超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスが川に入り、泳いでいる川魚を素手で捕まえる。アトラック=ナチャで作った網の中へ放り込んで人数分を確保し、次は山菜を採りに。
鬱蒼とした森の中でキノコを拾うが、素人目で採るものほど危険な物はない。最悪の場合、死に至ることもある。自分はともかく、ネプギア達が心配だ。かといって毒味するのも気が引ける。
「エヌラスさん」
「ネプギア。どうした」
「わたしもお手伝いしようかと思って」
「そっか。ありがとな」
「もうお姉ちゃんとうずめさんはキャンプファイヤー始めちゃってますし……」
「気が早いなアイツら。まだ飯の調達してないってのに」
蜘蛛の糸で編まれた網に放られた川魚を見てネプギアが首を傾げた。
「どうやって捕まえたんですか?」
「素手」
「クマじゃないんですから……。それで、今は」
「なんかキノコとか生えてたからついでに」
「食べて大丈夫な種類なんですか?」
「わからん」
食えば分かる、と言いたいが。そんな時にふと脳裏に浮かんだマジェコンヌの姿。
「アイツに毒味でもさせるか」
「ダメだと思いますけれど」
「……チッ」
(舌打ち!?)
「ネプギアがそう言うならやめとくか」
食べられそうな山菜とキノコを集めるエヌラスについてくるネプギアが、袖を引っ張る。
「あの、怒ってますか?」
「いいや、別に」
「エヌラスさん。ごめんなさい……」
「? なんでネプギアが謝るんだ」
「だって、あの時──わたしが勝手なことをしなかったら、お姉ちゃんと一緒にゲイムギョウ界に戻れたはずだったんですよね」
「まぁ、そうだな」
「それでエヌラスさんの機嫌が悪いんじゃないかなって、思ったんですけれど」
「別に」
「じゃあどうして怒ってるんですか?」
「……こんな状況で、何も出来ない自分に腹が立ってるだけだ。正直なところ、ネプテューヌだけでも向こうに戻れたんなら何とかしてくれるだろうよ」
「それって……」
今頃はソラ辺りがアイエフ達に呼び出されて何とかしようと四苦八苦しているだろう。だからこそ楽観視しているのだが、ネプテューヌがいれば向こうは本当にどうにかなってしまうと思っている。元々転送装置に自分は入るつもりはなかった。魔人達がこの次元にいると知った以上はどうにかしなければ離れられない。アレは自分の倒すべき敵だ。ダークメガミの相手で精一杯なうずめに押しつけるにはあまりに困難な相手だ。
邪神の復活を目論む魔人連合が求めているのはネガティブエナジー。もしも、うずめが倒されれば海男やひよこ虫達から回収するのは容易なはずだ。だからこそクロギア達が此処にいる。エヌラスはそう結論づけた。崩壊寸前の次元に一人残る守護女神を打ち倒すことなど、これほど楽なことも無い。
しかし──そうだとするならば何故一斉に襲撃を仕掛けないのか。
マジェコンヌはダークメガミの完全制御の為にシェアクリスタルを探し求めている。それ以上の目的があるとするならば、それはうずめに留まらないはずだ。
不意に、エヌラスが立ち止まる。遅れてネプギアも足を止めた。
「エヌラスさん?」
「……順番の問題か」
「なにがですか?」
「アイツ等の目的と行動について考えてた。邪神の復活のためにネガティブエナジーを集めているのなら、打倒うずめが目的だ。だが、シェアクリスタルを必要としているマジェコンヌがいる。ダークメガミの完全制御が出来るようになってからうずめを始末すればいい」
「それじゃあ」
「ああ。魔人達が一斉に襲撃を仕掛けてこないのは、こっちが泳がされているってことだ」
「わたし達から出来ることってなにかないんですか?」
「そうだな……魔人の撃退か、ダークメガミそのものを消滅させるくらいか。ぶっちゃけマジェコンヌどうでもいいしな」
「でも、それだとちょっと変じゃないですか? 魔人がマジェコンヌを利用している理由がわかりません」
「単純にダークメガミを操るためじゃないか──いや、そもそもそれがおかしいか」
そこから先が分からない。
邪神ヌルズ・エクス・モルテスが復活すれば、恐らくこの次元から魔人は手を引くだろう。放っておけば消えてなくなる。鍵はうずめだ。
そうなれば、目的となる破壊対象は……アダルトゲイムギョウ界、或いはゲイムギョウ界。
ある意味ではマジェコンヌこそ一番厄介な存在になる。
「……舞台装置の用意がいいな、あの野郎は」
「…………」
