超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
カチャカチャとコントローラのボタンを押す。アクションゲームならお手の物。ネプテューヌはゲームの特徴を掴んでスムーズな操作でステージを進めている。
「むむ~……とうっ!」
「あー、失敗したな」
「こなくそー!」
「ダメだな」
「むむむむ~……! てやぁ!! どうだぁ!」
「お見事。ほれ」
「あ~ん、もぐもぐ……」
胡座をかくエヌラスの膝にすっぽりと身体を預けて、ゲームに集中していた。口を開けて買ってきてもらったお菓子を食べる。手が汚れるからだ。すっかり甘えきっている姿には女神の威厳も何もない。アイエフも苦笑していた。
「二人とも、こっち向いて」
「? なんだ、アイエフ」
「どうしたの?」
「えいっ」
カメラのシャッター音。それから、画面を見て満足気に頷くとアイエフは二人に画面を見せる。
そこには、抱き抱えられたネプテューヌと珍しく気を緩めたエヌラスが映っていた。ブレもなく綺麗に撮れている。
「なぁに撮ってんだ」
「いいじゃない。ネプギアがこっちの様子知りたがってたんだから。はい送信、と」
「あ、てめ!」
「わわわわ、エヌラスちょっと動かないで! 手元が狂うから~!」
「それぐらいリカバーしろ!」
「むぅりぃ~!」
「肖像権の云々知らないのか」
「知ってるわよ。でもこれも監視のうちよ。あら、もう返信されてきたわ。どれどれ?」
そこには、ネプギアとコンパの映った自撮り画像。二人ともピースサインをして恥ずかしそうにしながらも笑顔を向けていた。思わず、アイエフの頬が緩んだ。
「なに送られてきたんだ?」
「はっはぁ~ん、さてはネプギアのちょっとえっちな感じの画像とか?」
「お前は自分の妹を何だと思ってるんだ。ネプギアがそんなことするわけないだろ。いや、仮にしてきたらものすごく嬉しいと思うし滅茶苦茶見たいとは思うんだが」
「でしょー?」
「アンタらは欲望に正直か! そんなわけないでしょ、ほら!」
画面いっぱいに映る二人の笑顔に、エヌラスとネプテューヌは顔を見合わせる。
「ネプギアの自撮り画像か……」
「うんうん、流石はわたしの自慢の妹! 写真写りもバッチリ! これはもう女神と言ってもいいのではないでしょうか」
「女神だろうが」
「それもそっかー、いやぁ姉妹揃って超絶美人だと困りますなぁ」
「こいつ引っ叩いていいか?」
「程々にね」
すぱーん。
「いったぁ!? なんで!?」
「いや、調子に乗ってる姿を見ていたらなんとなく」
「なんとなく!? なんとなくで女神様の頭叩いちゃう!? んもー、そんなんだからエヌラスはいけないんだぞー」
「よーしそれならこいつはどうだ。そーれこちょこちょ」
「えっ、ちょ! あひゃん! あっはははは! だめ、くすぐりはダメぇ! アハハハハハハ、くすぐった、脇はだめ、あははは、ほんとだめ、よわっ、あはははは!!」
脇をくすぐられて逃げようとするが、エヌラスがしっかりと足でネプテューヌを捕まえていた。
「え、エヌラス! ほんと、だめ、あはははは! 笑い死んじゃうから! も、もうゆるひてぇ! あはははは!」
「ほんとかー? ほんとに反省してるかー?」
「して、してるから! それ以上はほんと、やめ! あはははは!」
これくらいにしておくか──エヌラスがネプテューヌの脇から手を離そうとして、胸に触れてしまう。
「んっ、ひゃ!」
「……」
「……」
艶めかしい声に、部屋が静まり返る。アイエフも硬直していた。エヌラスも、まさかそんな艶のある声を出されるとは思っていなかっただけに驚いていた。しかし、一番ビックリしているのはネプテューヌである。
「……も、もぉエヌラスってば。やめてって、言ったのに……」
「……すまんかった」
「ちょっと、やりすぎよ。エヌラス」
「あー、うん。悪かった」
頬を膨らませて睨んでくるネプテューヌの頭を撫でて、なんとか機嫌を直してもらう。目尻に涙を浮かべてそっぽを向いていたが、やがて背中を預けてくる。
「……ネプテューヌ」
「…………んー?」
「…………」
「……なぁに、エヌラスー?」
「──あー……ねぷ子」
ネプテューヌの手が止まった。アイエフも返信しようとしていたメールの手が止まった挙げ句に誤変換で『こっちはだいじょび』と送りそうになった、危ない危ない。呼吸を止めて一秒、冷静に操作する。ぽちぽち。
「な、なんで?」
「いや、ほら……アイエフがそう呼んでたから。なんとなく、俺もそう呼んでみようかと思っただけで特に深い意味はない」
「……わたしは、別にいいけどなぁ」
「そうか。……うん、そうか」
「じゃあ、わたしもエヌラスのこと、えぬえぬって呼んで──」
「それはない」
「ひどくない!? だってコンパもそう呼んでるからいいかなーって」
「コンパはそういうキャラだから」
「そうね。エヌラスの言う通り。コンパだから許されるのよ」
「えぇ~、なんか納得いかない~……」
「お風呂はいろー!」
「……そうね」
「いや、それはわかるんだが。なんで三人一緒なんだ?」
「だってさー、お泊りイベントだよ? そうきたらやっぱり背中を流すくらいはしておかなきゃ」
「俺はここ最近毎日身体を洗ってもらっている気がする……何故なのか。そんなに俺はあれか? 汚いか? 臭うか?」
「えー、と。そこに他意は無いと思うわよ……?」
「いや、だってなぁ……さすがに気にするぞ……」
「みんなエヌラスのこと好きだからじゃない? モテる男は辛いねー」
具体的にどう辛いか事細かく説明してやろうかネプテューヌ。そんなことを思いながらエヌラスは脱衣室でワイシャツを脱いで洗濯かごに入れた。
「先に入ってるぞー」
一足先に浴室へ入る姿を確認してから、ネプテューヌはいそいそとエヌラスのワイシャツを広げてみる。特に汚れなどは目立たない。男物のワイシャツは自分が来ても袖を余らせてしまいそうなくらいだ。
「こうして見ると、やっぱり男の人って大きいんだなー」
「ちょっと、なにしてるのよねぷ子」
「……すんすん」
「なんで臭い嗅いでるのよ、やめなさいって」
「いやー、エヌラスが気にしてたから。どうなのかなーって」
「はぁ……それで?」
「うーん、なんだろ……安心するっていうか。心安らぐっていうか、リラックス効果?」
「そういうもの?」
「あいちゃんも嗅いでみる? はい」
ネプテューヌから手渡されるエヌラスのワイシャツを手にして、アイエフがじっと見下ろす。両手で広げてみるが、比較的小柄な自分と比べても大きいと思う。これくらいならばコンパくらいがちょうどいいのではないか。──彼シャツのコンパを想像して、思わず顔が熱くなる。全然ありだと思う。というか見たい。
ささっと着ている服を脱いで浴室に突入するネプテューヌを尻目に、アイエフはワイシャツを手にして固まっていた。
(べ、別に臭いを嗅ぐくらいなんてことないわよ。ちょっと汗臭いとか、それくらいでしょ?)
