超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスとネプテューヌ、アイエフの三人でソラがいるであろう喫茶店へ向かう。まずは手短に片付けられそうな用件から。しかし、いつもの喫茶店の定位置にソラの姿はなかった。従業員に尋ねる。
「ああ、メガネ店長ですか? 本日はお休みです」
「どこに行ったとか、聞いてないか?」
「確か……今日はのんびり過ごす予定と仰ってたので、多分公園の方かと」
「わかった、ありがとな」
「いえいえ。ところで情報量でケーキお一ついかがです?」
ちくしょう、商売上手め。エヌラスはプリンとケーキを二人に奢ることにした。
従業員に言われたとおりに公園に向かうと、ベンチに座り込んでタブレットを操作しているソラの姿があった。声を掛ける。エヌラスの顔を見るなりげんなりとした表情を見せた。
「うわ、人の休日に何の用だよ……」
「こんにちは、電脳国家の国王様。今日はちょっと、アタシの私用です」
「丁寧なアイエフさんに免じておこう。なにか?」
「ネプテューヌ。アイツぶん殴っていいか?」
「なんでわたしに聞いちゃうの!? ダメに決まってるじゃん!? 仲良くしよーよ」
「ははは、グッドコミュニケーション」
「拳で語るコミュニティは勘弁なんだよなぁ……!!」
取っ組み合う二人に、アイエフが呆れている。なんというか、喧嘩するほど何とやら。
「話が進まないからそこらへんにしてもらえない?」
「チッ……」
「はい。それで、僕になんの用事ですか?」
「それなんだけど。フォートクラブを貸してもらった時はものすごく助かったわ。あれの制御も楽だったし、実際のところプラネテューヌで採用案が出てきてるのよね。なにせゲイムギョウ界一の技術力を誇る開発部とかあるし。ロボットとか、人工知能とかも他の国に比べて先進的だし」
「はぁ、なるほど」
「それで、今回の件を受けて是非とも通信技術とかの交流を深めたい。というのはプラネテューヌからの意向ね。アタシ個人としても、その無線技術はとても助かったし」
「なるほどなるほど。まぁ、そういうことでしたら交流の一環として引き受けますよ。今日が休日でなければ」
「悪いわね、せっかくのお休みだったのに」
「いえ。そういう丁寧な対応でしたら構いません。なぁエヌラス」
「知るか」
今のエヌラスは国王ですらない。職業神様だ。そのため、そんな小難しい政治の話とかされても全く知ったことではないのだが、ネプテューヌが首を傾げていた。全く話の内容を理解できていないようである。
「えーと、とりあえず。プラネテューヌの技術力は世界一ぃぃぃ、ってことでおk?」
「話の内容、理解できたか?」
「ううん、全然!」
「っていうかお前の国だろ。それをなんで女神であるネプテューヌが把握できていないんだよ」
「話したところで理解するわけないでしょ、ねぷ子だもの」
「ああ、そりゃそうか。ネプテューヌだもんな」
「あれー、なんかわたしさりげなくディスられてなーい……?」
ははは、まさかそんな。エヌラスがクレープ屋を見つけたので食べるかどうか尋ねると、ネプテューヌはあっという間に笑顔で頷いた。
「うん、食べる! 甘いものは別腹だもんね。プリン味とかない?」
「お前はどんだけプリン好きなんだよ」
「一日三食プリンでもいいくらい」
「栄養偏るぞ」
「えー、そんなのエヌラスに言われたくないよー」
「俺の食生活がどうだろうといいだろうが」
「よくないですよーだ。どうせなら一緒においしいもの食べたいじゃん」
「だからといって、俺まで三食プリンは勘弁してくれ」
エヌラスの手を引いてクレープ屋へ急ぐネプテューヌの姿を見送って、アイエフとソラは自然と頬が綻んでいた。
「平和ねー、こっちの次元も」
「ま、今だけですよ。これでも他のところは色々と準備を進めてるみたいなので」
「あら、そうなの?」
「かくいう僕もそうですけどね」
