超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プルルートは病室でエヌラスの目覚めを待つ。そこへ、ユウコが顔を出した。その手には差し入れとしてフルーツを盛り合わせたバスケット。自腹である。
「あ、ぷるちゃん。やほー」
「あ~、ゆうちゃんだぁ~。お仕事はぁ~?」
「一段落して休憩がてらって感じかな。どう、エヌラスは」
「う~ん。まだ起きないんだぁ~……」
「そっか……」
ユウコが椅子を持ちだして腰掛け、エヌラスの寝顔を眺めた。普段の横暴な振る舞いからは想像もつかない子供のような寝顔に、同一人物であるとはにわかに信じがたい。ユウコはバスケットからリンゴを取り出すなり一皮で綺麗に剥いた。その手並みは慣れているとか、そういう次元ではなく機械のような精密さ。
包丁の刃に、リンゴを当てて回転させただけだ。
「食べる?」
そこからの切り分け方に至ってはブラインドタッチのように手元すら見ていなかったが、綺麗に種を除いて均等に切り分けている。プルルートは一ついただくことにした。
「……コイツねー、犯罪国家とか物騒な国の王様だけど、ろくに国の仕事してないのよ。見れば分かると思うけど。放任主義、ていうの? やることなすことお構いなしって感じでさ。だからそのせいで他の場所からは結構恨まれてたりするんだよね」
「そうなのぉ~?」
「うん、そうなの。特に、傭兵組織を率いるドラグレイスとはね。あのならず者連中も九龍アマルガムには少なからず世話になってるけどさ、そこのクスリに手を出して痛い目見て逆恨み」
とにかくもう、酷い有様らしい。しかし、その国から得られる物は合法非合法を問わず大きなものだ。
「とにかくやりたい放題し放題って感じの国だから、エヌラスがキミ達に何も言わないのも無理はないよ。でも、大事なことはちゃんと言っておかないとね。誰かが言わないと、コイツ絶対言わないし。自分のことで手一杯だから――この世界が、こんな状況じゃなければね」
だから私が苦労してるんだけどねー、と付け足してユウコはリンゴを頬張る。
「だからぁ、お世話してるのぉ~?」
「やー、なんかそう言われると言うこと聞かない躾のなってないペットみたいだなーコレ(エヌラス)のこと……まぁ間違ってないけど。私の国だからね、コイツのこと長居させると私が国民からバッシング受けちゃうし」
理由も原因も言わずもがな。だが、増える軽犯罪の取り締まりにはエヌラスが一番最適なのだ。最も犯罪に身近な人物であると同時にそうした連中との付き合い方も知っている。この数日でユノスダス国内での不正取引や横領、その他の犯罪率は激減していた。エヌラスが入国と同時に片っ端から取り締まった結果である。――有無を言わずぶちのめしたとも言うが。
「でもコイツ、他に行く宛なんて無いし。仕方なくだよ、仕方なく……」
「じ~……」
「……し、しょうがにぃじゃん? インタースカイは人いないし、アゴウはそれどころじゃないし、九龍アマルガムはやべーとこだし、コイツの気の休まるところなんてユノスダスくらいだって」
そのユノスダスですら安住の地であるかと聞かれれば、エヌラスは引きつった笑みでこう答えることだろう――国王を除いて、と。
「だから、ちょっとだけ羨ましいんだ。ぷるちゃん達が」
「そうなのぉ?」
「うん。私は、ほら。ユノスダスにいる時のコイツしか知らないし。他でどうなのかなって」
「う~ん……」
そうは言われても、すぐに思いつくほど付き合いが長いわけでもない。そういうことならばアルシュベイト辺りにでも聞けばいいだろうに――とはいえアレもアレで結構間の抜けた男だ。
「変わらないかなぁ……」
「そっかー、底抜けのバカなんだコイツ」
ユウコがデコピンされて額を擦る。誰がやったかは一目瞭然。プルルートは膝にねぷぐるみを置いているし、ユウコの両手はリンゴで塞がっている。
呼吸器を着けていたエヌラスが片目を開けて手を伸ばしていた。
「誰がバカだこのやろう……」
「おはよ~、エヌラス」
「俺の名誉の為に起きなきゃいかん気がした……」
「大丈夫なの?」
「大丈夫なわけあるか馬鹿野郎……!」
呼吸器を取り外し、点滴と輸血パックを腕から引き抜くとエヌラスは大きく息を吸い込む。
