罪国家でどうぞ。自己責任で。儲かるだろうけど毎日が命懸けだ。ちょっと好奇心がそそられる。
そういえば今日はムルフェストが来ていない。最近はべるちゃんがお気に入りの様子だ。むぅ、この金髪巨乳仲間め。いや大きいと言えば私もそうだし、つるちゃんもサラシで押さえてるけれども相当なものだ。そういえばアイツは大きいのが嫌いじゃないと言っていた。うーん、男ってわかりやすい。いやそうではなくて──。
お茶の休憩を挟みながら、お仕事再開。べるちゃんから頂いた茶葉を嗜みつつ。うーん、香り高くも舌によく馴染む。良いものをいただいた。時間を確認して、まだ余裕がある。
……そういえば、この数日取っ替え引っ替えで女神様たちがアイツのことを監視しているがどうなのだろうか。仲は進展してるんだろうか。いや別に特に何か気にかけているわけでもないし別に誰かと仲良くなっても別に気にするほどでもないし別にぃ? 私がぁ? 気にかけるほどでもないですしぃ~? ただアイツがちょっとアレなアレでアレなわけだからまた人様に迷惑掛けてないかどうか気になるだけであって別に保護者面したいわけでもないんだけどなんか後ろめたいというかなんというか放っておいたら何しでかすかわからないから目を光らせておかなきゃいけないわけであって私は別に、っていうか別にって言いすぎじゃないかな私?
おっと、手が止まっていた。
監視、とは名目上のことだ。ゲイムギョウ界でも聞けばアイツは教会に無期懲役の服役囚。まぁそのアイディアは大魔導師だし、それに本人も異論無し。付け加えて、女神様達の世間体も守れるので一石二鳥。更には本人の抑止力にもなるので万々歳、win-winな関係。そうでありたいね、うんうん。良いことだ。
ぷるちゃん達の次元ではちょっと擁護出来ないくらいのことをしでかしてくれたけど。うちならなんとか面倒を見れる。犯罪国家は論外。無理。むしろあそこで真っ当に生きていけるのは聖人君子でも輪廻転生覚悟するレベル。上層都市なら可能性はなきにしもあらず。
アイツのことを考えると、どうしても手が止まる。仕事が手につかない。まとまらない思考にペンを止めて、眼鏡を外す。伊達だけど。
「……うーーん」
なんでだろう。胸の辺りがモヤモヤと。ヤキモチとかじゃない。うん、違うはず。みんなと仲良くしてくれるのは良いことだ。そのはずなのに──どうしてか、私の胸はちくりと痛む。寂しい、のかもしれない。腹が減ったらメシーと言ってきてくれるのは正直な話、嬉しい。それだけを理由に会いに来てくれるだけでも。いやこういうのはよくないな、うん。もうちょっと自分に厳しくいこう。
ご飯以外でも会いに来てくれたり頼りにしてくれると嬉しい──いや待って。これなんかダメじゃない? 私、もっとダメじゃないこれ? 落ち着こう、深呼吸。すーはー。うん、よし。
「……って、こんな時間じゃん」
あれやこれやと頭を悩ませていたら、時間が思いの外経っていた。慌てて書類を片付けていく。
なんとか、ねぷちゃんが来るまでに一段落つけることが出来た。これで安心。後はちゃんと出迎える用意をして。
そういえば昨日は何か慌ただしかった気がする。昨日? 一昨日? まぁいいや、忙しくて時間の感覚ずれてるし。一応電話だけでも入れておこう。
「……出るかなぁ」
コール音が鳴る。私の電話のルールは五回鳴らなければ切る。留守番電話サービスは使わない主義なのだ。
大抵の場合、四回目で出るか速攻で出る。五回目のコール音が鳴って、切ろうとしたその時にようやく通話が開始された。いやまさか出るとは思わなかった、失礼だけど。
《……もしもぉーし》
「うわ、くっそ眠そうだけど……」
《あー……ユウコか……わりぃ、今起きた……》
「その様子だと、そうだろうねー。おはよう、って時間でもないけど」
《……おはよう。なんか、お前と電話越しに言うのは変な気分だ》
「あー、はは。私も。今日はねぷちゃんが来る日だから、そろそろ支度しておいてね」
《んー……》
後ろから、モソモソと何か音が聞こえる。
「一応聞いておくけど、ブランちゃん一緒?」
《……本人の強い希望により、一緒のベッドで寝てます…………》
「そっか。添い寝?」
《俺が抱きまくらにされた……》
「いいなぁ……」
《抱き心地よくて……》
ブランちゃんが羨ましい。っていうか何をナチュラルに女神様と一緒に寝てるのかお前は。いやなんかそんな気はしてたけど。ズルいぞ女神様、ぷんすこ。
「いいからはよ起きて支度しなさい。二度寝するなよー?」
《しねぇよ……切るぞぉ……ほら、ブランも起きろ。いつまで抱きついてるつもりだ》
《……んぅ……もうちょっと……》
《おーきーろーよー。悪い、ユウコ。切るぞ》
「あはは。はいはい、ちゃんと顔も洗ってくるように」
