超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
朝から激務に追われ、ようやく休める。しかし、問題が発覚した。毛布が足りない。
エヌラスの分が足りない。ネプテューヌとネプギアが一つの毛布を使うことで解決するが、あまり良い顔をしなかった。
「なんかそれは申し訳ねぇな」
「気にしなくていいよ。ねー、ネプギア」
「そうですよ。わたしもお姉ちゃんと一緒に寝れて嬉しいです」
「野宿は慣れてる、気にすんな。屋根があるだけマシだよ」
「エヌラスってサバイバル生活長かったみたいだし」
服はすっかり乾いたのか、二人ともいつも通りの服に着替えている。うずめもその話題に興味があるのか、近づいた。
「そうなのか?」
「まぁな。寝ても覚めても戦い続けて、屋根のない場所で夜を明かすなんて毎度だった。その点この拠点はいいな」
「わかってくれるか!」
「テントとか無かったの?」
「そういうの用意すると襲撃されたからな」
「エヌラス、よっぽどハードな生活してたんだな」
「こういう秘密基地欲しかったんだけどなー」
九龍アマルガム自体、秘密基地みたいなものだ。
そこで、ようやく思い出す。ラステイションの廃工場を買い取って、スピカとカルネにリフォームを頼んでそれから一度も帰っていない。
長年の夢であるマイホームを用意して満足してしまったのは、勿体なかった。
「いやぁ、俺のセンスを理解してくれる友達が増えるのは嬉しいな!」
「思い出したくねぇなぁ……アゴウの空爆」
「えっ?」
機人が携行した迫撃砲や榴弾砲だけでなく、ミサイルまで降り注ぐ拠点制圧戦用拡張装備。キャンプ地点に降り注ぐ鉄の雨。塹壕だろうが洞窟だろうが地の果てまで逃げても追跡してくるビースト分隊。先陣を切るトライデント分隊。目標を押し潰すまで止まらない鋼鉄の軍隊。
「ま、控えめに言っても地獄だ。はい、楽しくない話題はここまで。毛布は三人で使ってくれ。俺は見張りでもしてる」
「エヌラスも寝たほうがいいんじゃない?」
「それもそうだが……今はちょっと寝れそうにない」
「もしかして、嫌なこと思い出させちまったからか?」
「いいや。アイツ等がいると思うだけで気が休まらないってだけだ」
エヌラスは後ろ手を振り、見晴らしの良い場所へ陣取る。
見れば見るほど、嫌な光景だ。拠点の廃ビルから見下ろせば、モンスター達が跋扈している。
倭刀を肩に当てて腰を下ろした。全身の五感を研ぎ澄ませ、モンスターの呼吸音を聞き逃さないほど神経を張り詰める。
「────」
過去を振り返れば、本当に嫌な記憶ばかりだ。
気晴らしにここから何匹か狙撃してやろうかと思ったが、それでは自分の位置を知らせるだけになる。
──ぐぅ~……きゅるん。
「……ほんっと、燃費悪いなぁ俺。腹減った」
缶詰だけではとても間に合わない。とはいえ限られている食料を自分だけ分けて貰うわけにはいかなかった。モンスターでも食べようかと考えていたが、どう食ったものか。流石に踊り食いは控えておきたい。
機械系モンスターも、まぁ配線なら食えなくはない。爬虫類は丸焼きに限る。そういえばヒヨコ虫辺りは生でもいけそうだ。虫は貴重なタンパク源。スライヌも、まぁ耳と尻尾以外は食えるだろう。
……シカベーダーばかりは、どんな味がするのか想像もつかない。あんな粗いドット絵のモンスターの食感も考えもつかなかった。
「──なんか用か、ネプテューヌ」
「え、わたし頑張って気配消してたのに? エヌラスってばエスパー? それともわたしからにじみ出る主人公オーラは隠しきれなかった!?」
背後からの足音に振り向けば、毛布にくるまったネプテューヌが間の抜けた格好をしている。片足を上げて、まるでだるまさんがころんだ状態だ。小走りで駆け寄ってくると隣に座り込む。
「それでさー。どうしてわかったの?」
「感覚強化してたから」
「身も蓋もないなぁ、もう」
