超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
服を着替え――その現場もプルルートはガン見していたが――担当医に顔を出す。
「……どうも」
「おや。お目覚めかい、思ったより早かったかな。毎度ながら点滴と輸血を勝手に抜いて出歩かれるこちらの身にもなってもらいたい」
「こっちも色々と忙しいもんで」
「まぁいいよ。中央病院にあるのはほとんどキミの国から来てるものだし、大目に見よう。ドクターによろしく」
「次来る時も世話んなります」
「どうぞご贔屓に」
片手を振って笑顔で見送る担当医に、エヌラスは会釈した。
「じゃあ~、これから九龍アマルガムを目指すの~?」
「そういうことになるな。あぁ……帰りたくねぇ……」
心底嫌そうな顔でガックリと項垂れる。国王が国に帰りたくないとはこれ如何に。
「俺が寝てる間に何か変わったことはあったか?」
「えっとね~、ねぷちゃん達がバイト始めたんだ~」
「…………」
おいおいソイツは何の冗談だいハニー。仮にも守護女神、異世界のだが、それがアルバイト? エヌラスは眉間を押さえた。
「……悪い、なんだって?」
「だからぁ、アルバイトだよぉ~。宿代はゆうちゃんが免除してくれたけどぉ食費は自分達で稼がないとぉ~……」
「ちょっと仕事してくる……」
「無理しないでいいよぉ?」
これでは少女たちを働かせて自分は働かない人間のクズどころか逆に食わせてもらうという甲斐性なしここに極まれり。ゲスの極みになってしまう。そういうのは斬新な音楽性のアーティストだけで十分だ。――自分は乙女ではないが。
引き止めるプルルートに袖を引っ張られてエヌラスはギルドに向かおうとする足を方向転換させられた。
「お、おいプルルート?」
「今日の夕飯の買い出しぃ」
「……ああ、はいはい。荷物持ちってことな」
「エヌラス、何か食べたいものあるぅ?」
「…………」
「あたしとノワールちゃん以外でねぇ?」
「お前は……テメェは俺をなんだと……!」
病み上がりでそこまでの性欲爆発させてたら身が持たないどころか命にかかわる。……騎乗位ならそれはそれで、とか思い始めてエヌラスは壁に頭を打ち付けて煩悩を爆散させた。ユウコに殴られた場所が痛む。
「海産物以外でお願いします」
「はぁ~い」
嬉しそうにニコニコと手を繋ぐ。こうして歩いているとまるで兄妹のようだ――そう思いながらも心は晴れない。すれ違う人々の中に、フロントラインの者達がいた。そして、それを率いているのが濃紺の三叉槍であることに気づいて声を掛ける。武装から隊長格であるランス01であるのが分かった。
「よぉ、トライデント」
《お前か、破壊神。我々は貴様の尻拭いで忙しいというのに幼女とデートか、このペド野郎》
「テメェちょっとスクラップにしてやるから面貸せコラァ!」
「そうだよぉ~。あたし幼女じゃないよぉ~」
「ほれみろ、本人だって幼女否定してる!」
「処女でもな――」
「おぉっと手が滑ったぁぁぁぁ!!」
《どわぁぁぁぁぁ!?》
プルルートの口を塞ぎ、トライデントを蹴り飛ばし、資材を町のどまんなかでひっくり返しながらエヌラスはその場から全力で走り去る。後ろから口々に罵声を浴びせられているが気にしている暇は無い。
《あぁ……このままでは今日の予定に間に合わない……ダメだ、くそう、くそう……!》
《しっかりしてくださいトライデント隊長! まだ遅れは取り戻せます!》
「そうです。ここでへこたれていては本当に間に合わなくなってしまいますから! だから早く起きてください!」
《そ、そうだな! 私がしっかりしないとな! すまないが手を貸してくれ!》
打たれ弱いのが珠に瑕だが、ランス01の仕事は多忙を極めている。アルシュベイトと入れ替わりでユノスダスで復興作業に取り掛かっている今の彼は、慣れない現場で指揮を任されていた。というのも、アゴウからの緊急要請でアルシュベイトが不在だからだ。
《しかし、我々は戦闘用のはずなんだがな……なんで建築業に……》
「しっかりしてくれよぉトライデント隊長! 打たれ弱すぎんだろこの人ぉ!」
《豆腐でもまだマシな方ですよそのメンタル》
《ええいやかましい! 私のメンタルは玉子豆腐と言われるくらいだぞ!》
「脆すぎねぇっすか!?」
《というかそっちですか否定するの!?》
「あのな、プルルート。あのな!? 頼むからナチュラルに俺を陥れるのやめてくれねぇかな!? 今ちょっと内臓が悲鳴あげてるんだけど!」
「あ~、ノワールちゃんだぁ~。今お仕事終わり~?」
「プルルート。それに、エヌラス。よかった、意識が戻ったみたいね。今日は早上がりでいいって言われたのよ。今日の分のお給料もいただいてきたし」
