超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
神蝕種、マガツビは巨体に見合わぬ俊敏さで崖を足場にしてゴッドイーターに飛びかかる。ショットガンに切り替えた神機で散弾を顔に撃ち込みながら振り下ろされた爪を避けた。リントがバスターソードを担いで首元に打ち込むが、強固な毛皮によって弾かれる。すぐに距離を取ると、爪のなぎ払いが間髪入れず振り抜かれた。
エヌラスが投擲した偃月刀が額を強打するが、嫌がる素振りを見せるだけでダメージが通った様子はない。
「イタクァ!」
白銀のリボルバーから疾走る六発の魔弾。不規則な弾道を描いてマガツビに弾丸が撃ち込まれるが、黄金の毛並みが波打つと魔力を霧散させた。
「……今の、見たか?」
「ああしっかりと。なんてやつだ、クソッ!」
リントが毒づきながら神機を構え直す。ゴッドイーターのスラグ弾も表面で相殺されたが衝撃までは打ち消せないのか、わずかに身体をよろめかせた。血気に逸る二人に、しかしエヌラスはマガツビの対抗策が無いか思考を巡らせる。
「リント、次に俺が銃を撃ち込んだら同時にアイツをぶん殴れ」
「それで効果があればいいけどな」
スイングアウトさせたマガジンからイジェクションロッドを押し込んで排莢すると、スピードローダーで装填するとイタクァの引き金を引く。六発同時の魔弾がゴッドイーターを狙うマガツビの前脚を集中的に着弾した。
「おぉっ、らぁ!!」
全身で振りかぶった重量任せの叩きつけに、手応えを感じる。苦悶の声を上げて身体をリントにぶつけて振り払うと口腔から淡い光が漏れていた。口から放たれた光弾を、割って入ってゴッドイーターがバックラーを斜めに構えて弾く。
「リントさん、大丈夫ですか!」
「ゲホッ、ああ! 朝飯が出るかと思ったけどな!」
あの巨体だ、身体をぶつけるだけでも相当な威力になる。だが、攻防一体のエネルギー転換は同時に併用出来ないようだ。毛並みも黄金から色褪せた銀色の部分が見られる。どうやらまだ完全に力を取り戻したわけではないらしい。
「最近極東支部周辺でモンスターが減少したのはコイツが原因か……クソッタレ、こんなのが一匹いるだけでゲイムギョウ界の生態系がぶっ壊れるぞ! 増援はまだか、こんなやつといつまでもじゃれ合ってたらこっちが食われちまう!」
《今向かわせています! なんとか持ちこたえてください! ブラックハート様もそちらに向かっています!》
「はっ、そいつはありがてぇな!」
エヌラスが色の抜け落ちた箇所を狙い撃つ。穂波のように揺れると器用に防御して巨大な尾から薄く伸ばしたエネルギー刃を形成した振り回す。切りつけられた岩壁が大きく削り取られていた。
リントのバスターソード、ゴッドイーターのロングソードが色褪せた毛並みに突き立てられる。初めて見せるマガツビのダメージに、二人が手応えを感じるもののすぐに振りほどかれた。
神機に付着した体液と血液を見やる。
「色の薄い部位を狙えば勝算はありそうだな」
「このまま押し切れれば、ですけれど」
マガツビが頭を下げて飛びかかり、エヌラスが下に潜り込んで顎をかち上げた。紫電を交えて、二段蹴りから離脱する。
その場で咆哮すると、衝撃波で身動きが封じられた三人に向けて再びエネルギーブレスを吐き出し、周囲にわずかに残っていた草木から生命力を奪い取った。枯れ落ちていく自然には目もくれず残り少なくなったエネルギーに歯噛みすると、護衛されていたトラックを思い出す。
三人に背を向けて駆け出したマガツビの頭部を強打する、ブラックハートの大剣。黒の守護女神は一撃を与えて離脱するとエヌラスを一瞥してから武器を構え直した。
「あとは私に任せなさい」
「お気遣いどうも女神様。だがアイツは俺達極東支部の連中で片を付けたいんだ」
