超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ネプギアとユニがゼロワンの案内で社会見学をしている、その一方でエヌラス。
剣姫と並走しながらアゴウの首都を駆け回っていた。その後ろからはアルシュベイトが跳躍ユニットを吹かして追跡してきている。
「ぬぅおりゃぁああああああっ!!!」
「ふははははは、流石エヌラスだな! おれも負けてられん!」
《ええい待たんか二人とも! 推進剤もタダではないのだぞ!》
「だ・れ・が、止まるかぁぁぁぁ!」
顔を突き合わせるなり、組手を所望。それを聞いたら当然、剣姫が黙っているはずもなく「おれも混ぜろ」の一言。エヌラスは全力で走り出した。二人が追いかけ──今に至る。
捕まったら最期、どうなるかなど考えるまでもない。しかし、エヌラスがカーブに差し掛かってスピードを落としたのを好機と見た剣姫が加速した。アウト・イン・アウトのエヌラスに向けて止まることなく水面蹴りで滑りこむ。哀れ、軸足を払われて宙を舞う姿に、アルシュベイトが跳躍して捕獲する。ゴイン。
「イッてぇなお前! 今肩部装甲に頭ぶつけたぞ俺!?」
《うむ、すまん。とはいえ、捕まえたぞエヌラス》
「折角だ、アルシュベイトも買い物に付き合え。その図体のデカさなら荷物持ちくらいはこなしてもらうぞ」
《いや、俺はまだ仕事が》
「知らん!」
《……》
「俺を恨めしい目で見るな……」
じっと見つめてくる網膜ユニットに感情が窺えるはずもないのだが、長年の付き合いからなんとなく言いたいことはわかる。まさに以心伝心。
アルシュベイトを連れて剣姫はエヌラスとともにアゴウの商店街を歩く。すれ違う人々が挨拶を交わし、頭を垂れる。街の警備を請け負っている機人はその姿を見かけるだけ道を譲り、敬礼したまま通過するのを待っていた。
「お姫様ー、こんにちはー」
「姫様だー!」
「おう、子供は元気が一番だ。ほれ、撫でてやろう。うりうりー」
『きゃーっ♪』
子どもたちの頭を撫でて剣姫は笑顔で別れる。
「で? 献立はどうするんだ?」
「そうさなー。やはり鍋だな、鍋。うん、今日は鍋でいこう」
「常識的な分量で頼むぞ」
百人前とか用意しなくていいからな? と言外に語るエヌラスに、しかし剣姫は黒髪を翻して笑みを見せた。
「何人前作ってもお前なら食べてくれると信じてるぞ」
《俺の分までたらふく喰らえ、エヌラス》
「あーもー、へいへい。わかったっつうの」
「そうと決まれば、しこたま肉を買って戻るとしよう。腹ごなしの運動も必要だからな」
嫌な予感がする。アルシュベイトに目配せすると、静かにサムズアップ。
頑張れ、と立てた親指が言っていた。
──機人射撃訓練場。突撃砲を構えて的に向けて連射する機人に並び、ユニもライフルを構えている。
呼吸を整えて、スコープ越しに狙う標的に向けて引き金を引く。風に揺られてターゲットの左にずれた。誤差修正。風速を計算に入れて二発目。頭部に命中するのを確認して、ゼロワンは深く頷いて手を叩いた。
《お見事》
「ユニちゃん、すごい」
「ど、どうってことないわよ。普通よ、普通」
普段使いの慣れた銃器でターゲットを撃ち抜いていくユニ。ライフルの弾倉を交換して、深く息を吐き出した。
壊れた的を交換するフォートクラブを尻目に、そのデータを収集する。
《流石は、というところです。これ程の腕はアゴウでもそういないでしょう》
「当然よ。これでも毎日訓練と手入れは欠かさないんだから」
ユニは知らないが、ネプギアはゼロワンの言葉に含まれている意味を汲み取っていた。──ゼロツーに思いを馳せているのだろう。的確な援護射撃による連携の潤滑剤。ゼロスリーの突撃による鼓舞、士気の起爆剤。その戦略的価値も含めて、アゴウ最強のトライデント。今となってはゼロワンのエンブレムもかき消されている。
目を伏せるネプギアに、ゼロワンはバインダーで頭を叩いた。
「あいたっ」
《気遣い痛み入ります。ですが、気に病まれるのは些か不愉快です》
「ごめんなさい……」
《では、次の訓練に移りましょう》
中隊支援火器による狙撃の音を聞きながら、ゼロワンは二人を連れて次の訓練場へ移る。だが、その背中を見て黒染めの一機が立ち上がった。ビースト分隊だ。
