超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──小一時間経過。ネプギアから事情聴取を受けていたエヌラスがようやく説明を終える。
「なるほど。九龍アマルガムの神性植物に捕まっていたところをエヌラスさんが助けて、それからはずっと教会で面倒を」
「はい……」
「どうして言わなかったんですか?」
「ちょっと、その、当時はそれどころじゃなくてですね……」
主に元カノとか地獄の七日間ブートキャンプとか、武装企業とか邪神とか。改めて考えるとよく自分は生きているものだ。それからも神次元とか色々と。のんびりと話している暇もなかった。
「紹介とか遅れたのは本当に悪いと思ってるので許してください」
「…………わかりました。でも、今後はちゃんとしてください」
「ありがとうネプギア」
なんとかお許しが出たので正座から立ち上がる。説教をされている間にうずめがドラム缶風呂の用意をしてくれていたようだ。
「ネプギア、ネプギアー。一緒にお風呂はいろーよー! うずめも一緒に入るってさ」
「いいんですか?」
「もちろん、お姉ちゃんに任せなさーい」
「お前妹いたっけ?」
「ううん。でもネプギアがお姉ちゃんって呼んでくれたから、もう私がお姉ちゃんでいいかなって思うんだ!」
「寝言は寝て言えー?」
「エヌラスはいいの? 一緒に入らなくて」
「無 理 言 う な」
大人ネプテューヌからの誘いを一蹴して、エヌラスはうずめを探す。
本拠点だけあって備蓄も十分なようだ。テントも複数用意されており、それぞれうずめやネプギア、エヌラスのぶんも余裕がある。
「あぁ、いたいた。うずめ」
「エヌラスか。ちょうど風呂沸かしたところなんだ。先に入るのか?」
「いや、そっちが先でいい。マジェコンヌに追われていたらしいが、大丈夫だったか」
「まぁな。ちょっと、ヤバかったけど」
「しかし、そうなるとここであんまりのんびりしているのもマズいか……」
マジェコンヌがまだ追ってこないとも限らない。しかし、うずめはその心配はいらないと言っていた。それがどうしてか尋ねてみると、なんでも大人ネプテューヌが「ねぷノート」に閉じ込めたとのこと。そんな事できたのか、恐ろしい。
「結構ヤバかったんだけどな。変身したマジェコンヌをでっかいねぷっちが、こう」
パン、と。本を閉じるような仕草でうずめは再現してみせた。とにかく、うずめ達も大きな怪我はないようで安堵する。
「俺は先に休む、流石に疲れた。風呂は後で入る時にでも自分で沸かすさ」
エヌラスは自分に割り当てられたテントの中でシーツを広げて身体を横にした。深く息を吐き出して、整息する。疲労感が身体にのしかかってくるようで、眠気も程なくして訪れてきた。目蓋を閉じればすぐにでも寝てしまいそうになる。それを振り払おうと身体を起こした。
休んでいる暇など無い。とはいえ、焦っても仕方のないことだ。身体の不調を確かめてから、問題ないことを確認するとエヌラスはレイジングジャッジのメンテナンスを始める。火薬量を増やしている上にゲージ弾を主体に使用しているせいで銃身の強度も劣化が早い。やはり魔術で補強しておくにしても限界があるようだ。
「んー……」
分解して、一から組み立て直す。一連の流れを終えてから、再び横になる。すると、人の気配が近づいてきた。
「やっほー、エヌラス」
「なんだ、ネプテューヌか」
「お邪魔するね。よいしょ」
「何か用か。俺は疲れてる」
「なんかそうみたいだね」
大人ネプテューヌが横になっているエヌラスの顔を覗き込む。風呂上がりだからか、少しだけ頬が赤い。積もる話はあるはずなのに、眠気のせいで上手く話すことができなかった。
