※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.43 CHAOS HAZARD

 

 

 

 

 ──崩れた世界。昼も夜も定かではない悪夢のような世界。廃墟と瓦礫だらけの次元世界に、シロトラは立っていた。

 彼が見上げている先には、崩れ去った塔がある。朽ち果てて忘れ去られた信仰の証。国を治める女神の居城。

 記憶ログを遡る。──かつて、仲間がいた。沢山の戦友と共に戦場を駆け抜けた。

 信仰を守るために。

 武力によるシェアの争奪。守護女神戦争。モンスター被害。様々な苦難と苦境と困難が人々を苦しめていた激動の時代。だが、それなくしてゲイムギョウ界は繁栄しなかった。

 仲間を失った。戦友と時には袂を分かつような時もあった。だが、駆け抜ける以外に手段がなかった。

 ……戦闘用として開発されたプラネテューヌ教会機械騎士団。機械騎士──。守護女神を■■ために設計され、用意された──俺は、そのはずだ。

 だが、ログにノイズが走る。

 ()は、何のために戦い続けてきたのだろう。

 滅び去った世界に佇み、答えは出ない。

 

 足音に振り返る。腰に手を当てて呆れた様子でこちらを見つめている少女が一人。

 剣を地面に突き刺して、敬礼する。それに片手を挙げて応え、楽にした。

 

「やれやれ。守護女神を逃すどころか……あの魔人たちは散り散りか。困ったな」

《……力不足を痛み入るばかりです》

「あぁいいよ。魔人に比べてキミはただのロボットなんだから。期待はしていなかったし」

《しかし、これより如何されますか》

「そうだなぁ……面白い拾い物をしてくれたようだし、少し俺もそれで遊んでみようかな」

《自分は》

「現状、待機していてくれればそれでいいよ。次の指示があるまでは好きにしてるといい」

《感謝いたします》

 会釈して、剣を手にすると崩れた塔の中へシロトラは入っていく。その背中を見つめていた少女の目が細められる。不満を抱えたように舌打ちを漏らした。

 

「やはり時代遅れの役立たずか……まぁいいさ。邪神からの贈り物、使わない手はない」

 ゼロクリスタルはこちらの手元にはない。だが、その代わりにクロギアの副産物と言える興味深い物を置いていってくれた。

 

「さぁて……それじゃあ、女神戦争の開幕だ──」

 

 

 

 ……ラステイション教会で仕事をするノワールとユニ。教祖として国家運営に携わる神宮寺ケイはスピカとカルネの二人を連れてビジネスに忙しい。

 エヌラスはその補佐に立ち回り、情報収集ならびに資料整理。右腕の感覚は昨日までよりもまともになりつつあった。

 ラステイション教会職員から手渡される書類を受け取り、目を通しておく。

 

「エヌラスさん。お久しぶりです」

「ん? ……えーと、どちら様だっけ……」

「私です。ナイルスのオペレーターの」

「ああ、フィオナ。久しぶり。もうひとりは?」

「スミさんでしたら、まだオフィスです。私はちょっと」

「……アイツ、どうなんだ?」

「……彼はもう、戦えません」

 ナイルスの身体は、もう長くない。機体の性能を限界値以上に発揮するためにリミッターを解除した状態で交戦した結果だ。当然とも言える。しかし、フィオナの顔色は浮かなかった。もう彼が搭乗できる機体も無い。アークは事実上の解散と言えた。

 

「今は、私とスミさんがこうして教会に協力しているので、何とか生活は出来ています。女神様には感謝の言葉しかありません」

「そうか。大変だな……」

「貴方の方こそ。その怪我、大変じゃありません?」

「生活に不便してるよ、暇があったら手を貸してくれると嬉しい」

「その時は、スミさんにお任せします。私は彼の看病で忙しいので」

 丁重にお断りされてしまったが、エヌラスは特に気にせずフィオナと別れる。しかし、ナイルスの戦線離脱と聞いて、万が一の戦力が欠けた事に肩を落とした。

 

「エヌラスさん、頼まれていた「禁域の森」近辺の地図と過去の資料です」

「ああ。ありがとう、助かる」

「しかし何故ヤーナム・シティの事を突然調べると?」

「気になってな。あそこ、未開の土地と聞いたから」

「なるほど。興味本位で近寄るような場所ではありませんが、ブラックハート様のためであれば口は挟みません」

「助かる。何かわかったことがあれば報告しておく」

「なにか御用があれば、また。それでは」

 通常の個体よりも凶暴凶悪な成長を遂げた変異種。それが接触禁止種などといったモンスターに指定される。これらの原因は判明しておらず、現在もゲイムギョウ界では調査が進められていた。通常個体の色違いであることが多く、外見で判断されることが多い。中には外見が一緒でありながらも凶悪な個体として成長したモンスターも存在する。

