超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
一夜を明かしたエヌラス達は拠点周辺の探索を再び始める。うずめが単独では出来なかったという場所も、四人に増えた今ならば──ということだったのだが、先頭を歩くエヌラスにぴったりとくっつくネプテューヌとネプギア。その一歩後ろからついてくるうずめと、非常に歩きにくい。
相変わらず廃墟が続く町並みを進みながら、斥候として先行させていたハンティングホラーが戻ってくる。どうやらモンスターが多少なりとも徘徊しているようだ。
「ご苦労さん」
《────》
ハンティングホラーが影の中へ消え、エヌラスが先んじてモンスターを撃破しようとする。しかし、両腕にネプテューヌとネプギアの二人がくっついている状態では戦えないので、手を離すように言うと。
「えー?」
不満を隠さずにますます強くしがみついてくる。そんな姉と違って我慢のできる妹を見習えと言いたい。
「だってわたし、エヌラスのせいで歩くのも大変なんだよ? 昨日も気がついたらみんな寝ちゃってたし」
「それを言われると俺は何も言えなくなるからな……」
「お姉ちゃんが寝てる間も大変だったんだから」
「もー、エヌラスってばいっつもこうなるんだからちょっとくらい我慢してよ。ネプギアを見習ってさぁ」
「お前が言えた義理かよ。俺も久々だったし、悪いとは思ってるが」
ネプギアが顔を赤くして俯いている。
「うずめも大丈夫か?」
「……へっ? え、ああ。俺?」
「そのー……なんというか、身体が痛いとか、無いか?」
「……えっと……なんていうか、まだちょっと違和感があるっていうか……ちょっと、異物感が残ってる感じがするんだよな……」
お腹に手を当てて、うずめが顔を赤くしていた。しかし、確実にシェアが増加しているのか身体の調子はすこぶる良い。
「その、まぁなんだ……ごめんな。とりあえず俺もこれでシェアクリスタルの確保は出来そうだしアイツ等とまともに戦えそうだ」
「そっか。エヌラスは魔人だから相性悪いのか。それで打ち消す為にシェアが必要だったんだな……でも、その補給方法どうにかなんねぇのかよ」
「俺がまっとうに生まれてたらこんな苦労してねぇんだけどな……」
そもそも魔人という存在についての話──ようは、女神とは正反対に負の感情、ネガティブエネルギーで生まれる。アンチエネルギーないし、邪神に至っては更にその上位存在。その中でもセロンは次元神、最上位と言ってもいい。力量で言えば「次元神≧邪神>魔人」となる。相性の都合上シェアエネルギーで相殺されるし、弱点のひとつだ。
ただ一つの例外として、エヌラスは魔人でありながら人体改造によってシェアエネルギーが扱える。ゼロクリスタル、虚無の結晶体。歪んだ双角錐。その力を抑制し、神格として女神と同等の性能を誇る変神が可能となる程の、ある種奇跡と言っていい。
魔人鍛造と言えば聞こえはいいが、大魔導師はその気になれば邪神の呼び水とすら成り得る。次元世界一つを滅ぼせるだけの魔術を治めているというのは、神格者の中でも破格の実力だ。頭ひとつ抜きん出ている。
エヌラスが自分の右手を見下ろした。
機神召喚──、機械仕掛けの神様。虚無の中で自分と妹の二人、絶望の魔人に与えられた破壊の化身。その右腕だけが自分の中に残されている。ほとんどの能力は妹が持っていった。
今もあの何もない暗闇の世界に取り残されているのだろう。いつかは助けに行かなければならない。物語の結末はハッピーエンドでなくてはならないのだから。
「まっとうに生まれてればって、どういうことだ?」
「かいつまんで話せば、俺は魔人の中でも変わり種ってこと。作られた魔人なんだ」
誰かに望まれて生まれたわけではない。生まれるべくして生まれた。機械のようなものだ。目的があり、用途があり、そのためだけに自分が存在している。神殺しの刃として。次元神の造り上げた箱庭のルールを壊す為に自分は鍛造されたのだ。だからこうして、女神達と共に行動をしているのも、邪神狩りをしているのも、ゲイムギョウ界に惹かれているのも全て不純物でしかないはずなのにそれが心地よい。女神達の笑顔と平穏を願いながら、自分の存在がそれを脅かしている。そうと知りながら離れられない自己矛盾を抱えていた。
もしも許されるのならば、そんな毎日が変わらずに続けばいいのにとさえ思う。
「エヌラスさん、見てください。あそこ……」
「ん? なにか見つけたのか、ネプギア?」
「どれどれー? なんか他の建物よりちょっと雰囲気違うね」
「うずめ、あれの探索は」
「俺も初めて見る建物だな」
ネプギアが見つけた建築物は、他の廃墟よりも保存状態が良い大柄な施設だった。周辺を徘徊するモンスターを蹴散らして、壊れた自動ドアをエヌラスが蹴り破る。内部にもモンスターが発生していたのか、ネプテューヌ達と協力して奥へ奥へと探索を進めていった。
研究施設と思わしき建物の内部には雑多な機械が多く、埃をかぶっている。やはり人が生活していた痕跡が残っていたが、無人であることは共通していた。
Nギアを接続し、エヌラスが配線を適当に壁から引きずり出して“
「終わりました」
「よーし、サクサク行くぞーサクサク」
「ここならねぷっち達も帰る手段が見つかりそうだな」
「プラネテューヌに戻ったら、うずめがまた一人になっちゃうね」
