超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
撃ち切った弾倉を交換しながら、エヌラス=ブラッドソウルはアヴェンジャーの動きを注視する。どこかにあるはずだ。魔導生命体の核が――だが、何処にも見当たらなかった。面倒な、舌打ちを漏らしてプルルート=アイリスハートに目配せする。
「どうするつもり?」
「面倒くせぇ、消し飛ばす! おいユウコォ!」
避難誘導に手を貸して、ひと通り市民を安全圏に追い出したユウコが屋根から屋根に飛び移りながらメガホン片手に答えた。
「なーにーさー!」
「街の一区画消し飛ばす、許せ」
「――はいぃぃぃぃぃっ!?」
断固抗議しようとしたユウコを無視して、エヌラス=ブラッドソウルは暴れ狂うアヴェンジャーに偃月刀を構える。物理攻撃は無効化されるが、魔法攻撃ならば通用する――しかし、これから自分が放つ一撃は洒落にならない。その分、隙もある。その間にプルルート=アイリスハートに援護してもらう必要があった。
「アイリス、こっち来い!」
「はいはい、なに?」
「力を与えよ――力を与えよ、力を与えよ――“魔刃鍛造”!」
口訣を結び、五芒星を描きながらプルルート=アイリスハートの持つ蛇腹剣にクトゥガの力を分け与える。剣が炎に包まれ、驚きながら感心して、一振りすると空気との摩擦で炎が舞い上がった。
「しばらくアイツの足を止めてくれ」
「ふぅん、面白いことできるのね」
片目を失い、ワイヤーカッターも残るは二基となったアヴェンジャーだが、まだハサミの六連装魔法陣と呪法兵装は健在である。砲撃が吹き荒れ、だがプルルート=アイリスハートの蛇腹剣がその魔法を焼き払う。飛びかかる蛇の如く突き伸ばした切っ先が右の魔法陣を貫き、手元を回転させるとかき回すように焼き尽くした。ジュウジュウと血液が沸騰して溶解していく。
「あっはははは、いいわぁコレ!」
「うわぁ、ぷるるんノリノリだぁ……」
「ねぷちゃん達に使いたいくらいよ! 試してもいいかしら!」
「ひぃぃ、ソレは駄目! 絶対ダメー!」
「あたしって、駄目って言われるとやりたくなるのよね……じゅるり」
「地雷踏んだ!? もしかして私地雷踏んだ!?」
エヌラス=ブラッドソウルは偃月刀を召喚して地面に突き立てる。魔力の精製、精錬には集中力を使う。外部の情報を一切シャットダウンして意識を研ぎ澄ませる、その際に自分の身体は気にも留めないものとする。
「――――」
荒れ狂う灼熱と吹き荒ぶ吹雪の唸りを想像する――それを“創造”する。“銀鍵守護器官”にありったけの魔力を叩き込み、溢れる魔力が紫電となって周囲に迸った。
乾いた風が吹いた。冷気を帯びた風が吹いた。両手の二挺拳銃が光に包まれ、粒子となって混ざり合い、食らい合い、融け合い、絶対矛盾の相反する属性は一つとなる。だがそれでは足りない。まだ足りない。燃え盛る劫火と焼けつく霧氷を絶対破壊の破壊に“鍛え上げる”には。
紫電を迸らせる。熱と氷、そして雷――三種の神器。暴力の紅、冷厳の白、紫電の青――。
魔術士の杖であり、剣でもある偃月刀に力を注ぎ込んで掴み上げる。やがて、三日月状に歪んだ刃を持つ偃月刀は杖とも砲ともつかぬ一本の棒状の物質へと再構築された。
「消・し・飛・べェェェェェェ、“
鮮血が溢れた、魔力の余波で爪が剥がれ落ち、血管が幾つも爆ぜた。パンパパンとマヌケな音を鳴らしながら全身の毛細血管が悲鳴をあげる。その小さな、だが命に関わる身体の危険信号すら黙らせる膨大な魔力が、ただただ破壊した。破壊の限りを尽くした。物質の存在を赦さない残酷な閃光となって魔導生命体と化したアヴェンジャーの存在を否定し尽くす。
戦禍の破壊神――その一端をネプテューヌ達は垣間見た。そして思い出す。バルド・ギアのアレは警告だったのだ。
結局のところ、エヌラスは破壊神でしかない――誰を救おうと、誰を助けようとしても彼は障害を破壊することでしか救えない、助けられない。
一言一句、エヌラス=ブラッドソウルは宣言通りにユノスダスの一区画ごとアヴェンジャーを消し飛ばした。それは焼きつくされ、凍てつかせて、炎と氷が融け合い、混ざり合った奇妙な破壊の痕を残している。まぁ結局のところ瓦礫すら残さない焼土となっていたのだが。
「……すっご……」
ネプテューヌが呆然と呟く。
「これが、エヌラスさんの全力……」
ネプギアは呆気に取られていた。マジェコンヌが使っていた時とは桁違いの威力を見せるその破壊神の一端に、固唾を飲み込む。
これならば、或いは――あの最強も……そう考えていた矢先に、ユウコがズカズカと肩を揺らしながらエヌラス=ブラッドソウルに大股で歩み寄った。
「ちょっと、エヌラス! キミね――」
そして、口を押さえる。変神を解いたエヌラスが、血の固まった髪をかき上げていた。羽織っていたコートはボロ布のように破れ、黒いシャツも焼け焦げている。その下に覗く肩も、腹も、血に濡れていた。
「あん? なんだよ、消し飛ばすって言ったじゃねぇか」
