超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
女神化できないはずのネプテューヌとネプギアが、うずめに続いてモンスター達からの信仰を得たことで女神化に成功する。多少、予想外の展開となったがここまでは作戦通りだ。
大きく歪んだ三日月型の刃を持つバルザイの偃月刀を鍛造し、エヌラスはカオスシスターの射撃を打ち払う。
クロギアが変身した時に溢れ出たエネルギー反応。自分が魔人だからかは定かではないが、変身する瞬間に感じたものはアンチエナジーないしネガティブエナジーだ。それを使って変身できるということは、もはやクロギアは女神としての機能を果たしていない。
攻撃機能を有したプロセッサユニット、大型複合武器、ゲハバーンに加えて、ネプギアの器用さも兼ね合わせた万能型の戦闘力は、パープルハートに負けず劣らずだ。
エヌラスが辛うじてカオスシスターの攻撃をサクラの木を盾にして凌ぎ、土煙の中へ姿を眩ませる。それを見て上昇し、X.M.B.Bをかざしたカオスシスターが唇を噛んだ。
上下に分かれた銃身にエネルギーが迸り、ブラスターモードで地面を焼き払う。照射されるビーム光からエヌラスが飛び出して左手のリボルバーを連射して応戦する。
「疾走れ、イタクァ!」
六発の弾丸は複雑な軌跡を描きながら空を舞うカオスシスターを追うが、黒と紫を基調としたプロセッサユニットの羽根から粒子が舞う。それにビーム射撃を放つと反応を起こして空中で魔力爆発が起きた。六発の魔弾が相殺され、カオスシスターが反転してくる。
「一撃かよ、くそ」
「──バレルスフィア」
静かに呟くと、オプション装備のように球が両脇に追従して魔力を放ってきた。自動攻撃型のオプション射撃を魔法で防ぎながらエヌラスはブレイドモードのX.M.B.Bの斬撃をバルザイの偃月刀で弾き返す。
その勢いのまま、宙で回転しながら連続で切り払ってくる──ミラージュダンスだが、左手のゲハバーンも交えた攻撃、更にはオプションの射撃も加わっての猛攻。バルザイの偃月刀だけでは到底防ぎきれず、浅手を受けてエヌラスはアクセル・ストライクで距離を取った。
「ちっ──」
ハウンドスーツの耐刃機能など、濡れた障子のようなものだ。じんわりとした痛みが腹部を横に撫でている。銀鍵守護器官による自己再生を開始するが、エヌラスが異変に気づいた。
「無駄ですよ。あなたのそれでは、治りません」
「どういうことだ」
「毒を持つモンスターが、自分の毒で毒にならないのと同じです」
自己再生能力を封じられたも同然の攻撃に、エヌラスは冷や汗をかく。攻撃に晒されるということは、死に直結していることだ。これまでのような命知らずの特攻では痛い目に遭うことだろう。
形成されたシェアリングフィールドからは震動が響いてくる。光り輝くドーム状の内部ではダークメガミとパープルハート達の戦闘が継続していた。それにふと、カオスシスターが視線をやるとため息をこぼす。
「シェアクリスタルを大量に使用した、シェアリングフィールド──あの内部なら、わたしのこの力も、あなたも満足な戦闘が出来ないと思いますよ」
「それを知ってるからこうしてお前と二人きりなんだろうが」
「────」
口を開き、何かを言いかけて。カオスシスターは言い直した。
「……ネプテューヌさん達に、これ以上負担を掛けないためですか?」
「それ以外に何があるんだよ」
「そんなことをすれば、当然……信仰の結界を壊してしまうから。そうですよね」
魔人である以上、女神達の持つ力とは本質的に相容れない。だから能力に制限が掛かる。
もしもの話──例えば、今ここでネガティブエナジーによる変身で一気に片を付けてしまおうとすれば、カオスシスターの撃破は可能だろう。だが、それが意味するところはつまり。
「忘れていないですよね。わたしが、ゼロクリスタルを持っていることは」
「あの野郎のだろ、知ってるさ。だから俺が苦労してるんだろうが」
邪神ヌルズのゼロクリスタルに、自分の力を与えるということ。復活を早めてしまう形になる。エヌラスにとってしてみれば、完全にメタを張られている状況だ。
早急にダークメガミとの決着をつけてほしいものだが──それもマジェコンヌの妨害がある。
くすくすと、口元に手を当てて笑うカオスシスターに、エヌラスは対照的に苦い顔をしていた。
「自分から窮地に陥ってるって、気が付きました?」
「そんなん毎度のことだ、慣れてる」
「そうでしょうね。ですが──わたしとしても、マジェコンヌがやられるのは困ります。あんなのでも、今は仲間ですから。ダークメガミもまだ倒されるわけにはいかないんです」
「お前の目的はなんだ」
「一番は、邪神復活。この世界の破壊は、二の次で、オマケです」
