超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──エヌラスが向かった先は、ジングウサクラ公園。海男達がひよこ虫達と共にシェアクリスタルを発見した場所へハンティングホラーで移動する。
大魔導師に預けて改造して貰ったが、特にこれといった変化が見られない。
「……ふーむ」
エンジン音は快適。ホイールの調子も良い。グリップも問題ない。ハンドリングレスポンスも即時応えてくれる抜群の操舵性。本体重量の増加も感じられないが、絶対に何か細工されているであろう事はひしひしと感じていた。
ハンティングホラー。闇を狩る獣。忌まわしき狩人──等など、様々な名前を持っている。しかし、これもまた大魔導師設計。なんでも開発には街を破壊して回る大迷惑な破壊ロボの開発者も携わっているらしいが、なんであんなキ○ガイからコレが発明されたのか理解出来ない。いや、理解したくもないが。
元々動力部には魔導書を用いている。魔導燃焼機関は九龍アマルガムではさして物珍しくもない話だ。スピカとカルネも炉心に「ALハザード・ランプ」「無間心臓」の二種類を使用している。元の設計者は自分だが、今生の二人は誰が設計したのか未だ闇の中だ。
「なぁ、ハンティングホラー。調子はすこぶる良いみたいだが、お前どの辺が変わったんだ?」
《…………》
獣は黙して語らず。鈍重なエンジン音で応えていた。
変形機能、もとい変身機能を多数搭載しているというのも魔導燃焼機関の副産物だ。それはエヌラスの変神と同様に、魔力を一定量消費させて形状そのものを変化させるというものなのだが。
飛行形態。加速形態。砲撃形態と主だって三種類。中には無貌の獣として扱う事もできる。それによって意思疎通が可能となっているのだが、ハンティングホラーは応えない。いつもならば電子音声なり文字なりで返答してくれる。
「……」
《…………》
返事を待ってみるが、答えてくれない。話したくないのなら仕方ない、エヌラスがそう思っていた矢先、左腕に紫電が奔る。チクリとした小さな刺激に顔をしかめると声が聞こえてきた。
『──どうやら、彼も私たちと同じみたいですね』
(……誰だお前?)
『まだ気づいてなかったんですか、貴方は。思ったより鈍い方なんですね』
(どっから話してんだ)
『……どこからでしょうね?』
(すっとぼけんな)
ハンティングホラーが停車する。自分の意思とは無関係に紫電が発動している感覚に、エヌラスが顔をしかめていた。だが、この感覚は以前にも経験している。
(お前、アレか。浮遊要塞の時に助言してくれたやつか)
『今さら気づきました?』
声の主は女性だろうか、くすくすと忍び笑いが聞こえた。
(とりあえずハンティングホラーのこと、なんか分かるなら教えてくれ)
『んー、そうですねぇ……彼自身、戸惑ってるみたいです。自分に意思が芽生えたことに』
(そりゃ以前からだろ?)
『いえいえ、そうじゃありません。以前よりも明確に自我を持っています』
(相変わらず大魔導師はやることなすこと人の度肝抜かしてくれるわ。解決方法はあるのか?)
『私にお任せください!』
大層な自信があるようだが、残念なことに目的地に到着している。ハンティングホラーから降りたエヌラスは左手に稲妻の細剣を形成した。意思とは裏腹にその刀身に稲光が奔り、目を覆う。
光が収まると、エヌラスの手からは細剣が無くなっていた。その代わりに──ポンポン、と肩を叩かれる。咄嗟にイタクァを召喚して銃口を突きつけると、そこには金髪のショートポニーテールで軍服を着た女性が立っていた。人懐っこい笑顔を浮かべている。
「こうして顔を合わせるのは初めてですね」
「……ちょっと待った」
「はい?」
「お前、あれか。さっきの剣に宿ってた魂的なやつか?」
「はい! そうなります!」
明快な返事をしてくれるのは助かるが、エヌラスは頭を抱えた。
おい大魔導師、テメェなんつーもん寄越してくれやがったんだ──。
「どうかされました? もしかして頭痛がペインですか?」
「人を小馬鹿にしてんのかお前」
「いひゃいれふぅ」
頬を掴んでみるが、ちゃんと実体はあるようだ。幽霊ではなさそうだが……エヌラスはひとまず海男との合流を最優先とした。
「と、とにかく。ハンティングホラーを任せた、俺は海男と合流してくる」
「お任せください! さー、お話ししましょうねー、怖くないですよー。よしよし」
燃料タンクを撫でながらバイクに語りかける軍服姿の女性、というあまりに現実味の無い光景にエヌラスは不安を覚えながらも海男達を探す為にその場を後にする。
