超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
うずめの仮拠点へと戻ってきたエヌラス達をネプテューヌとネプギアが迎える。しかし、すぐに困惑した表情を見せた。
海男である。しかし、二人はすぐにそれも馴染んだのか打ち解けていた。順応性の高さにはエヌラスも驚いている。
「おっかえりー、うずめ、エヌラス!」
「海男さんも無事なようで良かったですね」
「ねぷっちとぎあっちも待たせて悪かったな」
「そんなことありません。ただ、その……ちょっと困ったことが」
「どうかしたのか?」
ネプギアが困った様子でうずめを案内したのは、壊れた販売機。ネプテューヌが飲み物を買おうとしてから調子が悪いらしい。海男が隅々まで見てみるが、なにぶん壊れかけの古びた機械だ。いつ壊れてもおかしくなかった。
「参ったね……こんな時に」
「まーたなんかしたんじゃねぇか、ネプテューヌ?」
「えー? わたしなんもしてないよ。普通にジュース買おうとしただけだってば」
「ちょっと見てみるか。海男、ちょっと上の方を頼む」
「任せたまえ」
エヌラスが器用に販売機のロックを外し、中の様子を見てみる。特に異常なし。ただ古ぼけているために埃などが詰まっていた。簡単に掃除をしておく。
「なぁ、ぎあっち。エヌラスってもしかしてエンジニア、とかそういう仕事してるのか? さっきも俺のヴィジュアルラジオあっという間に直してくれたし」
「えっと、エヌラスさんは特にお仕事は……」
「強いて言うなら犯罪者みたいな?」
「なんだろうな、聞けば聞くほどアイツの評価が下がっていく気がする……」
不調の原因はどうも、内部ケーブルの接触不良が原因のようだ。一度切断してから、魔術で接続し直していく。絶縁体の劣化はどうにもならない。これでも付け焼き刃にしかならなかった。
「よし、これでなんとかなるだろ」
「まだなんか調子悪そうだけど、ほんとに大丈夫なの?」
「そういう時は、こうすれば直るぜ。ていっ」
バン、バン! うずめが販売機を何度か強く叩く。それを見てネプギアがすぐに止めた。
「わぁあ、うずめさん。何をしているんですか!?」
「え、何って直してるんだよ」
「そんなことしたらもっと壊れちゃいますってば──」
点滅して、それからすぐに販売機は正常に稼働する。
「うそぉ!?」
「なっ! ねぷっち、なんか買うんだろ。俺が奢るぜ!」
「いいの、うずめ! ありがとー。じゃあわたしこれがいいな」
うずめがクレジットを投入し、ネプテューヌの指したジュースを購入するボタンを押した。
すぐに取り出し口に落ちてきた飲み物を手にするが、何か様子がおかしい。
「ん?」
「あれ?」
「お?」
ガタガタと震えたかと思えば、押してもいない飲み物が壊れたように吐き出されてうずめとネプテューヌが缶の雪崩に呑み込まれた。それから、黒い煙を吐いて販売機が消灯し沈黙する。上の方で様子を見ていた海男が咳き込みながら降りてきた。
「ゲホ、ゲホッ。大丈夫かい?」
「あー。こりゃもう駄目だな……」
「毎回あんな方法で直してたからね……」
「そりゃあ壊れるわ」
エヌラスが念の為もう一度中を開けるが、完全に焼き切れている。復旧不可能だ。
「ねぷぅ~、こんなに飲み切れないよ」
「あっちゃあ……どうすっかなこれ……」
「このまま置いといたら悪くなっちゃいますよ。でも、こんなに沢山は……」
元々保存状態があまり良くなかったからか、すでに汗ばんでいる。
「とりあえず、凍らしておくか。それならしばらく保つだろ。なんか、冷凍庫みたいなのはあるか?」
「ああ。こっちにクーラーボックスがある。それに入れておこう」
「それでも炭酸は無理だな……」
缶を並べて、左手の魔術刻印を起動させると凍らしていく。清涼飲料水とペットボトルは大丈夫だが、炭酸は破裂する恐れがある。それでも十本以上は残っていた。ある程度冷ましてから海男の言うクーラーボックスの中へと入れて保存しておく。
「エヌラス、お前便利な奴だな。電気だけじゃなくて冷凍まで出来るなんて」
「そりゃ、俺一人で電気ガス水道全部まかなえるからな」
指先に炎を灯すと、うずめは感心したような声を出した。
「なんか一家に一台って感じだな」
「俺、メチャクチャ燃費悪いぞ」
「あと結構エッチだよね」
