超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
episode53 仕事に懸ける情熱は給料分
――破壊されたユノスダスの一区画には幸いこれといった重要施設は存在しなかったものの、そこは居住区も兼ねており、住む家を失った人々は当面の生活を宿で過ごすこととなる。その生活保護の為にある程度の生活費用免除というユウコの計らいで不満は解消されたが、やはりそれでもエヌラスに対する不信感は拭えない。
連日の戦闘、切り札の連続使用、更には体調不良からの最大火力。魔力の制御にいくつかの失敗を残してエヌラスは気絶した。その意識はユノスダス中央病院に担ぎ込まれてから、まだ戻っていない。
そんな無理も無茶も無謀も分かっていたのに、エヌラスはフォートクラブ生産工場制圧作戦並びに魔導生命体アヴェンジャーの破壊を成功させた。その代償に己の身体を犠牲にして。だが、珍しくもないことだ。誰かを守る時に自分の命を投げ出すことは、眠っている男にとって“普通”なのだから。
「エヌラス、まだ意識が戻ってないんだって?」
「もうあれから三日よ? 怪我も治ったんでしょ……」
ネプテューヌ達が様子を見に来るも、エヌラスは病院のベッドで横たわったまま意識が戻る様子はない。驚異的な回復速度も病院の医者からすれば慣れたものらしく、唾つけておきゃ治るとまでは言わなかったが『一週間もすれば目を覚ますでしょう』と、若干投げやり気味に言っていた。だが、それとこれでは話が別問題だ。今も輸血と点滴に繋がれてエヌラスは目を覚まさない。
詳細を尋ねれば、どうやら全身の魔術回路の暴走と過労が原因らしい。それによる毛細血管の過負荷が出血多量とその他の怪我を引き起こしたとは医者の話。
『彼、ろくに寝てなかったんじゃないかな? 身体の不調そのものはだいぶ前からのようだし、そんな状態から徹夜で魔法の制御なんて命の綱渡りも当然だよ。まぁ、お大事に』
担当した医者はエヌラスのことをよく知っているらしく、病院に担ぎ込まれた時も驚くどころか呆れていた。それはもう、またお前かとでも言うように。
「ちょっとぉ~、心配かなぁ~……」
今はユウコの配慮で宿代“のみ”免除という形で世話になっているが、それでもやはりこのユノスダスにおける基本理念『働かざるもの食うべからず』は曲げるつもりがないのか食費に関しては自分達で稼ぐ他になかった。
「もうこんな時間ね。私はバイトに行かなきゃ……」
「あ、私もお手伝いに行かないと」
「あ~あ、ノワールは喫茶店、ネプギアは電気屋さんでバイトだもんねぇ……私も何かお仕事しないとダメかなー、こっちじゃゲームも出来ないし」
病院の廊下で落ち込みながら歩くネプテューヌの隣を歩くプルルートですら得意の裁縫でぬいぐるみを編んでいる。本人もそれは楽しいのか、つい先日は部屋の中がぬいぐるみだらけになっていた。ついつい夢中になって部屋から抜け出せなくなるほどの量、どうやって材料を用意したのかまでは敢えて聞くまい。
「う~ん、ぷるるんもぬいぐるみで生計立てちゃってるしな~……」
「ノルマ分作っちゃったからぁ、しばらくは楽できそうなんだぁ~」
「……もしかして私だけ手に職つけてない?」
「でも、モンスター退治とかぁねぷちゃん得意そうだし~……そっちで稼いでもいいんじゃないかなぁ~って思うんだぁ」
「変身出来るんだったらちょちょいのパパっとやっちゃうんだけどねー……」
アルシュベイトとドラグレイスという二重の障壁が存在する以上、現時点でその仕事の稼ぎは中々見込めない。そも、傭兵部隊がその仕事の大半を請け負っている以上、ネプテューヌが手助けしても貞操の危険しかまとわりつかなかった。
「ハァイ!! そこな美少女、お困りかね!?」
「ねぷっ!? あ、司会者!」
「ねぷちゃーん、病院では静かにしないと怒られるよぉ~?」
すれ違う看護師達に睨まれて司会者がヘコヘコと頭を下げる。全身包帯まみれではあるが、その身体からはやる気が衰えていない。むしろどうやって生きているのかということと、意地でもサングラスははずさないのかと。
「だったら、うちの番組でアイドルやらない? 大丈夫、夜の営業とか無いから。お昼のバラエティだし、ヘーキヘーキ」
「う~ん……」
「街中食べ歩きインタビューとか、ちょっとしたコメンテーターやってくれるだけでもいいから! ネプテューヌちゃんならアイドルできるよ大丈夫だよ頼むよぉぉぉぉぉ……!!」
「えと、なんでそこまでの執念で私をアイドルデビューさせようとするのか逆に気になるんだけどー」
「実はこの間欠席したゲストさんが思いの外重傷で来週の番組に出るのもきつそうなんだよぉぉぉ……ゴフッ……だからぁぁぁお願いしますぅぅぅ」
「あ、司会者さん! まったくもう、勝手に病室抜け出さないでください。ほらー、血なんて吐いて汚さないでください」
「名刺、名刺だげでぼぉぉぉぉろろろろろろ……!!」
もはや執念で看護師の手からすり抜けて患者服から差し出されたのは、笑えばいいとも番組スタッフの名刺。病室に連れ戻された司会者を冷や汗を流しながら見送ってネプテューヌは病院を後にした。
「――って、いうことなんだけどね。どう思うかな、ノワール」
「アナタね、人のバイト先にまで相談しに来たの?」
「ほらー、こういう時ってやっぱ友達に相談するものじゃん。あ、プリン一つね。もちろんノワールの奢りで」
「嫌に決まってるでしょ。でもアナタだけ仕事してないのは確かね」
