超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ep.11 ダンジョン探索は右手の法則
エヌラスが零次元に来てから数日が経過した。
海男や、うずめに協力しているモンスター達がシェアクリスタルの捜索をしている間、うずめとネプテューヌ、ネプギアはダークメガミ撃破に向けた作戦を練っている。エヌラスはその作戦に関与せず、魔人との戦いに専念することになっていた。
理由は二つ。
ひとつ、ダークメガミの力を抑えるためのフィールド形成には大量のシェアエネルギーが必要になる。それでうずめが「シェアリングフィールド」を展開し、ネプテューヌとネプギアの三人でダークメガミと戦う。性質上、本質的に魔人であるエヌラスの能力も低下が考えられる。
もうひとつは、もしそんな状況下で魔人達の襲撃に遭遇した場合、作戦が全て水泡に帰する。なにしろ相手は邪神の眷属。ダークメガミを封じ込めるだけで精一杯だからだ。
以上の二点。
その作戦を実行するにあたり、大前提としてシェアクリスタルが必要になる。そしてなによりもネプテューヌとネプギア、そしてエヌラスがゲイムギョウ界に帰還することも含めてだ。
そして、現在。なにか手がかりがないか四人は周囲の探索をしている。うずめが仮拠点を設ける際に大体の場所は調査が終わっているが、今回は少し範囲を広げて行動をしていた。
エヌラスのハンティングホラーが自律運転モードから戻ってくる。エンジン音を鳴らし、ヘッドライトを撫でると影の中へと消えていった。
「特に凶暴なモンスター無し。この辺も安全みたいだな」
「それなら安心して調査できるな。行こうぜ、ねぷっち、ぎあっち」
「それにしてもエヌラスがいると本当に便利で助かるなー」
「熱いお風呂に、あったかい食事に、冷たい飲み物まで。それにNギアも充電できますし」
「お前ら、本当に俺のこと災害グッズみたいな扱いするよな……」
むしろ災害みたいなものなのだが。
気を取り直して、今回調査に入るのは未踏査のビル。うずめが言うには、この辺りは特に探索するほどの用事がなかったから、らしい。ビル群から一歩視線をずらせば、荒野が広がっている。こんな街の隅っこに何かあるとは思えないからだ。
「手分けして探すか、その方が効率的だし」
「えー? みんなで探したほうが楽しいと思うけど」
「はいはい、面白さ優先で」
「やったー! それじゃお宝探しにレッツゴー!」
ネプテューヌが早速壊れた自動ドアを抜けて、ビルの中へ入っていく。うずめがそれに続いた。
「……?」
ネプギアだけは首を傾げる。ぶっきらぼうに頭を掻きながらD-Phoneの画面を操作しているエヌラスと並んで歩いていた。
「あの、エヌラスさん」
「ん?」
「なんだか、お姉ちゃんに甘くなりました?」
「そうか?」
「はい。いつもだったら──「楽しいとかしゃらくさいこと言わずに散れ」とか、言うと思うんですけど」
うわー、我ながら言いそうー。などと他人事のように考えて、エヌラスは唸る。
「変か?」
「いえ、そんなことありません。お姉ちゃんに優しくしてあげると、わたしも嬉しいですし」
手を振っているネプテューヌに小さく手を振り返してネプギアが小走りで駆け出した。
「エヌラスー、なにしてるのー? 早く行こうよー!」
「ちょっとは警戒しろっつうのお前は」
ハンティングホラーに探知させていた範囲内に凶暴な敵性反応がなかったとはいえ、限度というものがある。自分たちが引き寄せる事になるかも知れない可能性だって考えられるからこそ、エヌラスは常に周囲を警戒していた。にもかかわらず、ネプテューヌは知ったことかと大声を出している。
──廃ビルの探索開始から、一時間後。
一階はエントランスを含めて、詰め所らしき場所が複数。壊れた機材やガラクタだらけだった。ネプギアは真剣な表情で漁っている。エヌラスはその手伝いをしていた。
倒れた机を廊下に叩き出すと舞い上がる埃に、ネプテューヌとうずめがくしゃみをする。
「へくちっ。うえぇ~埃っぽい~」
「くちゅんっ……まったくだ。もっと丁寧にやってくれよ」
「しょーがねーだろ、邪魔だったんだから」
「すいません、エヌラスさん。こっちの扉開かなくて……」
「へいへい。任せろ」
力仕事はエヌラスが主に片付けていた。ネプギアが開けようとしていたドアを開けようとするが固くて動きそうにない。だが、ドアノブは回る。なにかが引っかかっているようだ。