「よーしお前には炭酸一気飲みの刑だ。口開けろネプテューヌ」
手にした炭酸を振り、エヌラスはそれをネプテューヌに向けて開ける。
「お姉ちゃん危ない!」
「ほぶぉ!?」
ネプギアに咄嗟に手の向きを変えられて、噴き出した炭酸水が顔を直撃した。それを見てネプテューヌが笑いだし、うずめもつられて笑い出す。
「炭酸したたるいい男、といった具合かな」
「ありがとうよ海男。これっぽっちも嬉しくねぇ」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですかエヌラスさん」
「見ての通りだ。ったく、着替えこれしかねぇんだぞ」
ハンカチを取り出して顔を拭うと、その拍子にD-Phoneが落ちた。拾い上げて、ふと画面を見ると圏外の表記が目につく。まぁそれは当然かと一人納得していた。
「そうだ。ねぇうずめ。お風呂とかどうしてるの?」
「そういえば、こっちに来てからお風呂入ってなかった気が……ちょっと、汗臭いかも」
「わたしもちょっと気になるかな」
「それなら、屋上の貯水タンクで水浴びくらいできるぜ」
「お、屋上って。もしかしてそれって……外で、ですか?」
「ああ。露天風呂みたいでスッキリするぜ、ぎあっち」
「どうせ誰もいないんだし、いいんじゃ──」
そこで、ネプテューヌの視線がエヌラスを捉える。
「うーん、エヌラスがいるしなぁ……裸の付き合いは初めてじゃないけどうずめもいるし……」
「いや、お前らだけで入れよ……」
「そんなこと言って、実はお風呂の残り湯とかに興奮しちゃったり」
「するかアホンダラァ!!」
「ねぷぅぅぅ!?」
ネプテューヌの顔面に、今度こそ炭酸が直撃した。
「うえぇぇ、ベタベタするぅ……もー、エヌラスってばこんなにかけて……」
「その言い方は多大な誤解を招くからやめような!?」
「でも間違ってないよね?」
「尚更タチ悪い……もういい。先に風呂借りるぞ、うずめ」
「あ、おう……」
エヌラスが海男に案内させて屋上へと向かってその場から立ち去る。
「背中流したげよっかー、エヌラスー!」
「いらんわぁ!!」
「もー、そんなに怒らなくてもいいのに」
──貯水タンクに大魔導師から譲り受けた赤い太刀を差し込む。湯気を立たせ、沸騰していくのをかき混ぜていく。
「……本来の使用用途から大幅に外れている気がするが、まぁ他に方法ないしな」
細身の剣だからか、中々上手くいかない。それならばと幅広の刀身を持つバルザイの偃月刀を喚び出して再び貯水タンクの水を沸かしていく。
その様子を眺めていた海男がヒレをつけて、お湯の温度を確かめる。
「鱗に染みる湯加減、そろそろ良い塩梅かな」
「なら、これぐらいにしておくか」
「それと、汚れを落とす時は五十度くらいのお湯につけるといいそうだよ」
「そうなのか。豆知識ありがとな」
そうなると、ネプテューヌ達の服も洗っておくべきだろうか──そこまで考えて、下着のことを考えたが、それは流石にマズイ。
「何か君は、良からぬことを考えていないだろうか?」
「いや、俺はあくまで至極真っ当で現実的な問題に正面から真摯に考えているだけだ」
「それは大事なことかい?」
「多分、乙女の一大事だ」
「なるほど……話してもらえるかな」
「ああ。洗濯物についてだ」
「確かにそれは一大事だ」
「ネプテューヌ達の下着、どうするべきだと思う?」
「…………とてもデリケートな話題で反応に困るな」
「俺もすげぇ困ってる……」
服を脱ぎ、即席の湯船に浸かる。その間に二人であれやこれやと話し合う。
結論として至ったのが、それならばうずめに協力しているひよこ虫達に洗ってもらう事に。
「シェアクリスタルを探している以外にも、近辺で何か食料がないか探してもらっている仲間達がいる。一度呼び戻して服を洗ってもらおう」
「それが一番波風立たないな」
「……それにしても、君の身体は傷だらけだね。何か深い事情があるのかい」
「ま、俺もうずめと似たようなものだよ。といっても、俺の場合は何もかも手遅れだったけどな」
此処はまだ良い。辛うじて、ギリギリで踏み留まっている。
「うずめに協力するのは、単に俺の一身上の都合だよ。魔人は俺が引き受ける、そっちはそっちの仕事に集中してくれ」
「それなら助かる。こちらもダークメガミで手一杯だったからね、あのような強力な敵に回せるだけの戦力はない。それに、今なら倒せる可能性の芽が出てきたばかりだ」