「……だな。なんか、ちょっと寂しい気もするけれど海男達もいるし、へいきへっちゃらだ」
笑ってメガホンを肩に当てるうずめだが、それが無理をした笑顔なのはすぐわかった。
ネプギアは画面とにらめっこしながら破損したデータの復旧をしていたが、それでも一部を除いて読み取る事は出来なかった。
『※月※日。日に日に※※※※の性能は■■している。■■■■計画への成功は目前──』
『※■※■。量産■■■■は■※※■により安定。これならば▲▲』
「……やっぱり、全然読めないけど……」
ログを漁っていると、何とも言えない不安に駆られ、胸がざわつく。うずめの記憶の手がかりになれば、と思っていたがあまり良い予感がしなかった。
「あれ、なんだろうここ?」
「でっけぇ扉だなぁ。おーい、エヌラス。手を貸してくれるか?」
「ぶっ壊しちゃダメか」
「中に何があるかわからないんだから壊すなよ……」
固く閉じられた大きな自動ドア。大型の機械を搬入させる為か大きく縁取られている。歪んだわけでもなく、綺麗に閉じられていた。
『※※※※。ダメだ、失敗した。■■■■計■……失敗に終わった。※※※※の暴走■■■■……我々の手に■えない……』
「…………、」
ネプギアが読み進めていたログは、そこで途切れている。資料番号から、前回の研究ログからだいぶ進んだものだと窺えた。
エヌラスが扉を開けようとしているが、中々開きそうにない。びくともしない扉に手こずっていた。
「エヌラスでもダメか……
「あっ……」
「あっ……」
「え? どうした、ねぷっち、ぎあっち」
──息を吸い込み、吐き出す。察したネプテューヌとネプギアがうずめの手を引いてエヌラスから距離を取った。目が座り、扉に手を当ててジャケットを脱ぎ捨てる。
貫手を構え、床を踏みしめた。その震動で建物全体が揺れ、天井から土埃がぱらぱらと舞い落ちるほどの力強い震脚。
「DAAYDARAAAッ!!!」
ドアの隙間を無理やり貫手でこじ開けて、丹田に気を込めて発勁から両手で左右に開いていく。高さ五メートル。厚さ十センチ。配電盤の壊れた鉄の扉を力づくで開けようとしていた。
「ぬぅううううううう……おおおおお、りゃああああ……!!! パワーオブゴリラァァァ!! っしゃああおらぁあぁ!! 文句あっかテメェこの野郎がっ!! ざまぁみろ! 開けてやったぞこんちきしょう、どうだ!」
ぜー、ぜーと肩で息をしながらエヌラスが汗だくになって扉を開け放ち、うずめ達に振り返る。左胸の銀鍵守護器官が淡く輝いて点滅していた。両手を振り、指先に血を巡らせながら脱ぎ捨てたジャケットを拾い上げる。
唖然としていたうずめが引きつった顔をしていた。
「えっとー、うずめ。エヌラスに「諦める」って禁句なんだ」
「そう、みたいだな……今後気をつける」
「あはは、すごい馬鹿力……」
「ネプギア、今俺のことバカって言わなかったか?」
「はひ!? 言ってません、言ってませんから!」
「そうか……あー、腕いってぇ……」
無事に開いた扉をネプギアがちらりと盗み見ると、手形がついていた。それに背筋が寒くなりながらも中に入る。
「これは……」
「何かの転送装置、でしょうか?」
「ちょうど人が入れそうなスペースもあるし、それっぽいな」
「ふっふーん、流石わたし! 主人公補正掛かりまくりで帰る方法まで見つけちゃうなんて伊達じゃないね!」
「はいはいデジャブデジャブ」
「雑っ!? もうちょっとさー、リアクションしてよぉ。そんな冷たい態度されちゃうとわたしもテンションガン下げ萎えぷよだよ!」
「わーさすがねぷちゃんすごいなーあこがれちゃうなー」
「えー、そんな照れちゃうな~報酬はプリン三個でいいよ、三個で。謙虚だからね、わたし!」
「調子乗んな、よくばりさんめ」
「ねぷーん……」
プラネコントはさておき、エヌラスとネプギアが大型の転送装置と思わしき設備の各所を見てみる。保存状態は良いが、部品がいくつか足りていないようだ。このままでは動きそうにない。うずめとネプテューヌもあちこち見ていると、開きかけた小さな設備を見つける。どうやらエネルギーの供給源と思わしきものだ。
「……これ、シェアクリスタルで動くんじゃねぇかな? ほら、形もピッタリはまるし」
「なんかそれっぽいね。エヌラスー、そっちはー?」
「部品が足りねぇな。このままじゃ動きそうにないが……そこら辺から拾ってくるか。なんか電子設備が充実してそうな場所で」
どうやらこの設備だけは予備電源で動くように独立しているのか、エヌラスはメンテナンスハッチなどを開けてくまなくチェックしている。
内部も三人が入っても余裕があるほどだ。上手く動けばプラネテューヌに帰れるかもしれない。ただ問題は、あちら側と通信できるかどうか。
「……」
「エヌラスさん、どうかしたんですか? 難しい顔をして」
「いや、これどっかで見たことあるなと思ってな」
壁中に張り巡らされた配線。独立した電源に、大型の転送装置。動力部となるシェアクリスタルに……エヌラスは気づいた。これは大魔導師の設計した次元連結装置に似ているのだと。考えが正しければ、もしかするとゲイムギョウ界と連絡がつくかもしれない。
ただし正常に稼働させる為には電源とシェアクリスタルが必要になるが、それはエヌラスが解決できそうだ。パーツ不足ばかりはどうしようもないのはともあれ、次の目的が決まった。