超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
うずめと二人でコーラル駅構内を走る。モンスター達がひしめき合うホームへ向けてエヌラスが両手に拳銃を携えた。
右手に深紅の自動式拳銃、クトゥグア。
左手に白銀の回転式拳銃、イタクァ。
「消し飛ばされてぇかテメェ等!」
爆風と寒風が吹き荒ぶ。火力はそれでも控えめに。点滅する電光掲示板などが無事に復旧したのを見てからエヌラスは再び倭刀を手にして駆け出す。
「ちょっとは手加減しろよ!」
「これでも手加減しとるわぁ!」
「ならもうちょっと抑えてくれ! 海男達まで巻き込んだらどうするんだよ!」
「その海男との合流地点まであとどれくらいだ!」
「この下だ! おりゃあ!」
飛び出してくるビットをうずめがメガホンで叩き潰して先導する。階段を飛び降りて、追ってくるモンスターに向けてエヌラスがクトゥグアの魔弾を置き土産にして駆け出した。しかし、咄嗟にうずめの手を取って立ち止まる。
「おわっ!? な、なにすんだよ!」
「うずめ、ちょっと待て。本当にこの先に行くのか?」
「ああ。海男達がいるからな。どうしたんだよ」
「……お前、なんともないのか?」
エヌラスは、進もうとしている先になんとも言い難い不快感のようなものを感じていた。それは同族嫌悪と言っていい。邪神狩りをしていた頃に頼りにしていた感覚。忘れて久しい第六感に苦い顔をするエヌラスに、うずめも不安そうな顔を見せた。だが、この先には大切な仲間がいる。なおさら見過ごすわけにはいかない。
「この先に何がいようと、俺は海男達を助けなきゃならないんだ。来ないならここで待って」
「いや、この先にいるっていうなら急ぐぞ」
しかし──オルタは魔力消耗で撤退しているはずだ。ならばクロギアか? しかし、ここまでの不快さは感じなかった。基となっているのが女神候補生であるからか、その内面も外側で抑制されているのだろう。だからこそ危ういのだが。
うずめとエヌラスが海男達との合流地点であるコインロッカーの並ぶ地下ホームへ辿り着く。
そこで、うずめが息を呑んだ。初めて見るモンスターが周囲を囲まれている。
黄金の毛並みを持つ巨体の獣は欠伸をもらして顎を掻いていた。だが、周囲のモンスター達からは非難轟々と威嚇と唸り声が絶えない。
その姿は荘厳で、神々しさすら感じる。しかし、どうにも胸の奥から嫌悪感のようなものがこみ上げてきた。巨大な尾をゆらりゆらりと左右に振りながら我が物顔で居座っている。
とうとう堪忍袋の尾が切れたのか、睨みつけていたモンスターの中から一頭が飛びかかった。牙を剥いて噛み付こうとするナーガだったが、尻尾を横から叩きつけられてロッカーを巻き込みながら吹き飛んでいく。それに他のモンスター達が続いた。
歯牙にもかけないとは、この事か──黄金のモンスターは噛みつかれ、爪を立てられ、機械系モンスター達の銃撃と砲撃を受けてもびくともしない。それどころか、むず痒そうに身震いしてみせている。自分に集まるモンスターの群れをダニかノミ程度にしか見ていない。
(見たことあるか)
(いいや。そっちは?)
(俺も初めて見る)
うずめとエヌラスは身を隠しながら、その場をしのぐ。目の前に吹き飛ばされてきたモンスターが息も絶え絶えになっている。不思議そうに眉を寄せた二人だが、その異変は徐々に目に見えてきた。飛びかかっていたモンスター達が次々とその場に倒れ始めている。やる気を無くしたように、或いは眠るようにして横たわっていった。唯一機械系モンスター達が抵抗を続けていたが、攻撃が通用していないことに後退し始めている。
やがて静けさを取り戻すと、巨体のモンスターが倒れている大柄な一頭を咥えてエヌラス達の前を走り去っていった。
「……なんだったんだ?」
「さぁな。縄張り争いってわけでもないようだが、そうでもなきゃ餌でも取りに来たんだろ」
「なんでよりによってここなんだ?」
「俺が知るか。餌場がダークメガミに襲撃でもされたんじゃないか」
「そんな山から人里に来るみたいな話か?」
あながち間違いではないかも知れないが、二人は海男との合流地点へ向けて急ぐ。
ぐったりと倒れ込むモンスターの群れを通り過ぎて、うずめがメガホンで呼びかけていた。周辺一帯にいたのは先程の群れで全部のようだ。
「海男ー! どこだー! 返事をしてくれー!」
念の為エヌラスは周囲を警戒しながらうずめの後に続く。その時、ふと物陰で動く気配があった。銃口を向けて、目を凝らす。顔を見せたのはひよこ虫だった。それも一匹や二匹ではなく、大量に湧いて出てきている。
