※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.32 狂乱疾走のプラットフォーム脱出

 ダークメガミを制御下に置いていたシェアクリスタルの効力が喪失し、マジェコンヌは自分の意思とは反する動きを見せるダークパープルに四苦八苦していた。

 パープルハートのクリティカルエッジを受けて顔を押さえる。立て続けにパープルシスターとオレンジハートの攻撃が顔面に集中した。腕を振り払ってダークパープルが薙ぎ払うが、そこに女神達の姿は無い。

 腕に着地した大人ネプテューヌがそのまま駆け出す。

 

『ええい、離れろ!!』

「そうは行くかー、とりゃー!」

 頭上を通り過ぎる手のひらにスライディングで避けながら二の腕に辿り着くと、一瞬だけ身を屈めて飛びかかる。両手の大剣で強かに眉間を強打すると、肩に着地してから足場に向けて跳んだ。

 ダークパープルが苦悶の声をあげる。

 

『おのれ、おのれぇぇぇっ!!』

 紫色の翼を大きく広げてシェアリングフィールドから逃れようとするダークメガミに向けてシロトラがブルース・ザッパーを砲撃形態へ移行させ、翼を撃ち抜いた。姿勢を崩しながら足場に全身を打ちつけて落下する。

 

《どこへ行くつもりだ》

『貴様──!』

《マジェコンヌ。貴様はここで消させてもらうぞ》

『私はこんなところで死ねるものか! 私は──!』

「往生際が悪いわよ、マジェコンヌ! せめてそのダークメガミだけでもここで!」

『何故だ──何故、私は!!!』

「ネプギア! 一気に決めるわよ! うずめも準備はいい?」

「もちろん!」

 女神が三人同時にエグゼドライブをダークパープルへと叩き込んだ。猛攻によって強固な外殻が砕け落ちていく。だが、咄嗟にマジェコンヌは自分とダークメガミとの接続を解除してシェアリングフィールドから飛び去っていった。

 

「マジェコンヌが!」

「でも、デカブツがまだ!」

 制御を失ったダークメガミが手当たり次第に再び暴れ始め、その暴走にパープルハート達が一度距離を置く。シロトラも大人ネプテューヌを抱えて足場から足場へ飛び移っていた。

 

「これだけ攻撃してもまだ倒れないなんて……」

「ねぷっち、何か手はない?」

「そうね……こういう時に一番心強い人がいるけど、シェアリングフィールドとは相性が悪いし」

「お、お姉ちゃん! あれ! ワームホールが」

「こっちも時間の問題ね……」

 一回りほど小さくなった次元の出入り口に気づいたパープルシスターが慌てるが、パープルハートは眉を寄せている。全力で攻撃したというのに、まだ健在のダークメガミの頑強さにはほとほと呆れていた。普通なら爆発四散しているところだ。

 

「うずめもフィールドの維持がそろそろ限界に近いよ~」

「ごめんなさい、うずめ。もう少しだけ耐えてもらえる」

「ねぷっちのお願いだもん。うずめはまだまだ頑張るよ!」

「ふふ、ありがとう。プラネテューヌに来たら、みんなでプリンパーティでもしましょう」

「なにそれなにそれ、わたしも行くー!」

「そのためには、まず……」

 マジェコンヌからの制御を離れて以前と同じように暴れだしたダークパープルをなんとかしなければならない。

 その話を一歩離れたところで聞いていたシロトラが、ワームホールを視認した。確かに、少しずつではあるが入り口が収縮している。

 

《……マジェコンヌの後始末はこちらで引き受けよう。ダークメガミに専念してくれ》

「シロトラ……」

《置き土産だ》

 ダークパープルめがけて、全身で振りかぶったグレネードを真っ直ぐに投げつける。剛速球の手榴弾は目の前で爆ぜて青い光と衝撃で動きを止めた。

 

《──D・コンバータ起動。機能制限解除開始。目標を確認──ゲット・レディ》

 背面に背負ったメイン動力源の稼働率を上げていく。手にしたクリスタルを自らの内に埋め込んで、シロトラの全身が淡く発光する。

 グラーフが最後に見たシロトラの機能解放状態。

 ブルース・ザッパーを掲げ直し、ダークパープルへ向けて駆け出す。

 