《ゼロワン、折角だ。撃っていけ》
《今の私にそれほどの腕を期待するな》
《なに、一発でも外せば良い方だろう?》
「アタシも見てみたいです」
《……そう言われてはな》
そして、ゼロワンは匍匐体勢から頭部と胴体に全段命中させる。目を丸くするネプギアとユニにビースト分隊は頷いた。
《訓練用が聞いて呆れる》
《実戦ではないだけマシだ。反動だけで神経伝達効率が低下している》
五指を握りしめようとしているが、指先が思うように動かない様子にビースト分隊長であるヘッドが肩をすくませる。
《貴方の戦線復帰が待ち望ましい限りだ》
《訓練に戻れ、ビースト分隊》
《了解。各自弾薬の補充が済み次第、連携訓練に移行》
日が傾いた頃にエヌラスと剣姫がアルシュベイトの肩に腰を下ろして戻ってきた。その両手には買い物袋を持っている。……買い物帰りなのは見て分かるが、一国の主らしからぬ生活感溢れる姿だ。それにはゼロワンもなにか言いたげにしている。
「はっはっは、戻ったぞ!」
「ったく、買いすぎだっつうの」
《アルシュベイト、無事帰投完了! まったく、お前らは二本の足があるだろうに》
「おい、卵は割っていないだろうな?」
《無論だ。早く降りろ、二人とも》
剣姫はアルシュベイトの両手から買い物袋を受け取ると、城の中へと急いだ。エヌラスは身体を伸ばすと、準備運動を始めている。
「おかえりなさい」
「あの、なんで準備体操を始めてるんですか?」
アルシュベイトが屈伸し、エヌラスは倭刀を持っていた。
《……御姫の悪い癖だ》
「まったくだ」
《どうしてくれる、エヌラス。俺まで巻き込んで。仕事が山積みだぞ》
「許せ」
《許す》
そして。背面から長刀を抜き放ったアルシュベイトと向き合って刀の切っ先を合わせる。
「腹ごなしの運動、だそうだ」
《加減はせんぞ》
「同じく──」
ゼロワンがさりげなくネプギアとユニの二人の前に出て衝撃波から守った。
「そ、そんないきなり!?」
「……大丈夫なんですか?」
《ええ。まぁ、御姫は毎度この調子です……》
剣戟が重なる。その太刀筋からなにか学ぼうとネプギアは注意深く観察していた。
エヌラスの倭刀、滑らかな曲線を描く軌跡。
アルシュベイトの長刀、静かに切っ先を止め、揺らいだ瞬間には打ち下ろされている。信念の感じ取れる真摯な一撃。
そこへ剣姫が戻ってきた。手には鉢金を握りしめている。髪を結い上げ、軍服の上着を脱ぎ捨てた。風にさらわれたそれを、ゼロワンが跳躍して掴み取る。
「なんだ、先に始めおって! おれも混ぜろ! 二人まとめてかかってこい!」
正気を疑う一言に、二人が剣を打ち合って止まった。そして、切っ先を同時に下げて剣姫に向けて打ち上げる。
その二刀を拳で受け止めると衝撃で砂埃が舞い上がった。拳を引き絞り、正面から打ちつける。アルシュベイトの両手が跳ね上がり、エヌラスの身体を蹴り飛ばした。地面に倭刀を突き刺し、制動をかける。
「ったく、相変わらずくっそ強いな──!」
《はははスマン!》
「おーい!? お前もう吹っ飛ばされてんのかよ!?」
アルシュベイトが謝罪しながら地面を転がっていた。拳から煙を漂わせて残心。剣姫はエヌラスを手招きする。舌打ちをもらし、エヌラスは倭刀を閃かせて肉薄した。
「遠慮はいらんぞ!」
「最初から、してねぇ!」
「そうか! それは結構だ!」
刀の腹を掌で流すと、エヌラスの腹に二発。顎に一発。そして、両手で身体を押し飛ばす。地面を転がる姿を飛び越えて、入れ替わるようにアルシュベイトが再び剣を振り下ろしていた。
二人が剣姫に弄ばれる姿を遠巻きに眺めながら、ネプギアとユニは言葉を失っている。
アルシュベイトもエヌラスも。二人が知る限りでは強い。女神ではないが、それに匹敵する。しかしながら──剣姫の強さは度が過ぎていた。
「つ、強いですね……」
「強すぎな気も……」
《アダルトゲイムギョウ界唯一の守護女神ですからね。あ、エヌラスが吹っ飛んでるな》
「うわぁ、痛そう……」
「でも受け身を取ってるみたい」
《アルシュベイト様も見事に転がされて、あれは痛いな……》
「エヌラスさん、引っかかって転んでますね」
「……二人まとめて飛んでいきましたね」
観戦していた三人が冷静に戦況を口に出して確認する。
