超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──プラネタワー最上階に叩き落とされるように転送されたネプテューヌがテラスに頭から突っ込む。そこは自由落下のプロ、無傷で済んでいた。
その衝撃に慌ただしく駆けつけてきたのは、アイエフとコンパ。再会を喜んだのも束の間、すぐにイストワールが不調を訴え、間もなくして意識を失う。ネプテューヌとネプギアがいなくなってからというもの国営だけでなく寝る間も惜しんで通信を試みていたオーバーワークが原因。
ソラと大魔導師もいたが、顔色はあまり芳しくない。
「どうだ、逆探知の結果は」
「無理を言わないでくれ、接続時間が短すぎる。特定すら出来てない」
「役立たずめ」
「おー? この数日間、人の作業を横から見るだけで何一つ手を貸してくれなかった暇人が何か言っているけどちょっとよく聞こえないなー? おかしいなー?」
「頭がか? 気の毒にな」
「アンタの話だよ!!!」
忙しなくキーボードを叩くソラが頭を抱えていた。大魔導師は優雅にコンパの淹れてくれたお茶を飲んでくつろいでいる。
「ソラと大魔導師、なにしてんの?」
「どっかのバカ弟子が連絡不通なものでな」
「というか、いーすんさん大丈夫? 煙吹いてない?」
「そうだった! しっかりして、いーすん!」
ネプテューヌがイストワールを揺すってみるが、返事はない。ただの教祖のようだ。
「ど、どどどどどうしよう!? いーすん壊れちゃった! うんともすんともにんともかんとも言わないんだけど!?」
「メーカーに修理出すしかないな」
「どこのだよ」
「……プラネテューヌ?」
「ここだよ!」
大魔導師ジョークはさておき、動かないイストワールを治すためにネプテューヌは過去のプラネテューヌの女神が行ったという遺跡へ向かうことになる。治療方法がそこにある、とアイエフが情報を掴んだからだ。
ソラはメガネを外し、目頭をマッサージする。
「……イレギュラー多すぎて投げたくなってくる。いい加減そっちも動いたらどうなんだ、大魔導師」
「そう見えるか」
「ああ。ただ飲み食いして物見遊山だけじゃないんだろ?」
「女神の転換期、という事象に興味があったからな」
時代の節目、アダルトゲイムギョウ界では見られない事象の観測。それこそが大魔導師の目的でもある。人々に望まれない指導者という存在がどういった状態に陥るのか分析するというのは、アダルトゲイムギョウ界唯一の守護女神である剣姫の対策にもなるからだ。犬猿の仲、不倶戴天と言ってもいいほど相容れない二人ではあるが、互いの志の方向性が違う。
「それで、満足した?」
「ある程度はな」
大衆に望まれてこそ生まれる女神、その本質はどうあろうと変わりようがない。望まれたからこその守護女神そのものをまるで否定するかのような転換期の到来。それを乗り越えることが出来るかどうかが女神の分水嶺なのだろう。となれば──女神を討つならばこの好機を逃すものは居ないだろう。だからこそ本腰を入れて対策を打っているノワール達に比べて、ネプテューヌの能天気ぶりは気にかかる。
「それなら、動いてくれないか? 流石にこれまでの情報から座標を特定するのは無理だ」
「イストワールの負荷を考慮した上で次元回線を開いていれば当然だろう」
「気づいてたなら僕を責めてほしくはないね」
大魔導師がカップを空にして立ち上がると、コートを翻して羽織った。
「こちらは任せたぞ」
「はいはい。何をするのかわからないけれども僕を巻き込まないように」
「それでは邪魔をしたな」
指を鳴らして次元を移動する後ろ姿に、ソラは深く息を吐いてテーブルに頬杖をつく。