『ウオオオオオオッ!!!』

 手のひらをかざし、黒い波動を放つ只中へと向けて正面から飲み込まれていく。だが、パープルハート達の目には白い輝きが波をかき分けて一直線にダークメガミへと突貫するシロトラの姿があった。

 ブルース・ザッパーのバーストモード──噴射装置によってサーフボードのように可変した大剣に足を乗せて、身を屈めてさらに加速していく。機体エネルギーの過剰な出力を全て加速装置に回した突貫攻撃に、オレンジハートがポツリと呟いた。

 

「──白刃(はくば)の、王子」

 ダークメガミの胸が穿たれ、大きく損傷したことで大幅に弱体化していく。身体が崩れていく姿に、パープルハート達は背筋がうすら寒くなった。

 女神殺しの戦機。世界の天敵だ。シロトラはダークメガミを挟んだ足場に着地すると、全身から冷却材を吐き出して振り返る。ブルース・ザッパーを突き立てて敬礼すると、そのままシェアリングフィールドから姿を消した。

 

「今はこのチャンスを逃す手は無いわ。これで決めるわよ!」

 

 

 

 ──その外では、エヌラスとソラがカオスシスターを相手に苦戦していた。

 バレルスフィアの銃撃を避けようとして足をもつれあわせて二人が転ぶ。目の前を掠める攻撃に転がると、ソラがエヌラスを担ぎ上げて走り出した。

 

「君さー!! 本当さー! 人の足を引っ張り過ぎなんだよバカかよ! いやごめんバカだったねこのバァァァーーカめぇぇぇぇ!!」

「うるせぇクソメガネ! 角膜剥がれて涙腺緩め! 涙目のソラになれハゲぇ!!」

「にわか雨みたいなネーミングセンスだなこのクソバカハゲ! ハァァゲ!」

「んだとこらぁ、文句あっかハゲメガネぇ!! ハゲぇ、アイアイ!」

「アイアイ!?」

 互いを蹴飛ばしながらイタクァで迎撃すると、カオスシスターの斬撃をソラが横から足で捌いた。入れ替わるようにエヌラスがアクセル・ストライクで蹴り返すと、二人同時に銃撃で更に押し返す。ソラが腕時計を確認して舌打ちした。

 

「残り時間少ないぞ、急げよ!」

「あと何秒だ!」

「一分切ってんだよ!! 残り四十秒!」

「ちなみに何のタイムリミットだ」

「シェアリングフィールド内のワームホールだよ! とか言ってる間に残り三十五秒だ!」

「それを先に言えよクソバカハゲメガネサルモネラ!」

「人を病原菌扱いするんじゃないよ!!」

 愚痴を飛ばし合いながらカオスシスターの射撃を防ぎ、エヌラスが接近するがゲハバーンによって打ち返される。崩れた足場から落ちそうになるが、その足を黄衣のボロ布が掴んで引き上げたかと思った矢先に床に叩きつけられた。

 大魔導師が涼しい顔で降り立つと、激しく咳き込むエヌラスを冷ややかに見下ろしている。

 

「ぐえっほげっほごっふ!! おっふぁ!」

「助けてやって礼のひとつもないのか?」

「ありがとうございましたくたばれクソ師匠!」

「どういたしまして死んでおけバカ弟子」

 残り二十秒──ソラは腰の端末を操作して、イストワールに連絡を取った。

 

《ソラさんですか! ネプテューヌさん達はこちらへ戻ってきました! 急いでください、もう残り時間が──!》

「次元接続解除! ステラ、ポート切り替えてインタースカイに直接繋いでくれ! それで時間は稼げるはずだ! いーすんさん、こちらは気にせずにそのままワームホールを閉じて大丈夫です! 以上、通信終わり! ──というわけだからさっさと帰るぞバカ師弟!」

「うるせぇクソメガネ!」

「黙ってろクソメガネ」

「もう僕だけ先に帰っていいか!?」

 しかし、カオスシスターはどうするか。この次元に置いていくわけにはいかない。そんなエヌラスの顔色を窺って、大魔導師は黄金の十字架を手にした。

 

