超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ユノスダス教会の会議室。沈黙する神格者一同、目の前に置かれた飲み物には一口もつけず、ただ黙して語らず。
壁際で正座させられているエヌラスの説教を、笑いを堪えながら耐え忍んでいた。
「……なんで絶対に笑ってはいけないユノスダス教会が始まってるんだ?」
「しゃべるなクソメガネ、口元が緩む」
ひととおり言いたいことを言い終えてスッキリしたのか、ユウコが席に着く。エヌラスの椅子は無かった。アルシュベイトと一緒に壁際で立たされている。
《災難だったな》
「俺のせいじゃねぇのに……」
どうやら相当こっぴどく叱られたようだ。すっかり落ち込んでいるエヌラスの肩を軽く叩く。
暴動の原因は、祭りの活気に当てられて起きたものもあるがそれに乗じた窃盗などだ。エヌラスが現場に到着した頃には既に乱闘騒ぎになっており、それを収める為に実力行使した。ということなのだが、その場にいた全員を病院送りにしたことがユウコの怒りを買ったらしい。いずれも軽傷で済ませているが意識不明状態だ。エヌラス曰く、数時間から三日も経てば目を覚ますらしい。そんな器用な真似が出来るのなら、もっと他にあっただろうに。
「はい、じゃあそこのバカは反省するように。それじゃ」
「第ン回だか忘れたがとりあえず国王集まって今後の方針会議ー」
「大魔導師、雰囲気諸々ぶち壊しだぞ」
「脳細胞でも壊れた?」
「かえれー」
「やかましいぞ姦しいの」
ユウコ、剣姫、ムルフェストの三人が顔を見合わせてから、眉をつり上げて大魔導師を睨む。しかし相手はどこ吹く風と微笑を浮かべている。
「まずは現状をまとめるとするか。クソメガネ、こういうのは貴様の仕事だろう。任せる」
「いつか見てろよ大魔導師こんちくしょう……! えー、まぁそういうわけなので。コホン」
咳払いをひとつ。話を区切ってから、ソラは手元にタブレット端末を転送させる。それから、画面をいくつか操作してアダルトゲイムギョウ界とゲイムギョウ界の地図を映し出した。指示棒を取り出し、先端のキャップ端子で地図を指しながら動かしていく。
「まず、僕らのアダルトゲイムギョウ界。向こうとの移動手段はユノスダス教会に設置された次元間テレポーター。これを破壊された場合、大魔導師とエヌラスを除いた神格者はゲイムギョウ界への援護に向かうことが不可能になる。向こうに居た場合は、帰ってこれなくなる」
「まずは最重要事項のひとつとして挙げられるな。そのため、今後はユノスダスの警備も増員していくつもりだ」
軍事国家アゴウではすでにその為にフォートクラブの生産増強と機人警備部隊の編成を急いでいるようだ。
「インタースカイの方でも観測データは常に収集してる。何か異常があればすぐに知らせるよ。邪神が出現した場合はその観測値に異常が出るからね」
「ま、その観測データはこちらで用意したものなんだがな」
「はいはいそうですね、ありがとうございます! 話の腰を折るな! それで、次。ゲイムギョウ界では現在、女神の転換期というものを迎えているらしいです」
「ふむ? なんだそれは」
「僕も詳細は知りませんが、とりあえず女神様にとってはあまり好ましくない時期であるとだけ」
「ふーむ……」
《それはつまり、我々にとってどのような影響があるのだ。ソラ》
「女神様に対してこちらが接触するのは喜ばしくないってことかな。あちらもイレギュラーな対応は増やしたくないだろうし。な、エヌラス」
「角膜剥がれろテメェ」
相変わらず他人に対する暴言のボキャブラリーが途絶えない男である。ソラは嫌味のひとつを言いながら、指示棒で各国を指し示していく。メガネを直しつつ。
「ユノスダスからのアクセス経由で、現在はプラネテューヌ。ラステイション。ルウィー。リーンボックスの教会に同様のポーターを設置してます。その権限は各国教祖様方に委託してあるので、許可がなければアクセス遮断、利用不可。こちらからだと、今はユウコだけかな」
「ちゃんと肌身離さず持ってますよーだ」
「それはよかった。要は、正規の方法での利用はユウコと教祖様の許可が必要になるってこと」
その人数制限、ならびに利用制限なども細かく用意されているが割愛。物資の運送などには現状滞りはない。
「ま、誰かさんが人に無茶な突貫工事させて一度に百人とか大隊規模の転送を要請しなければ。よほどのことでもない限りは大丈夫だと思うけどね」
「うむ、お前なら出来ると思っていたぞ、ソラ」
「ちっくしょー、欠片も悪びれねーのが手に負えない」