呟くエヌラスにネプギアがしがみついて、腕に力を込めた。今すぐにでも戦禍に消えてしまいそうな気がしたから。
背中から伝わる女神候補生の温もりに引き止められて肩をすくめる。少しだけ手が震えてるのが伝わってきていた。ネプギアの手を取り、ゆっくりと離してから向き直る。
「大丈夫だ。勝手にいなくなったりしねぇよ」
「本当ですか……?」
「今のところは」
「……むぅ~」
「睨むな睨むな。そんな風に怒ってもかわいいだけだぞ」
「わ、わたしだって本気で怒ってるんですからね!」
頭を撫でてから前髪をかき上げて、ネプギアの額にキスをしてからエヌラスは手を引いてもと来た道を戻り始めた。
「これぐらいでいいだろ、戻るか」
「……、はいっ」
胸の不安が取り除かれたのか、頬を赤らめながら笑顔で頷くと、手をしっかりと繋いでうずめ達の拠点へと向かう。
キャンプファイヤーを囲んでひよこ虫やスライヌ達が踊っている。ダンセイニも混じっている。
「ぬらー」
『てけり・り~♪』
「ぬ~ら~」
『てけり・りー』
「……新しい邪教崇拝の儀式かなんかか?」
一匹ほど本物の神性生物が混じっているのだが。こんなのを目撃した一般人は正気度が確かめられる。こんなの放置しておいて大丈夫だろうか、うずめと大人ネプテューヌの姿を探す。
飲み物を片手にスライヌ達の禍々しくも和やかな雰囲気のダンスに笑みをこぼしていた。エヌラスとネプギアの姿を見かけると、大きく手を振る。
「おぉーい、ぎあっち、エヌラス」
「おかえりー、二人とも」
「見てないで止めろよ。なんだあの儀式。何か出できそうな雰囲気だぞ」
「それはそれで面白そうだけど」
「今すぐ止めろ! ダンセイニだけでいいから!」
「ちぇー。ダンセイニー」
『てけり・り?』
気の所為か、スライヌの姿を真似ているようで犬耳と尻尾を生やしたダンセイニが大人ネプテューヌの下へ跳ねながら戻ってきた。しかし、頭から触手が生えているせいで似ても似つかないおぞましい物体となっている。それにはうずめも引きつった顔をしていた。
「その、まー、なんだ。個性的、だな……?」
「でしょー? かわいいよねー」
「……かわいい?」
「かわいいか、これ?」
『てけり・り?』
毒されていないだろうか、大人ネプテューヌ。九龍アマルガムに滞在していたせいで大魔導師のセンスに感化されていないだろうか? エヌラスは改めてダンセイニを見てみる。
頭から無数の触手を生やした黄色いスライム状の生き物。犬耳と尻尾で誤魔化しても誤魔化しきれない一つ目のモンスター。素直に言って気持ちが悪い。
「……いや無理がある」
「えー? そうかなぁ。それよりもエヌラス、なに採ってきたの?」
「魚と山菜。あとキノコだな」
「おー、こんなに沢山。じゃあバーベキューだね!」
うずめがキノコを見て顔が青ざめている。
「どうした、うずめ」
「し……しいたけ混じってるじゃねぇか……!?」
「嫌いなのか、しいたけ」
「嫌いも何も大嫌いだよ! あんなの食い物じゃねぇって! 絶対食わねぇからな!」
「そ、そうか……」
聞けば、海男も川魚が苦手らしい。それはなんとなく察しがついた。共食いなど普通は好まないからだ。
「エヌラスは嫌いな食べ物とか無いのか?」
「冷やしたぬきは人類の食べ物として認めない。あと海産物はちょっと苦手だな」
主に過去のトラウマのせいで。半魚人だらけの漁村や邪教崇拝の孤島に放り出されれば食いたいとは思わなくなる。
『ふん、そういう事ならば私が食ってやってもいいぞ?』
「マジェコンヌ?」
「テメェに食わせるメシはねぇ。俺が食う」
『少しくらいは慈悲というものがないのか貴様は!? 一日何も飲まず食わずでこっちは餓死しそうなんだぞ!』
「三日は生きていられる、大丈夫だ。水だけでも一週間は生きていける」
『そういう問題か!? 大体何を根拠に』
「俺の体験談。お前泥食ったことあるか」
『そ、それは……すまなかったな……』
あまりにいたたまれない気持ちになったマジェコンヌが思わず謝罪してしまった。大人ネプテューヌ達も流石に信じられないという顔をしているが、エヌラスなら或いは──。実体験したのはあながち嘘でもないだろう。
「俺の過去の体験談は面白くないので」
「わたしは興味あるけど。エヌラスってば旅の経験豊富そうだし」
「旅っつーか、過酷な環境っつーか……」
「珍しい昆虫とか見なかったの?」
「語りかけてくる豚の生首の話でもしてやろうか」
「そういう生々しい話は興味ないよ!?」
