超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
剣姫の朝は早い。ニワトリが鳴くよりも先に布団を跳ね除けて身体を起こす。着崩れした寝間着を直し、襖を開ける。朝日を浴びながら伸びをして、準備運動。洗顔と寝癖直し。その後に服を着替える。本日はユノスダスへ向かい、仕事を片付けなければならない。
箪笥を開けて、軍服に袖を通す。軍帽はどうせ途中でポケットに突っ込むことになるので本日はお留守番。
朝食を摂り、後片付け。本日は焼き魚に漬物に味噌汁に、アゴウ自慢の白米。箸が止まらず、三杯も食べてしまった。自重、腹八分目。
「おい、アルシュベイト」
《む? なんだ、御姫》
「おれはユノスダスへ向かうぞ。なにか小言はあるか?」
《いいや。お忍びならばまだしも、今回は仕事の件だろう。ならば俺から言うことはなにも》
「うむ、そうか。なら行ってくる」
《強いて挙げるならば、迷惑をかけるなよ?》
聞く耳もたん。
移動用フォートクラブを使い、のんびりとした安全運転で景観を楽しみながらアゴウからユノスダスへ向けて移動する。たまには鈍行も悪くない。昼前には到着予定となっている。あちらにもそのスケジュールで通してある。その間に書類の確認も兼ねて目を通しておいた。特に不備はない。
──エヌラスがネプテューヌとアイエフを教会まで送り届けるのと、剣姫が到着するのはほぼ同時だった。
気さくに片手を挙げて挨拶をする姿に、フォートクラブから降りて挨拶を返す。
「おう、相変わらず両手に華だな。まったく羨ましいな、お前は」
「うるせ」
「やっほー、ひめちゃん」
「こんにちは。御姫様」
「うむ。二人も元気そうで何よりだ」
「今日はどうしたの?」
「む? ああ、ラステイションの軍事提携の件について色々と仕様書をな」
剣姫が書類の束を見せる。その封筒には「機密文書」と赤い判が押されていた。四人でユウコの元へ訪れて、早速仕事の話に取り掛かる。
用意された茶菓子を食べるネプテューヌに、耳を傾けるアイエフ。足を組んで適当に聞き流すエヌラス。そして真面目に仕事の話をするユウコと剣姫。一通りまとまったのか、書類を手渡した。
「さて、じゃあ二人もそろそろ時間だし。私も一緒に行こうかな」
「ん? ユウコもゲイムギョウ界行くのか?」
「当たり前でしょ。私がまとめた商談なんだから」
「俺とこいつを残して?」
「こいつとはなんだ」
剣姫が抗議の意思を見せているが、エヌラスは無視する。だが、その点に関してはちゃんと監視役がいるらしい。
「その点は大丈夫。つーちゃんと一緒にお前のこと監視してくれる女神様もいるから」
「今度は誰が来るんだっつーの……」
「あれ、なんも聞いてない系?」
──ネプギアと、ユニがそこには居た。ちゃんとバッグを持ってお泊りセットを持ち込んでいる辺り、しっかりしている。エヌラスは天を仰いだ。
そういうことは、ちゃんと言ってくれネプテューヌ。あとノワール。
「俺は初耳なんだが!?」
「ご、ごめんなさい! あの、えっと、お姉ちゃんから何も聞いてませんか!?」
「なぁんにも聞いてないぞ俺! っていうかアイエフもだよな!」
「言ってなかった? 女神が二人揃って不在はできないって」
「あれ、そういう意味かよ! ま、まぁいい。気を取り直して、だ。ユニも来るとは思ってなかった」
「アタシは……お姉ちゃんから、女神の社会勉強としてこっちに。それと、手紙も預かってきたんですけど」
「俺に? どれどれ……」
ノワール直筆。そこに書かれていた文面は、要約してしまえば「ユニに手を出したら絶交」との一文だった。追記で「ペンダント、楽しみに待っている」とのこと。
ネプテューヌに覗き込まれる前に、厳重に折りたたんでポケットにしまい込む。見せてくれとせがむ姿を引きずってアイエフが無理矢理テレポーターの中へ消えていった。