「続きはインタースカイだ」

「えっ?」

「なぁるほど。時間制限付きじゃあこっちも気が気じゃねぇしな」

「あっ、ちょっと」

「あの女神には私も興味がある。やるぞ、バカ弟子」

「足引っ張るからどうにかしろよ、クソ師匠」

「ちょっと君ら、まさかとは思うが人の国で暴れるつもりじゃ──」

「「そのつもりだ」」

「だぁあぁぁぁぁああ、こいつらはぁぁぁあああ!!!」

 イタクァの連射、大魔導師の十字架によって身体を打ち据えられたカオスシスターをシェアリングフィールド内に押し込む。ソラは頭を掻いてから、他に解決方法が無い事に腹を立てながらもハンドガンのマガジンを取り替えて二人の後を追った。

 

「先に言っておくが壊したら承知しないからそのつもりでいろよ!!」

 

 

 

 シェアリングフィールド内でダークパープルを撃破することに成功したパープルハートとパープルシスターは別れの挨拶を惜しみながらもワームホールへと消えた。どさくさに紛れて大人ネプテューヌもそこを通ろうとしたが、ねぷノートに閉じ込められていたクロワールがここぞとばかりに次元移動能力を発動させる。

 

「えっ、ちょっとクロちゃん!?」

『へっへっへー、今だ! インド人を右にー!』

「あーれー!? わたしどこに行っちゃうのー!?」

『ははは、知るかよーだ!』

 シェアリングフィールドを維持していたオレンジハートだったが、少しずつ結界が薄れていた。そこへ乱入してくるカオスシスターと三人の神格者。ワームホールが一度は閉じられようとしていたが、ギリギリのところでインタースカイに転送先が切り替えられたことで再び開かれた。

 

「ほにゃあ!?」

「よぉ、うずめ! 話はなんか色々あるだろうが、まぁまた会う時があったらよろしくな!」

 左目は閉じられ、右腕はだらりと下げられたままのエヌラスが血で汚れた左手で頭を撫でて駆け出し、カオスシスターの頭を掴んでワームホールへと入っていく。

 

「お邪魔しました! そのうちまた会いましょう、多分!」

「騒がせて悪かったな。私の弟子が全部悪い、それではな」

「こんな時でも弟子に全責任押し付けるとか師匠の風上にもおけないな、最低かよ!」

 まるで嵐のように、台風のように走り去ってしまった。もう誰も残っていないことを確認してからオレンジハートはシェアリングフィールドを解除する。それと同じくして、女神化も解除されてしまった。

 

 気がつけば、だいぶ離れた場所で戦っていたらしい。森の中で大の字になって仰向けになっていた天王星うずめのもとに駆け寄ってくる姿があった。

 心配になった海男がひよこ虫達を連れて拠点からわざわざ来てくれたのだ。

 

「うずめ! 大丈夫かい」

「あー……海男かー、もーだめだ。指一本動かせねー……」

「ねぷっち達は?」

「はは、無事に帰れたといいな。でもまた会えるさ」

「そうだね。ダークメガミも倒したようだし、今は休もう」

「ああ……すっげぇ~、疲れたぁ~……」

 深く息を吸い込み、吐き出したうずめの顔を覗き込んだ海男だったがすぐに寝息を立てる姿を見て薄く笑う。よほど疲れていたのだろう。ボロボロになって擦り切れた服も直さないといけない。拠点に残された物資の補充もある。これから先、やることはまだまだあった。

 

「ああ、お疲れ様。うずめ──」

「う、海男ー」

「ん? どうしたんだい」

「あわわわわ……」

 振り返った先で、同じように満身創痍のマジェコンヌが木に寄り掛かりながら海男達を睨みつけている。頼りのうずめは今動けない。そしてひよこ虫達自身も戦闘力は低い。

 

「ふ……ふふふ、貴様らがこちらへ向かってきているのを見たから、追ってみれば案の定だ。ダークメガミは失ったが、せめてそこの小娘のシェアクリスタルだけでも私の手中に──!」