「ちょっと下がっててくれ」
「どうするんですか?」
「扉を蹴破るのは十八番だ」
一寸、整息する。それからエヌラスは前蹴りで扉の中心を全力で蹴り破った。吹き飛んだ鉄製のドアは障害物もろとも、けたたましい騒音と共に通路の奥へと吹き飛んでいく。
「…………」
「…………」
「…………」
「……やっべ、やりすぎた」
今の音を聞いてモンスターが来なければいいが……ネプテューヌ達がドン引きしていた。
「ねぇエヌラス。ネプギアの武器で切っちゃえばよかったと思うんだけど」
「さーて探索するかー」
「あ、都合の悪いことは聞き流すつもりだ! ズルい、大人ってズルい!」
「今のかっこよかったなぁ! なんかコツとかあんのか、エヌラス」
「そうだなー、出来るだけ扉の中央めがけて、こう」
「ほうほう。次は俺もやってみるか!」
蹴り破った扉を抜けて、エヌラスは火球で内部を照らす。
通路の横。埃まみれの機械が並んでいた。何かのメンテナンスルームのようだが、電気が通じていない室内で朽ち果てていくのを待つばかり。それを見て、Nギアからケーブルを伸ばして機械に接続する。ネプギアの目が訴えかけてる言葉を汲み取ったエヌラスがコンセントを引っ張って左手に握った。
「────」
そして、電源を供給する。加減を間違えれば全部ショートして壊れてしまうため、微調整しながら出力を上げていく。
「点きました! そのままでお願いします」
「了解。この出力を維持する」
接続した端子ケーブルから内部情報にアクセスしてNギアにインストールする。だが、データが破損しているのかほんの一部分までしか解析出来なかった。
「…………」
「ネプギア、なんかわかった?」
「えっと、何かの実験? みたいなのしてたみたい。開発記録かな……日付が飛び飛びだけど」
『────※月※……。稼働成功。人類初の※※※に──』
『────※※※※。※働開始から※日。※※※※は順調に■■■■計画……』
(……なんでだろう。嫌な感じがする)
ネプギアがログを辿るが、そのデータは途中から全て消えている。
「なんでそんなの探ってるんだ、ネプギア」
「実は……うずめさん、記憶を失ってるんです」
「そうなのか?」
「ああ。恥ずかしいことに、俺には過去の記憶がないんだ。気がついたらこの世界で、あのデカブツ達と戦ってた。ぎあっちが提案してくれたんだ。もしかしたら当時の記録から何かわかるかもしれないってな」
「……俺も昔、記憶喪失になった事がある」
「えっ、そうなの!?」
「覚えてたのは自分の名前と、邪神に対する殺意だけ。その時は周りに助けられて、なんとかなったけどな。ほんと一人じゃどうにもならなかった」
支えられて、戦って、別れて──また戦い続けて。
「そこから、ずっと独りだ」
「……なんか、似た者同士だな。俺とエヌラス」
「決定的に違うのは、うずめはまだ巻き返せるってことだな」
「エヌラスだってそうだよ。わたし達がいるんだからさ」
「そうだな。何とかなるんだろ? お前がいれば」
「もっちろん!」
「お姉ちゃんの根拠のない自信は、どこからくるんだろ……」
ネプギアはデータを一部抜き取ってからNギアを外した。それを見てから、エヌラスはコンセントから手を離す。だが、記録を見てからネプギアの顔色はあまり喜ばしくなかった。
「どうした、ネプギア。ちょっと顔色悪いぞ?」
「何でもありません。大丈夫です」
「ここ、埃っぽいもんね。何ていうんだっけ? ハウス……ハウ……ハウスボート?」
「船かよ。ハウスダストだ」
──何か違和感を覚える。
「……やっぱり、何か変だな。この次元」
「どうしたんだよ、エヌラス」
「死体が無いんだよ。ここまで建物が老朽化して、機械も埃かぶってて。人が居た痕跡は残ってるってのに、白骨死体なり腐乱死体なり何なりあるはずなのに、どこにもない。人間だけ消えたみたいになってるのが変だって言ってるんだ」
「────」
「ネプギアが見たデータだってそうだ。開発ログが残ってるのに、それらしい物が何も残っちゃいない。どうなってんだ、この世界」
階段を登り、エヌラスは扉を開けた。静けさの広がる空間。何かの研究施設だったのだろう。ガラスの割れた棚からファイルを取り出すと、ボロボロと崩れ落ちる。相当な年月を放置されていたのだろう。床に落ちている書類も変色しており、文字も掠れて読めない。拾い上げようとしても指が触れるだけでバラバラになっていく。