通話終了。ねぼすけさんめ。電話越しにおはようなんて言われたのはいつ以来だろう。
「……ふへへ」
「失礼しまーす。国王様」
「ノックした?」
「あ、はい。しましたけれど……その、通話中だったようなので……」
気遣いありがとう。私、頬弛んでないよね? 大丈夫だよね。鏡でそれとなくチェック。よし大丈夫。
──ネプテューヌがユノスダス教会に降り立つ。隣にはアイエフが荷物を持って並んでいた。
ユウコの姿を見ると、二人が手を振る。
「やっほー、ユウコー!」
「こんにちわ。調子はどうですか?」
「やぁほー、ねぷちゃんにあいちゃん。てっきりぎあちゃんと一緒かと思ったけど」
「まぁ、それについては。女神が二人不在という状況は些かマズイということで、イストワール様が。それにアタシもこちらの次元には興味があったので、それと私用も含めて」
「あれー? エヌラスはまだ来てないの? ブランも」
「さっき電話したら、今起きたみたいでねー……お茶でも飲みながら待とうか」
三人で近況を話し合いながら応接室でお茶とお菓子を飲み食いしながらエヌラスの到着を待っていると、程なくしてバイクのエンジン音が聞こえてきた。すぐに扉がノックされる。
「ういーっす」
「挨拶、かるっ。君さぁもうちょっとあるじゃん?」
「いーだろが、お前とは電話で挨拶したし、これくらい軽くて」
「にゃんだとぅ? ねぼすけめこんにゃろう」
「いふぇふぇふぇ」
「もー、二人とも本当に仲良しなんだからぁ。ブラン、その荷物は?」
「ロムとラムにお土産よ。それとこっちは……わたしの趣味ね」
「書物ですか? 文庫本のようですけれど」
「面白いわよ。一巻だけなら貸してあげてもいいけれど」
「いいんですか? じゃあ、一冊だけお借りしますね」
エヌラスがユウコに頬を引っ張られ、ネプテューヌもそちらを茶化しつつ。アイエフはブランから一冊だけ本を借りた。
「それで、ブラン。どうだったの?」
「……? どうだった、って。なにかしら」
「やだなぁ~。それはもう、やっぱり」
「……バカなこと言わないでちょうだい。何も無いわよ。そうよね、エヌラス」
「そうだな、特に何も?」
「え~、ホントかなぁ?」
「はいはい、ねぷ子はそこまで。ブラン様もお忙しいでしょうし」
「ええ。今回は創作意欲が特に掻き立てられたわ……戻ったら早速まとめなきゃ」
「創作……? まぁ、意欲的な仕事への取り組みはネプ子にも見習わせたいところですね」
「それじゃ、二人に後は任せるわ」
ブランがゲイムギョウ界へと戻り、エヌラスとネプテューヌ、そしてアイエフとユウコの四人が残される。
「よーっし、それじゃ今日はわたしがエヌラスのことを穴が空くほど監視するんだからー!」
「凝視って言わないかそれ」
「バカなこと言ってないで、こっちでもちゃんとお仕事しなさいよ。一応、外交って名分なんだからね」
「アイエフは……まぁコレの監視か?」
「コレ!? コレ扱い!? プラネテューヌの女神を、コレ扱いってどんだけ不敬なの!? もーエヌラスってば相変わらずわたしの扱いに関しては雑オブ雑なザッツオーライなんだから。もうちょっとデリケートに扱ってくれないと、おこだよ!? 激おこだよ! 激おこ女神信仰ネプテューヌだよ!?」
「あっそ」
「三文字で流された!? ひどいと思わない、アイちゃん!」
「アタシは、まぁ例のフォートクラブとかの扱いで電脳国家国王に交渉よ。例のネットワークとかも諜報員として耳に入れておきたいし」
「あれー、わたし無視されてるー? いじめ、よくない!」
「うるさいわよ、ねぷ子。アナタそんな調子で本当にやってけるの? 今さらながら心配になってきたわ」
「えぇー……ユウコ~……」
「はいはい、よしよーし。ねぷちゃんは悪くない」
ネプテューヌの頭を撫でてユウコがエヌラスを睨みつけていた。もう少し優しく接してあげろと目で語ると、仕方無さそうに肩をすくめる。
「優しくしてあげなさい」
「お母さんかっつの」
「保護者みてーなものでしょー? ほら」
「はいはいへいへいほいほい、わーかーりーまーしーた。もうちょっとネプテューヌに優しくすればいいんだろ」
「あんまり甘やかすとつけあがるわよ、ねぷ子は」
「そん時はフォロー頼むわ、アイエフ」
「ええ。任せなさい。あれとの付き合いは長いつもりだから」
「うぅー、満を持してわたしの出番が来たのにエヌラスが冷たい……」
「まぁほら、ツンデレ? ってやつだと思うから」
「そういうのはノワールだけで十分だし、エヌラス基本的にデレてくれないじゃん!」
「ネプテューヌ、お前そういうところだぞ」
「ねぷ子。そういうところだと思うわ」
「え? なんで?」
だめだこりゃ。エヌラスとアイエフは顔を見合わせてから、深々と溜息をついた。