目蓋を閉じて眠気に身体を任せてしまおうか、そんな時に頭を優しく叩かれる。薄っすらと目蓋を開けると、大人ネプテューヌが横になって子供を寝かしつけるように頭を撫でていた。
「よしよし。お姉ちゃんが見ていてあげるからゆっくり眠りなさい、なんてねー」
「…………」
まどろみの中で、何か寝言が聞こえたような気がするが多分気のせいだろう。エヌラスは大人ネプテューヌが見守る中で静かに眠りに就いた。
無防備な寝顔を見つめて、胸が温かいもので包まれる。すると、そこへネプギアもやってきた。テントにいなかったので探しに来たようだ。
「あ、お姉ちゃ──」
「しーっ、今エヌラスが眠ったところだから、静かにね」
「は、はい。ごめんなさい」
「ネプギアも一緒に眠る? せっかく来たんだしゆっくりしよーよ」
「いいのかな、エヌラスさんのテントなのに……」
「いいのいいの。ほら、ぐっすり眠ってるみたいだし」
「……すぅ……」
ポン、ポン。眠るエヌラスの頭を撫でて、大人ネプテューヌは微笑みかける。せっかくなのでそのまま川の字になって並んだ。
少しだけ硝煙の臭いと、血の臭いが漂ってくる。嗅ぎ慣れない臭いだが、身体にしがみつくとそれも薄らいだ。胸いっぱいに息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
「ネプギアって意外に甘えん坊さんなんだね」
「あ、あのこれは違くて……」
「それじゃあ私も。それー」
──翌朝。なぜだか身体の重いエヌラスが目を覚ますと、大人ネプテューヌとネプギア。それとうずめまでもが一緒のテントで眠りこけていた。スーツはシワがついているが、すぐに直せるので大丈夫だろう。
「…………」
「むにゃ~……」
「……ん、うぅ……」
「ほにゃ……ん~……」
眉間を押さえる。休まるものも休まらない。
エヌラスは出来るだけ起こさないように三人から逃れると、ドラム缶風呂の支度を始めた。それを見かけた海男が声を掛ける。
「やぁ、おはようエヌラス。よく眠れたかい?」
「おはよう、海男。気絶したみたいに寝てた」
「朝風呂の支度かい? 手伝おうか」
「いや」
エヌラスが魔術で着火して、適当に風呂を沸かした。
「一人で問題ない」
「そのようだね。そういえば、うずめ達の姿が見当たらないんだがどこに行ったか知らないだろうか」
「なんか知らんが三人とも俺のテントに入り込んで眠りこけてた。叩き起こしてやってくれ」
「少し肌寒いからね、人肌恋しくなるのも無理はない。今度使える毛布を探しておくよ」
気遣いに感謝しながらドラム缶風呂で寝汗と眠気を流し、スッキリした身体と頭で服に袖を通してエヌラスは準備体操を始める。
それから、遅れて起きてきたうずめ達と朝食を摂りながら情報交換。三人ともよく眠れたようでなによりだ。次からは自分のテントで寝てくれ。
「……ゲハバーン。それが、あの剣の名前なんですね」
「ああ」
(初めて聞く名前なのに、なんでだろう。わたし、知っている気が……)
「そんな危ねー剣使ってるのは、黒いぎあっちは」
「どこで手に入れたんだろうね?」
「それは本人に聞いてくれ」
脅威性は十分に伝わったようだ。ひとまずクロギアには要注意するとして。
「さて、次に。お前がいるっていうことは、帰れる可能性があるってことだな?」
「いやぁ、それなんだけどねー……」
クロワール、脱走中につき大人ネプテューヌも困り果てている模様。
「エヌラスさんが綺麗に落ち込んでますね……」
「どうして……どうして、こう……上手く物事を進められないんだ……」
「まぁまぁエヌラス、元気出して。なんとかなるよ」
