超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
先に戻ってきていたネプギアとうずめが作業を始めていた。真っ先に取り掛かったのはイストワールとの通信。突然の連絡に面食らって尻尾を踏まれた猫のような鳴き声がNギア越しに聞こえた気がするが大丈夫だろうか。
どうやらソラも一緒にいるようだ。本来なら大魔導師も一緒らしいが、なぜ呼んだのか。とはいえそれならば心強い。次元間ネットワークによる通信速度の強化でイストワール自身の処理能力を底上げしているからか、普段以上のスペックを発揮している。とはいえ、それが身体に負担をかけているのか、こちらの座標を特定する前に通信が切れてしまった。
「あ、切れちゃった……」
「持ってきたシェアクリスタルもなくなっちまったな。また探しに行かねぇと」
「それなら俺の使うか?」
「大丈夫なのかよ、それ」
「下手に消耗しなけりゃな」
エヌラスがシェアクリスタルを取り出し、うずめに手渡す。
「いやー、それにひへも、いーすんと連絡とれへよかった!」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「エヌラスのせいで舌噛んで痛くへ……」
「はいはいはいはいおれのせー」
「雑炊も驚きの雑な謝罪だな……」
うずめが転送装置にセットして、それから少しだけ名残惜しそうに装置を見上げる。
(……そっか。これで無事に起動したら、もうねぷっちやぎあっちやエヌラスともお別れか……)
もし、そうなればまた一人で戦うことになる。海男達がいる、寂しくなんかない。だけれども少しだけ──本当に少しだけワガママを言わせてもらえるのならば、もう少しだけ一緒にいたい。
エヌラスとネプギアがそれぞれで作業を始めている。それを横から茶々を入れながらネプテューヌが急かしていた。何もない零次元なんかよりも、やはり元いた次元の方が良いに決まっている。
楽しそうに話してくれたプラネテューヌに行ってみたい。だが、ダークメガミは放っておけない。それに魔人もいる。独りになっても戦い続ける。それでも心細さが胸の中にわだかまりとなって残っていた。
(──何事もなけりゃ、成功しちまうんだろうな)
無意識に指先を組み合わせて、うずめは顔を埋める。
(
そう、思ってしまった。願ってしまった。そうしたら、また四人でこのまま一緒にいられるのに──その矢先、背後からの気配にうずめがメガホンを構える。
「どうしたの、うずめ?」
エヌラスも気づいたのか、作業を中断して立ち上がった。左手に倭刀を携えて。
「エヌラスさん?」
「ネプギア、そのまま作業を進めてくれ。急ピッチで」
「どうかしたんですか」
「ほほう? 何やらコソコソと嗅ぎ回っていると思えば、貴様ら何を見つけた」
「楽しそうで何よりだ。私も手伝ってやろうか?」
マジェコンヌ、そしてオルタ。二人が転送装置のある扉にて待ち構えていた。出入り口はそこしかない。
エヌラスも最低限のシェアを残して動力源にしてしまっている。ネプギアは作業の手を止めようとしたが、ネプテューヌに促されてNギアで超次元の座標を入力した。後は電力の供給と無事に起動さえしてくれれば次元移動が可能となるはずだ。それも一回きりが限界だろう。
最初はうずめのシェアクリスタル、そして今はエヌラスの。破壊された場合、帰還するのは困難を極める。不可能となるかもしれない。折角見つけた帰れる手段だというのにこんなところで破壊されるわけにはいかない。
「出やがったな、ナスの魔女」
「マジェコンヌだ! 貴様ぁ、いい加減に私の名前を覚えたらどうだ!」
「知ってて言ってんだよ」
「性根が腐った奴だな! まぁいい、何やらその装置で企んでいるようだが、そうは行くか。貴様ら四人まとめてこの世界と共に滅び去る運命だ」
「ふざけんな。大体そんなことしたらテメェはどうなる」
「私か? 私は構わんよ。なぜなら“こちら側”につくことにしたからな。もう女神の支配する平和などとは無縁の世界だ。この魔人から聞いた話では、なんでも世界を終わらせる邪神がいるというではないか。是非とも一目会いたいものだ」
エヌラスの表情が険しくなる。
「おとなしくナスでも作ってたらいいのにどうしてわたしたちの邪魔をするのさ、ナスコンヌ!」
「貴様はわざとか小娘!」
「お前はあれか、人の足を引っ張るのが趣味かマジェコンヌ」
「だからマジェコンヌだと言っているだろうが!」
「合ってるだろう?」
してやったり、という顔でほくそ笑むエヌラスに、マジェコンヌの顔が怒りで赤くなる。それを制するようにオルタが一歩、前へ出た。
「茶番は終いだ。ここいらで漫才もお開きといこう。後は──」
カチャ、──黒い聖剣の切っ先を突きつけて、魔人は口角を上げる。
「こちらで語るとしよう」
「数はこっちが有利だもんね!」
「ほう? これでもか」
オルタが剣圧で狙うのは、転送装置。黒い衝撃波をエヌラスが大規模な防御魔法で相殺させると歯噛みした。
「ちょ、ちょっと!? そっち狙うのは反則じゃないの!?」
「知ったことか、数はこちらが不利なのだからな」
「もー! そんなこと言わずに少しくらい手加減してくれてもいいじゃんか! そんなシリアスモード全速全開だと嫌われちゃうんだからね! ね、マジェ太郎!」