人がどれだけあの時苦労したのか報告書三十枚にまとめて送りつけてやろうか。びっしりと文面に総消費電力とインタースカイにおける人件費の請求も兼ねて。でもどうせ全部読んでからきっちりその補填とか賠償金とか諸々用意してドヤ顔で言うんだろうな。「コレで満足だな!」って。僕は知ってるぞぉ、君はそういう女神なんだって。そしてアルシュベイトが影で予算案とにらめっこしながら泣く泣く始末する羽目になるんだ。やめとこう、うん。
「ま、そんなわけで。あちらのポータルも最重要事項の一つ。まずはこんなところ?」
「ああ。さて、次に邪神関連の話だ。先程のクソメガネの解説を念頭に置いた上で話を進める」
「人に解説やらせといてクソメガネ呼ばわりとか、ほんとアンタの人格を疑うよ」
ソラに代わり、大魔導師が立ち上がる。
「現在、我々の共通の敵として邪神ヌルズ・エクス・モルテスが挙げられる。そして、その配下と思わしき魔人も女神達から確認されている」
プラネテューヌに現れたパープルシスターに酷似した魔神、クロギア。
そして、ミリオンアーサーを凌ぐ剣技のオルタ。
「これで全員とは考え難いがな。ところで今日見た夢の話を聞きたいか?」
「いや関係ないだろ。話を進めてくれ、大魔導師」
「クソメガネは興味ないか。ならいい」
脱線しそうになった話を戻し、大魔導師は指を立てる。
「まずひとつ。アイツを倒さない事には話が進まない。倒す手前まで追い込みはしたが、最後の最後で取り逃がしてしまってな」
その言葉にエヌラスが不快な反応をした。
ハァド大戦の最中、単身でリーンボックスからラステイションを経由してルウィーにまで攻め込んできた邪神。ヌルズ・エクス・モルテスを取り逃がしたのは、“銀の鍵”まで解放した自分だ。パープルハートとホワイトハートの助力もあったというのに、不甲斐ない。
「それで奴は?」
「さぁな。所在が知れればこちらから攻め入ることも一つの手ではあるが、生憎と」
わざとらしく肩をすくめてみせる。大魔導師は、その特異な戦闘能力を発揮するためには条件がある。犯罪国家九龍アマルガムの領内でなければならない。国外での戦闘は時間経過によって徐々に全力から程遠くなっていく。
「次に、だ。キンジ塔についてだが」
神格者達の間に、緊張の糸が張り詰める。言葉にも表情にも出していないが、会議室の空気が一気に重力感を持った。息が詰まる殺気と威圧感に、用意されていた飲み物の表面が揺らめく。
しかし、大魔導師は相変わらず軽薄な様子で話を進めていった。
「あらゆる文献。あらゆる史書。あらゆる痕跡を探してみてはいたが、塔争という概念そのものは現在のアダルトゲイムギョウ界に存在しない。故に、今我々が争う理由はどこにもない」
「おれにはあるがな」
「好きにしろ。それについては、私から強制することなど何もない。ただし──」
後にも先にも。こんな奇跡のような状況は決して起こりえない。最初で最後の共闘になる。
「私達の敗北に、“次”はないぞ」
重苦しい沈黙に包まれ、静まり返る。
次。そう、次など無い。記憶を持ったままの“
「事の重大さを鑑みた上で、ゲイムギョウ界の女神達とは協定を結んでいる。そうだな、御姫」
「然り。特にリーンボックスだ」
「ああそれと、そこのバカはもうひとつのゲイムギョウ界もだったな?」
「大問題起こして、おいそれと顔は出せねぇけどな」
エヌラスがそっぽを向く。ソラもそれには手を貸した手前、あまり口を出せる立場でもない。
もう一つのゲイムギョウ界。神次元では、女神メモリーのエラーコードの塊であるパンドラ・イルバードの治める新国家リギホウテンを問答無用で破壊した。それは周囲から見れば侵略行為に他ならず、結果としてエヌラスは国際指名手配犯という扱いになっている。ソラは、その悪評もそう長くは続かないと思いたかった。
超次元経由であれば、イストワールの助力次第ではアクセス可能だ。壊次元から直通の場合、ソラの手を借りれば不可能ではない。
「我々のいるアダルトゲイムギョウ界。そして二つのゲイムギョウ界。いやまったく、驚くべきことに三つの次元世界が邪神の脅威に晒されているわけだ。そして、その全ての裏で糸を引いているものこそが──」
「次元神、セロン。というわけか。おれもあいつは好ましくない。ああ忌々しい奴だ」
ふん、と鼻を鳴らして剣姫は腕を組んでみせた。
全ての元凶。次元の管理者。箱庭の監視者にして、世界のルールを作り上げた張本人。あらゆる次元世界の観測手でありながら、その立場を常に一定に保ち続けている。
「アンタもその一人だろうに」
「さて、何のことだろうな?」