うずめ一人では無理だったダークメガミの撃破。だが、今ならばネプテューヌ達がいる。守護女神としての力を取り戻す為に、二人にはシェアクリスタルが必要だ。海男が回収したものは、消費したうずめの分。残り二つを仲間達が探しているところだ。
足の速さと小回りが効くエヌラスもその探索に協力したいところだが、自分からは上手く言い出せずにいる。
シェアクリスタル──形なき信仰の結晶。むき出しのそれに、自分が触れても大丈夫なのか不安だった。
「海男。お前を追っていたあのモンスターだが、なにか心当たりとかないか?」
「そうだな……シェアクリスタルを執拗に狙っていた。だから私を追っていたのだろうね。しかしどうしてそんなことをしたのか疑問が残る」
そうなれば、あの紫色の結晶片が原因だろう。付近で不審な人影も特に見ていないらしい。だが魔人の仕業だとすれば──既視感を覚える。信仰を転じて、絶望に落とす手口。
神次元での事件で、魔神クロギアが手にしていたのは邪神ヌルズ・エクス・モルテスの根源となるゼロクリスタルだった。その修復には人々の負の感情が必要になる。だからこそ、わざわざ女神メモリーをエラーコードで埋め尽くした怪物を用意した。
空虚な希望。パンドラ・イルバードのリギホウテンという舞台まで準備して。
(こりゃ、クロギアもいると考えた方がいいだろうな……)
エヌラスは湯船から上がるとタオルで身体を拭い、熱湯で汚れを落とした服に含まれる水分を一気に蒸発させた。乾燥させた服に袖を通す。
「……クソッタレ」
悪態をついて、拳を握りしめる。
こんな壊れかけの世界にまで邪神の手が伸びている。それがどうしようもなく不愉快極まりなかった。
──うずめ達のはしゃぎ声が聞こえてくる。主にネプテューヌだ。流石に屋外で裸になるのは恥ずかしいのか、ネプギアはおとなしかった。うずめは、どこかやけくそ気味だ。
ヒヨコ虫達が何匹か戻ってきて海男の指示通りに屋上へ向かっていく。
エヌラスはD-Phoneを弄って情報を整理していた。バッテリーは自家発電でいくらでも充電出来るが、外部と連絡不通のまま。ソラにでも電話の一本を入れられればすぐにでも座標を特定してくれるのだが……。それも叶いそうにない。
気を紛らわせようと、画像データを整理していく。一番古いものは、D-Phoneを貰った時に試し撮りをしたものだ。開発者である面々の記念撮影には、大魔導師も写っている。
そこから撮影日順に遡っていくと、ユウコの料理風景。ソラがパフェを食べている光景。アルシュベイトと御姫が並んでいる姿。……ああそういえば、と。自分が一番最初に見た世界の風景を飽きることなく写真に残していた。それをやらなくなったのはいつからだろう。
その中に、画面いっぱいに写った金髪の女性がいた。
いつ撮ったのかさえ覚えていない。黄昏の浜辺で、笑顔で振り返るマリーを──そこがどこなのかさえ、記憶が定かではなかった。
「……」
そこから更に辿っていく。我ながらなぜ撮ったのか首を傾げる写真から、どうして撮影できたのか分からない奇跡の一枚だったりと──いやこれ撮った覚えがねぇぞ。
極めつけの一枚があった。マリーのバニーガール姿だ。たわわな胸がこぼれそうになっているのを手で押さえている。記憶にない。
「あん?」
考えた瞬間、メールの着信音。電波の入らない零次元で届くはずがないのだが、エヌラスは嫌な予感がした。送信者の名前を見た瞬間「だろうな」という気持ちで一杯だった。
送信者──大魔導師。
文面──。
『本文:貴様がこのメールを読む時、画像を漁ってマリーのコスプレを見つけた時だ。どうやって送信したのかは説明すれば非常に長くなるため割愛とする。ところでゲル状のバナナを電子レンジで作ったことはあるか? 私はある』
「知るか!」
『そんなわけで存分に活用するが良い。犯罪国家九龍アマルガム国王より』
「どう活用しろってんだよクソ師匠!! ぜってぇ小一時間問い詰めてやる!」
独り言を叫びながらエヌラスは画像を眺める。
その中に、プルルートの寝顔があった。アイエフの乱れる姿もあった。エヌラスはアイエフの名誉の為に削除しておいた。本人の為にも黙っておこう。
(俺が撮った写真より、勝手に撮られた写真の方が多くないか……?)
