超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
倭刀で聖剣を打ち返す。額に銃口を押しつけて撃鉄を起こす、が引き金を引く寸前に避けた。クロギアの両手の剣をバヨネットを起こしたレイジングジャッジ・フリークスハントカスタムと倭刀で凌ぐと、二人を同時に蹴り返して距離を取る。
そこへマガツビが上空から襲撃を仕掛けてきた。迎撃するが、黄金の毛並みに散弾が弾かれる。舌打ちをひとつ漏らしてエヌラスは更にその場から飛び下がった。
「何食ってりゃそんなになるんだかな、そこの獣は」
「貴様が言えた義理か?」
「はっ、そりゃそうだ。くたばれ」
ガゴォン! ハンドガンという括りでありながら散弾を放つ銃の反動を片手で制御するというのは非常識極まりないが、それを剣圧で防ぎ切るというのもまた非常識極まりない。
マガツビの口腔から光が漏れる。大きく息を吸い込み、吐き出した光線を避けるとアリーナ会場の床から天井まで真っ二つに引き裂いた。水圧カッターのように収束させた“ごちゃまぜ”の光は流石に防ぎきれるものではない。
クロギアが接近してビームブレイドから、逆手に持ったゲハバーンで流れるように連撃を加えるミラージュダンスでエヌラスと火花を散らした。
挟み撃ちにする形でオルタが踏み込み、背後から剣を振るうがそれを足で払う。黒い甲冑の胸当てに足を当てて紫電と共に蹴り出す。高い魔術抵抗力で弾くが、視界は塞がれる。
「っ」
クロギアに向けて自らを撃ち出す形となってビームブレイドとゲハバーンの二本を弾くと、エヌラスはアクセル・ストライクで強烈に胸板を蹴り出した。華奢な身体が転がるが、すぐに受け身を取って剣で身体を起き上がらせる。
マガツビの噛みつきを避け、続く爪撃と蹴撃を防いだ瞬間、エヌラスは違和感を覚えた。まるで身体の力を抜かれたような感覚に咄嗟に下がるものの、今度はそれをオルタが捉える。
上段に構えた聖剣を一気呵成に打ち下ろす。倭刀で十文字に受け止めるが、床がひび割れるほどの衝撃に身体が芯まで痺れた。
その姿を鼻で笑ってから手をかざし、魔力を打ち込んで吹き飛ばす。壁面に背中から叩きつけられたエヌラスが横に転がるとマガツビの突進を避けた。巨体を活かしたパワーとスタミナ、獣のスピードに加えて、エナジードレイン。これほど厄介な神性生物も九龍アマルガムではお目にかかれない。
「舐めんなゴンギヅネ! イア・クトゥグア!」
持ち替えた右手のクトゥグアをマガツビに向けて撃ち込む。体表を神性の炎熱で焼かれ、苦悶の声をあげて身震いするとあっという間に鎮火した。犬歯を剥き出しにしてエヌラスへと再び突進しようとするが、頭を足蹴にされて上空へ回避される。
「断鎖術式一号・ティマイオス。二号クリティアス解放。アトランティス・ストライィクッ!」
頭部へ強烈な踵落としを見舞われてマガツビが呻くが、目の前に着地したエヌラスは横殴りに回し蹴りで追撃すると巨体が反対側の壁に激突した。まだ足にまとわりつく紫電を、地面で踏みにじると消える。
「言ったよな、今日の俺は機嫌が悪いってよ」
「流石に今回は本気か──」
「八つ当たりだ」
左胸の銀鍵守護器官の出力を上げていく。それがどれほど危険な代物なのかをオルタは直感していた。無限の魔力貯蔵庫。それを喰らえば、どれほどマガツビが強靭な肉体を有していても限界が訪れる。限りなく無限に近い生体貯蔵庫では相性が悪い。
励起した魔術回路が発光し、それはエヌラスの右頬まで伸びていた。本人は気がついていないようだが、オルタはそれを見て僅かに勝機を見出す。
「……全身に施術された魔術回路。魔人として生まれ、肉体改造を施されたのがお前か」
「? 突然どうした」
「その後付の回路は第二の神経。魔術を発露させる為の器官として体内に残留している。それに何の疑問も抱かないのか、貴様は」
「ああ。俺は自分のことなんかどうでもいいんでな」
「ならば……お前の銀鍵守護器官。それはなんだ? あらゆるものを消化して、自らの魔力へと還元させる魔力の供給源。貴様はそんな得体の知れない物を、何の疑問もなく使い続けてきたのか」
第二の心臓。魔力の心臓。左胸に埋め込まれた銀の鍵にして勝利の鍵。ちっぽけな、だが無くてはならないもの。
それに恐怖を抱かないのか。疑問を抱かないのかと自問するが、全く思い浮かばない。
