超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──プラネテューヌ。
女神の転換期を迎えることとなった超次元では、その対策チームの設立などで各国の空気が緊張感漂うものとなっていた。その対策を唯一怠っている国といえば、他ならぬプラネテューヌ。その守護女神パープルハートこと、主人公オブ主人公。ネプテューヌである。教祖であるイストワールの苦労たるや尋常ではない。しかし、それでも周囲の人々は精力的に動いている。
例えば、諜報員であるアイエフ。それらしい記事や風評をチェックしては情報の裏を取って行動を起こしていた。
例えば、面倒を見ているミリオンアーサー。出不精なネプテューヌと違い、街の人々と交流しながらもモンスター退治などで活躍するのを耳にすることが増えた。
例えば──守護女神近衛機兵団。国境警備隊であるレオルドを筆頭にした、武装した採掘作業用ロボット達。
《御用改めである!!!》
《神妙にお縄につけーい!》
《さもなくば貴様の個人情報をSNSに違法アップロードしてやる!》
「あんたらがお縄につかんかぁ!!!」
一部の者達はアイエフの指揮下に入り、その仕事のサポート。決して足を引っ張っているわけではない。断じて否である。
《こちらツキカゲ、現在犯人を追跡中。対象は車両に乗り込んで逃亡中だ》
《了解、こちら強襲班! 追跡開始! かっ飛ばしていくぞ!》
それと同時に、多方面で展開されている部隊と連携を取りながら相手を逃さない。その連携プレーには諜報部も目を見張っていた。
その部隊とはまた別に、レオルドの率いる部隊は通常業務。街の見回りと、国境付近の警備。今ではすっかり顔馴染みだ。
──軍事大国リーンボックスの抱える一大軍事企業、アームドソウルス。武装企業と呼ばれるだけあり、本社だけでなく支社や支部を含めていずれも要塞じみた会社を抱えている。その社長であるプレジレントが引き起こしたハァド大戦の傷も癒えてきた。一時は傾いた業績も、終戦してからの手早いアフターケアによって倒産は免れている。現在は社長代理として秘書官を務めていたキャロラインが社員であるロボット達を統率していた。
強襲班である足の速さを活かして、軽量機であるツキカゲは脚部のローラーから火花を散らしながらアスファルトを駆け抜ける。目の前を走る車両を追跡していたが、不意に足を止めた。
追跡を中断されたことに犯人グループはホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、横から飛び出してきたホバー型脚部のバズが加速装置を起動させて並走してくる。時速八十キロ。余裕綽々でサムズアップしてみせると、背面に背負った武装パックからライフルを手にした。
《三秒数える間に車を停止させなきゃ、おっかないジェットコースターにご招待だ!》
『ひぇぇぇ!』
あえなく停車となった犯行グループを確保し、ツキカゲとバズは手を叩く。
《こちら強襲班。犯人を確保しました》
《お疲れ様、二人とも。じゃあ次のポイントを指示するから、それまでそいつらを逃さないように見張ってて》
《了解しました、アイエフさん。待機します》
そして、二人が並んで周囲を見渡す。それからしばらくして、プラネ警備隊が駆けつけた。
「お疲れ様です、機兵団のお二方」
「いやしかし、お見事ですね」
《大したことじゃあ。な、バズ》
《俺の速さの賜物だな》
《調子乗りやがって。それとこいつら法定速度ぶっちぎってたので、減点させといてください》
バズも飛ばしていたが、そこはそれ。見逃してもらう前提である。そもそも車両ではないのでノーカン。お縄につくこととなった犯行グループを引き渡し、アイエフからの通信を待っていた。
そこへ、ちょうど仕事を終えて戻ってきたディルがやってくる。中量機でありながら重量級の装甲を持つ丸みを帯びたフォルムの機体は、ずんぐりとした腕を振っていた。
《おう、二人とも。おつかれさん》
《おつかれ、ディルさん》
《そっちは?》
《ゴミ収集のバイト中だ。ほら》
親指で道路を指し示すと、青い車両が向かってきている。フリーの日にはプラネテューヌのために働いているのは全員同じだ。
重火力武装を得意としているが、現在は武装パックを背負っていない。