後半になるにつれて徐々にその割合が増えてきている。懐かしみながら眺めていた画像の中に、自分が写っていた一枚があった。
「────」
それは、いつか訪れた世界での写真。別れ際に撮った集合写真では、まだ髪を伸ばす前の自分が笑っていた。
パタパタと足音が後ろから近づいてきたかと思えば、ネプテューヌが顔を覗き込ませる。
「あー、エヌラス。なに見てるの? 写真? わたしにも見せて見せてー」
「冷てっ! お前さては髪拭いてないだろ! 風邪引くぞ!」
「女神様は風邪引かないんだよーだ」
「バカの間違いだろ」
「もーっ、またバカって言うんだからー! てやー!」
「テメ、この! やめやが──」
じゃれついてくるネプテューヌを振りほどき、引き離そうと振り返るエヌラスだったが──バスタオル一枚で突っ立っていた。
「ん? なに、どうしたの?」
「服ぐらい着ろぉぉっ!」
「えー、無理だよ。だって今ひよこ虫達が洗濯してるんだもん」
「だったら乾かしてから来い!」
「エヌラスじゃないと乾かせないよ?」
「ぬぅぅうううんっ!! じゃあなにか! お前は俺に下着洗ってもらってもいいってのか!?」
「えー、それはやだなー」
「おんどりゃあああっ!」
「だってエヌラス、どうせわたしの下着見てかわいくなーいって文句言うでしょ?」
「見てもいないのに言えるかよ」
「見たら言うの?」
ああ言えばこう言う、エヌラスは眉間を押さえる。しかしネプテューヌは画像が気になるのか、画面を覗き込もうとしていた。
「それでー? なにこの写真。エヌラスの髪、今よりまだちょっと短いね。相変わらず女の子に囲まれてモテモテだねー」
「ああ、これは……電脳内閣、だったかな。これでも全員お偉いさんだ」
「へー。そうなんだ」
「……元気にしてるかな」
「そういえば、昔の話なんて全然してくれないよね」
「胸糞悪い話は俺の胸にしまっとくのが一番だよ。どうせなら楽しい方がいい」
D-Phoneの画面を消して、ポケットにしまう。すると、ネプテューヌが抱きついてくる。
「うーん、そうなんだけどさ。なんかやだなぁ、隠しごとされるの。エヌラスだってそうでしょ? わたしだけじゃなくて、みんなでコソコソされたらさ」
「そりゃあ……」
「だからさ。ちゃんと話してよ。今じゃなくても、いつか」
「……そのうちな。そのうち」
「もー、約束だからね? 絶対だよ!」
「はいはい、はいはいはい、そーのーうーちーな。聞いた後で絶対後悔するぞ」
「じゃ、その時はちゃーんと甘やかしてね?」
「……いいからお前、そろそろ服を着「へぷちっ!」ったねぇな! ほら、これ羽織って屋上戻れよネプテューヌ」
スーツのジャケットを渡すと嬉しそうに笑って羽織り、ネプテューヌは階段を登っていった。
「見て見てネプギアー、うずめー! エヌラスが彼シャツしてくれたー!」
「やっぱ返せテメェェェッ!!!」
その後を追いかけようかと思ったが、それでは入浴中の二人に直面することになる。そう考えると自分が被害を全面的にかぶる事になるので止めておいた。