「そう。なら死なない程度に頑張りなさい、トドメは譲るわ」
かぶりを振ってマガツビが再び苛立ちを込めて吼える。
守護女神を相手にするか迷ったが、この場の不利を認めて戦線から離脱しようと岩壁を足場にして逃げ出した。しかし、再びブラックハートが回り込むと宙に浮いた姿にレイシーズダンスで迎撃する。
「っ……話には聞いていたけれど、まさかシェアエネルギーまで自分の物にするなんてね」
身体の違和感に眉を寄せてマガツビを見下ろしていたブラックハートだが、尻尾の周囲に浮かぶ淡い光球を見てすぐに回避に移った。放物線を描いて通り過ぎていった光球が反転し、背後からプロセッサユニットの翼に直撃する。バランスを崩した姿に尻尾をぶつけて払い落とすとトラックへ目標を変更して駆け出した。
「待ちなさいっ!」
マガツビは一度だけ振り返り、しかし更に速度を上げてトラックへ向かう。その後を追おうとするリントとゴッドイーターに、エヌラスはハンティングホラーを召喚して追跡した。
空と陸から追われ、イタクァの魔弾とブラックハートの攻撃を受けながらもマガツビが荒野を抜けて森林地帯に差し掛かる。木々を抜けて飛び出した姿に、ドバルが背面に背負っていた重装砲を発射すると放物線を描いて大型の砲弾が腹部で弾けた。
《着弾確認!》
空中で姿勢を崩して地面に落下したマガツビが素早く起き上がり、その場から飛び退くと地面にブラックハートの大剣が突き立てられる。毛並みがざわつき、波を打つ。
「トラックは!?」
《既に先行させて極東支部へ!》
「あとはコイツだけね」
咆哮をあげると、周囲の木々がたわみ、一斉に枯れていく。色の薄れた毛並みが再び黄金の輝きを取り戻しつつあったが、ハンティングホラーから飛び出したエヌラスがアクセル・ストライクで横腹を強烈に殴打した。反動で離れながらレイジングジャッジを全弾撃ち込み、イタクァに切り替える。立て続けに攻撃を受けて雀の涙も枯れ果てるほど防御に回していた生命エネルギーを奪われたことに苛立ちを募らせた様子でマガツビが更に吼えた。
「ったく、どんだけしぶといんだよこの野郎は!」
「貴方も人のこと言えないんじゃない」
「アイツもそう思ってるだろうよ!」
口から淡い光を漏らし、上空へ向けて吐き出すとその場から一目散に走り去る。極東支部へ向かうトラックを諦めたのかあらぬ方角へ向かっていた。その追跡に動こうとするブラックハートを引き止めて、エヌラスは左腕を高く掲げて防御魔法を頭上に展開する。
降り注ぐ光弾の豪雨に、歯を食い縛って耐え切ると砂塵が舞った。静まり返る枯れた森林地帯に極東支部オペレーターからの通信が入る。
神蝕種、個体名「マガツビ」は戦場を離脱した──その言葉にドバルはひとまずの脅威が去ったことに重装機関砲を背面の武装パックに背負い直した。
《助かりました、ブラックハート様》
「気にしないで。私も極東支部からの応援要請に応えただけよ。これも女神の仕事のうちだから」
それから少しして、走ってきたリントとゴッドイーターの二人も無事に合流する。
初めて直に見る守護女神の姿に緊張している様子の神機使いに感謝を述べると、一度だけエヌラスに視線を移した。今は大事ないようだが、抱え込んでいる怪我はとても治せるものではない。
「助けてくれてありがとな」
「……別に貴方の為じゃないわよ。さっきも言ったでしょ」
「女神の仕事だからだろ。知ってるよ。それでも助けてくれた事に変わりはないんだからお礼くらい言わせろ」
素っ気ない態度でリントの肩を叩くと、エヌラスは極東支部へ向けて歩き始めた。残りの道中なにが起きるか分からない。ハンティングホラーで先行する背中にドバルも続いた。残されたリントとゴッドイーターも頭を下げるとブラックハートに背を向ける。
「待ちなさい」
「は、はい。なんでしょうか?」