「いいから、寝てなよ。目が覚めたのは嬉しいけどさ、無理したら死んじゃうよ」
「死ぬときは何やっても死ぬ。身体の方はともかく、魔力はどうにもなんねぇ……なぁ、ユウコ。“
「あ”んだって?」
「あるわけねぇよなごめんなさい……」
「ミード~?」
「黄金の蜂蜜酒。通称、ミード。ドラッグの一種。魔術的な含有成分ガンギマリのマジカルケミカルドラッグ、勿論違法だからね? 一度服用すれば世界が転覆するって言われるくらいの代物――を、こ・の・や・ろ・う・は、寝起きで、私に、そういうこと聞いちゃう? そっかー聞いちゃうよねぇぇ……だって私ここの国王様だもんねぇぇぇ……い・い・か・ら・寝てろよぉぉぉ……!」
「寝てられっかボ・ケ・ナ・ス・がぁぁぁぁ……!!」
押し倒そうとするユウコにエヌラスは必死に抵抗して身体を起き上がらせた。はて、この光景はつい最近見たような……プルルートは小首を傾げる。
「取り扱うわけないでしょ、あんな第一種危険違法薬物」
「第一種じゃねぇ、最重要特級魔術的違法薬物だ」
「尚更タチワリィよぉそれ!?」
「あと、病院では静かにな」
部屋を覗きこんだナースが「あぁまたか」みたいな表情でため息一つ残して病室から離れた。
「俺からしたらあんなんただの栄養ドリンクみてぇなもんなのにな……」
「キミからしたらそうだけど、一般人だとそうもいかないの。うっかり口に入れた人がどうなったか知ってるの?」
「発狂して自殺か精神錯乱で植物状態が関の山」
「知ってんのかい!」
「何言ってんだユウコ。九龍アマルガムじゃうっかり服用したバカが体組織の構造を根本的に変化させて化け物になった奴が射殺される案件が年間数十件ほど起きてる。日常茶飯事だ」
「そんな異常な日常絶対嫌だからね。普通は起きないからね」
「美味しいの~?」
「スッキリ飲みやすい酒って感じだな。味は、まぁ薄口の蜂蜜だが」
「へ~、そうなんだぁ~。ちょっと飲んでみたいかもぉ~」
「あのー、ぷるちゃん? 今のお話聞いてたの? ねぇ、聞いてたー、もしもーし?」
「一本くらいなら平気だろ。体構造の変化は耐性無い奴が飲んだ時の話だ」
「あるとは限らないよねそれ」
「大丈夫だろ。女神だし」
考えてもみれば、守護女神達がバイトをしているというよくわからない光景がユノスダスで起きているのだ。国王であるエヌラスは町を破壊して入院。ドラグレイスは輸出入の物資を護衛。アルシュベイトは復旧作業という名目の土木建築の陣頭指揮。
「もうこれわかんねぇなー、ユノスダス……」
ユウコは仕方なく自分が譲ることにした。本来であればもうしばらくの間はおとなしく入院していてもらいたかったが、エヌラスが大人しくしているはずがない。
「はい、これ」
「ん? なんだこれ……服?」
「キミの替えの服だよ。患者服で街中出歩くつもり?」
「いや、変神して帰るつもりだったが」
「神化ってそういうものじゃないからね! 服がないなら変身すればいいじゃないとかそういうくだらないアレじゃないからね!? キミの場合尚更だからね!?」
エヌラスが以前着ていた黒ずくめの服が一式揃っている。ダメージジーンズは元々擦り切れてそうなっていたのか、普通のジーンズが用意されていた。
「じゃあ、これから九龍アマルガムに帰るの……?」
「正直帰りたくねぇが、仕方ねぇだろ。黄金の蜂蜜酒が無い以上は原産地で手に入れる」
「そっか……寂しいなぁ……」
「……夜の方か?」
「~~~~、――死んでろ、バーカ!」
エヌラスの頭をフライパンで殴打して、ユウコは眉を吊り上げて部屋から出て行ってしまった。
「そういうの、言わなきゃいいのになぁ~……」
「俺は間に合ってるしな……ッテテテ、あの野郎、怪我人だぞ俺……」
「そうだよねぇ~。エヌラスはぁ、あたしとノワールちゃんで間に合ってるし、そこにねぷちゃん達も加わって大満足だもんねぇ~」
「事実であり現実ではあるのだけれども俺の心が悲鳴をあげる間もなく死ぬのでやめてくださいお願いします」
「変態さぁ~ん」
「やめろぉ……!」
「嬉しいくせにぃ~?」
「しにたい……」
起きるべきではなかっただろうか。エヌラスはベッドに倒れ込みながら白い天井を見つめた。
九龍アマルガム。犯罪国家――自分の治める国。正直な話、帰りたくはなかった。戻りたくないというのは本音である。