タブレットで操作しているのもインタースカイの仮想現実空間との情報交換だ。あちら側の住人と即時情報共有が出来るのは大きい。電脳空間の住人達が働いてくれているおかげでソラの持つ通信技術は破格の速度を誇る。それは、時には大魔導師の詠唱速度を上回るほどに。
現在は出来る限り通信速度の安定化と高速化をプログラミング中だ。次元間光速回線も改良中。携行火器の充実化も図っている。
「忙しいところ悪いわね」
「お気になさらず。今さらひとつふたつ無茶振りされたところで、別にどうも。アレのしてきた無茶に比べれば」
クレープ屋を前にして、いざ注文しようとする二人だったが、思いの外メニューが充実していた為にあれやこれやと悩んでいる。エヌラスがストロベリーを頼むとそれをからかったネプテューヌが頭を鷲掴みにされていた。
「さて。その件はまた後日、目処が立ちましたらいーすんさんに連絡しておきます」
「助かるわ。アタシからの用向きはそれだけね。休日をゆっくり楽しんでね」
「そうさせてもらいますよ。なので、エヌラスを僕に近づけないでください」
「努力するわ。それじゃあね」
手を振って二人の元へ駆け寄るアイエフが、ストロベリーのクレープを手渡されて困惑する。エヌラスはチョコレートを頼み、ネプテューヌはカスタード。さらにもう一つ。なんかドギづい色のクレープを持ってエヌラスがソラに差し出した。
「……なんだこれ」
「異色の新作、ドラゴンミラクルスターフルーツクリームらしいぞ」
「嫌がらせだよなぁ!?」
ちょっとでも奢りで喜んだ僕がバカだった──。そんなことを思いながらも一口食べて、ソラは心底理解できない味になんとも言えない絶妙な表情で青空を見上げた。
「いやーくっそ笑った」
「アンタね……」
「すごい顔してたよねー」
ソラはクレープを食べ終えた後に一言──二度と食わない。頭痛と吐き気と目眩と倦怠感に襲われた。
エヌラスはそれを見て腹を抱えて笑い、公園であわや戦闘しそうになったがアイエフの必死な説得によって難を逃れている。
「ちょっと食べてみたい気もしたけど、流石にあんな顔されたら……」
「でもちゃんと完食するところ、ほんとお人好しというかなんというか」
「自分で食いたいとはぜってぇ思わねぇけどな」
「それで。これからどうするの?」
実のことを言うと、まったくのノープラン。そのため二人が行きたいと思うところがあれば、案内するつもりだった。
「どこか行ってみたいところはあるか? 俺はどこでもいいが」
「こっちのゲームに触れられる場所とかあれば、わたしはそれがいいかな」
「はぁ……ねぷ子は遊ぶことしか頭に無さそうね。でもま、こっちも仕事は終わったようなものだし。せっかくだからアタシも羽を休めようかしら」
「んじゃ、ネプテューヌのご要望に応えてゲーム屋でも巡るか」
エヌラスが手を差し出すと、ネプテューヌがじっと見つめる。
「手、繋ぐの?」
「……せっかくだしな」
「んもー、エヌラスったらノワールに負けず劣らずのツンデレさんなんだからぁ。しょうがないにゃー。そこまで言うならねぷ子さんが手を繋いで──」
「やっぱアイエフでいい」
「わぁぁ冗談だから! 調子に乗ってごめんってばー!」
「その、やっぱって言われるのはなんか釈然としないわね……なんでかしら……。まぁ、ねぷ子も反省してるみたいだし、手を繋いであげたら?」
「ほんとすーぐ調子乗るなコイツ」
「ね? 言ったでしょ」
「うー、なんか二人がわたしのことをいじめて遊んでるみたいだなぁ……」
ゲーム屋を巡り、なにかめぼしいものがないか探す。とはいってもそれを遊ぶための本体が手元にないため、一緒に買う羽目になった。相当な出費だが、エヌラスは気前よく支払う。こういう時でないと使い道などないのだから。
その途中で、アイエフがマジックアイテムを取り扱う店を見つけた。興味を惹かれたようなので一緒に入る。
店内は鬱蒼とした雰囲気だったが、暗めの照明とそれらしい音楽を流して怪しげではあるもののエヌラスはそこが偽物の店だと一発で見抜いていた。本場本元本家を舐めるな。九龍アマルガムのマジックアイテム屋は店に入った客が行方不明になったりする。時々店員もいなくなる。それどころかそもそも人間ですらなかったりするし、翌日には忽然と店が消えていたりする。