 

「…………」

 ヤーナム・シティがあるとされる「禁域の森」ではそういったモンスターが大量発生しているようだ。しかし、それならばそこの住民達はどうしているのだろうか? 夜間にのみ姿が見かけられるというのも、モンスターの習性を利用しているのかもしれない。

 ラステイションの資料を読み漁り、必要な情報を整理する。

 曰く、獣狩と呼ばれるのはその地域独自の狩人の事を指すようだ。ルウィーのハンター業のようなものらしい。

 「獣狩りの夜」という儀式のような風習があるようだ。月が出ている夜にのみ狩りを行うというものらしいが、どういった物なのかまでは詳しく分からない。だが過去に接触禁止種を大量に討伐した事があることから、ヤーナム・シティの狩人は練度が高いことが窺える。

 

「……うーん」

 地図も不明瞭な点が多かった。現地調査不足から得られる情報量で何とか補おうとするが、森林地帯というのは地理の把握が生死を別つ分水嶺でもある。現地に赴かないことには始まらない。

 エヌラスは「禁域の森」周辺にチェックを入れてD-Phoneで写真を撮り、地図アプリにも入れておいた。隙を生じぬ二段構え、備えあれば憂いなし。うっかり携帯でも壊さない限り、これで道案内は大丈夫だ。

 右腕に魔力を流して動かしてみるが、多少ぎこちなさは薄れている。机に向かっていたエヌラスにコーヒーが差し出された。

 顔を上げると、カルネが満面の笑みを浮かべている。

 

「どうぞ、ご主人様。淹れたてホカホカです」

「サンキュ。そっちの仕事は?」

「今戻ったばかりで、これからケイ様に昼食のご用意を」

「……このコーヒーは?」

「ケイ様にご用意していたんですが、ちょっと失敗してしまいまして。てへ☆」

「ははは、このおちゃめさんっ」

「あああぁぁぁ……!!」

 頭を握りつぶす勢いでアイアンクロー。軋むこめかみをさすりながらカルネが離れた。左手でカップを持ち上げて口に運ぶ。

 

「う~、やっぱりご主人様からの躾は効きますね」

「躾ける側にもなってみろお前。何回やっても言うこと聞かねぇし」

「何を言っているんですか。躾けられたくて躾けてもらってるんです、それの何が悪いって言うんですかご主人様」

「ははは、このおばかさんめ」

「わううぅぅぅ……!?」

 下顎を砕かんばかりの腕力で締め上げながらエヌラスが席を立った。

 

「ノワール様達もそろそろ戻ってこられる頃合いですので、ご主人様もご一緒にいかがです?」

「そうだな。そうするか」

「……ふふん」

「なんで得意げな顔をするんだ」

「いやぁ、エヌラス様が機嫌が良いと私も嬉しくなっちゃうので。あれですね、飼い犬は飼い主に似るアレです。シンパシー的な」

「なんかそれは嫌だな」

「ひどぅいですー、そんなぁー」

 そんな普段どおりの会話に、郷愁の念を抱きながらも、隣にいるカルネはもう自分の知っているカルネではない現実に胸が苦しくなる。だが、そうであったとしてもこうして笑顔を向けてくれるのは素直に嬉しかった。

 銀の髪を撫でると、犬の尻尾のようにポニーテールを揺らす。

 

「なんです?」

「……いや、コーヒーごちそうさま」

「礼には及ばず。メイドですから」

 手を離すと、エヌラスの右手でD-Phoneが震えていた。カルネが指を差して着信に気づく。画面には『ロムラム』の文字。着信を取ると、激しい戦闘音が聞こえてきた。一気に緊張感が高まる。

 

「もしもし、エヌラスだ。どうした」

《エヌラスおにいちゃん! お願い、お姉ちゃんを助けてほしいの!》

「何が起きてるんだ。ブランは無事なのか?」

 はやる鼓動を落ち着かせながら、二人に何が起きているのかを確認しているとノワール達も教会へ戻ってきた。

 

《お姉ちゃんが……ブランお姉ちゃんが戦ってて、でもわたし達じゃ力になれなくて……》

「落ち着いて話してくれ。俺もできるだけすぐ向かう。何があった?」

《えっと、お姉ちゃんが──お姉ちゃんと、戦ってて》

「……? えっと、それはつまり……どういう」

《んもー! だから! ブランお姉ちゃんが、ブランお姉ちゃんと、戦ってるの!》

「ハァ!? と、とにかくそっちに向かう! 待ってろ!」

 通話を切ってロムとラムからの情報を整理すると……ブランがブランと戦っている、という不可解な状況らしい。考えられる事態としては、ブランの偽物。女神を陥れようとする罠である可能性も考えられた。