「とぼけるなよ、大魔導師。エヌラスだけじゃない。今の僕達がこうまでなったのは、アンタの計画だった次元連結装置が発端だ」
「なんだ、まだ覚えていたのか」
「記憶力は悪くないつもりだよ。この際謝罪は後回しだ。ひとつだけ答えてくれ、大魔導師」
「言ってみろ、クソメガネ」
「アンタ、どっからどこまでお見通しだ? 此処まで全部、掌の上とは言わないだろうな」
次元連結装置──それは、塔争という概念を覆すための計画。次元神の座標へ繋がるキンジ塔から発信することで異なる次元との邂逅を試みようとしたものだ。だが、それも最後は失敗に終わっている。大魔導師の共犯者であるクロックサイコに焚き付けられたエヌラスが計画の最終段階に置いて破壊したからだ。
不完全な次元連結。その共振作用によってゲイムギョウ界も一度は大災害に見舞われた。しかしそれもリセットによって全てが無かったことにされている──それを記憶しているのは、ソラだけだ。あの時、唯一ゲイムギョウ界に立ち寄った存在。
「エヌラスが女神と共闘するのも。邪神狩りを始めたのも。僕達が今、こうして席を共にしているのも。世界の危機に立ち向かおうとしているのも、全部最初から計画の内なんじゃないだろうな」
「そうだとしたら?」
「……もし、そうだとするなら。僕は降りる。今後協力はしないし、出来ない」
「そうか。それは大変に困るな」
「だったら」
「答えは一つだ。そこにいるバカが、私の計画の全部だよ」
立ったまま目を閉じていたエヌラスが片目を開けると、大魔導師の金の瞳と目が合った。
魔人鍛造──。箱庭の世界を破壊する為に。セロンの予知しない存在、観測できない存在を作り上げることでアダルトゲイムギョウ界で繰り返される塔争の概念を破壊しようとしたことこそが大魔導師の計画の全てだ。
「永劫回帰──いや、無限ループと言っていいな。セロンの作り上げたそのルールを破壊する為だけだ。私の計画はそれだけだ。それ以外は、いいや何も関与していない。この奇跡のような状況も何もかも全ては、エヌラスの独断だ」
「何のためにそんな計画を建てた、大魔導師」
「聞きたいか? 聡い貴様のことだ、勘付いているとは思うがな。それでも知りたければ答えてやろう」
大魔導師は鼻で笑い、ソラを見下ろす。いつもの調子で、淡々と冷酷に告げる。
「暇潰しだ。私はこの世界に飽きた。閉じられた次元に飽いたのだ。全てが既知の輪廻の只中であるというのなら、私の可能性は全て枯渇した。全盛であり続ける事に退屈を感じているよ。
この退屈を紛らわせるためであれば、どんな手段にも興じよう。私にとって、道理も論理も倫理も人理も、その全ては意味を成さないのだから」
「然り。お前ならそう言うだろうと思っていたぞ、大魔導師。だからこそおれは、お前と同じ天を仰ぎ見ることだけは叶わん」
剣姫が静かに、だが確かな敵意と侮蔑を込めて口を挟んだ。
己の私利私欲の為に全てを浪費する国王とは決して相容れない。
「お前だけは、あの不届き者を成敗した後で決着をつける必要があるな。大魔導師」
「それまでにお互い生き残っていられれば、承ろう。アゴウの守護女神、剣姫」
視線が火花を散らし、だがそれだけで収めた。
「私はなにも一致団結して事に臨め──などと、絵空事は言おうとしているわけではない」
「ほう?」
「それぞれが最善を尽くせ。それだけだ。元より我々に共闘などと期待されても困るからな」
「まったくだ。アンタに背中預けたらズドンとやられそうだし」
「私はやるぞ?」
「僕は有言実行しろなんて一言も言ってないからな!?」
「あとメガネ割りたくなるな」
「アンタさては僕のこと嫌いだろ!? いや僕もアンタのことは嫌いだけどさ!」
──重要な話はここまでだ。要点をまとめてしまえば、三つのゲイムギョウ界を邪神の脅威から守り抜く。そして、ヌルズ・エクス・モルテスを倒してハッピーエンドだ。
「…………」
《どうした、エヌラス。嬉しそうな顔をして》
「あぁ、いや。なに……大したことじゃない」
ソラと大魔導師が口論を繰り広げ、それに剣姫も交ざる。それを面白がってムルフェストも横から茶々を入れて収拾がつかなくなってきた。ユウコがそれに頭を悩ませている。
「本当に、大したことじゃねぇんだけどよ……こんな平和な時間、久しぶりだなと」
《お前が騒ぎを起こさなければな》
「なんだとアルシュベイト、テメェこの野郎」
《ハッハッハ、まぁ許せ。会議はここいらでお開きとしようではないか》
アルシュベイトの一言に、取っ組み合い寸前まで身を乗り出していた剣姫達が咳払いを挟んで解散となった。