「随分と悪運が強いな、マジェっちは……!」

「ふはーっはっはっは、なんとでも言うがいい! 最後に笑うのは、この私だ! 邪魔をするならば貴様からこんがり焼いてやるわ!」

 ひよこ虫達に近付こうとするマジェコンヌだったが、何かに足を引っ掛けてその場に倒れ込む。何事かと足を見れば、オレンジ色のゼリー状の触手が巻き付いている。その主は上を飛び越えてマジェコンヌの前に立ちはだかった。

 

『てけり・り!』

「ダンセイニ!?」

『てけり・りー!』

「なんだ、貴様! よりにもよってスライヌもどきが! なぁにが「てけり・り」だ、吹き飛ばすぞ! そこを退け!」

 立ち上がり、杖を召喚するマジェコンヌが穂先を向ける。しかし、プルプルと震えるダンセイニの様子がおかしい。

 小刻みに震え──腕が生えた。足が生えた。身体を持ち上げて、立ち上がる巨漢。

 マジェコンヌが絶句しながら見上げる。そういえば、何かの書物で学んだことがある。触手というのは、つまりは意思を持った筋繊維のようなものだと。ならば目の前の粘体生物が筋骨隆々の人形の姿形となっても、それはつまり密集した触手の塊に過ぎない。

 当然ながら、その筋力というのも計り知れないものであり……ミシィッ!と、音を鳴らして拳を握りしめ、二メートル大の巨体が丸太のような腕を引いて放つ拳の威力は。

 

「待っ──!?」

『てけり・りーー!!(特別意訳:りーじゃねぇ、ぶっ飛ばすぞ!)』

「ぬわぁああああああ─────……!?」

 全身を振りかぶって殴りつけられたマジェコンヌが遥か彼方、空の綺羅星となって吹き飛んでいく。その姿が見えなくなってからダンセイニは元のスライムへと戻り、海男に向けてまばたきをして見せた。本人はウインクのつもりだったのだが。

 

「た、助かったよダンセイニ。そうか、私達の力になってくれるんだね?」

『てけり・り』

 大人ネプテューヌに言われた。テントの中に開放されて『海男達を助けてあげて』と。

 シロトラに言われた。『私が去った後に、彼女達の力になってくれ』と。

 ダンセイニは、言われたことをやるだけだ。

 それが、奉仕種族として生まれた自分の務めだから。

 

 

 

 ──インタースカイへと転送されたエヌラス、大魔導師、ソラの三人がカオスシスターを追う。

 海上に浮かぶ巨大都市。電脳国家は無人であり、機械によって国内を管理されている。それも海中深くに設営されたマザーコンピューターによる制御の下で。

 ソラは腰の端末を操作して国内にある重機や建築用フォートクラブをセッティングする。どうせこの後街中が破壊されて泣く羽目になるのは国王である他でもない自分なのだから。どうせ言っても聞くはずがない、よりにもよって犯罪国家国王とその弟子が素直に頷くはずがなかった。だから諦めて事後処理の用意だけしておく。

 

「ここは──」

「アダルトゲイムギョウ界、僕の国だ! 頼むからあんまり壊さないでくれるとすっごい嬉しいんだけど」

「よっしゃぶっ壊すか!」

「ひと暴れといくか」

「あぁぁもぉぉぉう、人の話を聞けよぉそこの二人はぁぁぁ!!」

「……なるほど。わかりました。わたしも、全力でいきます」

「みんな僕の敵だな!? そうなんだな!? ちくしょーテメェ等もう許さねぇからなぁ! そっちがその気なら僕にも考えがあるぞ! ぶっ壊される前に全員蜂の巣にしてやる! 次元拘束、あぁもう面倒くさい以下省略! 電界突破ぁ!」

 カオスシスターがバイザーで目元を覆い、周辺の状況を解析するとインタースカイの景色が歪んだ。次の瞬間、電脳次元に格納されている銃火器がソラの指示によって一斉にマズルフラッシュを瞬かせる。それの巻き添えを食う大魔導師とエヌラスだが、手元に超重力障壁を展開して大魔導師は丸め込むとカオスシスターへ散弾代わりに叩き込んだ。

 エヌラスは魔術防壁で防いだが、ビルの屋上に着地する。

 