 

「エヌラス、今の電話」

「ロムとラムからだ。ルウィーで問題発生らしい、助けにいかねぇと」

「でも」

「この時期、女神が国を空けるわけにはいかないんだろ。ルウィーの女神を他の女神が助けたら、それこそ問題沙汰だ。そんなときのために、俺がいるんだろうが」

「貴方が勝手にルウィーに飛んでいったらラステイションの問題になるのだけれど?」

「そこはうまくやっておいてくれ」

「はぁ……そうね。私がブランを助けに行けば問題だし、ルウィーで問題発生しているのなら、それも放ってはおけないし。いいわ、いってらっしゃい」

「助かる! 夕飯──までには、帰ってこれたらいいなとか思う」

「期待しないで待ってるわよ」

 エヌラスがラステイション教会から飛び出し、ハンティングホラーを召喚するとルウィーへ向けてアクセルを踏む。車体が宙に浮き、そのまま走り始めた。遠ざかるエンジン音を見送って、ノワールは背を向ける。ユニは不安そうにしていたが、背中を押されて歩き始めた。

 

「お姉ちゃん、いいの?」

「ええ。いいのよ。ちゃんと帰ってきてくれるわ。さ、それよりも仕事が増えたんだからお昼休憩も程々に、片付けるわよユニ」

「うん、お姉ちゃんが言うならアタシも頑張るね」

 ──しかし。

 ルウィーで起きた問題が、ノワールには少しだけ気がかりだった。

 

(……。確かにルウィーは歴史ある国だけど、ブランがこの時期に遅れを取るなんて早々ないはずよね。転換期でシェアが下がっているのは事実だけれど、それでも戦闘に支障は出てないもの。女神が苦戦する程の相手? 対女神専用兵器、はこっちで工場を押さえたし。魔人、もソラが言うには動けないそうだし……邪神なら、なにかその兆候があるはずよね? 一体なにが起きてるのかしら……)

 胸に引っかかる違和感に、しかし頭を振って自分が直面している問題に切り替える。

 

 

 

 ──ルウィー上空で激しく火花を散らして、弾けるように離れ合う人影があった。

 青空に浮かぶ白の守護女神、ホワイトハート。身の丈を超える戦斧を携えて憎らしげに相手を睨みつけていた。

 戦斧の矛先を突きつける相手もまた──ホワイトハートに酷似している。跳ねた水色の髪。なびくもみあげに、手にしている戦斧までもが鏡写しのように。だが、身を包むプロセッサユニットの色は黒く汚れていた。胸元に浮かぶ紋様が淡く輝く。

 

「はっ、こっちのホワイトハートもやるじゃねぇか! 流石はわたしと同じルウィーの守護女神ってだけある! 褒めてやるよ!」

「ッ、テメェ何者だ! わたしと同じホワイトハートを騙る偽物だってんなら、容赦しねぇ!」

「……こんなことを考えたことはないか? どっちのルウィーが正しいんだろうって」

「あぁ!? なに言ってやがる!」

「どっちのホワイトハートが強いんだろうって、そう考えたことはねぇかって聞いてんだ。答えろよ、ルウィーの守護女神!」

 口角を吊り上げながら挑発的な笑みを浮かべる黒いホワイトハートの問に、ますます眉をつり上げる。

 

「なんでだろうな? わたしはそんな事今まで考えたこと一度もなかったよ。でもな、ある時ふっと思っちまったんだ……“どっちの”ホワイトハートが強いんだろうなって! そう考えたら我慢できなくなった。ルウィーを守る女神同士が戦ったら、どっちが勝つんだろうなってよ!」

「ふっざけんじゃねぇ!」

「元々女神同士、武力でシェアを争奪してたって言うなら、何もおかしくねぇよなぁ!!」

 黒いホワイトハートを包む、薄黒い霧に、どうしようもなく不快感が押し寄せてきた。

 

「口がきけなくなる前に、もう一度だけ聞いてやる! テメェは誰だ!!」

「さっきも言ったはずだぜ。──わたしは、ルウィーの守護女神。ホワイトハートだ」

「そうかよ……頭がどうかしてんなら、記憶がぶっ飛ぶほどぶっ叩いてぶっ潰してやるぜ!」

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