超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「イッタタタ……ふたりとも、大丈夫?」
「は、はい……ちょっと眩暈しますけど、大きな怪我はないみたいです」
「ねぷ~……いやー、落ちたね!」
「アナタね……」
森の中に落ちたネプテューヌ、ノワール、ネプギアだったが、幸いにも怪我はなかったようで胸を撫で下ろす。だが、やけに周囲が騒がしい。空を見上げてもそこには見慣れた変わらない青空が広がっていた。
「うーん、こういうのってお約束だと異世界とかに飛ばされてたりするオチなんだけど……どこなんだろうね、ここ?」
「ゲイムギョウ界であることを祈るわ」
「でも、なんだか騒がしいですね」
「すんすん……この風、少し鉄っぽい?」
鼻を鳴らしたネプテューヌに言われてノワールも嗅ぎ慣れない臭いに眉を寄せる。鉄サビのような、焼けた空気のような、混ざり合った臭い。まるで溶鉱炉にいるような熱気と大地を震わせる轟音にただならぬ気配を感じて三人は周囲を警戒しながら立ち上がる。
「なんかー、湿っぽくないね。どちらかって言うと、乾いてる感じ? お祭りかな?」
「それにしては……」
「ちょっと、物騒な気が……銃声とか聞こえるし」
聞きなれない野太い声が一斉に悲鳴へと変わった。銃声に剣の交わる音。そして、緊張感の漂う剣呑な空気から自分達が今、戦場へ放り込まれているのだと薄々勘づき始めていた。
「このままじゃ危ないわね。ネプテューヌ、一旦ここを離れるわよ」
「もー、ノワール仕切ってばっかなんだから。これじゃ主人公どっちだか分かんないよ」
「タイトル見れば一目瞭然でしょ、文句言わないの。ほら早く、ネプギアも」
「は、はい!」
機械の駆動音に興味を引かれつつも、せめて一目見たかったと惜しみながらネプギアはネプテューヌとノワールについていく。
「行くあてとかあるの、ノワール?」
「今はないわ。とにかく落ち着いて話ができる場所に移動するの、状況確認はその後!」
「誰かに聞いてみればいいんじゃ」
「話せる空気じゃないでしょ、さっきの!」
「んもー、怒ってばっかなんだから。それに、このまま闇雲に走ってもまた迷子になるだけじゃない?」
ネプテューヌの言うことにも一理ある。しかし、それでもあの場所に居座るのは危険だと思ったのだ。
“この世界、確かにゲイムギョウ界だけど……”
何か違和感のようなものを感じる。確信めいたものがノワールの胸にはあった。
「あ、見てくださいノワールさん」
「え? 隠れて、ふたりとも」
「ねぷっ」
茂みに隠れて覗き見た先には、見張り台。それも森の中に、まるで最新の軍設備のような佇まいだ。昔からここに建っていたかに見えるが、それにしては新築同然で汚れ一つ無い。よく見るとその輪郭が魔法のように揺れていた。
“幻術かしら……”
“凄い……あんな設備初めて見る。どんな機械あるんだろう……”
“でも、なんだか様子がおかしいみたいだけど”
ネプテューヌの言うとおりだ。いやに静かで人の気配が感じられない。そして煙が立ち昇っている。襲撃されているのか、それとも襲撃された後なのか。どちらにせよ、アレに人は残っていない。
「誰か出てきますよ……?」
現れたのは、黒髪の青年だった。整った顔立ちをしているが、そこに温情は見受けられない。例えるなら、刃物のような鋭さに獣の獰猛さを兼ね合わせたような雰囲気を感じていた。頬に付いた血を拭い、血痰を吐き捨てる。まるでタチの悪い不良だ。その手に持っているものは、紫電を散らすコンピューター。彼が破壊したものであるとすぐに分かった。放り捨てて髪をかき上げる。
全身黒ずくめだった。黒い上着に黒いダメージジーンズという黒一色でありながら、その紅い瞳が鈍く輝いている。
“おぉ~……見るからに悪役って感じの人……見つかったらエロ同人みたいにひどいことされること請け合いだね”
“アナタ、いくらなんでも初対面、かつ話したこともない人を相手に失礼すぎない?”