「ッ……! これは」

「はっはっは、驚いたかこんちくしょー! 何かもうヤケクソだし寝不足気味だし人の国で暴れられるくらいならいっそここで僕が暴れてやるわーい! 覚悟しろ大魔導師、日頃の恨みだ喰らえぇぇぇ!!」

「医者でも紹介するか?」

「アンタに一番必要なんだよっ!!!」

 カオスシスターは翼を広げてフレアを巻きながらマイクロミサイルの一斉掃射から逃れる。大魔導師は涼しい顔でソラの八つ当たりを防いでいたが、身動きが取れない。面倒そうに指を一度鳴らすと、ソラの周囲に術式が広がる。それが完成する直前にその場から退避すると空間が重力波によって歪められた。

 重縛結界から逃れたソラが眼鏡を直す。

 

「残念だったな大魔導師。僕は理数系だ。そしてアンタの術式の解析も僕にしてみればちょっと理解し難いけれども決して解析できないレベルの技術じゃあないんだよ。どうだざまーみろ!」

「こんな格言を知っているか」

「なんだよ?」

強度(レベル)を上げて物理で殴れば大概死ぬ」

 大魔導師が腕を一振り。空を殴りつけて、ビルが一棟倒壊した。崩れていくビルにソラが唖然としていると、腕にビッシリと強化呪術を巻き付けた大魔導師が鼻で笑う。

 

「図に乗るなよ電脳国家国王。その気になれば貴様を殴り飛ばすだけで殺せるぞ」

「当たらなければどうということはないんだよ、やってみるか?」

「望むところ──」

「クロギア無視して喧嘩してんじゃねぇドロップキーーック!!!」

 アトランティス・ストライクを乗せてエヌラスが両足を揃えたドロップキックで綺麗に大魔導師を蹴り飛ばした。空中で姿勢制御、着地からの磁気加速、ソラも同様に蹴っ飛ばしておく。

 

「……仲が、良いんですね」

「こちとら殺し合うほど大の仲良しだ」

「私も、そうでしたよ。でも、そんなことをしたかったわけじゃないのに──あんなことにならなければ私もきっとそんな風に……!」

「……クロギア。壊れた次元はもう二度と直らねぇんだよ。“やり直し”なんて出来ねぇよ」

「ッ──だけど! だけどっ! あの人は、あの邪神は!? そんな間違った終わりを正すと、私にそう言って──壊して──私の力が必要だと、そう言ってくれたんですよ……」

 身体の芯から熱が灯る。頭が怒りでどうにかなりそうだ。

 そんな事は、絶対にない。間違った終わりを正すことなど誰にも出来ないのだ。

 終わってしまえば、そこで道は途切れてしまう。その先などない。あるのは虚無だけだ。

 ゲハバーンを見下ろして、涙を浮かべたカオスシスターが頬を濡らす。

 

「おかしいですか。おかしいですよね……だって、コレのせいで、みんないなくなって、私だけが残されて、私が守らなきゃいけなかったのに……みんな、全部、無くなって、壊されて、何も残らなくて……私、全然諦めきれなくて……! また、みんなで笑いあえる世界が取り戻せればいいなって。そう思って……そう信じて……邪神でも、なんでもいいから──」

 涙を流しながら、今にも壊れそうな笑みを浮かべていた。ゲハバーンを抱きしめて、大好きだった親友の武器を手にして、みんなの力を借りて──たったひとりで、戦い続けて。

 

「みんなを、取り戻したいんですよ」

「だからといって、ぶっ壊した張本人が直せるはずがねぇだろうが!!」

「だけど次元神の力があれば、壊れた世界もやり直せるってあの人は言った! 私にそう言ってくれた! このゲハバーンもあれば不可能じゃないって! またやり直せるんだって、それも嘘だって言うんですか。守護女神の力を吸収したこの剣なら、次元世界を作り直せる。そうしたら私はまた……」