これまでで一番ヤバかった店は、古本屋だ。路地裏の怪しい店に足を踏み入れて、店員がメガネを掛けた長身の美女だったまでは覚えているが顔も名前も覚えていない。どんな会話をしたのかさえ記憶が朧気である。
「へー……中々面白そうね」
「あはははは、なにこのガイコツ。なんかちょっとブサイクー」
「なに、それ? ふふっ、でも愛嬌があっていいと思うけど?」
ハンドメイドのスケルトンアクセサリーチャーム。微妙に骨格が歪んでたりするが、そこはご愛嬌というやつで。エヌラスも何か面白いものはないかと店内を見て回る。三流マジックアイテムが並ぶ店は、怪しげな雑貨屋のような風体でカップル客も多く来店していた。
恋愛成就から安産祈願、何から何まで手当たり次第に仕入れている。そういった占いとかは占星術が最も確率的には高いと大魔導師から教わったが、アンタの場合は星の位置をずらすからダメだ信用ならん。星辰とかどうこうを自分の意思で動かすな。
エヌラスが奇妙な三文アイテムを手にして物色していると、一冊の本を見つけた。レプリカもいいところ。魔導書らしい力が欠片も感じられない。
「あら、魔導書?」
「偽物だろうけどな」
「ちょっと読ませてもらえる?」
「お前に渡したやつに比べたら、よっぽど珍妙奇々怪々なやつだぞ」
アイエフがページを開く。アートギャラリーのようなものらしい。
「アダルトゲイムギョウ界クリーチャー大全集……」
「その一ってことは、これ続きもあるのか」
「なんで食レポも載ってるの?」
「俺が知るかよ」
「エヌラス以外にもモンスター食べる人っていたんだ……こわ、近寄らんとこ……」
「ネプテューヌ。俺はモンスターを調理しない。生だ」
「なおさら怖いんですけど!?」
おすすめ調理法とか書かれてるが、誰が実践するものか。そもそもにして料理スキルが死んでいる。だが、それはそれとして興味があるので購入することにした。アイエフとネプテューヌの表情がなぜか引きつっていたが、おそらく気の所為である。
買ってきたゲーム機を早速開けて、ソフトを入れてネプテューヌはクッションを敷いてテレビを点ける。帰ってくるなり行動が早い。
「おぉ~。なんだか新鮮な気分」
「遊ぶこととなると、ほんと動きが早いんだから」
「ま、今日はゆっくりしていけばいいだろ」
「そうね。そうさせてもらうわ」
アイエフも、コートをハンガーに掛けて腰を落ち着かせた。携帯を弄り始めている。どうやらコンパにメールを送っているらしい。それなら一緒に来ればよかったものの。
「本当は、ネプギアやコンパや、ミリオンアーサー達を連れて来ようと思ったんだけど……ノワール様達からの話じゃ、女神様だけって話だったから。アタシはその点、ちゃんと許可もらってたからいいんだけどね」
「色々あるだろうしな。あれからプラネテューヌは?」
「平和ねー。することないくらいよ」
「だからわたしがこうやってゲームしててもいいよね!」
「「それはない」」
「ひっどーい!」
見事にハモるエヌラスとアイエフの言葉に、ネプテューヌががっくりと肩を落としてみせた。だが起動したゲームを前にして意気揚々とコントローラを握っている。
「エヌラス、お菓子とジュース欲しいなー」
「テメェで持ってこい」
「えぇ~、ほらわたしって一応お客様なわけなんだからもてなしてくれてもいいじゃーん」
「お前女神とかじゃなかったら叩き出してるからな!? ちょっと待ってろ、買ってくる」
「やったー! あ、プリンもお願いねー」
「おんどりゃああっ!!」
ダッシュでコンビニへ。アイエフは呆れた様子でため息をついた。
「ちょっとねぷ子、いくらなんでもだらけすぎよ?」
「たまにはいいじゃんいいじゃーん」
「アンタの場合はいつも、の間違いでしょ」
「えー……わたしだってやる時はやるんだから!」
「はいはい。そうね、知ってるわよ。だけどあんまりエヌラスに迷惑かけないようにね」