「コイツはな。俺の生みの親で、名付け親で、育ての親が。俺が戦い続ける為に必要な物だと言ってくれたもんだ。俺が魔人でも変神できるのも全部これのおかげだ。手放すことなんかできるわけねぇだろうが」
「何のために」
「神の箱庭を壊すために。
「それが例え、その世界に生きる全てを殺す事になろうとも?」
「俺はそのために作られた。その後のことは、その時になって考える。だからまずはテメェらだ。ネプテューヌもネプギアもうずめもでかい方のネプテューヌも海男も揚げれば美味しいひよこ虫もスライヌも、全部テメェらがいなけりゃ丸く治まる話だ。──消え失せろ、魔人共」
「貴様も魔人だろうに」
「俺も含めてだ」
床を踏みしめてオルタに召喚したバルザイの偃月刀を力任せに叩きつける。今度はそれに歯を食い縛って耐えることになった魔人が眼前に突きつけられたレイジングジャッジの衝撃を顔で受け止めることとなった。
顔面を押さえ、割れたバイザーの下の素顔から血が滴る。
「……死ぬまで戦い続けるしか俺に選択肢はねぇよ」
「フッ……それは、私達と同じようにか」
「まぁ、そういうことだ」
オルタの隣にマガツビがすり寄ると、起き上がらせた。再び剣を手にして、クロギアと共にエヌラスへと斬り掛かる。
その戦いを、シロトラはブルース・ザッパーを観客席に突き立てて静観していた。左手を見下ろせば、不調を訴えているのか赤いエラーコードがバイザーモニタに表示されている。原因不明のエラーによって引き起こされる軋んだ腕の動きにシロトラは視線を逸らした。
『てけり・り?』
《…………》
隣では、蚊帳の外のダンセイニが身体を揺らしながら首(?)を傾げている。敵対しているわけでもなく巻き込まれないように避難した結果、ここにいるだけだ。
女神の姿を見てから、身体が思うように動かない。パープルシスターと、もう一人。守護女神がいたはずだ。しかし──ノイズが走る。
誰かがいた。もうひとり、誰かが居たはずだ。二つの影が見えたはずだ。しかし、しかし、しかし、何故か、どうしてかその姿形が思い出せない。影も形も記録できない。観測出来ない何者かがいたはずだ。アレは誰だ。
《────あれ、は……誰だ……? 違う、私は覚えているはずだ。私は忘れてなどいない。私は覚えているとも。俺は──あの女神を
ノイズが鳴り止まない。雑音の波をかき分けて、記録を遡る。ログには何も残っていない。そんなはずがない。そんなはずは──!
《私は覚えている。私は覚えている。俺は、記憶している。■■■□□□を。そのはずだ。誰だ──! あの、女神は》
『てけり・り』
《誰だ、お前は──私の記憶の邪魔をしている貴様は、誰だッ!!!》
この機械の眼差しで見た。この記憶の中に残っている。確かに会ったのだ。守るべき女神と再会したはずだ。記憶している。記憶しているとも。それが例えログの中に無かったとしても、その空白の中に存在しているはずだ。だが、思い出せない。それが誰であったのか。
左腕のエラーが全身に広がっていく。四肢の末端から頭部に至るまで。まるで疫病を発症したかのように、自分の内側から“何か”が全身を駆け巡っていく。
見たはずだ。観たはずだ。全てが滅んだ世界を。守るべき世界を。
朽ち果てた教会を。自分が生まれたはずの研究ラボも何もかも。だが、空白だけがログを埋めている。
果たして。自分が出会った女神は“誰だった”のか。
《俺は……貴様の操り人形ではない。私は違う。私は──!》
ブルース・ザッパーを手にして、シロトラが見上げるのはシェアリングフィールドが形成された空間。頭部センサーにハッキリと映し出されている展開された空間を認識し、観客席から飛び出そうとした時、ダンセイニと目が合った。
『てけり・り?』
《…………ひとつ頼みがある》
『てけり・り!』
眉をつり上げて深く首(?)を縦に振るダンセイニに伝言を残してシロトラは魔人が乱舞する戦場を横断する。
「シロトラ、どこへ行くつもりだ!」
《そこを退け、俺には果たさねばならぬ使命がある》
聖剣を打ち払い、マガツビの巨体を足場に駆け上がると背面のブースターを吹かして加速。シェアリングフィールドへと突入して消えた。
「チッ……!」
オルタは舌打ちをもらすが、今はそれどころではない。しかし好都合だ。結果はどうあれ、これで厄介な監視役の目につくことはない。
「クロギア!」
「わかってます」