「数十分前の病院のベッドが恋しい……」
「なにバカなこと言ってるのよ。ほら、これから買い出し行くから荷物持ちお願いね」
「拒否権って……俺に人権って……!」
ノワールのバイト代と、プルルートの裁縫のバイト代も合わせてアーケード街に向かう。ふと、そこでネプギアもちょうどバイト上がりなのか電気屋から出てきた。
「あ、エヌラスさん。それにノワールさんに、プルルートさんも」
「やっほ~」
「ネプギアも仕事上がり?」
「はい。お給料もいただいちゃいました」
「じゃあ、今日は豪盛にいきましょ」
「……そういや俺の財布知らねぇか」
三人に聞いても首を横に振った。ポケットを叩いて、紙の擦れる音に手を入れて取り出した。
『ポケットに入ってたやけにふくらんだ財布だけど、あのお金が真っ当に稼いだものとは信じ難いので私があずかります。未払金の返済に当てておくね。ユノスダス国王ユウコ』
「お母さんかテメェは!!!!」
メッセージカードを破り捨てながら、エヌラスは自分が一文無しになったことを悟る。預かるという言葉を信じてはならない。それは特に目上の人間の言う金銭関係で。
しかも預かると書いておきながら未払金の返済にあてがいやがったあの野郎! ――ユノスダス教会でユウコがくしゃみをしていた。ぷぇっしょい。
「…………」
「…………」
「…………」
「あぁそうだよ無一文だよ、財布もねぇよ……笑えよ……」
「ご、ごめんなさいエヌラス。今のアナタになんて声をかけたらいいか……」
「生きてればいいことあるよぉ~」
「あ、好きなもの買ってあげますから元気出してください!」
「はは、何の事情も知らないやつから見たらただのクズだわ」
そこへ、見覚えのある濃紺の機体色。またお前か――そう言いたげなエヌラスの表情に、背中の武器を指さす。突撃砲が二挺。それで見分けろということらしい。
「あ、ランス02さん?」
《ええ。またお会いしましたね》
「なんでトライデントの野郎がいるんだよ、テメェら図体デケェから街中歩くなよ」
《邪魔なのは理解しているが、仕方ないだろう? ドラグレイスの傭兵組織は今出払っている。そうなると治安維持の名目で自警団が必要なんだ。それを私達が引き受けている》
「アゴウはいいのか?」
《アルシュベイト様が帰還された、心配は無用だ》
トライデントが言うからには本当なのだろう。アゴウに戻ったアルシュベイトの活躍はまさに一騎当千を超えた一騎当億。負けるはずがない。
《しかし……どうしたんだ? 往来のど真ん中で大声出して。周りに迷惑だろう》
「立ってるだけで邪魔なテメェと一緒にすんな……」
《町の一区画綺麗に破壊しておいてよく言う》
「俺は予めぶっ壊すって宣言した、ノーカン」
《許可したのか、ユノスダス国王は》
「いや、返答待たずにぶっ放した」
《ダメだろそれ……》
「ランス02さん。でも、あの時は仕方なかったんです」
ネプギアがすかさずフォローを入れて、ランス02も唸った。
《……まぁ、この子が言うならそうなんだろうな》
「俺ってそんな信頼ねぇのか……?」
《何を今更言っているんだ。大体、少女を三人も侍らせておいて何を寝ぼけたことを》
「…………」
《あと、ゴミを散らかすな》
せっせとエヌラスは足元に破り捨てたメッセージカードを拾い上げてポケットに突っ込んだ。
「なぁ、ランス02」
《なんだ?》
「テメェのいうことは正しいが、メチャクチャ腹立つ」
《八つ当たりはやめてくれよ?》
「……そんなんだからテメェは『トライデント随一の無個性』とか言われてんだよ!」
《人が、人が気にしていることを……!! いいだろ縁の下の力持ちだって!》
「記憶に残らねぇんだよお前!」
《ゴフッ――――》
致命の一撃。クリティカル。ランス02が膝を着いた。
「なんだろう、物凄く共感できちゃう私がいる……元気を出してください。私も主人公やってた時がありましたけど、誰も覚えていてくれなかったどころか疑われた時あるから分かります」
《えっ、君が?》
「うわぁぁぁん、酷い! 貴方だけは信じてくれると思ったのに!」
「姉よりしっかりしてるから逆に主人公でもいいんじゃねぇかな……」
エヌラスに泣きつくネプギアが頬を膨らませてランス02を睨んだ。
「いい人だと思ったのに、怒りましたよ私! ぷいっ!」
《なんだろう、なんだろう! 今ものすごく私は寝取られた気分だ!》
「銃抱いて寝てろ。夕飯に間に合わなくなっちまう」
落ち込んだランス02を置いて、アーケード街の中にあるスーパーへと足を運ぶ。
「ママー、ロボットが落ち込んでるよー」
「あらー本当ねー」
「肩車してー」
『きゃーきゃー』
《子どもたちの無邪気な笑顔が心に沁みる……》
流せる涙があろうものなら大号泣したい。