「それで、何の用だよ」
「別に大したことじゃないんだけど……」
肩を寄せて頭を預ける。その口元はいつもとの無邪気な笑みを浮かべて、頬を紅潮させていた。
「助けに来てくれて、ありがとう」
「……別に。お礼言われるほどのことしてねぇだろ」
ミイラ取りがミイラになっただけだ。結局なんの解決にもなっていない。ネプテューヌは首を横に振り、エヌラスの言葉を否定した。そんなことはない、と。
「ううん、そんなことないよ」
「お前達を連れて帰るーなんて言っておきながら、帰り道わからないんじゃただのバカだろ」
「でもエヌラスってバカだよね」
「お前に言われると腹立つ。このこの」
「ねぷっねぷぅ~。なんでさ、自分で言ってたじゃん。もー、ノワールに負けず劣らず、いいやノワールに勝るツンデレさんなんだから」
「今頃アイツくしゃみしてんだろうな」
「へっぷち! うぅ……絶対誰か噂してるわね……ネプテューヌかしら」
「いーすんとあいちゃんに頼まれて、来てくれたんだよね」
「頼まれなくても多分来たけどな」
「そういうところ」
「……どういうところだよ」
「ふふーん。エヌラスはおバカさんだからわかんないかぁ~、そっかぁ~」
「調子乗るなよお前こんにゃろ……!」
「ねぇぷぅ~~~っ」
ほっぺたを掴んでこねる。むにーんむにーん。とても柔らかい。
手を離すと、すぐに足の間に身体を潜り込ませてきた。そのままネプテューヌは背中を預けて見上げてくる。
「わたし達、これからどうなっちゃうんだろ」
「珍しいな。お前が弱気なんて」
「でもわたしの主人公力でなんとかなるなる」
「欠片ほどでも心配した俺をぶん殴りたい」
相変わらず底抜けのお気楽さだ。その笑顔を見ているだけで本当になんとかなるのではないかと錯覚するほどに。
額をくっつけて、目蓋を閉じる。触れた肌から感じる体温が心地よい。殺気立っていた精神が安らいでいくのが手に取るようにわかる。
「本当に。お前なら何とかしちまうんだろうな……」
──自分と違って。そう言いかけた口を閉じる。
「だからエヌラスも心配しなくていーよ。ネプギアと一緒にプラネテューヌに帰って、うずめにも見せてあげて」
「イストワールとアイエフからきっつい説教食らって」
「あう……帰るの怖いなぁ……そ、それでコンパのご飯食べて。プリンも食べて。ゲームもして」
「女神のお仕事も忘れずにな」
「あー……うん……忘れてないよ? ほんとだよ? それでそれでー、プラネ商店街でうずめと一緒にお買い物したりー」
楽しそうに喋るネプテューヌが体勢を変えて、エヌラスの首に手を回して抱きついた。
「──だから。大丈夫だよ、エヌラス」
「……知ってるよ」
「もちろん、怒られる時は一緒だよねー。わたしだけいーすんに怒られたりとか絶対嫌だからね! むしろこれはいーすんの人選ミスにあると思うし、うん、わたし悪くないもんねー」
「土下座してでもゼッテェ許さねぇからなネプテューヌ!!」
そうだ、忘れていた。ネプテューヌは率先してシリアスムードブレイカー。真面目な話なんてするはずがなかった。ほんのミジンコレベルでも心配した自分がいる。本当に学ばないバカはどっちだか。
じゃれついてくるネプテューヌが、ふと思い出したように離れる。視線を泳がせて言いにくそうにしていた。今さら何を、お互い遠慮するような仲でもないだろうに。
「そ、それでさ。わたしもネプギアも女神化出来ないんだけど……エヌラスは?」
「俺は──」
確かに、この世界におけるシェアは無い。次元世界に初めて訪れる時は、大抵の場合こういう現象が起きる。
「悪いな、変身しか出来そうにない」
「そっかぁ……でも、その。やっぱり……エッチなことしちゃえばどうにかなる?」
「無理だな」
即答した。それに、ネプテューヌが間の抜けた顔をしている。
「え? なんで?」
「そもそも俺が、この世界でのシェアを獲得していないから」
「でもアダルトゲイムギョウ界の時は」