零次元の破壊が、二の次──? 表情の険しくなるエヌラスに、カオスシスターはX.M.B.Bの銃口を突きつけて牽制する。
「ネガティブエネルギーの回収、そのついでです。効率的なので。ですが、暴走するダークメガミを止めるのは流石のわたしも大変なので。制御してくれる人がいないと困ります」
「……お前自身の目的はなんだ?」
「────」
「それはヌルズがお前に与えた目的だろう。だったら、なんでアイツに付き従っているのか答えてみろ」
エヌラスの問いに、今度はカオスシスターが顔をしかめる。触れてほしくない話題に触れられて口を閉じて、黙秘していた。
「……イジワルですね、あなたは。どうしてそんなことを聞くんですか」
「いやなに。ちょっとした好奇心だ。どうして女神であるネプギアが、邪神の力を使えるのか」
「っ──」
「どうしてお前が、ネプテューヌ達を妨害しないのか」
「やめて、ください……! それ以上──!」
エヌラスの言葉を遮るように、フレアを放出しながらカオスシスターがブレイドモードで振り下ろす。ゲハバーンも含めた二刀流の連撃を防ぎ、捌き、避けながらクトゥグアで不意をつく。爆発に呑まれて体勢を崩した隙を逃さず、立て続けに連射する。
「どうしてお前が、ネプテューヌ達を前にすると取り乱すのか。答えはひとつだ」
「それ以上、言わないでくださいッ!」
「お前のいた次元は──」
せき止めていた感情の波が決壊したカオスシスターが、髪を振り乱して頭を抑える。
「──が、う──違う──違う、そんなはずない! だってわたしは、わたしはあの人に──! あなたなんかに、何が分かるって言うんですか! あなただってあの人と同じじゃないですか、わたしの全部を、壊して奪った張本人なのに! 何も知らないのに、わたしがどれだけ苦しんでいるかなんて、なんにも知らないのに! わたしだってあんなことしたかったわけじゃない! わたしだって──!」
ひとつ、はっきりした事がある。
クロギアのいたゲイムギョウ界は、もう存在しない。それは、ヌルズの手によって破壊された次元だ。並行世界、パラレルワールドのようなゲイムギョウ界があってもおかしくない。その唯一の生き残りこそがクロギアの正体だ。
破壊した張本人であるヌルズに従うのは、強制されているからだろう。もしも、クロギアが知っているネプギアと同じであるならば──まだ引き返せるかもしれない。
だが、果たして。絶望の只中に身を置いて後悔し続けているクロギアを救うことができるだろうか。
「わたしだって──
「…………」
クトゥグアを転送し、エヌラスは静かに息を吐き出す。精神を集中させる。
嗚呼、それこそは勘違いだクロギア──お前の方こそ何も分かっちゃいない。
「そっくりそのまま、言葉を返すぞ……テメェに、俺のなにが分かる……!」
どれだけやり直したと思っている。どれだけ繰り返したと思っている。自分がどれほど、誰も救われないバッドエンドを乗り越えてきたと思っている。
「お前がアイツに何を言われて協力してるのかなんて知らねぇが、勘違いしているみたいだから教えてやる──! 死んだ奴は、なにやっても生き返らねぇんだよ! 壊れた世界は、どうやっても元通りになんてならねぇんだっ! たかが一回や二回、大切な人たちを失ったくらいで泣き言言ってんじゃねぇぞ!!」
「だったらどうしたらいいんですか! 大切なものを壊されて、奪われて、そうしなきゃ守れなかったものを全部、全部ムダにされたのに!」
「だからといって、神様の玩具になんてなったらそれこそ終わりだ──!」
偃月刀を鍛造する。その数にして八本。多重投影を維持するだけでも身体が熱を帯びるのがわかる。右肩に野太刀を担ぎあげて振り下ろした。
浮遊しているオプションに偃月刀を突き刺して、爆発させる。野太刀と打ち合うゲハバーンを切っ先で逸らし、踏み込んで斬り上げる。プロセッサユニットを掠めるだけに留まったが、手首を返して追い詰めていく。
「取り返しのつかないことをしてきたなんて俺だって同じだ! 誰が好き好んでやり直しなんかするかぁ!!」
「ッ──ゲハバーンッ!!!」
手にしていた剣を宙に放り投げ、カオスシスターが飛び上がる。X.M.B.Bが展開し、ゲハバーンを噛むように一体化すると巨大な穂先を持つ槍のように変形させた。銃であり剣であり、同時に槍でもあり、パープルハートの持つ太刀にも似た武器を手にして急襲を仕掛けてくる。
グリーンハートの一撃離脱。そして、ブラックシスターの正確な射撃でこちらの動きを封じてくる。悪寒が走り、エヌラスがその場から離れると漂っていた冷気が一点に集中して凍りついた。
(ロムとラムの魔法もかよ──! どんだけ女神の力を吸収してんだアイツは!)