アダルトゲイムギョウ界への一方通行と言えども単体で次元を超えてみせる大魔導師にとって次元間テレポーターの設置など無意味に等しい。だというのに、まるで嫌味のようにわざわざユノスダス経由でこちらに来たのだから性格が悪いとしか言いようがない。
「……暇を持て余した超人め」
凡才にして凡庸な自分がどれだけ努力しても追いつかない領域に到達している大魔導師が隣にいるだけで嫌な気分になる。自分に出来ることなど、せいぜいがアプリケーション開発やソフトウェアの運用。インタースカイからのバックアップがなければ菓子作りぐらいしかできない。
再び深くため息をつきながら、コンパから差し出されるお茶を一口含む。
「メガネさん、難しい顔をしてるですぅ。ねぷねぷは戻ってきましたけど……」
「何かしらのトラブルが遭ったと見るべきでしょうね。ネプギアちゃんが心配だ」
エヌラスはどうでもいい。多分自力で何とかするだろうし、そう簡単にくたばらないだろうから──というのがソラの本音である。
イストワールを気にかけながら、手元を動かす。うずまきハードの解析はデータが読み取れずにエラーを吐いたので断念。まるでオーバーテクノロジーのようだ。技術の粋を結集したインタースカイの端末でも解析できなかったというのが悔しかった。
(……まったく、モテるのは女性だけにしてくれよ)
トラブルにまで言い寄られなくてもいいだろうに。
ソラは引き続き次元間ネットワークを総動員させてネプギアとエヌラスのいる次元を捜索した。
──零次元。うずめの本拠点。
林間キャンプ場のような様の拠点ではモンスター達が集まって薪を運んでいた。風呂を沸かすのにも、松明を作るためにも使うからだ。
「せい、っと」
倭刀を閃かせ、エヌラスが薪を断っていく。小振りなものから集めて拠点へ集荷するひよこ虫達を尻目に、木の幹に手を掛ける。
「そろそろ大丈夫か」
「これで最後にした方がいいね。あんまり伐採しても景観が損なわれてしまう」
「そうだな。数少ない資源だし慎重に使った方がいいか」
バルザイの偃月刀で切り倒して、再び手頃なサイズに切断していく。それを最後にエヌラスと海男は拠点へ戻った。
何やら見覚えのある黄色い粘体生物が触手を大量に伸ばして薪を重ねている。
「あ、見てみてエヌラスー! キャンプファイヤーしよー!」
「お前に聞きたいことが二つある、ネプテューヌ。ひとつ、なんでキャンプファイヤーなんだ」
「せっかく大勢いるんだから楽しそうかなって!」
「ふたつ。ソイツはなんだ!!」
エヌラスが指を差すのは、一つ目のスライムとでも言うべき黄色い粘体生物。
『てけり・り?』
「ダンセイニのこと? 九龍アマルガムから出ていく時に大魔導師が手土産にくれたんだ! すっごい便利で重宝してるよ。疲れたら椅子になったり、ソファになったり、ベッドになったりしてくれて大助かりなんだー! 急に雨が降ってきた時もテント代わりになってくれるし、もー全部これ一人でいいんじゃないかな、ね! ダンセイニ!」
『てけり・り~♪』
ぽゆんぽゆん、と。頭を撫でられて嬉しそうに目を閉じるダンセイニ。仮にも神性生物の一種であるというのに使いこなしている。それどころか便利グッズと化していた。大概にしろ大魔導師、神性生物の外界流出とかかなり本気でマズい状況だ。一般人なら正気を疑う。
「いいかぁ、ネプテューヌ? ダンセイニ使うのはいいが、程々にしろ? そしてキャンプファイヤーは無しだ。人が苦労して集めた薪なんだからもっと大事に使えー?」
「ふぁーい」
頬を引っ張られながら元気よく返事をする大人ネプテューヌだが、本当に理解しているか甚だ疑問が残る。