《しかし、アンタがそんな仕事をしているなんてな》
《仕事の都合上、中々入れないが。俺は好きだぞ》
《……》
顎に手をやり、バズはその場に浮遊しながらディルの顔色を眺めている。そんな素振りなど今まで見せていなかったはずだが、なにか怪しい。
《今日は何のゴミの日だ?》
《そりゃあ、資源ごみの日だ》
《……あんたまさか、捨てられるビニ本を期待してこの仕事してないよな?》
《…………………………………ははは、まっさかー》
《おい、今の間はなんだ!? 逃げるな! おいこら! どこに行く!!》
これでも重火力班の中では最上位戦績保持者として、特務班の一人である。頭を抱えながら、ツキカゲはバズの肩を叩いた。
《俺たちはせめて、真面目に仕事しようぜ……》
《そうだな》
変態上司は一人で十分だ。重火力班とは別部門で良かった。
──特務強襲班、最上位戦績保有者であるセインはもういない。極めつけの変態だった。オペレーターのシャンプーを飲んだり、一秒間に十六回屈伸運動して関節のアクチュエーター焼き切らしたり、深夜の倉庫街に忍び込んで「洋画クライマックスシーンあるある劇場」で警察のお世話になったりと、とにかくやることなすこと大迷惑。だが、そのくせエネルギー刃を保有した刀の扱い、守護女神に対する敬意、その実力だけならば最高司令官と互角なのではないかとさえ思われた。
だが、もういない。漆黒の機体カラーに、緑のラインを一本入れた特注の機体色「グリーンライン」のセインは国境警備隊の予算を食い潰して陰謀を阻止しようとしたが、最高司令官その人の手によって撃墜されている。彼らの同期であるグラーフもまた。
《…………》
『ちょっと、聞いてるの? もしもーし』
《ああ、すいません。何か?》
『次のポイント。マーキングしておくわ。今日はこれで最後よ』
《ツキカゲ、了解》
《バズ、了解しました》
国境警備隊最高司令官、シロトラ。女神信仰の狂信者、ハァドラインとしての矜持を全うした戦機は、現在行方不明。最後に見たのは、武装企業と共に最前線へ赴いて戦線を壊滅させた時だ。味方ではなく、敵として。
その場にいた全員と交戦しておきながら、無傷で勝利を勝ち取り、戦友を奪っていった。だが、無駄死にではない。グラーフはその僅かな交戦時間において戦闘データを本部に送信し続けていた。無敗の戦機から、勝利を奪い取る為に。
そのために今、守護女神近衛機兵団はプラネテューヌの為に尽くしている。
守護女神の天敵であるシロトラから、女神パープルハートを守る為に。
国境警備隊としての矜持を誇るために。
ツキカゲとバズは拳を突き合わせて、言葉もなく次のポイントへ向けて走り出した。
──女神の転換期を迎えても、変わらない市民の生活がある。
かつて女神達と敵対していたナス農家、マジェコンヌもその一人だった。本日も晴天なり、いつもの店に、何時も通りにナスを仕入れたその帰り道。
すれ違う道路にロボットが多いのも、まぁ見慣れた光景だ。
「……ふん」
戦いから遠ざかり、随分と懐かしいような気がする。居心地の悪さを感じ、マジェコンヌは大通りに背を向けて遠ざかるように路地裏へ入っていった。
陰鬱とした雰囲気の路地裏は日当たりが悪く、あまり心地よい気分にはなれない。だが、そこに懐かしさのようなものを感じる。帽子を目深にかぶりながら、自分にこれでいいんだと言い聞かせながら歩いていた。
ハァド大戦と呼ばれるハァドラインによる戦争の時、自分は農地が戦火に見舞われないか不安でいっぱいだった。だが、その中で耳にしたのは女神ブラックハートが邪神に遅れを取ったという噂話。女神パープルハートと女神ホワイトハートが別次元の者達と協力して挑み、辛うじて勝利したという噂。華やかさの裏に、暗雲のようなものが立ち込めていた。
「…………ちっ」
忌々しい。ああ、忌々しい、憎らしい。私ならばもっと上手くやれたのだと、私ならばこの世界を手中に収めることが出来るだのと、燻る思いがあった。
マジェコンヌは帽子を目深にしていたせいで気づくのが遅れる。彼女が通ろうとしていた路地裏のゴミ集荷所に乱暴に積み上げられているゴミ袋の山に、ぽつんと一つだけ投げ置かれているゲーム機があった。
一度は無視して通り過ぎようとしたが、気になったので引き返す。
「……? なんだこいつは。見たことのない機種だな」