くんくん。ふんすふんす。
確かに、男らしいと言えばそれまで。少し汗の臭いと、薬品らしき臭い。それとボディシャンプーの香りだろうか。少しだけ混じっている鼻をくすぐる匂いを吸い込んで、息を吐き出す。
「すぅ……ん、はぁ……ど、どうってことないわね……」
顔を離し、せっかくなのでもうちょっとだけ……アイエフはもう一度ワイシャツの匂いを吸い込んだ。
「…………」
くんくん。
「………………」
すーはーすーはー。
「…………────」
すぅ……。はぁ……。
「アイエフー? なにしてんだー?」
「えひゃあっ!? な、なんにもしてないわよ!」
「?」
いつまでも脱衣室から出てこない姿を疑問に思ったのか、エヌラスが声を掛ける。
(べ、べつになんてことないんだから。別に、その、いい匂いとか思ってたりとかしないし……コンパの方がずっといい匂いするし……ってそうじゃなくて。なに考えてるのかしらアタシ……落ち着いて、落ち着いて深呼吸よ──)
残り香に鼻をくすぐられ、背中が震えた。なぜか身体が熱くなる。
「ん……ッ」
浴室にバスタオルを巻いて入ったアイエフは、エヌラスのことを小突いた。心当たりのない当人は困惑している。
「な、なんだ? なんで肘で小突くんだ?」
「うっさい。知るか」
「俺は盛大に八つ当たりをされているような気がする」
「どうしたの、あいちゃん? はっは~ん、さてはエヌラスの美味しそうな身体を見てドキドキしちゃったりしてるな~?」
「アンタは黙ってなさい!」
「あいたぁ!?」
ぽこーん。アイエフの投げたタライがネプテューヌの頭を直撃した。額を擦りながら、涙目でコブになってないか確かめている。
「うぅ、あいちゃんひどい……なんか今日はいつもよりツッコミが激しい気がする」
「変なこと言うからよ! こっち見るな!」
「いふぇふぇふぇふぇ……なんでそんな怒ってるんだよ、アイエフ」
「な、なんでってそれは……」
傷跡だらけの肉体。左胸の銀鍵守護器官の刻印。鍛えられた、しなやかな刀のような筋肉質な肢体にアイエフがますます頬を赤らめている。──つい思い出してしまいそうになる。
「~~~~! あ、アンタがそんな身体してるから……というか、一緒に入らなくても」
「ふむ? てりゃ」
「ふやぁ!? ちょ、ちょっとなに!? 離して!」
エヌラスは、狭い浴室で暴れそうなアイエフを抱きしめて座らせた。そのままバスタオルを剥ぐと白い背中にスポンジを押し当てる。肩を震わせて固まる姿に、シャワーを手にしてまずは軽く流していく。両手で胸と股間を隠しているだけに、背中は無防備なままだ。
「ま、せっかく一緒に風呂入るんだし。背中くらい流してやろうかと。ほーれ動くなよ」
「わかったわよ……変なとこ触ったらぶっ飛ばすからね」
さりげなく右手の魔術刻印を起動させてエヌラスに見せる。赤く輝く炎の印に、はいはい、と手を振って答えてエヌラスはアイエフの背中を泡だらけにしていく。それを湯船に浸かりながら見ていたネプテューヌは退屈になったのか、浴槽からあがるとタオルも巻かずにエヌラスの後ろにしゃがみ込む。
「じゃあ、わたしがエヌラスの背中流してあげるね」
「変なことしたらぶっ飛ばすからな」
「あいちゃんと同じこと言ってるのに、なんだろう。命の危険を感じる……っていうか熱い、熱いから! エヌラスそれものすっごく熱いから!」
エヌラスの右手から発せられる熱量が浴室の温度を上げていく。それはさながらサウナのように蒸し暑いものとなり、自然と全身が汗ばんでいった。もはや殺人的な熱気を発する右手の魔力を解除する。
「普通に洗ってくれよ?」
「わかってますよーだ」
「そういうアンタも、間違っても前の方とか触らないでよ?」
「はいはい、わかってる」
アイエフの背中を洗い、エヌラスが背筋を指先でなぞると甘い声を漏らす。
──当然ながら、怒られた。