超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ユニが、ムッ、と眉を寄せてエヌラスに詰め寄る。はだけた浴衣から覗く鎖骨とわずかに出来上がる胸の谷間がなんとも艶めかしい。
「黙らないで、教えてください。なんだったんですか、お姉ちゃんからの手紙。アタシに関係あるんじゃないですか? そうじゃなかったら別にいいんですけど」
「えー、と……アクセサリー作る予定があってだな、それの催促だったんだ」
「……」
ユニからの猜疑の視線が突き刺さる。明らかに怪しまれているが、嘘は言っていない。
「そういえば、お姉ちゃんが戻ってきた時やけに上機嫌だったような気がする……」
「そうなのか? そんなに楽しみにされてたら頑張らないとな」
なんとかはぐらかすことに成功。妹に手を出すな、なんてわざわざ手紙を送ってくる辺り、ユニのことを心配しているのだろう。となればそれを自分が裏切るわけにもいかず。
「む~っ」
「ユニ、近い……」
顔を近づけて、ユニが睨んでくる。どうやらまだ疑っているようだ。
「どうしてネプギアはいいのに、アタシはダメなんですか」
「へっ!?」
「いや、俺はそういうつもりじゃ」
「じゃあ、いいじゃないですか。えいっ!」
エヌラスの膝の上に身体を寝転がらせて、ユニが見上げてくる。それを見たネプギアが、後ろから身体を寄せた。浴衣の上から感じるふっくらとした感触に、顔が熱くなる。
「エヌラスさん、なんかいやらしいこと考えてませんか?」
「考えてない。生理現象」
「女性経験豊富なのに、照れるんですね」
「あのなぁ……」
異性との経験豊富、というのは認める。だが、それとこれとでは話が違う。十人十色、同じ相手からのアプローチならばまだしも、異なる相手からの接触は何度経験しても慣れないものだ。特にガードの固い相手からは。
「ネプギアだって、甘えてるのに……」
「もしかして、ユニちゃん。ヤキモチ?」
「な……そん──なわけ……ある、のかな……? エヌラスさんが、お姉ちゃんやネプテューヌさんと一緒にいるのはなんとも思わないのに、ネプギアと一緒にいるって考えると、なんか、胸の辺りがムズムズするっていうか……なんでアタシのこと見てくれないのかなって考えちゃって……」
それは、一般的にヤキモチというやつだ。手を伸ばして、エヌラスの頬を捕まえるとユニが顔を引き寄せる。
頬を膨らませ、目尻をつり上げて睨んでくる顔はノワールそっくりだった。
「アタシの、どこが悪いんですか」
「……ユニはなんも悪くない。本当だ」
「じゃあなんでですか」
「強いて言うなら間が悪い。タイミングの問題だな」
「どのタイミングならいいんですか。エヌラスさんの隣、いっつも誰かいるじゃないですか」
「言い返せなくて情けない俺がいる……」
「えーっと、ほら。ユニちゃん。私は応援してるよ。頑張って」
「はぁ。ネプギアはいいわよね、もうとっくにって感じだし……」
「そ、それに私はユニちゃんがエヌラスさんと、その、ゴニョゴニョ……しても……友達だから! エヌラスさんもですよね!」
「そりゃ、もちろんだが……」
手紙の文面を思い出す。──ノワールと絶交。考えるだけでも、ちょっと立ち直れそうにないくらい心がしんどい。あのツンデレ黒の守護女神と今後一切の交流を断絶されたら……無理だ。エヌラスはちょっと泣きそうになった。
「ど、どうしたんですか?」
「なんでもない……ちょっと自分の情けなさに涙が出てきただけだから、気にしないでくれ」
「沢山怪我はするのに、打たれ弱いところありますよね。ずるいと思います」
気を紛らわせるためにユニの頭を撫でていると、ネプギアが頬ずりをしてくる。なんというか、犬と猫を同時に相手している気分だった。
そこへ、後片付けを終えた剣姫が戻ってくる。二人が慌てて離れようとして体勢を崩した。