「今日だけでいいからさー、ねね。いいでしょー?」
「ダメ」
「えー、なんでさぁ。ちょっとくらい。それに絶対楽しいと思うんだよね」
「……楽しいとは思うが、ダメなものはダメ」
「エヌラスのケチー」
「どうせ燃やすならマジェコンヌ燃やそうぜ」
『魔女裁判でもする気か貴様ぁぁぁ!! いくら私が魔女の格好をしているからといってもそれはないだろう!』
「なんだ、いたのか」
「そりゃあわたしのねぷノートに閉じ込めてるからね」
大人ネプテューヌの太もも。ノートホルダーからマジェコンヌの声が聞こえた。本当に閉じ込めたという事実がにわかにエヌラスには信じがたい。質量保存の法則とか物理法則もあったものではないが、現実にこうしてねぷノートにマジェコンヌは閉じ込められている。
「とにかく、キャンプファイヤーは中止。ダンセイニ、薪を戻せ。今すぐに」
『てけり・り……』
「そんな残念そうな顔しても中止だ。取り止め。はいはいはい中止ったら中止」
『えー、そんな。面白そうじゃないですか』
(テメェは突然人の脳内に直接語りかけんな)
『キャンプファイヤー……ダメですか?』
(ダメだっつうの)
渋々ダンセイニが組み立てていたキャンプファイヤーの骨組みを元に戻す最中、エヌラスの脳内に戦乙女からの声が響いた。どうやら楽しみにしていた模様。
そんなエヌラスのことを誘惑するかのように大人ネプテューヌは上目遣いで腕を組み、しっかりと胸の谷間で挟み込みながら懇願する。
「ね~え~? いいでしょー?」
「……ダメ」
「あ、ちょっと迷ったでしょ。ふふん、エヌラスはこうしたら折れてくれそうかな~」
「強く抱きしめてもダメなものはダメったらダメだからな!」
「……じー」
「くっ……!」
小首を傾げて、舌先を出しながら胸を押しつけてくるが誘惑を振り切ってダンセイニに薪を回収させた。
そこへ外回りに出掛けていたネプギアとうずめが戻ってくるなり驚いた顔をする。
「うわぁ、なんだコイツ!?」
「おかえりー、うずめ。ネプギアも。紹介してなかったよね、ダンセイニって言うんだ!」
『てけり・り~♪』
「お、おう……なんかよくわからないけど、よろしくな!」
「それで、エヌラスさん? なんで、お姉ちゃんと、腕を組んでるんですか?」
「え? あ、いや、これはその……」
「聞いてよネプギア。エヌラスってば、キャンプファイヤーがしたいって言ってるのに全然聞いてくれないんだー。わたしがこんなにお願いしてるのにだよ? ひどいと思わない?」
むしろ今のお前の方がよっぽど酷いことをしていると何故気づいてくれない大きい方のネプテューヌ。敵を増やすな。しかも味方の中から。
「それがどうして、腕を組むことになるんですか?」
「俺が聞きたいくらいだ」
「全然嫌そうに見えませんけれど」
「…………」
「エヌラス、なんで泣きそうな顔してるの?」
「なんでだと思う……?」
「んーとね…………わかんないや!」
「もう好きにしろよ、知るか!! 勝手にキャンプファイヤーしてやがれチキショー!」
笑顔で悪びれもしない大人ネプテューヌから名残惜しく腕を引き剥がし、エヌラスは本拠点を後にして食糧の調達に向かった。
「ちょっとからかい過ぎたかな」
「でもキャンプファイヤーかぁ……俺は全然いいと思うぜ! やってみたかったしな!」
「流石、うずめは話がわかるね! それじゃあダンセイニ、キャンプファイヤー決行!」
『テケリ・リー!』
奇妙な鳴き声で応えながら、再び薪で骨組みを作り始めるダンセイニも楽しみだったのか目を細めている。それを感心して眺めるうずめだったが、ネプギアは一人で森の中へと消えたエヌラスの背中を視線で追っていた。