白い立方体。本体に接続するべきケーブルなどはなく、だが接続端子はある。となると、元の持ち主が紛失したか、或いは遊ばなくなったことで廃棄したかのどちらかだ。
マジェコンヌはそのゲーム機を隅々まで見つめる。本体の上面には、ぐるぐる巻きのマークが描かれていた。それが、何故か妙に懐かしく感じる──。
「…………ていっ」
ポチッとな。
何故か、自然と指が動いていた。
本体の電源ボタンと思わしき場所を押したマジェコンヌだったが、当然ながら電源の供給されていないゲーム機が動くはずもなく……ぐるぐるマークのゲーム機は沈黙を貫いていた。
自分の行動がおかしくなって、鼻で笑う。
「私は一体何をしているんだ……」
ボタンから指を離して、元のゴミ捨て場に投げおこうかと思った次の瞬間、ゲーム機から光が発せられた。それは渦を巻き、吸い込まれるようにマジェコンヌの身体は引き寄せられていく。手を離し、その場に落としてもまだ吸引力は衰えない。
「なに、くそ……なんだというのだ、いったいこれは──!!」
やがて、謎の光の中へと吸い込まれてマジェコンヌの姿が路地裏から消える。
──命に別状はないようだ。まぶたを開けて、ふらつく頭を押さえて立ち上がる。
周囲の景色を見て、言葉を失った。自分はプラネテューヌの路地裏にいたはずだ。そのはずなのに、廃墟の町並みに放り出されている。経年劣化、人が立ち去って幾久しい様子にマジェコンヌはその場から慌てて駆け出した。
どこか見晴らしの良い場所に──!
「……これは、どういうことだ」
やがて、倒れたビルを見つけて駆け上がった先では──プラネテューヌが滅んでいた。いや、そもそもここがそうなのかどうかも定かではない。ただ、滅んでいた。何もかもが消え去っていた。
自分が願ってやまなかった世界の終焉。終わりを迎えた世界に一人放り出されて、どうしてか笑いがこみ上げてきた。
何の夢だ。何の冗談だ。なんだというんだ、いったい。こんなものを見せて、どうするつもりだと言うのか。
ひとしきり高笑いを終えてから、マジェコンヌは冷静に考える。果たして自分はこの先どうするべきだろうか、と。
しかし、背後からの気配と足音に杖を召喚するとその場から飛び退きながら構える。
そこにいたのは、女神ではなかった。この世界の住民でもない。モンスターですらなかった。片割れはどうだかわからないが。
「ほう……散歩がてら、笑い声に導かれて来てみれば、なるほどこれは、面白い拾い物だ」
「なんだ、貴様は?」
「それはこちらの台詞だ」
隣の魔獣が唸り声を挙げ、犬歯をむき出しに威嚇しているのを片手で制する。それに頭を寄せて半歩引き下がった。
「よもや、こんな世界で客人と出会うことになるとは。たまには動いてみるものだ」
「ここはどこだ」
「さて。どこか、と聞かれてもな。私も知らん。強いて答えるならば──信仰なき世界とだけ」
「なに? ではこの世界に、守護女神は存在しないということか?」
「だから滅んだ。ちっぽけな世界だ。いいや、そもそも最初から滅んでいたのかもしれないな」
言っていることの前後がメチャクチャだ。卵が先か、鶏が先か。だが、そのどちらでも無い。
マジェコンヌは、バイザーで目元を隠している黒い女騎士に警戒心を解かぬまま尋ねた。
「貴様、名前は」
「語る名を持ち合わせていない。所詮姿形だけを借りた空っぽの騎士だ。それでも我が名を尋ねるならば答えよう。私は、オルタだ」
ちら、と視線で隣の魔獣を見やる。
オルタが敵意を見せないのを感じ取ったのか、威嚇するのを止めてその場に座り込む。
現れたその一人と一匹からマジェコンヌは目聡く感じる物があった。それは、女神のシェアエナジーとはまた別物の波長。雰囲気、或いは纏う空気。アンチエナジーないし、ネガティヴエナジーのようなもの。つまりは自分のようなつまはじき者にとって、嗅ぎ慣れた匂いだ。
「私はマジェコンヌ。どうも貴様はこの世界の住人ではないようだが」
「ああ、いかにも。私も、こいつも。とある者に協力して此処にいる。正確には、此処とは異なる場所だが」
「何のために」
マジェコンヌの問いに、オルタは端正な口元を笑みで歪める。
「世界を、終わらせるために。何者にも望まれぬ終焉の呼び水が我々だ。その引き金となるのは私達のクライアントだ。興味があるのならば──共に来るか、マジェコンヌとやら」