超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
スーパーで買い物をしている間、エヌラスは食材を選ぶノワール達を見ていた。どうしてこう、女の買い物は時間が掛かるのだろう。
「あ、見てくださいノワールさん。こっちの凄く安いですよ」
「あら、ホントね。……ウッソ、こんな安くていいの!?」
「…………しっかりしてんなー」
「そうだねぇ~」
「プルルートは選ばなくていいのか?」
「う~ん、二人が選んでるしぃ……エヌラスと一緒にいる方がいいなぁ~って」
「そ、そうか……」
段々と二人の会話がずれてきているような気がした。
「……なんか、このお野菜人の顔に見えません?」
「そうね、ちょっと気味悪いわ……」
「ああ、そこら辺のコーナーは『美味いけど絵面がヤバイ人面野菜特集』だ」
『ヒィィィィィィ!?』
なお、八割方の原産国は九龍アマルガム。有機農薬とかでは成し得ない超魔導的な何かで育てられた作物が入荷しているのだが、なんかの儀式にでも使うのかと言われるほど凶悪な絵面をしている。人面瘡人参や大根。どことなく種の位置が顔に見える百面相じゃがいも。それなどはまだ可愛い方で、エヌラスが手にしたのは笑うピーマン。野菜が動いているという時点でモンスターじみているが食料である。食材である。調理する際に断末魔をあげるが、れっきとした野菜である。
「ねぇ~、エヌラス」
「ん~?」
「ミード……だっけぇ。アレの材料ってここで手に入らないのぉ?」
「代用品なら手に入るだろうが、それじゃ回復出来ないんだよ。魔術行使に支障が出るレベルで魔術回路が損傷してるからな」
医者からカルテを見せてもらうまでもない。自分の身体のことは手に取るように分かる。内氣功と魔術に精通しているからこそ、機械の故障がどこなのか、どの程度のものなのかまで。
自己診断として弾き出される損傷レベルは、かなり酷いもので、両腕の回路のほとんどがイカれている。幸いにして心臓、第二の心臓である“銀鍵守護器官”からの魔力供給は滞り無く潤滑だ。だが肝心の魔力も少ないので、機械油が足りないのと同様。それらを復旧、再生させるためには高純度の精製方法で造られる黄金の蜂蜜酒が必要なのだ。
「ここで作ったら、ただの蜂蜜酒になっちまう」
「そーなんだ~」
「何の話よ?」
「今ちょっと、魔術が使えないって話だよ」
「それって結構致命的なような……」
「魔術がダメなら体術使えばいいじゃないって俺の師匠が言ってた」
「文武両道って言葉の意味履き違えてそうな人ね……」
「とりあえず、今は攻撃手段がかなり限られる。二挺拳銃無し、超電磁抜刀術無し、決め手に欠ける状況だな。あと、一番致命的なのがハンティングホラーだ」
半有機生命体であるハンティングホラーの制御には魔術的な体幹制御も必要なのだが、それはそれとしてもナイトロシステムの使用不可は手痛い。
「ただ乗る分には問題ないけどな、っと」
ガサガサと両手にレジ袋を抱えてスーパーを後にする。
「それで、九龍アマルガムに一度向かおうって話をしてたんだ」
「九龍アマルガムってアナタの国よね」
「犯罪国家……うぅ、ちょっと怖いかも……」
「婦女暴行に強姦事件なんて日常茶飯事だぞ。あと人身売買と奴隷市場」
「ホンット、犯罪に躊躇のない国ね」
「それと破壊ロボ」
『破壊ロボ!?』
唐突に出てくる脈絡のない単語に驚きのハーモニー。
「大体、何でそんな無法地帯になってるのよアナタの国」
「俺が知るか。地下にシェアなんちゃらだかなんだったかがあって、そいつを巡って戦争おっぱじめたら武器商人とか住み着いてこうなっちまったんだよ」
「シェア……?」
「うわぁ、自分の国のことなのに何も説明できないとか……」
「自慢じゃねぇが国内統治ほっぽってあちこち放浪してるからな俺」
「エヌラス、根無し草のステータス追加だねぇ~」
「ぐふっ」
「それであちこち女作ってるの? 最低ね」
「ごふっ」
「お仕事してください」
「やめてくれ。その発言は俺に効く」
会話を遮ろうとする建築機械の音に、見飽きたほど壊したフォートクラブの工業建築型が丸太や鉄骨を担いで四人とすれ違う。破壊された区画の修復作業中付近で、これまた濃紺の三叉槍を発見する。その背中には長刀が二本。腕を組んで立っていた。
《オラー、テメェら、ソコのやつ図面とズレてっぞー! そっちの資材は城壁用だ、一緒くたにすんな! 家屋用のは向こうの青いシートにまとめとけって今朝言っただろうが! 怪我すんなよー! 早番の奴らは撤収用意、引き継ぎ忘れんな! 遅番連中は明日の作業の打ち合せだ!》