「――――許可、してない、よ……」
「知るか。人的被害出なかっただけ感謝しやがれ」
ポタポタと落ちる血を見て、エヌラスが口をへの字に曲げる。
「替えの服、持ってねぇんだよな……」
「買えば、いいじゃん……」
胸を抑え苦しそうにするユウコの額に脂汗が滲む。――ソレは、ダメだ。イケナイことだと分かっている――だけど、抗えない。手を伸ばそうとして、ユウコは身体を竦めた。
「金がねぇ。未払金の返済もあるしな、無駄遣いは避けたい」
「それぐらい――出すよ、立て替えとく、からさ……!」
「……ユウコ、我慢すんな」
ボロボロと大粒の涙を零しながら、頭を振る。見るのも、嗅ぐのも駄目だ。臭いを覚えちゃダメだ。エヌラスの血を見て、吸血衝動を必死に抑えこむユウコが息を荒くしながら首を振った。
この人は、こんなにも傷だらけで頑張ったのに自分は更に追い込もうとしている。
ノワール達もフォートクラブを撃退したのか、戻ってきた。そして、ユウコの様子がおかしいことにアルシュベイトとドラグレイスが気づいて走りだす。
「知ってんだろ。今日の俺が絶不調だって。死ぬかもしれんって言ったじゃねぇか」
「死んじゃ、ダメだよ」
「――お前にゃ、苦労ばっかだ。迷惑ばかりだな……」
フラリと傾く身体が、ユウコに預けられた。その首筋から視線が離れない。芳醇な血の香り――。
「だからよ、これぐれぇしかお前にしてやれなくて――ワリィな……ちっと、寝るわ。疲れた……」
「ァ――――――」
頭の中が白く染まる。口を開けて、牙を突き立てようとして――――
突き飛ばされた。尻もちを着いて、その鼻先に大剣が突きつけられる。
意識を失ったエヌラスをアルシュベイトが抱え、ドラグレイスはユウコに剣を向けていた。
「……国民の不安を除け、ユノスダス国王。今はそれどころではない」
《こちらの事後処理は引き受ける。早く行け、ユウコ……》
「……ッ――――」
涙を流し、口元を拭いながらユウコは走り去っていく。それは吸血鬼であることを包み隠さない超人的な速度で。
「ユウコさん、どうしたんですか? 何か、様子が……」
《……吸血衝動だ。アレは吸血鬼でな、ユノスダスが完全非戦闘区域とされている要因でもある。太陽を克服した吸血鬼ではあるが、不完全でな。どうしても性分は抑えられん時がある》
そういえば、と思い出す。ユウコは昼食を用意してくれたが、あまり箸が進んでいなかった。食べているエヌラスを見て一喜一憂、それが彼女の食事。だが吸血鬼と言えど、栄養は必要だ。
《スマンが、預けるぞ。俺は城壁の復旧及び破壊された区画の復興作業に取り掛かる》
「ならば、俺は物資の運搬だ。部下共を使え、アルシュベイト」
《感謝するぞ、ドラグレイス》
「だが、貴様との共闘はそこまでだ。忘れるなよ」
《百も承知。いつなりとも刃を交えよう》
「ちょ、ちょっとアルシュベイト! アナタ、最後まで面倒みなさいよ!」
呼び止めようとするノワールに、アルシュベイトは己の手を見つめ、静かに拳を作る。鋼鉄の肌は痛みもない、感覚がない。
《俺の身体は人を救うために作られていない。俺は、戦うための身体をしている。この腕も、この脚も、戦うためだけの身体だ。この身を盾に、剣を振るう。俺の身体はな、ノワール。人を救うために造られてはいないのだ――》
背を向けて、アルシュベイトは崩れた城壁へと歩き出す。そこは“螺旋砲塔”神銃形態によって綺麗に穿たれていた。いまだ収まらぬ熱と冷気に触れて、異常値を叩き出す残滓にアルシュベイトは笑う。
《一つ取り戻して、コレか、エヌラス……全て取り返したお前に、果たして俺は勝てるかな……否、勝つのだったな。貴様と魂の鎬を削り、その果てに俺は――》
「――ック、ひぐっ……最低、最っ低……わたし……!」
ユウコは教会に戻るなり、部屋に引きこもった。エヌラスは町の一区画を犠牲にしたとは言え、人的被害は誰一人出していない。壊れたものは直せばいい。そうして物資がまた流れていけば人も動く。国が回る、経済的には少し痛手を追うが、活力を得られる。エヌラスはそれを見越していたわけではないが、それによってユノスダスで持て余していた資材がようやく陽の目を見る。
「う、うぅ……あぁぁぁああああ!!」
憎い。自分が憎い。助けてくれたはずの人を殺しそうになった自分が憎い。ああする以外にこの国を救えなかったと知っていながら、殺しそうになった。あれだけの血を流しておきながら、更に血を吸われたら間違いなく死ぬ。そうだと知っていたのに――自分は、危うくエヌラスを……。
覚えてはいけない、思い出してはいけない――その血の臭いを。その血の色を。
「ヒクッ……えぐ……ぐす。仕事、仕事しなきゃ……!」
鼻を啜り、涙を拭い、泣き腫らした目蓋を擦ってユウコは職務に没頭する。
フォートクラブ生産工場制圧作戦は、終わったのだ。ユノスダスの長い一日は終わりを告げる。
長い、長い一日だった――それでもまだ、世界は終わりに向かって回り続ける。