「お前はどの口が言うか! 何を根拠に!?」
「ふにゃ~! エヌラス、いひゃいよ~!」
大人ネプテューヌの頬を引っ張ってお仕置きするが、責めても仕方ない話だ。課題が一つ増えただけのこと。気持ちを切り替えていこう。
最後に。
ねぷノートに捕えられているマジェコンヌをどうするか、という問題。
「情報を聞き出すならコイツからだよな」
「でもどうするの?」
「グツグツに煮立った油でも流し込んでやろうか」
『や、止めんか貴様!? 人の心がないのか!?』
「うるせぇ、犯罪神とか名乗ってた野郎が人道を口にするな」
『おい小娘ぇ! 貴様よくこんな男と一緒にいられるな!?』
「たしかにエヌラスさんは怖いところもありますけれど、わたし達の大切な人です。あなたと一緒にしないでください、マジェコンヌ」
『ははぁん、さては何か弱味でも握られ──』
エヌラスが沸騰した油を手にしてねぷノートに傾けつつある。
「知ってること洗いざらいしゃべらないと素揚げにするぞ」
「うわぁ、ボコボコしてる……こんなに沸騰した油見たの初めてかも」
『あつっ! あつ、やめ、止めんかぁっ!! あっづぁ!?』
「マジェコンヌ! 話さないとエヌラスさんの拷問がヒートアップしていきますよ!」
『ええい、貴様も女神の端くれならちょっとは止めんか! あちちち!!!』
流石にちょっと可哀想になってきたのか、うずめがエヌラスを止めた。非常に不満そうにしながらも拷問(?)を中断する。
「そんなんじゃ話してくれる事も話してくれねぇよ」
「腕の一本くらい、いいだろ?」
『いいわけがあるか貴様ぁ!? 二本しかないのだぞ!?』
「足も含めたら三本だ」
『血も涙もないのか貴様というやつは!?』
「こんなん序の口だ、泣き言いってんじゃねぇぞ。喋るまで生爪剥がされてぇか。それなら二十回はチャンスがあるわけだしな。なんなら指の関節でもいい」
『留まるところを知らんのか貴様の暴力性は! とても女神の仲間とは思えんぞ!?』
「チッ、この役立たずめ。まぁいい、こいつは後回しだ」
「なんだかエヌラスさんのそういう態度、久しぶりに見た気がします」
なぜかちょっとだけ安心した表情を見せるネプギアに、バツが悪そうに視線を逸らした。決してそんなつもりはないのだが、マジェコンヌが相手だと何故かいつもの調子に戻ってしまう。
「なんでだろうな。多分、ほら、あれだ。同じ穴のムジナって奴だ。親近感沸くとぶちのめしたくなる」
『ええい貴様の親の顔が見てみたいわ! どういう境遇で育てばそうなるのだ!』
「親の顔……」
「どういう……」
「境遇……」
脳裏に浮かぶ犯罪国家。止まぬ絶えぬ留まらぬ犯罪と暴力と超常災害。国王自ら率先して引き起こす街の破壊活動。たまに破壊ロボ。とても常人では耐えきれぬ怒涛のクライムアクション。二十四時間四六時中、休むことも寝ることもない地獄の肥溜め。
誰が呼んだか犯罪国家九龍アマルガム。生みの親にして名付け親にして育ての親、大魔導師。
エヌラスとネプギアと大人ネプテューヌがそれぞれ同じ顔と場所を思い浮かべていた。うずめが首を傾げている。
「マジェコンヌ、知らないほうがいい」
「そうです。世の中知らないほうが幸せな事もあります」
「うんうん。マザコングはそのままがいいと思うな、私も」
『マ・ジェ・コ・ン・ヌ、だ! 何度間違えれば分かる貴様と言うやつは!!』
「世の中な、上には上がいるもんだ……」
「むしろエヌラスさんが手ぬるいくらいです」
「そうだよねー、エヌラス優しいもんね……」
『貴様らだけで納得するな、気になるだろうが!』
この事は、自分たちだけの秘密にしよう。三人が顔を見合わせて、深く頷いた。