「極東支部が直面している苦境は教会の耳にも届いているわ。当然、私も申請書に目を通してる。ラステイション防衛軍極東支部が抱えている苦難もよく知っているつもりよ」
「そりゃどうも」
「さっきのモンスターも、こうして直接戦ってみて解ったわ。確かに放置出来ない問題ね。私も手を尽くしてみるわ。それまでもう少しだけ待ってもらえないかしら?」
「ホントですか!? やりましたね、リント隊長!」
「ああ。それは、俺達にとって嬉しい話だ。支部長にも伝えておく。アイツの弱点も解ったことだしな。対策を立てて教会側に報告書を作っておくさ。行くぞ」
「あ、はい。あの、ブラックハート様。助けていただいて、本当にありがとうございました! それでは! 待ってください、リント隊長ー!」
深々とお辞儀をすると、ゴッドイーターは足早に立ち去るリントの後を追った。ブラックハートも教会へ向けて飛び立つ。
それから少しして、無事にトラックは極東支部へ積荷を運び終えたという報告と共に支部長から感謝のメールが教会に届けられた。
ラステイション防衛軍極東支部でエヌラスは積荷の運搬を手伝おうとしたが、けが人にそんな危険な真似をさせられないとドバルだけでなくゴッドイーターとリントに言われて暇を持て余す。ぶらぶらと施設を散歩でもしようかと考えていると、突然肩を組まれた。相手は甘いフェイスのハルオミ。
「よぉ、久しぶりだな。ハァド大戦以来か」
「うっす、ハルさん」
「いやお前さんも少し見ない間に男前があがったなぁ」
「はは、そりゃどーも……」
嫌味か皮肉か、それとも単なるお世辞か。どれでもいいが、ハルオミの視線は積荷の伝票とコンテナを見比べて集荷の指示を出しているゴッドイーターに向けられていた。
「華は滴る美しさもあってこそとは思わないか?」
「突然どうした」
「俺は様々な探求を行ってきたが、やはりどれもいまいちだった。しっくりこなかった。美しさのピースがひとつ、なにか足りないものがあったんだ」
「だから突然どうした」
「そう。今の俺のトレンドは……汗だ」
「医療ラボは向こうの方角だったか?」
「おいおいおい、まぁ聞けソウルブラザー」
「その単語は拒絶反応が出るからやめてくれ」
「じゃあ仕方ない。兄弟、どう思う」
「どうって……どう……?」
つい、と顎で指し示された先では汗水を流して働くゴッドイーターの姿。非常に薄着だ。最低限と言ってもいい衣類の着用に健康的な肢体が眩しい。下着の類もつけている様子はなかった。胸も谷間が下から垣間見える。色素の薄い金髪が揺れ動くついでに胸もプルンと。
「……刺激的だな」
「ああ、刺激的だ」
その肌を伝う、水滴。身体を動かすことで上がる新陳代謝による発汗作用。火照る身体を冷ますためにも呼吸が激しくなる。全身を循環する血液が目まぐるしく体内を駆け巡り、血色がよくなっていた。それもまた健康な証拠。大きく露出した肩と腹部。特にへそ周り、腰に着目していた。
とてもフードファイトで鳴らしたとは思えない引き締まった腰のくびれ。キュロットから覗く太もものガーターベルト。
「魅力的だな」
「魅力的だろう?」
「健康的で、健全だと思うが……熱くなるな」
「ああ。熱くこみ上げてくる物があるだろう? やはり女性は眺めて美しいだけではなく、それを引き立てる要素も併せてこそ、本当の魅力が引き出されるんじゃないか」
「ハルさん……」
「エヌラス、お前なら分かってくれるだろう」
拳を無言で突き合わせて、エヌラスは静かに頷いた。理解者のまっすぐな瞳に、ハルオミもまた静かに、ゆっくりとしかし確かに首を縦に振る。心が通じ合った──そう思った瞬間にエヌラスは踵を返す。
「アンタのことは支部長に報告しておくか」
「ちょちょちょおいおいおい待ってくれ本当に待て、ホント待った! エヌラス、おーい待ってくれ! アイツけが人とは思えないくらい足速いな!?」