ランス03はコレでもかというほどハキハキと的確な指示を出している。それに血の気の多い連中も従っていた。
「張り切ってんなー……」
《誰かと思えば破壊神じゃねぇか》
「頼むから人のことそれで呼ぶのやめろや。名前で呼べよ」
「アナタ、最強の親衛隊って割にはこういう現場の方が向いてるんじゃない?」
《よ、嬢さん。久しぶりだな。ってか、よりによってテメェと一緒かよ破壊神》
「学習機能ついてねえのかテメェの頭はよぉ、ランス03」
《暇がありゃ背中に乗せてデートと洒落こみたかったが、そんな暇ぁ今はないんでな。仕事の邪魔だぜ、早く行った行った――おらそこー、手が止まってんぞ! なに、材料がちげぇ!? おうどの辺だ言ってみろ! すぐ修正すっから!》
ランス03が何やら問題の起きた箇所をチェックしていると、どうやら運び込まれる資材の順番が手違いですれ違っていたようだ。それに気づかず似たような資材を使ってしまったらしい。
《うし、ここの作業は一度中止! 遅番連中に解体させる。切っちまった材木は片しとけ!》
「ヘイ!」
《手の空いてる連中は仕入れのチェック! 番号割り振っとけ!》
《了解!》
《間違えんなよー!》
「……ねぇ、アレってアルシュベイトの親衛隊よね? 最強の三叉槍の一人よね」
「ああ」
「私の間違いじゃなければ、決して建築業の人じゃないわよね……」
「あぁ……」
「……スッゴク似合ってるんだけど」
「何も言うな……帰るぞ」
夕暮れ時であってもやる気満々のランス03に背を向けてエヌラス達は宿へ戻る。
「私、アイドルやるから!」
――帰宅して開口一番、ネプテューヌが腰に手を当てて満面の笑みで宣言した。
なに言ってやがんだぁこの女神様は。お前本当に女神か? アイドルやるとか寝言言ってる、ドッキリかな? お前実は女神とかじゃないだろ。もしかすると俺はまだ夢を見ているのかもしれない――エヌラスはそこまで思考を張り巡らせてから無言でネプテューヌの頬を引っ張った。
ぐにぃ~。柔らかくてハリもあってモチモチとした肌の質感を確かに感じる。
「夢じゃねぇ」
「いひゃいよ!?」
「痛くしてんだよ」
そうか、これは夢じゃないのか。では改めて――
「アイドルってなんだよ!?」
「このタイミングでツッコミ!? あ、意識戻ってよかったよーエヌラス」
「偶像崇拝って邪神復活の儀式にもあったな……」
「あれ私の話ガン無視!? しかも私邪神じゃなくて女神だからね! なんで信じてくれないのさー!」
「いや、お前が女神化出来るならそりゃ信じるけどよ……」
「じゃあ私とエッチすればいいじゃん。そしたら変身してあげるから」
「テメェは何か? 俺を命の危機に瀕させたいかこれ以上」
「だって前回結局エッチ出来なかったもん!」
「前回っていつだよ!?」
「うーん、正確に言えばフォートクラブ生産工場制圧作戦辺りからかなぁ。寝込み襲ってもよかったんだけどユウコが「病院でそんなことしちゃダメぇー!」って顔真っ赤にしながらフライパン振り回して……」
「俺が寝てる間にナニしようとしてたテメェ!?」
そりゃもうあんなことやこんなことだろう。
「だからさー、くんずほぐれつなことしようよーエヌラス」
「なんでお前そんなオープンにエロいんだよ……」
「だってほら、エッチってアレでしょ? 男と女の夜のスポーツ、ベッドの上で大運動会」
「…………ノワール、なんか言ってやれ」
「基本的にバカでお気楽で脳天気だからごめんなさい、エヌラス。助けられそうにないわ」
「このやろう……! もういい分かった、ネプテューヌ」
「なに?」
「テメェ後でベッドでギッシギシに泣かすかんな」
「えー、と……あんまりハードなのは私もちょっと怖いかな……」
「なんでや! なんでそこで急にしおらしくなるんだよああもうかわいいのが腹立つなチクショウが!!」
「ご飯できたよ~」
笑顔で戻ってくるプルルートに一連の流れを説明すると「…………ふぅ~ん」と、間があったものの納得したようだ。
「今夜は私がエヌラス独り占めだもんねー、ぷるるんもノワールも一回休みだよ」
「じゃあねぇ、ねぷちゃん。イイコト教えてあげるねぇ~」
「なになに、エヌラスの弱点?」
「イジメていいの、あたしだけだから」
「――――――――はい」
ドS(寒気)がネプテューヌの顔を青ざめさせる。部屋の温度が下がったような気がしてエアコンを確認するが快適な室温に設定されたままだった。正直、エヌラスも背筋が震えた。