「うずめ、おいうずめ」
「ん? なんだよ」
「あれは?」
「おー、なんだ! みんな居たのか! 怪我はしてないか? モンスターに襲われてないか?」
親しげに声を掛けながら近寄ると、警戒していたひよこ虫の群れがうずめに近づく。口々に互いの無事を喜んでいた。しかし、その中に肝心の海男らしき人物はいない。
「うずめー、海男は凶悪なモンスターからシェアクリスタルを守るためにこの先に逃げたんだ」
「ボク達はさっきの金ぴかが来たから、慌てて隠れてて」
「わかった。みんなは先に逃げてろ。後は俺とエヌラスに任せろ!」
「その人、うずめの味方? 友達?」
「彼氏?」
「浮気?」
「ばっ、そんなわけねぇだろッ!? へ、へへ変なこと言ってないで早く逃げろよ!」
『はーい』
ひよこ虫達がワラワラと移動を始める。どうやら海男はまだこの先にいるようだ。顔を赤くしながら早足で隣を通り過ぎるうずめの後に続く。念の為レイジングジャッジをリロードして。
「──う、海男とは別になんもねーからな! そこは勘違いすんなよ!」
「はいはい。別に俺とも期待はしてねーよ。大事なパートナーなんだろ、さっさと行くぞ」
「……なんかそれはそれで、微妙に腹立つ気がするな」
「ほんと女神ってのはどいつもこいつも面倒な性格してんな!!」
毎度ながら本当にそう思う。だからこそ一緒にいて飽きないのだが。
駅の中に響くモンスターの咆哮に、うずめが駆け出した。
「海男!」
階段を駆け下りて出た先、地下ホームには体表の色が違うナーガタイプのモンスターが周囲を見渡している。あちこちが破壊されているということは、海男を狙って攻撃していたのだろう。
「うずめ! すまない、ここは任せるよ!」
「ああ、任せとけ! この野郎ぉぉぉ!」
声はするが、姿は見えない。
振り上げた前脚をメガホンで防ぎ、逆に殴り返していた。それに頭突きで反撃してくるモンスターの頭を今度はエヌラスが蹴りで防ぎ止める。その隙に二人は距離を取った。
「くそ、コイツも他のとちょっと違うぞ!」
「モンスターなんざ殺せば全部一緒だ!」
「言ってることおっかねぇなお前!?」
しかし──普通のモンスターと確かに、なにか違う。斥力のようなものが発生しているのか、エヌラスが蹴りを入れた際、妙な手応えがあった。うずめもそれは感じ取っていたのか、苦い顔をしている。
小型の散弾を正面から受けて、衝撃に頭を振る。体勢が崩れた隙にうずめが近づき、息を吸い込んでいた。
「食らいやがれぇぇぇっ!」
メガホンを構えて、至近距離で声を張り上げる。それには後ろにいたエヌラスも耳が遠のくほどの声量だった。御姫といい勝負だ。そんなことを思いながら、モンスターに銃撃を加える。やはり決定打にはならないのか、頭を振りかぶった。角から電撃が迸り、ゴミ箱を吹き飛ばす。
「っと、一筋縄じゃいかねぇな……」
「くそ……! こうなったら女神化して──」
シェアクリスタルを構えようとするうずめを止め、エヌラスが視覚に魔力を集中させる。腹の辺りに何か、結晶のようなものが見えた。力の基点はそこからだ。
「うずめ。俺がアイツをひっくり返したら、腹を全力でぶん殴れ」
「それで倒せんのかよ?」
「倒せなかったらプランBだ」
「プランBってなんだ?」
「暴力の限りを尽くしてぶっ殺す」
「やっぱこえぇよお前!」
エヌラスが駆け出し、ナーガの攻撃を誘う。角に向けてレイジングジャッジ、前脚に倭刀をぶつけて攻撃を凌ぐ。整息から、発勁。反発する斥力同士で姿勢を崩す相手に、アクセル・ストライクで蹴り倒す。横たわる相手の腹、何か破片のようなものがあった。
うずめがそれを見て駆け出して拳を叩きつける。確かな手応えに飛び退ると、破片が粉々に砕け散った。全身を覆っていた膜のようなものが剥がれ落ち、エヌラスはナーガの頭部に銃口を突きつける。
「じゃあな」
表皮を破り、鱗を貫通し、内部を破壊してナーガの姿が崩れ落ちていく。その姿が消えたところで、エヌラスは落ちた破片を拾い上げる。目を凝らして、観察した。
薄汚れた紫色の結晶の破片。エネルギー波長の残滓を感じ取り、眉を寄せる。しかし、それも掌の上で光を失い、消えてしまった。
「……?」
「海男、もう出てきても大丈夫だ! そっちは無事か!」
うずめが声を掛ける。
「いやぁ、助かったよ。うずめが来てくれなかったらどうなっていたことか。こっちは無事だ」
「よかったぁ……」
心底、安堵したような声をもらして胸を撫で下ろした。エヌラスは周辺を再び警戒する。