ひとまずの台風は通り過ぎて、エヌラスは安堵する。
「それに、アタシもアダルトゲイムギョウ界は興味ありましたし。アゴウともなればリーンボックスに負けず劣らずの軍事国家と聞いてます。そうなれば、当然銃器の開発とかも盛んだと思って」
「アゴウに興味があるのか、ユニは。うむ、その向上心と勤勉さは流石だな。いつでも来い、おれは大歓迎だ」
「ネプギアはー……」
「えっと、初めて来るユニちゃんの付き添いも兼ねてです。エヌラスさんの監視が必要と聞いてたので……」
「そうか」
「なので、今日はわたしとユニちゃんでエヌラスさんのことを監視しちゃいます。じーっ」
「いや、だからといってそう見つめられてもな……」
剣姫もいることだ。三人がかりで監視体制を組んでおきながら大変なことにはならないだろう。
──そう思っていた。エヌラスも。ネプギアも。ユニも。誰もが安心していた。だが、ひとつだけ見逃していた。それは小さな、だが致命的なまでのことを。
それは、軍事国家アゴウに到着してから発覚した。
アゴウ教会の城に到着し、訓練中の機人達を尻目に剣姫がネプギアとユニを案内する。斜行エレベーターによる地下格納庫を見た時の二人の顔の輝きようときたら、まるで年頃の娘が流行のファッションを見るようなきらめきだった。
ガンラックに並べられた無数の銃器、弾薬、刀剣。端末でプログラム操作されている外殻を取り外されたフォートクラブの素体。
「わぁぁ……」
「凄い……」
心底、感服したような声を挙げていた。それには剣姫も鼻が高いのか、胸を張っている。
「うんうん。二人が喜んでくれて何よりだ」
「相変わらずすげーな、ここは」
「なに、お前には負けるさ」
そこで九龍アマルガムの名前が出ない辺り、相当に大魔導師は嫌われているらしい。
フォークリフト代わりの集荷用フォートクラブも稼働しているが、それでは運びきれない小型の物はトイ・リアニモーターが運び出していた。成人男性の等身大サイズのポールのような機械が脚部のローラーを走らせて動いている。それだけは九龍アマルガム製だが、上層都市の技術力は認めているようだ。
「あ、あの! 機人のみなさんが使用されている制式採用突撃銃の鑑賞とかは!」
「わたしも! フォートクラブのプログラミングについて色々と!」
「おーおー、食いつく食いつく……御姫」
「うむ! もちろん許可する! さて、そうなるとおれが案内するのもな」
「御姫さんじゃ、ダメなんですか?」
「いいや、正直なところおれは詳しくない。そうなると、餅は餅屋。整備班を呼んだ方が早いな」
「なんか俺は引率の先生になった気分だ……」
早速呼ばれたアゴウ整備班は、初めて見る剣姫以外の女神に驚いていた。だが、機械に強いと聞いた瞬間に目の色を変え、倉庫をひっくり返して設計図や資料などを漁り始めた。一瞬のうちに格納庫の隅っこがゴミの山と化している。
《これは突撃銃の設計図とプラン案で!》
《こっちは中隊支援火器トーネードのバリエーション派生型と使用する弾薬と弾頭と!》
《七十二式制式採用大型防壁・陽炎の耐久強度と使用素材と重量とミニチュアモデルと!》
《ちくわ大明神》
《誰だ今の!》
あっという間に整備班の機人達に取り囲まれて次々と手渡される二人は紙の山に埋まっていた。しかもまだまだ出てくる。跳躍ユニットの素材や推進剤の材料、取り付け方法にマニュアルに、キリがないほどだ。
その様子を遠巻きに見ていた一人の機人が咳払いをして、声を張り上げる。
《貴様らぁぁぁ!! 仕事と持ち場に戻れぇぇぇっ!!!》
《ひえぇぇぇぇ!!? すいませんでしたぁぁ!》
《それと、片付けろッ!!》
一喝されて、蜘蛛の子を散らすが如くネプギアとユニから離れる整備班。エヌラスは頭のてっぺんまで埋まって目を回す二人を引きずり出した。
「大丈夫か?」
「きゅ~……」
「す、すごい、熱意……」