《御姫が言っていました。自分の強さは、いずれ誰もが辿り着くであろう境地だと。おれは誰よりも先に辿り着いただけだ、とも》
それはかつてアルシュベイトも同じ言葉を語っていた。国家一丸となって脅威へと立ち向かう。それはいかなる絶望であっても打ち砕けない輝望だ。
「あ、またエヌラスさんが吹っ飛ばされて……」
「アルシュベイトさんに受け止められて……」
《投げ飛ばされましたね。こっちに》
地面に叩きつけられて転がされたエヌラスが、ゼロワンの足元で止まる。口をへの字に曲げて、面白くなさそうな顔をしていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ……」
「あの、立てます?」
「なんでアイツあんなはしゃいでんだ……」
《客人を迎えているからでしょう?》
スカートの裾を押さえながら二人がエヌラスを覗き込む。しかし、ミニスカートの丈を押さえきれないのか、下着が見えていた。ゼロワンが手を差し出し、その手を掴んで立ち上がる。
白刃取りから胴体を蹴り飛ばして、剛剣を担いだ。
「チェストォォォッ!!」
剣の風圧だけでアルシュベイトが後退る。両腕で防いでいたが、投げられた剣を掴み取った。防御の手が緩んだ隙を見逃さず、脇腹へ掌底。体勢が崩れて死に体になったところに蹴りを叩き込まれて吹き飛ばされている。
肩を回して意気込む剣姫は短く息を吐きだし、構え直した。
「終わりか、二人とも? ゼロワンもどうだ!」
《遠慮しておきます。訓練用義肢でなければお願いしていました》
「なんだつまらん! ネプギアとユニは!」
「え、ええと……いいんでしょうか」
「アタシ、銃なので肉弾戦はちょっと……」
目を合わせて戸惑う二人に、剣姫は裏拳でエヌラスの顔面を殴りつけて黙らせる。
ネプギアは意気込み、剣を構えた。
「でも、せっかくなので私もお邪魔します! たぁぁっ!」
「よしきた!」
ビームサーベルを見切り、剣姫は身を躱し続ける。実体剣でなければ刀身を掴むことも受け止めることもできない。それでいながら軽やかな動きはまるで舞うようだ。
「悪くない動きだ」
「これでも、毎日女神のお仕事を頑張ってるんです! てやぁ!」
「おっと。しかし、鍛え方が少し足りんようだな」
「え? ひゃあ!?」
握り手を掴み、手首を足払いをかけながら手首をひねる。ネプギアの身体が宙で一回転した。そのまま地面に倒れ込む。アルシュベイトの奇襲も、身を屈めて避けるとそのまま当て身で投げ飛ばした。
「軽いな。ちゃんと食べてるか?」
「は、はい。三食きちんと……」
「そうか。美味しいか?」
「はい」
「うん、それは良いことだ。働いて食う飯は総じて美味い。働かずに食っても美味いものは美味いが、充実したものだ。いや良いことを聞いた。うんうん」
倭刀を指で挟むように受け止めて、手首を指先で突くと刀を取りこぼす。腕を取り、足を払い、関節を逆に曲げながら地面に叩きつける。背中に腕を回し、足で踏みつけて身動きを封じた。
「いやしかし、エヌラス。お前ほんと殺し合い以外となるとからっきしだな? 正直つまらん」
「イデデデデ! そんなこたぁ、俺が一番知ってるってのぉ!」
「おれを殺しに来てる時の方がよっぽど男らしかったぞ」
《チェェェストォォォッ!!!》
「ふんっ」
アルシュベイトをいなして、背中を蹴り飛ばす。立ち上がったネプギアの剣を避けて、足首を掴むと再び一回転させてエヌラスに乗せた。
「ぐえっ!」
「きゃあっ!? ご、ごめんなさいエヌラスさん!」
「俺は大丈夫だが……」
アルシュベイトは剣姫に片手で持ち上げられ、四肢をだらりと投げ出している。
《おいエヌラス。さっさと立て》
「テメェは動けるだろうが」
《バカを言うな、全力で戦えば夕飯を逃すぞ。それでもいいか》
「それは困る。おれが作るんだからな」
片手で打ち上げて、さらに殴りつけ──浮いた身体を蹴り飛ばした。
両手を叩き、汚れを落とす剣姫は結い上げていた髪をほどき、手櫛で整える。
風になびく黒髪に、凛とした青い瞳。腰に手を当てて胸を張る剣姫は城へと向けて踵を返した。
「腹ごなしの運動にしては少々物足りないが……まぁ免じてやるか。楽しみに待っていろ!」