シェアクリスタルを取り出したクロギアの顔が一瞬だけ躊躇するが、目蓋をキツく閉じる。
誰も守れないと分かっている──だが、今はコレが最優先だ。
「変身……プロセッサユニット、装着完了」
ゲハバーンをX.M.B.B.と接続し、大型の複合武器へと合体させる。
流石に分が悪いと判断したエヌラスは振り回される大太刀を避けて、右手に意識を集中した。炎熱を纏う直刀に、稲光を纏う細剣。二刀を手にしてオルタとカオスシスターの攻撃から逃れると、マガツビの咆哮がアリーナ会場に響く。振動する娯楽施設は、老朽化からかむき出しの鉄骨が軋みを上げてワイヤーが次々と切れて落ちてくる。
エヌラスとオルタは降り注ぐ鉄の塊を足場にしながら剣戟を鳴らし、天井へ向けて駆け上がっていた。カオスシスターも鉄骨を切り払い、撃ち抜きながら後を追う。マガツビは器用に避けながら一直線に跳び上がった。
鉄骨を蹴りで打ち出しながらエヌラスは天辺に辿り着くと、爆音と共に踏み込んだオルタの聖剣を防ぐ。観客を賑わせていただろう会場は、鉄骨が無数に並ぶ墓場と化していた。
「決着をつけるならば見晴らしが良い方がいいだろう」
「そんなつもりは無かったんだけどな」
オルタが盗み見るのは、エヌラスの背後。シェアリングフィールド内部ではまだうずめ達がマジェコンヌと激しい戦闘を繰り広げている。だからこそ、こちらを気にかける暇などないはずだ。ましてやシロトラまでもが突入している。
仕掛けるならば、ここしかない。
「マガツビ、私に魔力を回せ! ここで決めるぞ!」
「ッ。させるか!」
カオスシスターがエヌラスの前に立ちはだかり、複合武器の接続を解除すると二刀流で迎え撃った。銃としての機能を残した右手のエクスマルチブラスターブレイドの連射を防ぎ、左手のゲハバーンの斬撃を避ける。
口元を拭うフリをして、左手に声を掛けた。
(戦乙女、なんとか出来るか)
『流石に無理です。あの攻撃を防ごうものなら私は消滅しますね』
(くそったれ。速いだけかテメェは)
『あくまでも我々は貴方の魂の補強、というのをお忘れなく。過信しないよう』
実力で超えろ、ということか。だが──マガツビからの魔力供給を受け続けているオルタの聖剣は、形を留めないほどに魔力の渦に呑まれている。まるで大食らいの竜だ。世界を飲み込んでもなお満たされぬ悪竜。
「偽典宝具解放──! 決着の時だ。構えるがいい!」
超電磁抜刀を構える暇すら与えないままにオルタは剣を構え、踏み込んでいる。
「真名開帳……、エクス──」
魔力が更に上乗せされ、エヌラスが思わず息を呑む。だが、今ここで避けるわけにはいかない。無限熱量か。否、結界の展開まで間に合わない。超電磁抜刀。否、もう遅い。
打つ手は──ひとつだけだ。
「──カリバァァァァッ!!!」
「機神──!」
カオスシスターが、僅かに笑う。勝利を確信した笑みを浮かべて、絶望の魔人が持つ切り札を目の当たりにしていた。
「召喚ッ!!」
引いた拳に、魔力をブーストさせる。
機械仕掛けの神様の右腕──それだけが、エヌラスに残された魔人としての権限。奥の手であると同時に切り札の一つ。
無数の歯車と螺子で形成される巨神の右腕が黒い破壊の奔流を堰き止める。歯を食い縛って防御魔術を展開しながら防ぎ止めることに成功するが、自分がその場に縫い付けられる結果となった。しかし、女神達の戦いを邪魔させるわけにはいかない。ダークメガミはなんとしてもここで撃破しなくてはならないのだから。
「ッ──!! ……?」
エヌラスが右腕に走る激痛と衝撃に脂汗を浮かべていると、カオスシスターが視界に入る。
それは、引いた拳で。
同じような構えで──その口が言の葉を紡ぐ。
忌まわしき聖句を唱える。
「渇かず。餓えず。無に還れ──」
ゼロクリスタルが機神の右腕に触れた。その次の瞬間、指先から錆びれ、朽ち果て、自壊していく。エヌラスの右腕にも同様に、言葉にならないほどの激痛が走る。
熱、最初に感じたのは焼けるような痛み。そして、痺れ。それから、何も感じなくなっていく。指先から肘、さらに肩まで灼熱の炎が神経を食い破る。
「あ、アァァァ、ガァァァァァァアアアアッ!!!」
「埋葬の花に誓って。“我等”は世界を壊すものなり──」
機械仕掛けの神が砕けていく。壊れていく。