「エヌラスさんが言いたいことって……」
「
「でも人が居なくなったなら、自然と」
「争った痕跡も無し。自然と人が居なくなった、というならモンスターしか残ってないのはまだわかる。俺が言っているのは、消えた人間がどこに行ったのかってことだ」
「…………それは」
守護女神は人間が居なければ成立しえない。信仰がなければ無力だからだ。だからこそ、人間が居て当たり前という価値観がある。先入観がある。しかし、エヌラスは魔人だ。人間が居なくなるまで世界を破壊する装置だ。だからこそ、人間だけが居ない世界というものに違和感を感じる。
「それこそ、人間だけ消滅させたとかでもなけりゃ納得いかねぇよ。どんなテクノロジーなんだか……。これ以上考えても仕方ない。腹減るし」
「結局そこに行き着いちゃうんですね」
「腹が減っては何とやらって言うだろ? そういうもんだ」
「そうだよねー。わたしもプリン食べたいな」
「出たなプリン欠乏症」
「ねぷっ!? わたしの病気みたいに言わないでってば!」
ほとんど病的なものだろうに。エヌラスに猛抗議するネプテューヌが腰にしがみついてくる。歩きづらそうにする二人を見ていたうずめがメガホンを手にしていた。
「うずめさん?」
「……お前、世界をぶっ壊す側ってことは……! あのデカブツと一緒ってことなんだろ!?」
「ちょ!? ちょっと落ち着いてってば、うずめ!」
「まぁ、そうなるな」
「ねぷっ!? エヌラスもそんな平然と!」
「ッ! だったら答えてもらおうじゃねぇか! 何のために俺達に協力してんだ! ねぷっちやぎあっちが好きだからなんて理由だけか、本当に!」
エヌラスに向けて敵意をぶつけるうずめは、今にも殴り掛かりそうな程の剣幕を叩きつける。
「……俺はな。ぶっ壊す側だった。そうしなきゃ救われない世界を巡ってた。破滅による救済。どん詰まりのハッピーエンドだ。絶望の魔人、それが俺の正体だ」
「……この世界も、そうしなきゃならないってのかよ」
「壊してでも、救いたかっただけだ。俺のいたアダルトゲイムギョウ界は、壊してもやり直せる世界だ。コンティニューとリセットが何度でも繰り返される。それこそ神の悪戯でな。俺はずっとそのために戦ってきた──守りたいものを、壊してでも」
終わらない塔争。自分が最後に生き残らなければ、全てが終わる。敗北は許されず、諦観も許されず、地獄のような戦いを越えてきた。その果てに辿り着いたのが超次元だ。
「結局、俺に世界は救えない。守護女神でもない魔人が救える世界なんて、多次元宇宙のどこに行っても存在しない。だが、此処にはお前がいる。守護女神が残ってる──可能性はあるさ」
「…………」
大魔導師に教えられた。目を覚ませ絶望の魔人、お前独りで救える世界などその程度の価値なのだ。命の価値が釣り合わなければ世界は救えない──。勘違いをするな、と。
お前は、世界の
「だから、ぶっ壊そうとする奴は俺に任せろ。壊そうとするやつを殺すのが俺の仕事、世界を救うのがお前達の仕事だ」
「────」
「何のために協力してるのか、なんて。それだけだ」
戦って、失って、取り戻せなくて──それでも前を向いて倒れた戦士達がいる。そこが自分の命の最前線だと誇らしく散っていった。それを侮辱することなど誰にも出来やしない。
「だからかな、お前は他人の気がしない。俺は他の誰にもこんな地獄を歩いてほしくないんだ」
うずめは何も言えず、メガホンを下ろした。
海男や、ひよこ虫やスライヌ達がいない、本当に孤独な戦い。そんなものを想像して、自分は戦い続けることが出来るのか──うずめには出来ない。そんなの堪えきれない。
目を逸らすうずめの頭に手を置いて、エヌラスはすぐに離した。
「地獄のお仲間増やしたら、俺が師匠にぶっ殺される。さーて、探索再開だ」
「…………変なやつ」
だが。
頭に置かれた手の温もりは決して悪いものじゃない。信じてもいいのだろう──。
「あ、エヌラスさん! 足下気をつけてください!」
「へっ──うぉぉぉぉおおおお──……!?」
「うわー、エヌラス綺麗に落ちた……大丈夫ー!?」
「しまらねぇな、おい……」
足下の注意がおろそかになっていたエヌラスが壊れた床穴から下の階に落下した。