「ん? どうした? 団らん中だったか。邪魔をしてすまんな。布団を敷くまで失礼するぞ」
「い、いえそこまでしていただかなくても!」
「何を言う。おれの勝手で招いた客人だ。存分にくつろいでいろ。よいせっ」
押し入れを開けて、来客用の布団を広げる。丹念にシワを伸ばし、綺麗に掛け布団まで敷くと、そこで剣姫が腕を組んで考え込む。
「ふーむ……」
「どうかしたんですか?」
「……いや、流石に一つでは狭いかと思ってな」
「当たり前ですよね!?」
「そうだな。やはり二つ並べるべきか」
「三つ! 三つでお願いします! 一人ひとつで!」
「なんだ、おれの分はないのか。まぁかまわんが」
「ちょい待て」
エヌラスは聞き逃さなかった。押し入れから新たに布団を取り出す剣姫に声を掛ける。
「まさかとは思うが、お前もここで寝るとか言うなよ?」
「案ずるな。アルシュベイトには話を通してある。昨日な」
「用意がいいなぁお前!」
「というわけで布団三人前だな」
川の字に布団を並べて、剣姫は満足げにしていた。どうやら今日は気合を入れて布団を敷いたらしい。しかし、なんともまぁ家庭的な守護女神がいたものだとネプギアとユニも驚いていた。
「御姫さん、とっても家庭的なんですね。夕飯もすごく美味しかったです」
「うむ、良きに計らえ」
「いつもご自分で料理を?」
「いいや? いつもは厨房にいる者に任せている。おれが作るのは気が向いた時だ。アレが作りたい、これを作りたいと思った時や、街で野菜を貰ってから献立を考えたときなどだな。今回は特別に女神の加護も隠し味に入れてやった」
「そんな調味料みたいなことを!?」
鍋を食べてから、どおりで何か妙に身体が軽いと思った。
「どんな風に入れたんですか?」
「どう? どうって、こう……「美味しくなーれ」的な感じで?」
「そんな簡単に入れられるものなんですか!?」
ろくろを回すように再現してみせるが、そんな簡単に振り撒けるものなのだろうか?
ネプギアが自分の両手を見つめて、エヌラスに視線を移す。
「えっと……げ……」
「げ?」
「元気になーれっ」
顔を真赤にしながらプルプルと小刻みに肩を震わせて両手を突き出していた。顔がにやけてしまうのを必死に堪らえようとはしたが、その愛くるしさに負ける。口を手で隠しながらエヌラスは表情を繕おうとするが、一周回って笑いが込み上げてきた。
「も、もぉー! 笑うなんてひどいです、エヌラスさん! 私、怒っちゃいますよ!」
「いや、すまん……ほんとごめん……あまりにもかわいくて」
「エヌラス。元気になったか?」
「めっちゃ元気出たわ」
「下の方か?」
「御姫おんどりゃあぁぁぁっ!!」
「はんっ、百年早いわ!」
飛びかかるエヌラスを避けて、布団に叩きつける。柔術で動きを封じながら、そのまま馬乗りになると得意げな顔で鼻を鳴らしていた。一瞬ながら激しい動きに、浴衣がお互いに着崩れている。
「で、どうなんだ実際のところは? ん?」
「花も恥じらう女神候補生がいるんだからほんっとやめろよお前!?」
「何を言う、俺とて恥じらう時はある」
「例えば」
「……厠?」
「そんなん俺でも恥ずかしいわ! 特殊性癖かなんかでもなけりゃ無理だよ!」
「……で、でもエヌラスさん。私の、見たことありますよね」
「三年前(episode9)の俺をぶち転がしたい」
ユニが凄い形相で睨んできていた。怒りのあまり髪が逆立っている。
「それも、外で……」
「なんでそこまで事細かく覚えているんだ、むしろなんで思い出してるんだネプギア!?」
「だって私、死ぬほど恥ずかしかったんですよ!?」
「時効って使えないか?」
「無理だな」
剣姫にマウントを取られたままのエヌラスを、二人が見下ろしていた。
「ネプギア。他に変なことされてない?」
「えっとあとは……」
「待ってやめて。思い出さないで、頼むから!」
「お風呂で、とか……」
「……」