徘徊しているモンスターを撃破しつつ、ジングウサクラ公園を歩く。小型モンスターが多いようだ。
滅亡寸前の零次元に残された自然というのは、なんとも言えない侘しさのようなものがある。栄養の乏しい土壌であっても、まだ辛うじて残っている花びらを散らしている並木通り──それにエヌラスは既視感があった。超次元のサクラナミキをアイエフと一緒に歩いた記憶がある。
「……まさかな」
バカバカしい。そんなはずがあるか。大体にして公園なんて全部似たようなものだ。
「海男ー、どこだー」
気を取り直してエヌラスはモンスターをなぎ払いつつ奥へ奥へと進む。見向きもせずに倒したネコリスを見て、ちょっと骨が多そうで食べ応えがなさそうだな、なんて考えながら。
木陰に見えた小さな影に向けてレイジングジャッジを撃つとひよこ虫が出てきた。危うく撃ち抜くところだったが、間一髪で外れたようだ。涙目でガタガタ震えている。おーよしよし、怖かったろう。
「どうした、ひよこ虫」
「う、うずめのお友達……?」
「あーそうだ。海男がどこにいるか知らないか?」
「海男は向こうの方だよ。案内してあげる」
「助かる。このままじゃここらにいるモンスター根絶やしにしちまう」
つまみ食い的な意味で。
運良く合流できたひよこ虫の案内で、海男がいる場所へ向かう。
──ひよこ虫の大群が見えてきた。その中心にいるのは、海男。シェアクリスタルを確保して移動していたようだ。エヌラスの姿を見つけると、宙を泳ぎながら近づいてくる。それに片手を挙げて挨拶を交わした。
「よぉ、海男」
「やぁ。エヌラスだけかい? うずめ達は?」
「あー……ちょっと、体調不良みたいで」
「そうか。それは心配だね。戻ったら紅茶でも淹れてあげよう」
「そうしてやってくれ……」
「? どうかしたのかい?」
「い、いやぁ、ははは。別になんでもない」
まさか「モンスターを食べて腹を壊した」なんて、言えるはずがない。俺は悪くない、うん。
「それで、シェアクリスタルは」
「ああ。思った以上の収穫だったよ。これなら十分な量のシェアを確保できるだろうね。不測の事態に陥っても、備えあればといったところかな」
海男だけでなく、数匹のひよこ虫達がシェアクリスタルを持ち上げて見せた。その数は確かに十分な量である。
「大収穫ー」
「うずめ、喜んでくれるかな」
「きっとな。さて、それじゃあ──」
エヌラスがひよこ虫達を連れて拠点へ戻ろうとした矢先、火球が降り注いできた。即座にクトゥグアで相殺させる。爆風で桜の花びらが舞い上がり、土埃を切り裂いてビームザンバーが振り下ろされた。倭刀で防ぐと、足で押し出して距離を取る。
「敵襲か!」
「海男、ひよこ虫達連れてこっから離れろ!」
「任せたまえ。みんな、こっちだ!」
「おっと。そうはいかんぞ魚類。それは私のシェアクリスタルだ」
連発される魔術の数々を、エヌラスが多重召喚した偃月刀で防ぎ切ると、舌打ちを漏らす。
魔女帽子のツバを持ち上げながら、忌々しそうに睨みつけるマジェコンヌの隣には、黒いセーラーワンピースを着たクロギアがいた。予想通りと言えばその通りだが、最悪な予想が的中した結果となる。
「おい、黒い小娘。貴様も見ていないで私に手を貸せ。そういう話だろう」
「わかってます……」
「アイツがいるんだ。お前が居ないとは考え難い、が……このタイミングでか」
「ふんっ。まぁいい……おい貴様、邪魔をするな」
「うっせぇムラサキババァ、誰だお前」
「我が名はマジェコンヌ。この世界を滅ぼす者だ」
「律儀に自己紹介ありがとうよ」
お礼と言わんばかりにレイジングジャッジで狙い撃つが、魔術で防がれた。半ば不意打ちで狙ったにもかかわらず、良い反応をしてくれる。
「人に名乗らせておきながら、自分は名乗らないつもりか?」
「悪名名高いエヌラスだ。覚えてくれなくていいぞムラサキババァ」
「マジェコンヌだ! 貴様さては人の名前覚えるのが苦手か!」
「うっせぇわ! こちとら今忙しいんだよ、ナスみたいな肌の色しやがって! 邪魔すんな!」
「それはこちらのセリフだ! 大体なんだナスをバカにしおって! 健康に良いのだぞ! さては貴様もナス嫌いか!」
「好きでも無ければ嫌いでもねぇよナスババァ!」
「だからマジェコンヌだと言っているだろうが貴様ぁぁぁっ!」
エヌラスとマジェコンヌの口論を横から冷ややかな視線で見守っていたクロギアが手をかざして光球を撃ち出した。単純な攻撃魔法だったのか、エヌラスが倭刀で切り払うと霧散する。聞くに堪えない罵詈雑言の押し付けあいに区切りをつけたかったのだろう。