「──もう一度だけ言うぞ、クロギア! ぶっ壊れた世界は、二度とやり直せねぇんだよ!!」

「壊してきた貴方が言うんですか! 自分に都合の良いハッピーエンドの為に戦い続けて、やり直してきた貴方がっ!」

()()()言うんだよ! こんなの間違えてるってな、俺がやってきたことなんてただの自己満足だったって、俺自身が断言してやる! このバカ共とバカやるために、バカやってきた俺が言ってんだ! テメェと一緒にするんじゃねぇっ!!! ()()()()()()()()()()()()!!」

 だからこそ、ここでクロギアは止めなければならない。これ以上、邪神の傀儡と化して壊れるまで戦い続ける姿など見てもいられない。

 バルザイの偃月刀を左手で握り、帯電させる。銀鍵守護器官が胎動し、脈打つ度にマグマのように熱い血液が巡っていく。開かなくなった左眼が熱を持つ。

 俯いて涙を振り払ったカオスシスターが顔を上げて、ゲハバーンを組み込む。

 

「それでも、私には──守りたかった世界が、あったんですよ……」

「──俺もだよ」

 最大出力のゲハバーンが振り上げられ、触れる全てを破壊せんと血で汚れた紫色の輝きを増していく。

 

「ジェネシス──オーバーエンド」

 ゲイムギョウ界の守護女神の力を取り込み、その全てを破壊に転換させた指向性の斬撃が天を衝き、エヌラスめがけて振り下ろされ──しかし、飛び出してきた人影によってその剣が鈍った。

 

「人の国でぇ、そんなもん振り回すんじゃないよぉ!!」

 電界三十二次元拘束。その隔壁すら切り裂いてみせるが、駆け出したエヌラスの横を通過してジェネシス・オーバーエンドの刃を黄金の長槍が軌跡を逸らした。

 

「……ローエングリンでも破壊には至らんか」

「どうして、みんなで私を……!!」

 偃月刀の帯電が全身を奔る。不意に、エヌラスは自分が抱きしめられるような感覚に陥った。

 

『──“創造(Briah)”!』

 戦乙女の声が響く。誰よりも速く、光を越えて偃月刀の斬撃がゲハバーンをカオスシスターの手元から弾き飛ばす。変身を解除させられた相手に、エヌラスは剣を放り捨てて拳を握った。

 そして踏み込み、震脚が舗装された路面を崩しながらクロギアの顔面を強烈に殴りつける。小柄な身体が吹き飛んでビルを三棟ほど巻き込み、地面を転がって止まった。

 

「ッ……くそったれ、もう勘弁してくれよ。こちとらとっくに限界だっつうの……」

 全身から白煙を漂わせていたエヌラスが大きく息を吸い込んでその場に座り込み、吐き出した。その頭に大魔導師が手を置くと、目を合わせる。

 

「ご苦労だったな」

「だーかーら、壊すなって言ったのにさーもー! 作業班を待機させてて正解だったよ、まったく。ところで殺さなくていいのかい、あの魔神。やらないなら僕が引き受けてもいいけど?」

「殺さねぇよ。お前のところでしばらく置いてやってくれ」

「ハァ!? 寝言は寝て言えよ、そういうのは九龍アマルガムに」

「何が起きても責任は取れんぞ」

「はいはいはいわかりましたうちで暫く面倒見てやるから二度と来んじゃねぇぞ君ら!」

 怒り心頭と言った様子でソラは素早く損害箇所の修復作業を始めていた。その後姿を見ていたエヌラスだったが、頭を掴む力がどうしてか強くなってきているような気がして、頭蓋骨が軋む音に勘違いではないらしい。

 

「さて──この私を、こんなくそ面倒な事に巻き込んでくれた貴様を私はどうしてくれようか?」

「まずは休ませてくれるとすげぇ嬉しいんだけどな、師匠……」

「話したいことと言いたい事が山程あるからな、覚悟しておけ」

「あーそうだ、いーすんさんには僕から連絡入れておくからはよ帰れ。っていうか出てけ。だーもう、明日喫茶店の月末締めだって言うのになんで人の仕事増やすんだよ。奢れよ、ちくしょう」

 

 疲れた笑いと、乾いた笑いに、人をバカにしたような笑みを浮かべて三人が手を叩いた。

 まずは──何とか生き残った事を祝おう。他のことはそれからだ。

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