「だぁれがマジェ太郎だ小娘ぇ!!」
「そういうお前もネプテューヌのことを小娘呼ばわりしてるが、名前言えるのかよ」
「ふん、私を舐めるな! ネプチュ……ネプテユ……ネプテゥ……、ええい呼びにくいわ! 貴様など小娘で十分だ小娘ぇ!!!」
冷ややかなエヌラス達の視線に耐えきれずにマジェコンヌが杖を振り上げる。それに、
「ネプギアー、そっちはよろしくね!」
「は、はい!」
「ぎあっち、こっちは任せて作業に集中してくれ!」
「わかりました!」
その後を追うように、ネプテューヌとうずめも壊れた壁から外へ出る。ひとり残されたネプギアはNギアを操作してシステムチェックの最終段階を済ませていた。
──エヌラスがオルタと刃を交え、マジェコンヌはうずめとネプテューヌの二人で抑える。
研究施設の外で交戦している音を聞きつけたのか、モンスター達までもが寄ってきた。しかし、それを食い荒らす一匹の魔獣が現れる。
「ちっ、あの犬ッコロもか!」
「来たか、マガツビ」
マガツビと呼ばれた神蝕種が一声鳴くと、オルタ達の邪魔はさせまいと周囲を威嚇していた。魔人の仲間であることが判明して、エヌラスが舌打ちする。
黒い聖剣の太刀筋は速く、重い。その一挙動が全て必殺の一撃だ。まともに受ければ致命傷は免れられない。倭刀で刃を合わせて軌跡を逸らし、左手のレイジングジャッジで距離を取らせる。
黒いバイザー越しに弾丸を難なく避けてみせるオルタが再び剣を携えた。ひび割れたアスファルトを踏みしめるだけでさらに亀裂が広がっていく。弾丸よりも早く踏み込み、剣を振り上げる。だがエヌラスの右手はそれより先に胸ぐらを掴み上げていた。
「っ」
「避けてみやがれ」
右手の魔術刻印が赤く輝く。そして、次の瞬間には首元から爆発を直に受けて吹き飛んだ。
肉の焼ける音に、エヌラスが顔をしかめる。大魔導師が見たら説教ものの魔力放出。それは暴発じみたものだ。単純であるが故に威力を高めるのも容易だが、それは制御を誤った魔力の矛先が自分に返ってくる。焼け焦げた右手の指先から銀鍵守護器官が修復していく。元通りになると神経接続に異常が無いか、エヌラスが何度か拳をつくって開いた。問題なし。
オルタは、ビルの瓦礫を跳ね除けながら立ち上がる。魔力に対して抵抗力が高いことは既に知っている。だからこそ単純に威力で押し切った。胸元の鎧にヒビが入っている。顎の辺りも少しだけススが付いていた。
「無粋の極みだ」
「俺の師匠も同じことを言うだろうな」
あらぬ方角へ向けてレイジングジャッジを撃つと、その弾丸はマジェコンヌが振り上げた杖を横から殴りつけて魔術が阻害される。その隙を突いてうずめとネプテューヌが押し切っていた。
「エヌラス、ナイス援護だ!」
「そりゃどうも」
マジェコンヌが押し込まれているというのに、オルタは動く気配がない。元から魔人に連携行動など期待するほうがどうかしている。欠伸をもらしているマガツビも協力する気など無さそうだ。だが、倒したモンスター達の死骸が消えている。エヌラスがそれに気を取られた隙に、オルタが距離を詰めていた。
「考え事は、感心せんな」
「チッ──!」
白兵戦とことあらば、右に出るものはそういないであろう。上段からの振り下ろし、なぎ払いからの斬り上げ。更に肩口からの押し出しに、鋭い刺突。その全てを掻い潜るだけでも衝撃の余波で身体の芯から痺れるようだ。悲鳴を上げる身体を押し殺し、オルタと切り結ぶ。魔力の消耗を控えて、純粋な身体能力で押し切ろうとする相手にエヌラスはアクセル・ストライクを打ち込んで距離を取りながら、マジェコンヌの追撃に移る。
蹴り飛ばされたオルタが、もふっとした柔らかい衝撃に顔を上げるとマガツビが自分の身体で抱き止めていた。金色の瞳がジッと見つめている。それに感謝の意思を述べるように鼻を撫でて立ち上がった。
指先の痺れから、先刻の戦闘で消耗した魔力の供給が完全ではないことを悟る。このままでは消滅も免れられないだろう。一泊置いて、オルタは吐息をこぼしてからマガツビに視線を向けた。
「──私に魔力を回せ、マガツビ。目に物を見せてやるぞ」
その言葉に、遠吠えで応えてみせる。天狼が主神に宣戦布告するような、天を衝く咆哮。
ビルが自壊していき、赤い霧が足下を覆う。それはマガツビが自分の体内に溜め込んだ他の生物から奪った生命エネルギーの放出。中には魔力も含まれている。それを言外に察したエヌラスの顔が青ざめる。
「なん、だありゃ──どれだけ貯め込んでやがる!」
それは女神であるネプテューヌとうずめ、そしてマジェコンヌも忌避感を覚えたのか唖然としていた。
マガツビが吠える。天まで届けと吼える。神をも蝕む魔獣が声を上げる。
これこそは女神に背く福音だと。その赤い霧を、オルタが吸い上げて自らの魔力リソースへと変換し、聖剣へ流入させていく。
「偽典宝具開放──裁きの時だ」
この聖剣は、決して本物には届かない贋作。人々の祈りも、星の息吹も束ねない。あるのはただ純然たる破壊と暴力。蹂躙と叛逆による魔力放出。
形を失い、黒い魔力光と赤い霧を纏った聖剣を構えて、踏みしめる。狙うのはただ一つ──。
エヌラスが全力で魔術防壁を編み上げる。
(間に合うか──!)