「ここの特色みたいなものだ。慣れてくれ」
しかし。この書類の山は果たして持ち帰っていいものなのか。技術流出とかそういうレベルではないのだが……。何気なく拾った一枚には電磁投射砲“
慌ただしく片付けに入る機人整備班の姿を見て、腰に手を当てて笑う剣姫。その前に立つ機人が頭を下げていた。
《申し訳ありません、御姫》
「ははは、いや結構なことだ。うむ。熱意に満ちているようでなにより。どんな塩梅だ?」
《ええ、万事滞りなく。順調です》
継ぎ接ぎのように、機体色と身体の装甲が溶接されている機人は他ならぬトライデント分隊のゼロワンだった。現在は身体を新調するまでの間、非戦闘要員として整備班に回っている。訓練用義肢を応急処置で接続しているからか、少しだけ動きが固かった。
「こんにちわ、ゼロワンさん」
「どうも。元気そうですね」
《そちらこそ。エヌラスもな》
「人のことオマケみたいに言いやがる。これ、どうすんだ?」
エヌラスが指すのは、書類の山。それに腕を組んで悩む素振りをみせるゼロワンに、剣姫は目配せをする。
「それならば、お前に一任しよう。おれは食事の支度もあることだしな。客人をもてなすのも仕事のひとつだ。そんなわけで買い物に付き合え、エヌラス」
「いやー俺もアゴウの技術力に興味あるなー、ははは。見学で」
「問答! 無用ッ!」
「ギャアァァァァァァ────!!!」
首根っこを掴むなり、剣姫はエヌラスを引きずってダッシュで地下格納庫を後にした。親指を立ててゼロワンに信頼の証を見せながら。
《……では、早速ですが少し片付けの方を》
「お手伝いします」
「アタシも。色々と教えてもらえると、助かります」
《私の知る範囲であれば、お答えしますよ》
「あの、ゼロワンさん……身体の方は大丈夫なんですか?」
《お見苦しい姿で申し訳ありません》
「い、いえ! そんなことないです!」
《心配してくださってありがとうございます。しかし、特に支障はありません》
マニピュレーターを器用に動かしながら、書類を一ヶ所にまとめると繊細な動作で整える。シワがつかないように細心の注意を払ったその細かな挙動にネプギアは驚いていた。
ユニがそれとなく背中を見ると、武装ラックも取り外されている。腰部の跳躍ユニットを接続する部分もオミットされており、それが戦闘用のものではないことが窺えた。
《以前の身体の方が、よほど反応はよかったですが》
「それ、多分民間用ですよね。戦闘機能が排除されてるみたいなので」
《この状態でも最低限の戦闘行動は可能ですが、あまり推奨はされないですね。全てにおいてスペックは戦闘用に劣るので》
「だから、整備班に?」
《たまには裏方も悪くないですし、それに──》
「それに?」
《アルシュベイト様と、電脳国家国王が共同で新型の開発を進めているようなので。少しでも助力できればと》
仲間を失い、親友を亡くしても、まだ戦線に復帰する。最前線へ留まることが今は亡きトライデントの生き残りとしての意志だった。
《さて。それではご案内しますよ。ついてきてください》
「はい! 今日はよろしくお願いします」
(……エヌラスさん、大丈夫かな?)
《ちなみに他の整備班に声を掛けられても全力で無視してください》
さっきのようなことになるので。そういえば、と二人が周囲を見渡すとチラチラと視線を感じていた。落ち着きが無い様子で書類やら試作品やら手にしてゼロワンの隙を窺っている。六連装二門機関銃など構えているが、ゼロワンが研がれたばかりの機人専用ハルバードを掴み、手を叩いていた。
《この二人に声を掛けたければ俺を倒してからにしろ》
『やってやろうじゃねぇかよこの野郎ッッッ────!!!』
整備班が思い思いの武器を手にして殺到する。ゼロワンが圧勝した。
踏んでいる修羅場の数が違う。圧倒的な戦場経験を前に整備班が泣く泣く仕事に戻った。