超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
うずめが用意してくれた食料の缶詰を食べながら、今後の方針を話し合う。秘密基地といっても簡単なショップのようなものもあるらしい。それが辛うじて人が生活していた事を思い出させてくれる。しかし、エヌラスはなにかそれに違和感を覚えていた。
守護女神がいるのに、人だけがいない。それならば、うずめはどうやってシェアを獲得しているのか疑問だった。
「俺か? 俺はモンスター達からシェアを貰ってるんだ」
「モンスターから?」
「そうなんですか?」
「ああ。俺が助ける代わりに、シェアクリスタルを探してもらってるんだ」
「なんかそこら辺に落ちてるみたいな言い方されてるぞ、シェアクリスタル」
ネプギアが言うには、シェアクリスタルの精製は国家予算やら技術的な問題がある。そのため、非常に貴重なものらしいが──それがここでは落ちているようだ。しかし、モンスター達からシェアを獲得しているというのも気になる。
「ふむ。まぁ確かに、人間がいない以上はモンスターからシェアを獲得ってのは、まぁ理屈が通るな……」
「ああ。ねぷっちとぎあっちもそのせいで今は女神化出来なくて困ってるみたいなんだ」
「……今、なんて言った?」
「? だから、二人が女神化できなくて困ってるって」
エヌラスがうずめから、二人に視線を向けた。顔を逸らしている。
「なるほど」
「だから、デカブツを倒すこと。その準備の為にまずは海男とひよこ虫達から教えてもらった場所に落ちてるシェアクリスタルを拾いに行くってのが目的だったんだ。だけど……」
「そこにあの魔人が現れた、と」
「ああ。そのうえデカブツまで来やがったせいで予定が大幅に狂っちまった」
女神化できないあれこれはともかくとして。うずめの口ぶりでは、そのひよこ虫達のことを心配しているようだ。海男、という相手も気になる。
左腕に巻いている機械に顔を向けて、落胆した様子だ。
「さっきの戦闘でか、調子悪いんだよなぁ……」
「その、左腕のやつ見せてもらえるか」
「? ああ」
うずめが手を差し出して、エヌラスはまじまじと見つめる。液晶画面のヒビ、亀裂が走っていることから中の基盤が損傷しているのだろう。もう少し近くで見ようとして、うずめの手に触れると驚いたように引っ込めた。
「ぅひゃあ!? な、なんだよいきなりぃ!?」
「悪い、その……多分直せると思って、もう少し近くで見たかったんだ」
「それならそうと言ってくれよ……ビックリしたじゃねぇか」
「……すげぇ、普通の女の子だ」
「お前なに言ってんだよ!?」
本当に自分でもよくわからない事を口走ったとエヌラスは自覚している。
「ま、まぁそれはともかくだ。それ、少し貸してもらえるか? 直しておくから」
「直せるのか!? それなら助かるんだけどよ……間違っても変なことすんなよ?」
「普通に直すわ、師匠じゃあるまいし。あの人、勝手にバイク魔改造した挙げ句の果てに街をぶっ壊してたからな」
「とんでもねぇ奴に弟子入りしてんだな!? じゃあさっき、バイクが空走ってたのも」
「いや、あれは元から」
「どうなってんだよ!?」
うーん、この初な反応。とても心が和む。何か忘れていたものを思い出させてくれる。
ヴィジュアルラジオを借り受けて、エヌラスは内部の構造解析から始めた。やはり、最初に見た通り、衝撃で内部まで破損が及んでいる。魔術で簡単な補強と修復で直るだろう。
早速作業に取り掛かるエヌラスに声を掛けるが、集中してるのか無視された。しかし、その手元では器用に解体したヴィジュアルラジオの破損箇所がみるみる修復されていく。
ものの十分もしないうちに新品同然となってうずめに返された。
「問題ないはずだが、試してみてくれ」
「あ、ああ……海男、聞こえるか?」
《────、──ああ、うずめかい? よかった、無線の調子が悪かったみたいだ》
「こっちも色々あってな。悪い、合流が遅れそうだ」
《それは問題だね。こちらにもモンスターの群れが接近してきているみたいなんだ》
「なんだって!?」
《もしかすると、さっきの襲撃が影響しているのかもしれない》
「待ってろ海男。俺もすぐにそっちに行く!」
このままでは海男達が危険だ。うずめは通信を切り、秘密基地を後にしようとするがエヌラスが呼び止める。ネプテューヌとネプギアも一緒に行くつもりらしい。
「モンスターの群れが来ているなら私たちも行きます!」
「そうだよ、うずめ。それに今ならエヌラスのバイクもあるんだし、ひとっ飛びで行けるよ」
「お前は俺をタクシーかなんかだと勘違いしてないか?」
「ねぷぅ」
ネプテューヌの頬を引っ張る。むにぃん。柔らかい。
とはいえ、エヌラスも同行するつもりだった。そうなるとバイクに四人……流石に厳しい。二人乗りが限度だ。かといって運転を任せるわけにもいかず、ハンティングホラーの自律運転にしても厳しい相談。誰かが残った方がいいだろう。
「ハンティングホラーの運転は俺しか出来ないしな。かといってバイクに四人は無理だろ」
「え? エヌラスにしがみついたら良くない?」
「お前だけ引きずり回してやろうか」
「もー、なんでわたしにだけナチュラルにそういうこと言っちゃうの!?」
「いやぁ親しみやすくて」
「友好の証にヴァイオレンスは洒落にならないからね!」