「ど、どんな環境に放り出されてたんだ、エヌラス……」
「控えめに言って人間の生きていられる環境じゃなかった」
キャンプファイヤーを囲い、バーベキューを堪能しながら雑談に花を咲かせる。
主に話題の中心になっていたのは、大人ネプテューヌだ。九龍アマルガムでの体験がよほど貴重な経験だったのか、楽しそうに話している。
教会でメイド服を着たり、体操服を着たり、大魔導師の許可を貰って護衛のメイド達とともに登山活動をして危険な目に遭ったりと様々。
「──でね、狂気山脈ってダンセイニの仲間がたくさんいる山ですっごい体験したんだー」
「はーいカメラさんちょっとストーップ。あの山登って平気だったの五本指に入るくらいすごいことだからな?」
「え、そうなの?」
「エヌラスがいた世界って危険なところしかないのか……?」
「半分くらい、九龍アマルガムが原因だと思いますけど」
「何を言っているんだネプギア。アダルトゲイムギョウ界の危険度なんて九龍アマルガムがぶっちぎりで首位獲得してるぞ。それに比べたら他なんて平和すぎて欠伸が出る」
国王危険レベル第一位。国家治安レベル最下位。生息している危険生物数ナンバーワン。挙げればキリがない危険指数測定不能。
「あ、あはははは……うん、俺は近づかない方が良さそうだ」
「俺は胸を張って言う。絶対に近寄るな」
しかし、そんな国で上手くやっていくコツがある。たった一つの簡単なテクニック。それは、考えたら負け。下手をすると目の当たりにした惨状や化物で精神疾患を患う。最も大事なのは精神的な自己防衛である。それを理解している国民は少々頭がヒャッハーな人が多い。主にマフィアとか秘密結社の構成員など。そういった相手を選んでいるのかどうなのかわからないが、大魔導師の手によって手当たり次第に片付けられている。中には何度も国王災害に見舞われておきながら生存しているしぶとい者も確認済みだ。主に破壊ロボの操縦者。
「わたしも滞在したことありましたけど……教会以外、全部危険地帯ですよね」
「下手すりゃ教会も危険地帯だけどな」
一歩間違えれば三回は世界が崩壊するレベルの危険物が保管されている。一度は国王の座に就いていたエヌラスが言うのも変な話だが、一番危険なのは国王だ。
「でも、いいなぁそういうの。俺もいつかそっちの世界にお邪魔してみたいな」
「そうだな。ユノスダスくらいなら観光案内してやってもいいし、それなら歓迎する」
『ふん……』
マジェコンヌがつまらなさそうに鼻を鳴らす。それに気づいた大人ネプテューヌがねぷノートを取り出した。
「もー、楽しそうに話してるのに水を差すマジェコンヌにご飯なんてあげないよ!」
『おい。そこの魔人』
「なんだナス魔女」
『まさかとは思うが、貴様は以前に能力を失ったことはないか?』
「……なんでそれを知ってるんだよ、お前」
『やはりな。なにか引っかかっていたのだ。その魔術をどこかで見たことがあると思っていた。どおりで使い心地が良いわけだ。私が以前手にした事がある魔術だからな』
「そういえば……」
塔争の最中、ゲイムギョウ界に戻ったネプテューヌとネプギアの前に現れたマジェコンヌはエヌラスの魔術を用いていた。バルド・ギア──琴霧ソラの助力もあって撃退に成功したものの、苦戦したのを覚えている。
「エヌラスさん、覚えてますか。わたしがその能力を渡したのを」
「あー……そうだっけ。何分随分昔の話だからな」
「はい。でも、その時の記憶があるっていうことは……」
『私もおぼろげでよく覚えてはいないのだがな。異次元の力というのなら納得だ』
その記憶がある、ということは──神格者でもないマジェコンヌが記憶しているということに、エヌラスはなにか違和感があった。
大人ネプテューヌと何やら言い合っているが、右から左に聞き流す。
(……どういうことだ? リセットされてたら神格者以外は思い出せないはずだが。当時の関係者にしても、トライデントは覚えてなかったはずだ……)
そうなると、マジェコンヌ自身に何かあると踏んだ。
エヌラスは火箸で炭火を掴み、火の粉を振りかける。
「おいマジェコンヌ。お前何者だ。正直に話せ、さもなきゃ炭火焼きにしてやる」
『それが人に物を頼む態度、アッツ!! 馬鹿者、それでは喋るものも喋れ、アチチチチ!! この程度で私が、アッッッ!!!!』
無言で一個丸々投げ入れてから追加でもう一個投入。さぞ今頃ねぷノートの中でマジェコンヌは悶えていることだろう。実際のところ転げ回っていたが。