「……お久しぶりです、エヌラスさん」
「お前も変わりないようで、何よりだ。クロギア」
「クロギア……そうですね。きっと、お姉ちゃんがわたしを見たら、そう言いますよね」
目を伏せて、視線を逸らす。情緒不安定な魔神、だからこそ危険性は人一倍高い。いつ爆発するかも分からない爆弾が前にある。
「あの厄介な剣は使わないのか?」
「……ゲハバーン、ですか。あれは、使いません。貴方を相手するのはマジェコンヌだけで十分ですから。任せました」
「人に命令するな、黒い小娘」
「お前も人のこと言えないじゃねぇかナスババァ。名前覚えらんねーのか」
「貴様に言われたくないわぁ!!」
マジェコンヌが杖を一振りすると、次々と魔術が放たれる。エヌラスがクトゥグアとイタクァによる二挺拳銃で相殺させて、反撃に転じた。だが、迫る魔弾を全て魔術で防御してみせる。
「高度な魔術のようだが、防げんほどではないな。そうら、お返しだ! 受け取るが良い!」
「ノーセンキューだクソッタレ!」
魔力を渦巻かせた魔力球がエヌラスに迫るが、その術式を解析して紫電を纏わせた脚で蹴り返した。思わぬ反撃を受けてマジェコンヌが爆風に呑み込まれる。それを隣で見ていたクロギアがため息をついていた。
「……わたしも手を貸した方がいいですか?」
「チッ……いらん! 私一人で十分だ! 貴様はさっさとシェアクリスタルを取り返してこい!」
「そこまで言うのなら、お願いしますね」
海男達を追おうとするクロギアだが、クトゥグアの魔弾によって足止めされる。
「つれねーこと言うなや。相手してやるからまとめて来い」
「…………」
「大体てめえのシェアクリスタルじゃねぇだろうが、マジェコ……ナスババァ」
「おい、なぜ訂正した! 途中まで言いかけただろう!?」
「いちいちうるせぇなお前! そんなこまけぇこと気にしてるから小じわ増えるんだよ!」
「私の肌はまだピッチピチだ!」
「若いやつはピッチピチとか言わない」
「なん……だと……!?」
少なからずショックを受けて動揺するマジェコンヌを尻目に、クロギアがビームザンバーを構えてエヌラスに駆け寄った。
高出力型に改造されたエネルギー出力。大柄な刀身だが、軽量で取り回しやすい。手首を返した斬り上げからの横薙ぎをエヌラスは難なく倭刀で防いでみせた。普通ならば焼き切られているところだが、魔術で補強してあるだけあってそう簡単に折れない。火花を散らしてクロギアが後退る。
「本当に、厄介な人です。疫病神ですね」
「それはこっちの台詞だ」
「……そう、ですね。わたしも、お姉ちゃん達からしたら、厄介者ですもんね」
「くそっ、やりづれぇ……」
どうにも似た顔が相手では戦いにくい。だが、あれは魔神。他の魔人達とは一線を画する。その大本となったのが人間ではなく、守護女神の一柱だ。だからこそ保有している力もまた、女神に匹敵するだけのものとなっている。
「……わかりました。あなたが言うなら、わたしもお相手します」
戦闘音から遠ざかる海男とひよこ虫達はジングウサクラ公園をモンスターの目を逃れながら脱出しようとしていた。
「追ってきていないみたいだ」
「うずめ、まだかなぁ」
「早くシェアクリスタルを渡さないと」
「いつまで逃げ切れるかも分からない。用心して行こう」
海男が先陣を切って進んでいると、ひよこ虫が転んでシェアクリスタルを落としてしまう。それがモンスターの注意を引いたのか、見つかってしまった。
「しまった、早くこっちに!」
「でも、シェアクリスタルが──!」
一個くらいならば、とも考える。しかし、仲間の命が最優先だ。続々と集まってくるモンスターの群れに囲まれつつある状況で、海男はひよこ虫を連れて逃げようとする。だが、抜け道を塞ぐように立っていたナーガに見つかってしまった。
エヌラスは今、手が離せない状況だろう。後方ではまだ爆発音などが聞こえてくる。海男が万事休すかと思った瞬間、稲光が走った。
「っ──」
まばゆい閃光がモンスター達の合間を縫うように駆け巡る。海男に噛み付こうとしていたナーガもまた、首を切り落とされて地面に横たわった。恐る恐る目を開けると、黒い軍服を着こなした女性が立っている。
紫電を纏う細剣を手に、凛とした瞳を向けていた。しかし、それからすぐに朗らかな笑みを浮かべると海男に手を差し伸べる。
「大丈夫ですか、お魚さん!」
「あ、ああ。助けてくれてありがとう。君は……?」
「私ですか? 私は──」
女性は、稲光に負けず劣らずのまばゆい笑顔を見せた。
「実は、私自身よくわかってません。なので、私のことは──