その相手が出てきた設備が一瞬だけ陽炎のように揺れたかと思うと、次の瞬間には電源を切られたテレビのように消えてしまった。察するに、放り捨てられたコンピューターが施設を作り出していたのだとネプギアはすぐに理解する。
“どうしよっか……声、掛けてみる?”
“やめといた方がいいんじゃないかしら。危険なのに変わりはないんだし……”
“じゃあ、引き返してみます?”
様子を窺っていたネプテューヌ達だったが、手を掛けていた場所の枝が盛大に折れて慌てて身を隠した。
“ちょ、ちょっと何してんのよネプテューヌ!”
“あの人、こっちに来ますよ!?”
“あはー、ごめん。でもなんとかなるって”
足音が近づいてくる――だが、それをかき消すほどの轟音が響いてきた。
「見つけたぞっ! “あの男”だ!」
「チッ、クソが! テメェらだけで争ってりゃいいものを、人を見た瞬間に眼の色変えやがって!」
見た目を裏切らない粗暴な言動に、見つからなくてよかったと胸を撫で下ろす。
「ん? おい、女の子がいるぞ」
「あ、見つかっちゃった」
軍の関係者と思わしき屈強な男性達に無人機が多数。中には人型機械もいる。それを見てネプギアが眼を輝かせていた。簡素な作りで生産コストを削減しつつ、機能性を追求されている。
「あははは、どうも……」
「こんな戦場でこんな可愛い子たちをお目にかかれるとはな、驚いたよ」
「あ、ありがとうございます。あの、私達迷子になっちゃって」
この状況ではそうとしか言えない。例の青年は警備ロボと人型機械、そして軍人達に追われて遠ざかっていた。遠方で爆発や銃声が相次いでいるが、あの物量の前では押し返すことも出来ない。
ネプギアの言葉に、軍人達から笑い声が挙がる。
「ちょっと、何笑ってるのよ」
「いや失礼した。迷子、そうか迷子か。一体何を思ってこの最前線に来てしまったのかなこのお嬢さん方は」
「さ、最前線?」
確かに戦場だとは薄々気づいていた。だがまさか、最前線に放り出されていたとは思いもしない。とすれば、あの青年は単騎で前線基地を潰した、ということになる。
オウム返しのノワールに、快く頷く男性。
「そんな場所に迷い込んだ、ということは……我々がどれほど女に飢えているかも分かるね?」
「――――」
背筋が凍った。友好的な視線が、全身を這いずるように見つめてくる不快感にネプギアが身の危険を感じ取る。正確には貞操の危機だ。
ノワールが咄嗟に両手剣を転送して軍人の銃を払いのける。だが、その重い手応えに震えた。モンスター相手に振ってきた剣には、ベッタリと血糊が付いている。今までそんなことはなかったのに。
「な、なにこれ……!?」
ただ、自分が明確に人を斬ったという感覚だけが残る。剣で斬っても吹き飛ぶわけでもダメージを与えるわけでもなく、分厚い生肉を切り分けた感触にノワールがうろたえている隙に後ろから羽交い締めにされる。
「ノワール!」
「おっと、お嬢ちゃんもおとなしくしようか」
「ねぷっ!? いやーやめてー! 私そういう汚れ仕事にはちょっと早いんだからー!」
「大丈夫、需要はあるから! 俺とか俺とか、そう、俺とか!!」
「ここまで本物の変態紳士は遠慮したいー!」
「まぁまぁ」
「ネプギア、早く逃げて!」
「で、でも……!?」
足元に撃ち込まれる突撃銃から吐き出される銃弾に足が竦んだネプギアがへたり込む。人型機械も無人機も三人を既に包囲している。
“そ、そうだ。女神化すれば切り抜けられるかも!”
ネプギアがシェアクリスタルで変身しようとするが、何の反応もなかった。
「そ、そんな……!?」
「女神化でもしようとしたのかな。残念だがそいつは無理な相談だ。見るからにお嬢ちゃん達……処女だし」
「しょ……いや、確かにそうですし私まだそういうの全然早いというか何と言いますか」
「まぁまぁ」
「安心したまえ。これからおじさん達が大人にしてあげるから」
「ひッ……! こ、来ないでください!」
武器を出すことも忘れて怯えるネプギアに男たちの屈強な手が伸びていく。
「いや……誰か……! イヤァァァァァァァァッ!!」