「こんな力……こんな力、こんな力! こんなの──!! こんなのがあるから、わたしはっ!」
降り注ぐ32式エクスブレイドを避けて、エヌラスがハンティングホラーを喚び出して跨る。
「
呼び声に応じて、ハンティングホラーの形状が変化していく。黒い表面から、赤く塗り替えられていき、大型二輪から大型トライクへと。前輪を左右に展開させて後輪を横倒しにすると、エヌラスは飛行形態のトリプルシックスに足を乗せてカオスシスターに迫る。
「全部、消えちゃえばいいのに──!!」
頭上高くに振り上げたゲハバーン複合武器に魔力とネガティブエネルギーを集中させて、雲を裂くビームザンバーを形成するとエヌラスめがけて振り下ろした。
トリプルシックスを蹴り出して辛うじて避けることに成功したが、その先にはうずめ達がいるシェアリングフィールドがある。
最大出力のゲハバーンが触れたフィールドは一撃で破壊され、その内部で交戦していたパープルハート達はダークメガミにトドメを刺そうとしていた。思わぬ妨害に攻撃を中断するとすぐに回避する。しかし、巨体を誇るダークパープルだけは直撃を受けて肩から袈裟懸けに身体を切り裂かれると苦痛のうめき声を挙げながら姿を消していった。
肩で息を整えていたカオスシスターが我に返り、ゲハバーンを転送すると、余波を食らったマジェコンヌを回収して爆音と共に飛び去っていく。
「…………」
あれほど苦戦していたダークメガミを一撃で。パープルハート達が絶句していた。もしも直撃を受けていたらと思うだけで背筋が凍る。
空中から落下していたエヌラスをトリプルシックスが受け止め、着地する。ジングウサクラ公園を見渡せば、辛うじて残っていた自然が見る影もなく枯れていた。なけなしの生命力を振り絞っていたサクラの木は色褪せている。この周囲一帯にあったシェアクリスタルも残っていないだろう。
「エヌラス、無事かしら?」
「ああ、なんとかな。そっちは」
「わたし達は大丈夫よ。もう少しのところでダークメガミを撃破できそうだったのだけど……ごめんなさい」
「謝るのは俺の方だ」
「マジェコンヌも取り逃がしちゃいましたし……」
「しぶてぇな、あのナスババァ」
「それにしてもさっきのは。もしかして、クロギアの?」
「ああ。多分、最大火力だと思うけどな」
ひとまず今は、全員の無事を喜ぶべきか──その前に。エヌラスがちらりと見やるのは、見慣れない女神の姿。
オレンジ色の髪に、白い衣装とプロセッサユニット。どこか緊張感のない、ほにゃっとしたあどけない表情は胸を撫で下ろしていた。
「ビックリしたけど、みんな無事でよかったぁ。でも、うずめのシェアリングフィールド壊されちゃった……」
「…………」
「ほにゃ? どうしたの、エヌラス?」
「あー……うずめだよな?」
「うん、そうだよー。オレンジハートって言うんだー、ぶいっ」
──いや「ぶいっ」じゃない。どうしてこう、女神というのは変身すると面影が消えるんだ。
小首を傾げていたオレンジハートが、驚いた表情をして近寄ってくる。
「エヌラス、怪我してる! 大丈夫? 痛くない?」
「え? ああ、この程度なら全然……」
「でもでも、真っ赤になってる」
「真っ赤?」
エヌラスが、ふと自分の腹を見下ろすと──ゲハバーンによってつけられた傷口がばっくりと開いていた。浅手ながらも、傷口を治さずに戦った結果である。それを見たパープルハートとパープルシスターが慌てていた。
「エヌラス、あなたそんな怪我して大丈夫なの!? 急いで拠点に戻らないと!」
「今回復させますから、ジッとしててください!」
「いや、そんな慌てるような怪我じゃないっつうの。ちょっと治りにくいだけだ」
「それなら尚更よ! うずめ、急ぎましょう!」
「う、うん!」
「────というかお前ら、どうやって女神化してんだ」
「そんなのは主人公補正でどうとでもなるじゃない! ほら、行くわよエヌラス! ネプギアはそっちを持って!」
「はい!」
「いや俺はハンティングホラーあるし自分で」
「飛ばして行くわよ!」
「俺の話を聞けぇぇぇぇーーーー!!!」
捕まった宇宙人の如く、エヌラスはパープルハートとパープルシスターによる超特急航空便で拠点へと連れ戻されることとなった。