「じゃあどうしろと」
「えー? もっとさー、ほらぁ。甘やかしてくれたりとかぁ、ナデナデしたりとかぎゅーってしてくれたりとか」
「ほれ」
そこまで言うなら有限実行。エヌラスはネプテューヌを抱き寄せ、頭を撫でる。跳ねた髪を指先で弄びながら優しく頭を叩いた。しかし、すぐに突き飛ばして顔を赤くしながら腕を振っている。
「やっぱダメー!! だ、ダメだよエヌラスそんなの! セクハラなんだよ!? いーすんに訴えちゃうんだからね!」
「お前がやれって言ったんだろうが! アイツ引きずり回していいか、ネプギア!」
「ダメですよ!?」
結論。うずめとエヌラスの二人で行くことになった。単身で向かってもよかったのだが、合流予定の海男の顔を知らない以上は同行者が限られる。
「それじゃ、ねぷっちとぎあっちはここで待っててくれ。すぐに戻るから」
「うずめも気をつけてね」
「エヌラスさんも、無理しないでくださいね。さっきの怪我もありますし」
「心配してくれてありがとな」
ハンティングホラーを呼び出し、跨るエヌラスの後ろにうずめがしがみつく。アクセルを吹かしてそのまま壊れた窓から空を駆けていった。
零次元の空を走る。地上を見下ろすと、ダークメガミが出現した周辺はごっそりとビル街が消滅していた。その様子を見て、うずめが悪態をつく。
「俺にもっと力があれば……」
「……」
そう呟いたのを、エヌラスは聞こえないフリをした。
「そういえば、エヌラス。お前ならあのデカブツ倒せるって話、ホントなのか?」
「どうだろうな。試してみないことにはなんとも言えない」
機神召喚──辛うじて、自分に残されている権能。とはいえ、それも右腕一本だけだ。ダークメガミを相手にするというのであれば、不足はないだろう。だがその際に起こる周辺の被害など目も当てられない。
ビル街程度で済まされない被害が出ることだけは覚悟した方がいいとだけ忠告しておく。
「あの魔人と戦ったのか」
「ああ。突然襲いかかってきたからな。そのせいでヴィジュアルラジオが壊されちまった」
それも先程直したが。
「……なぁ、エヌラス。お前も、アイツの仲間なのか?」
「同類って意味なら、そうだ。だが俺はアイツ等の敵だよ」
「ねぷっち達が、女神が好きだから?」
「……まぁな」
風切り音でかき消されそうなほど小さな声で、エヌラスが短く呟いた。顔は覗き込めないが、照れているのか言葉少なにしている。
「なんか、そういうのいいな。頼って、頼りにされて。支え合うっての」
「俺が一方的に迷惑掛けてるだけだ」
「ねぷっちの口ぶりじゃ、そうは聞こえなかったけどな。ちょっとだけ聞いたんだ。どんな奴なのか」
「どうせアイツのことだから、顔が怖くて乱暴者で手先が器用で生活能力皆無で人でなしのろくでなしの穀潰しで社会不適合者とか言ってたんだろ」
「いやそこまで言ってなかったぞ!?」
「どこまで言ってた?」
「顔が怖くて乱暴者、までは合ってるな」
「そっかー、あの野郎またバンジージャンプだ」
今度は地表スレスレに紐を伸ばしてやる。エヌラスが密かにネプテューヌに対するお仕置きの内容を考えていた。
「ただ、自分のこととなると途端に無鉄砲になるから目が離せないなんて言ってたな」
「…………」
「ぎあっちも同じようなこと言ってたぜ? 自分が傷つくのは厭わないって」
自己犠牲精神、なんて崇高なものではない。きっとそれは、自殺願望にもよく似たものだ。自滅因子とでも形容しようか。自己の破滅願望。そうでもしなければ、自らの精神の均衡が保てない。
最近はそんな事も無くなった。自分が傷つくことで悲しむ人が周囲に増えたからだ。そこに自愛なんてものは無い。ただ周囲を悲しませたくないだけだ。
「そんな話を聞いたから、実はちょっと不安なんだ。本当にこいつと上手くやれるのかって」
「そうならないように努力する。ただ、魔人が出てきた場合は俺に任せて、うずめは海男達を連れて離れてくれ」
「わかった。だけど、俺達まで巻き込まないでくれよ」
うずめは少しだけいたずらっぽく言った。エヌラスは無言でハンドルを切り、海男との合流地点に向けてバイクを傾ける。振り落とされそうになり、慌てて強くしがみついてくるうずめから、少しだけ柔らかい感触がした。
海男達が見つけたシェアクリスタルは、壊れた駅構内にあるという。エヌラスがハンティングホラーを自分の影の中に戻し、うずめがメガホンを手にして頷く。倭刀とレイジングジャッジフリークスハントカスタムを召喚してその後に続いた。
駅のホーム内を歩き回るモンスターを見て、うずめが早速蹴り飛ばす。縄張りの中に入ってきた侵入者に牙を剥くが、横っ面に同様の飛び蹴りを食らって地面を転がった。エヌラスはその頭に銃口を突きつけて、ショットシェルを叩き込むと一撃で絶命させる。
「そんじゃ行くか。雑魚にかまけてる暇ぁなさそうだ」
「……おかしい」
「どうした、うずめ」
「前に来た時はこんなにモンスターがいなかったはずなんだよ。デカブツの襲撃があったにしてもこの数は……」
「考えるのは後回し。まずは海男と合流が最優先。そら行くぞ!」
駆け出したエヌラスが近づくモンスター達をあしらいながら改札口を足場にして飛び越えると、階段を駆け下りる。
「あ、おーい! 海男達がいるのはこっちだ!」
「逆かよ!!」
エヌラスはダッシュで駆け上がってきた。