コインロッカーの影から姿を現した海男は、シェアクリスタルを抱えていた。
「そちらの男性は、新しい友達かい──?」
「魚かよッ!!!!!」
──エヌラスは声の主を見て盛大にツッコんでいた。
綺麗に整えられた背びれ。尾びれを振りながら宙を泳ぐようにして、ヒレに抱えていたシェアクリスタルをうずめに差し出す。どこからどう見ても、紛うことなき魚だった。
ヒレを組み、困惑したような表情を見せる海男は何か気を害するようなことでもしたかと考え込んでいる。
「いやぁ、確かに私は魚だが……」
「いや、すまん! ゴメンな、初対面でいきなり! ただその、ちょっとどうしても衝撃的な現実を受け止めるのにワンクッション置かせてくれないか!?」
「そ、そうか。落ち着いたら、また声を掛けてくれればいい」
紳士的な対応に感謝しながらエヌラスは深呼吸をしてから、海男に視線を向けた。うずめと会話を交わし、お互いの状況を確認し合っている。予想外のハプニングに見舞われて今後の計画をどうするか話しているようだ。
「……魚類、だよな?」
「ああ。れっきとした魚類だが……もしや、苦手だったりするのかい?」
「ちょっと過去に色々ありすぎて、魚介類はちょっと苦手意識あるんだ……」
主に特訓とか。寂れた漁村とか。人面魚とか。魚面した人間だらけの港街とか。邪教崇拝とか。なんかもう全部ひっくるめて大魔導師のせいなのだが。
「ただ、なんだ。不用意に接近してこなければ、海男とは上手くやれそうな気がする」
「その時は、ちゃんと一声かけるようにするよ」
「色々と迷惑掛ける上に面倒な協力者で悪い……」
「はは。先程の戦いを見て、うずめの心強い協力者が増えるのは嬉しい。気にしていないさ」
人間が出来ている魚だ。冷静な対応をしてくれて助かる。
「さて、うずめ。なんとか予定通りにシェアクリスタルは確保できたことだし」
「そうだな。一旦、拠点に戻ってねぷっちとぎあっちと合流しようぜ。あんまり待たせるのも悪いしな」
海男を連れて、コーラル駅を後に──エヌラスは最後に一度だけ駅の中を振り返った。
先程見かけた黄金の毛並みを持つモンスター。そして、結晶片を埋め込まれたナーガ。人間の存在しない零次元に現れた魔人。
──どこに行っても自分の影のようにつき纏う邪神の置き土産に、エヌラスは内心穏やかではなかった。
──廃墟の路地裏で、瓦礫に背中を預けて座り込む。
思った以上に魔力の消費が激しい。剣を握ることすらままならなくなってきている。吐息をこぼすと、恐ろしく冷たかった。
静かにこのまま消え去ったところで何も感じないが──脳裏に浮かび上がる刹那の影。それは超次元で出会った、王を志す少女の姿。
「…………」
自分と瓜二つの聖剣を持った少女は、今頃どうしているだろう。自分がこうして消え去ろうとしている最中に、答えを見つけているだろうか。
物思いに耽るオルタに影が降りた。それは、口に咥えていたモンスターの亡骸を目の前に置くと座り込んでジッとしている。どうやら仕留めた獲物を持ってきてくれたようだ。だが生憎と自分はそこまで悪食ではない。
「感謝する。だが、私には不要だ。お前が食すが良い」
鼻を撫でると、自らの仕留めた獲物を食べ始める。
この獣は、どうしてか自分によく懐いていた。モンスターを平らげると、毛並みを整える。それから、自分の毛を噛んで引き抜くとオルタに差し出した。針のように固く鋭い毛を掴むと、力が流れ込んでくる。
存在するだけで周囲の生命エネルギーを奪い取る力場を形成する能力。それは、ヌルズが与えたものだ。それが原因であらゆる生態系から外れた孤独な魔獣はオルタに寄り添う。
「魔力代わりに、蓄えた生命力を渡してくれるのか? 変な奴だな、お前は……」
指先の感覚が戻ってくる。それでもまだ足りないのか、立ち上がろうとして壁に背中を預けた。魔獣は再び自らの毛を引き抜き、差し出してくる。それを再び受け取るオルタと、魔獣の下へ足音が近づいていた。そちらに視線をやると、マジェコンヌが腰に手を当てて呆れている。
「ペットの散歩が高くついたな、魔人」
「誰かと思えば、貴様か……餌場で暴れるなと言ったはずだがな」
「そんなこと、私の知ったことではない」
「それで。貴様の方はどうなんだ? うまくやれるのか」
「ふん。そんなこと、先程の働きを見ればわかるだろうに。制御までもう一歩だ。しかし、足りないものがあってな」
「ほう?」
「シェアクリスタルだ。アレがあれば、ダークメガミの制御も私の思うがままだ」