「え~、ケチィ」
「うるさいわね。いいから水飲んでなさいよ。あ、いらっしゃいませー。何名様でしょうかー」
喫茶店の制服を着こなすノワールは楽しそうに接客している。その制服というのも、シャツにベスト、そして黒のスカートと地味ながらも、よく似合っていた。店のマスターも年代を感じさせるいぶし銀な落ち着いた風格を見せており、シックにまとめられた店内は気が引き締まる。
「あぁ~、新しい店員さん。心がぴょんぴょんするんじゃ~」
「……あの人コーヒーだけで何時間粘ってるんだろ……」
確か今朝、エヌラスの見舞いに行った時も店にいたような気が……いや、多分気のせいだ。そういうことにしておいた。
「はい、注文のプリン。感謝しなさいよ。私の友達ってことでオーナーさんがサービスだってさ」
「おー。ありがとう!」
「それで、どうするの? アイドルデビューとかするの?」
「超次元アイドル目指すのも悪くないかもね! なんかそういうのどっかで聞いたことあるような気がしないでもないけど、ゲームの話だからノーカンノーカン」
「メタいわねぇ……ま、アナタが働くようなら余裕も出てくるしいいんじゃないかしら」
「よーっし、そうと決まれば早速事務所に電話してみるね。ノワール、携帯持ってない?」
「仕事中よ! 持ち歩いてるわけないでしょ!」
「あー、だよねー……真面目なんだからぁ。こうなったら直接事務所に行って来るね! プリンごちそうさまー、オーナーさん!」
「あ、ちょっとネプテューヌ! 名刺忘れてるわよ! まったくもう、落ち着きないんだから」
ノワールは呆れながらも、その行動力にだけは感心する。
「ははは、ノワールちゃんのお友達は元気一杯だね。まぁ、彼女は私もテレビで見た時から人を集める才能はあると思っていたよ」
「そんな大層なものじゃないですってば」
「そうかね? カメラを向けられて、大勢の前でいつもと変わらない調子が出せるならきっと性分だろう。はいこれ、四番のお客さんに」
「あ、はーい!」
コーヒーとケーキのセットをトレーに載せて、ノワールは四番テーブルで待つ客の元へ注文の品を置いて一礼して伝票を置いた。
「では、ごゆっくりどうぞー」
「あぁ……心が……心がピョンピョンする……んご……」
「……あの、オーナー。あのお客さんは」
「彼は常連なんだ。いつもああだから気にしないでくれ」
「は、はい……変な客も多いのね……」
とはいえオーナーも人が良く、この国の方針に則っている。ノワールの多少無茶な注文にもある程度の条件付きとはいえ賃金を日払いで対応してくれた。
「とやー! というわけで到着したよ、笑えばいいともスタッフというか司会者さんの名刺に載っていた事務所前! ここで合ってるよね?」
名刺に書かれている住所と、事務所の名前を確認して、ネプテューヌは合っていることを再確認してから事務所の階段を登る。多少錆びついてはいたものの、それでも一応の掃除はされているのか目立った汚れはなかった。
「たのもー!」
扉を開け放つネプテューヌ。中にいたスタッフの数名が目を白黒させて一瞬『え、誰?』みたいな顔をするも、思い当たったのか大声を張り上げる。意気消沈していた、というのもスタジオの復旧作業が中々進まないからロケが自然と町の中になるのだが肝心のゲストが不在という状況に頭を悩ませていたのだ。
「き、君はネプクァエふじこ――」
「ああ、カメラマンが舌を噛み切った!? 誰か、誰か早く救急車ー!」
「う、うわぁ……私の名前、言いにくいって人は一杯いたけど舌を噛み切る人はじめて見た……」
「えーっと、確かネプチューヌちゃん」
「ネプテューヌだよー!」
「ネプテュースちゃんね」
「わざと噛んでない!?」
「失礼、かみまみた」
「やっぱりわざとじゃん!」
ネプテューヌはスタッフ達に病院での出来事を話す。すると、全員が快く承諾してくれた。
「え、いいの? そんなアッサリ?」
「そりゃー、司会者さんが良しって言うなら俺達が口を挟む余地ないし」
「あの人結構ぶっ飛んでるけど仕事は真面目なんだよな……」
「ああ。頭おかしいけど……」
「なんで毎回生きてるんだろうなあの人……」
「生きた超常現象だもんな……」
「いつだっけ? 橋の上から人喰いクロコダイルの群れの中にうっかり足滑らせて落ちたの。放送禁止レベルの大惨事で大騒ぎになったあれ」
「一昨年だろ。まぁあの人サングラス片手にガッツポーズして『撮れた!? 今の撮れた!? ねぇ!?』とか笑顔で聞いてきたけど。無傷で」
――川に大量発生したクロコダイルの原因は九龍アマルガムの違法薬物の不法投棄が原因であるがエヌラスは知る由もない。
「え、えーっと。私、お昼のバラエティ番組としか聞いてないんだけどなー……やっぱやめようかなー……」
「安心してネプテューヌちゃん。そんなバカげた収録するのは司会者さんが主演の時だけだから」
「それ以外は?」
「んー、基本的に町の新作スイーツ食べ歩きとか? ちょっとしたハプニングとかあったりするけど概ね平和だよ。あ、スケジュールとか大丈夫? 一応こっちで予定してるのがこの日からなんだけど」
「全然オッケー! だって私、暇してるからねー!」
「いや、威張って言うほどじゃないと思うんだけど……まぁいいか。じゃあうちのスタッフの紹介と番組の軽い打ち合わせなんだけど――」
「すいませーん、救急車来ましたー」
「うん、後日ね」
「アッハイ」
ネプテューヌは事務所を後にした。