ユニからの視線が痛い。心臓に突き刺さるようだ。それにはさすがの剣姫も目を伏せている。
「お前というやつは、いくらなんでも節操がなさすぎるのではないか? 愛を育むことを止めやしないが、場所を考えたらどうだ」
「今後状況改善に努めたいと思うのでコレ以上はもうやめてくれ……」
「そうまでいうなら仕方ない」
「っていうかお前はいい加減に降りろ、重い」
「健康的だろう?」
にやりと笑って、剣姫は身体を倒した。のしかかる相手の体重に、エヌラスは目頭を押さえてから頭に手を置いて髪を梳くように撫でる。胸板に頭を預けて、じゃれつく姿は年相応の少女のようだった。
「俺はもう疲れたから寝たいんだが……」
「夜伽は無しか?」
「ぶん殴るぞテメェ……!」
「ふふ、冗談だ。さて、そうと決まれば灯りを消して床に就いてしまおう。そら、二人も布団に入るといい」
ぽん、ぽん、と。剣姫は両隣に敷いた布団を叩く。ネプギアとユニが身体を横にして、消灯するとエヌラスの布団に剣姫が潜り込んできた。それに二人が何か言いたげにしていたので手を伸ばして頭を撫でておく。
「それじゃあ、おやすみ。エヌラス」
「……んー」
早くも眠りに落ちていくエヌラスの寝付きの良さに微笑を浮かべて添い寝する。
ネプギアは差し出された手を取り、頬を寄せてから目蓋を閉じる。
ユニもまた、手に触れてから頭を預けた。
「ユニちゃん」
「なぁに、ネプギア」
「おやすみなさい」
「うん。おやすみ……」
「なんだかこういう、お泊り会みたいなの。今度はロムちゃんとラムちゃんも連れてみんなで出来たらいいね」
「そうね。きっと楽しいわよ」
「アゴウに来るなら、いつでもおれは歓迎するぞ」
「その時はまた、よろしくお願いします。御姫さん」
「うむ。苦しゅうない」
剣姫は眠たげな声で、すぐに安らかな寝息を立て始めている。
今だけは、この平和を心の底から永遠に続けばいいのにと、そう願う。
──翌朝。部屋に差し込む朝日の眩しさにエヌラスが目蓋をきつく閉じて、布団にくるまろうとしたが、不思議なことに身体が動かない。まるで重石でも乗せられているような……。
目を開けてみると、身体にのしかかる剣姫は猫のようにすぅすぅと眠りこけている。左右を見渡せば、ぴったりと身体を寄せて眠っているネプギアとユニが片腕ずつを枕にしていた。
幸福な拘束感に、深く息を吸い込んで吐き出す。
「……御姫、起きろ」
「む、起きてるぞ?」
「だったら降りろテメェ……」
「断る。いいだろう、おれとて人の温もりに触れていたい時はある」
「…………二人が起きるまでだからな」
「助かる」
剣姫の周りに、人間と呼べる相手はほとんどいない。今となっては、そのほとんどが機人となっている。そうさせたのは他でもない自分だ。
「エヌラス。寝言だ、聞き流せ。お前は負い目に感じているだろうが、胸を張れ。それは正しかったのだと。アゴウのあるべき姿なんだと」
「……」
「だからな。お前は、おれを置いていくなよ」
「……当たり前だろうが」
「聞き流せと言っただろう?」
ぺちん、と。指で額を小突かれる。エヌラスが身体を起こすと、剣姫が体勢を崩した。枕にしていた腕を取り上げられてネプギアとユニも目を覚ます。
寝ぼけ眼で身体を起こした二人が大きく身体を伸ばして欠伸をしていた。
「……むにゃ……おはよ~ございます、エヌラスさん、御姫さん……」
「ん……んー……」
「ああ、おは──」
エヌラスが硬まる。首を傾げる二人だが、浴衣のまま布団に入ったもので着崩れていた。帯は緩み、胸元はだらしなく開き、太ももの際どいラインまで裾が上がってしまっている。それに気づかれる前に顔を背けた。
「二人とも、胸が見えているぞ」
「へっ──」
「えっ……」
「うむ、役得だな。なぁエヌラス?」
「俺にそこで話を振るんじゃねぇよ!?」
──その後エヌラスがどんな目に遭ったかは言うまでもなく。