「女神もろともに滅び去るがいいッ!!!」
マガツビの咆哮と共にオルタが解放した聖剣を振るう。触れたものを全て灰燼に帰すかのような破壊と暴虐の蹂躙。怨恨の魔力を堰き止める右手と右足の欠けた五芒星の魔術防壁は、術式を保つだけでもエヌラスの右手に魔力逆流を起こして出血させていた。
歯を食い縛り、防御魔術に精神を集中させる。破壊しようとする魔力の濁流に呑み込まれないと必死に足掻く姿を鼻で笑う魔女がいた。
「防ぐので精一杯のようだな、そぉらっ!」
マジェコンヌが放った氷の矢が足に突き刺さる。そちらに銀鍵守護器官の魔力を回している余裕がない。骨まで達しそうなほど深く抉る傷口が冷たくも熱い異物感を訴えている。しかし、声も挙げる余裕すらなかった。
マガツビから際限なく送り込まれる生命エネルギーを食い尽くしかねない勢いでオルタは聖剣を振り抜く。辛うじて防壁を保つことに成功したエヌラスだが、おびただしい出血の右腕を押さえていた。
(神経再接続。骨子再生、筋繊維断絶修復開始──魔術回路修繕……くそっ!)
血管から何から何まで使い物にならない右腕の再生に気を取られている隙を突かれて、マジェコンヌの魔術を正面から食らったエヌラスが道路を転がる。立ち上がろうとして足の痛みに膝をつけば、足の怪我を治すのを忘れていた。そちらも急ぎ、再生させる。しかし、そのエヌラスの首筋に刃が押し当てられる。
「エヌラス!」
「ふっ。手こずらせてくれる……!」
「テメェもな……!」
「動くなよ、女神ども。この男の首が飛ぶことになるぞ」
うずめとネプテューヌの動きが止まり、マジェコンヌが勝利を確信したようにほくそ笑んだ。
(──おい、なんとかしてくれ)
『それは私に言ってますか?』
(ああ。お前に頼んでる)
『わかりました。窮地を脱しましょう』
左手に紫電が奔り、雷光で目を眩ませると同時に細剣がオルタの剣を弾く。後退る黒騎士に、ハンティングホラーが叩きつけられて小柄な身体が吹き飛んでいった。
「なにっ!?」
「えっ、誰!?」
「私も自分が誰だかわかりません! しかし味方です!」
「サンキュー助かった。後は任せろ」
「えー、ちょっとくらい息抜きさせてくださいよ。ほら、数は正義です。正義」
「俺が正義を口にする人間に見えるか?」
「はい。無理そうですね」
「おんどりゃあ」
戦乙女の頬を抓る。涙目になりながら痛いと抗議するので力を弱めた。
「いふぁいれふっれぇ~」
「やかましい」
間抜けな表情で口をポカンと開けているネプテューヌ達はともかく、マジェコンヌも目を見開いて絶句している。
莫大な魔力を消費したオルタは胸元を押さえ、剣を支えに立ち上がった。
「チッ……聖遺物からの、魂の再形成だと……どんな型破りだと言うのだ、貴様」
「生憎と、俺もよくわかってないんだよ。何しろ譲り物だからな」
「ならば──さぞ、その男は人の魂を食らう獣なのだろうよ……」
「言い得て妙ですね。ですが貴方も、人の事は言えないみたいですが?」
戦乙女の言葉にオルタが眉をひそめる。
「貴方の基点もまた、その剣にあると見ました。だから肉体を維持するのがそれほど辛い。違いますか」
「……ふっ。大した慧眼だ。眼が良いと見た。面白い」
マジェコンヌも旗色が悪いと見たのか、顔が渋い。
そこへ、ネプギアが顔を覗かせる。転送装置が無事に起動したらしい。後は──駆け込むだけだが、それを目の前の二人と一匹が許すかどうかだ。