「いいか、ネプテューヌ。ちょっと小難しい話になるが」
「わかりやすく言ってくれたら聞いてあげるよ。ふふん」
誇らしげなネプテューヌの鼻をつまんで、エヌラスは理由を説明した。
「俺が、確かに、そういう体質ではあるが。そもそも俺が持ってないんだからお前に分けられるわけないだろ」
「ねぷゅ~、れもぉ」
「シェアの分配、というよりは相互付与って形になるんだが、お前も無いんだから俺がそうするメリットがないだろ? そういうことだ。めちゃくちゃ端折ったけどな」
「でも気持ちいいんでしょ?」
「…………」
目頭を押さえて、ひどく頭を悩ませる。確かにそうだ。でも今はそういうことを話しているわけではないんだ。
「いいかぁ、ネプテューヌ。そもそも、魔人の俺がシェアエネルギーを使えてること自体おかしいんだからな? こいつを扱えるようになってるのも全部銀鍵守護器官のおかげなんだよ。ネガティブエネルギーの抑制だけじゃなくて魔術回路やら何やら、全部」
一種の人体改造を施術されているからこそ、エヌラスは荒唐無稽な真似が出来る。魔術回路だってその一つだ。
「どう頑張っても生まれ持った本質だけは変えられない。だから、シェアを失った場合に俺が手元に残せるのはネガティブエナジー、アンチエナジーとかそこいらの負の力だけなんだよ。わかったか。そんな俺が、生粋の守護女神であるお前と今、エッチなことしても意味がないってこと」
「気持ちよくなれるんじゃないの?」
「俺の話を聞いてたか脳みそパープル!」
「なにその罵倒、初めて聞いた!?」
「確かに、気持ちいいけどな。それとこれとじゃ話が別で」
「したくないの?」
「…………話の続きだけどな?」
「あ、逸らした」
「むしろお前が脱線させた。それで、俺がこの次元でのシェアを得るか、お前が得るか。そうでもなけりゃうずめから供給してもらうかでもしないと問題は解決しないってことだ」
「そうなんだ。じゃあわたしがシェアクリスタルを手に入れてからした方がいいってこと?」
当初の目的通りに行動するのが一番の近道だ。とはいえ、それも必要かどうかと聞かれれば特に差し支えない。
エヌラスはネプテューヌの頭を撫でながら見張りを続けていた。
「そういうこと。わかっただろ」
「うーん……」
この期に及んでまだ何か不満があるのか、眉を寄せている。
「なんだよ、他になんかあるのか」
「そういうシェアとかだけで決められちゃうのも、なんかやだなー」
「……」
「エヌラス、それだけでわたし達と一緒にいるみたいでさ……よくないと思う!」
なにか言おうとして、それが言い訳みたいで──エヌラスは何も言えなかった。ネプテューヌが頬を膨らませている。機嫌を損ねたようで、どう声を掛けるべきか考えていた。
「ネプテューヌ」
「なに?」
「あー……その。一回しか言わないからな」
「うんうん」
「心底お前達のこと好きだと思ってる。だから力になれなくて申し訳ないってのに、そんな自己満足の為にお前の事を抱きたいとは思わない。そういうのはもっと、ちゃんと……その、理由が欲しい」
「…………今さら?」
「あーもー! そうだよ今更だよ! 悪かったな! 人がそういう路線にしてんのにお前は本当にそっちの路線に持っていこうとするんだから!」
「ふっふーん、わたしをシリアスムードに持っていこうなんてあまいあまーい」
腰に手を当ててふんぞり返るネプテューヌから毛布が落ちそうになる。エヌラスがそれを掴み、頭からかぶせた。
「わかったから、もう戻れよ。ネプギア達心配するだろ」
「むしろエヌラスが勝手に居なくならないかのほうが、わたしは心配なんだけどなぁ」
「お前達置いて、どこにも行かねぇよ」
「そうだよねー。それじゃおやすみ、エヌラス」
身を翻して走り去ろうとした横顔がいつもの笑顔と違って見えたのは──多分、気の迷いだ。
エヌラスは仮拠点から街の様子を眺めて見張りを続けることにした。