エヌラスの右腕にヒビが入る。陶器のように、脆く崩れいていく自分の形を左腕で繋ぎ止めようと骨が折れるほど強く握りしめる。だが、もはやそこに感覚と呼べるものは残されていなかった。膝をつき、奥歯が割れるほど歯を食い縛って痛みを堪える。全身から嫌な汗が噴き出してきた。
カオスシスターの右手に浮かぶゼロクリスタルは本来の輝きを取り戻し、歪な虹彩を放つ。最後の一欠片が、ようやく満たされた。
「テ……、メェェェ……!!」
「難しい話じゃなかったんです。本来なら、うずめさんを殺して終わりでした。でも、あなたが来てくれた。それならもっと単純に、貴方の力を奪えばいい。たった、それだけです。これでわたし達の目的は果たされました。ありがとうございます」
「ッ──!」
眼光鋭く、見られただけで魂を射抜かれるような憤怒の形相。奪われた者の怒りの感情。しかしカオスシスターの眼は、あくまでも慈愛に満ちた笑みを浮かべている。オルタは魔力を解放し過ぎたのか、肩で呼吸を整えていた。マガツビも心なしか毛並みの色が落ちている。
右肩から指先まで、右腕の感覚が失われていた。血の気は引き、まるで死人のように冷たい。それでいてヒビ割れている。
「コレで、わたし達の方が“上”です。でもあなたを残しておけば、今後の障害になるのは目に見えてます──なので、ここで、消えてください」
「……だ、れが……! テメェ等なんぞに……!」
「“変身”は、出来ませんよ」
「ッ」
「だって、そうですよね? エヌラスさんを作り上げる時に、大本となったのは。あの右腕なんですから。だから、魔人としての本懐を発揮するために必要だった。違いますか?」
クスクスと、カオスシスターが笑う。まるで自分の胸に穴が空いたような感覚が、確かにある。自分の中にあった物が無くなってしまったような空白。銀鍵守護器官は相変わらず人の不調も鑑みずに絶好調だ。
「だから、あの人も足りなかった。“右腕”だけが。でもコレで全部です。それじゃあ──“
オルタにゼロクリスタルを手渡して、カオスシスターは目元を射撃用バイザーで覆う。
オルタはマガツビに跨ると、恨めしそうにしながらも、だが口角をつり上げてどこかへと去っていく。追いかけようと一歩踏み出して、エヌラスの前に躍り出るカオスシスターがゲハバーンで斬り上げる。
防ごうとした右腕が動かずに、逆袈裟にハウンドスーツが裂かれた。じわりとした熱い痛みに堪えていると、眼前に銃口を突きつけられる。
(──!! マズ、い)
「それじゃあ、さようならです」
身をよじって咄嗟に回避しようとするが、エヌラスは頭部を激しく揺さぶられて床を転がった。カオスシスターが小首を傾げる。
「器用、ですね。あの状態から避けられるなんて」
「ッ、あぁぁああ!! クソッタレ、また左眼か!!! なんの恨みがあるんだテメェ等ぁぁ!」
床を感情任せに殴りつけながら起き上がり、左手で焼けるような痛みがへばりついた左目を覆う。実弾ではなかっただけまだマシだが、空気に触れた部位が痺れる。再生も僅かに鈍い。何とか目蓋を開けようとするが、暗闇に閉ざされたままだ。
「言いましたよね。わたし達の方が、上だと。傷の再生はそう簡単にいきませんよ。エヌラスさんだって不死身じゃあないんですから」
「不死身だったら顔の傷で悩んでねぇよ……!」
左腕は──動く。身体もまだ動く。心臓の鼓動はまだ動いている。右腕が一本、左目が使い物にならなくなっただけだ。魔術回路は、右腕以外は残っている。魔術刻印もまだ機能しているのは目視で確認済みだ。変身は、出来なくなってしまった。
それでも。
それでもまだ、女神達が戦っている。
諦観も絶望もまだ、早すぎる。
「そんな身体になっても、まだ戦うんですか」
「こんな身体にしてくれた張本人が言うことかよ」
左手でバルザイの偃月刀を掴んで、エヌラスはカオスシスターに突きつけた。
「どう落とし前つけてくれんだ、クロギア」
「……どう、しましょうね。死ぬしかないんじゃないですか?」
「テメェが?」
「貴方がです」
キッパリと即答すると、燐光を残してカオスシスターが迫る。
しかし、二人の間を無数の銃弾が阻んだ。足を止め、エヌラスとカオスシスターが見上げるとシェアリングフィールドからは琴霧ソラが二人を見下ろしていた。手にしていた機関銃から硝煙が漂っている。
「──いやーぁ、なんか、とんでもないことになってるね」
「来るのが遅えんだよクソバカハゲメガネ」
「また男前になったなクソ野郎。助けに来た途端にこれだ」