超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
何事もなかったかといえばそうでもなく、夕飯は賑やかなものである。
「エヌラス、ドレッシング取ってもらえる?」
「手元にあるじゃねぇか」
「私はそっちのがいいの」
「わかったよ。ほれ」
ノワールにドレッシングを差し出して、エヌラスは箸を動かす。今日の食事はネプギアとプルルートの二人が頑張ってくれた。
「おいしい~?」
「うん? そりゃな。寝たきりで点滴しかまともに栄養補給出来てねぇんだし」
「でもお腹の方ってそんな大量の食事入れて大丈夫なんですか?」
「人一倍くたばりにくい俺の胃袋はアルシュベイトを唸らせる鋼の胃袋だ、心配すんな」
「そうね。ネズミ丸焼きにして食っても平気なんでしょ?」
「だから食事中にそれを言うんじゃねぇよ!? 別なタイミングあるよな!?」
「エヌラス、ネズミ美味しかった? 私食べたことないんだけど」
「ネズミ食って餓えを凌ぐ女神とか俺絶対信仰しねぇからな!?」
間違っても絶対見たくない。サバイバル生活しているのならばまだ分かるが、文化的な生活圏でネズミを焼いて食う生活はしてほしくなかった。――ネズミを食った国王がそこにいるのだが。
ひと通り食事を終えて、後片付けはエヌラスがやった。何もせずにはいられないらしい。隣にはネプテューヌ。
「ねーエヌラス」
「なんだよ」
「お風呂、どうしよっか?」
「先に入ってろよ」
「えー、一緒に入ろうよ」
「勘弁しろよ……ほれ、ネプギアと一緒に入って来い」
「じゃあそうする! ネプギアー、お風呂入ろー! エヌラスは一緒じゃないけどいいよねー」
「ちょっと待て、なんでそこで俺の名前出した!?」
止めるまでもなく騒がしくネプテューヌはネプギアと一緒に浴室へと消えていた。なんというか、あぁも台風のようなテンションで四六時中いるのだろうか。エヌラスはその底無しの体力に付き合わされるのかと思うと深々と息を吐いて――喉の奥、腹の奥底から沸き上がる熱い感触を抑えこんだ。なるべく、努めて声に出さないように押し殺して、食器を退かすなり吐血する。
「――クソ、ままならねぇな」
魔術回路の不調に加えて、ムルフェストの瘴気を焼き払うのに血管ごと焼いた。その対価だ。それでもまだ身体の奥底に溜まっていたものが今でもどこかで悪さをしている。思いの外、切羽詰まっている状況らしい。気づかれない内に水道で流しておく。
「エヌラス、水もらえないかしら」
「今洗い物終わったばっかだっつーの」
コップに水を注いで、ノワールに手渡し――指先の感覚が狂ってコップを落とした。割れなかったが、横倒しになってもう一度水を注ぐはめになる。
「……大丈夫なの、本当に?」
「酒とクスリと女がなけりゃダメな男でね」
もちろんノワールはそれが何なのか知っていた。生きていくために必要なのではなく、戦うために必要なものだ。
「強がっても別にカッコよくないわよ。無理な時は無理ってちゃんと言いなさいよ」
「わかってるさ――ん、んん!」
喉に絡む痰が血を交えているのが分かる。エヌラスはそれを飲み込もうとして――
「もう、ちゃんと私の話聞いてるの“お兄ちゃん”」
「ゴッハゴブッフゲホァッブァ――!?」
盛大に吐血した。辛うじて流しを向いていたからよかったものの、フローリングが血の海になるところだった。不覚! あまりにも不意打ち! 実際ヤバイ! エヌラスは洒落にならない量の血液を口から吐き出す。夕飯も胃袋から逆流しそうになるが、それを辛うじて押し留めて口元を拭った。ノワールもまさかそんな反応されるとは思っていなかったのか盛大に水を噴いて、鼻に入ったのかむせている。
「おま、お前、なんだよチクショウ反則だよ……!」
「ケホッ、ケホッ、ちょちょっと!? そんなに出して大丈夫なの!?」
「おいばかやめろよ字面だけで見たら勘違い待ったなしだろうが!」
案の定、プルルートが覗きこんで首を傾げていた。
「エヌラス~、ノワールちゃんと一発しちゃった~?」
「してないから! してませんから!」
「台所でまでヤらねぇよ! 裸エプロンなら考えものだけどな!」
「は、ハァ!? そういうの期待してるわけ!? 私に!?」
「ちげぇぇぇぇぇ!! ――ゴフッ、ゲッホゲホガハッ!」
シャレとか冗談ではなく約一名、ツッコミで出血多量に陥る。鼻血まで出てきた。
「それでぇ、一体どうしちゃったのぉ二人共~」
「ほら、この前プルルートが言ってたでしょ。エヌラスのこと「お兄ちゃん♪」って呼んでみたらって。それで試したら……この有り様よ。まさか血を吐くほど悶えるとは思わなかったわ」
「お兄ちゃ~ん♪」
「ゲホァ……! テメ、テメェら……俺が妹を殺されてるの知ってて言ってんのか……!?」
『――――え?』
「呼び方が「お兄ちゃん」じゃなくて「兄さま」だったらゼッテェ許さねぇところだったが、それはそれで冗談と受け取っておくにしても、だ……今は辞めろ。文字通り萌え死ぬ」
死因が「萌え」では浮かばれない。むしろ萌えの怨霊と化してこの世界を恨み倒す。そしていつかは世の中のお兄ちゃんを支配して俺が世界中の妹を――ってこれ完全にロリコンじゃねぇかふざけんな!!! エヌラスが咳き込み、真っ赤に染まった口を水ですすいで飲み込んだ。
「……それって、やっぱり仮面の神格者に?」
「あの野郎の話題出すな」
目に見えて不機嫌さを隠そうともしない。
「ごめんなさい、エヌラス。私……」
「いいよ、別に。……正直かわいかったしな」
「ヘッ!?」
「なんでもねェ……プルルートもな。そういうのは……まぁ、なんだ。程々にしてくれ」
「ぷる~ん……」
眩暈を覚え、手を着こうとして膝から崩れる。倒れるのだけは防ごうと踏ん張ったのがいけなかった――身体は前のめりに倒れ、ノワールの胸元へ頭を埋める形となってしまった。
「ひゃン!?」
「――――、スマン!」
白く、細い肩に手を置いてすぐさま顔を離す。顔を赤くして涙目で睨んでくるが、無理もない。相手からすれば突然胸に頭を突っ込ませた状態だ。ビンタの一発飛んできてもエヌラスは文句が言えない。衝撃に備えていたが、ノワールは胸元に手を置いたまま心配そうに見つめていた。
「……ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「ちと眩暈しただけだ。大丈夫だよ」
「そんな状態で本当にネプテューヌとエッチするつもり?」
「据え膳食わぬは男の恥、ってな。男なんて面子で飯食ってるようなもんだ。断るわけにもいかねぇだろうがよ」
「男って、ホントバカね」
「男に生まれた俺も、正直そう思ってる」
浴室からはまだネプテューヌとネプギアの楽しそうな声が聞こえてくる。
「輸血とか、いいの?」
「心配いらねぇよ。その気になりゃ自前でどうにかできるしな」
「どうにかって……」
「どうするのぉ~?」
「……ノワール、プルルート。悪いが食費がかさむ」
「それぐらいでいいなら幾らでも食えばいいじゃない」
「言ったな? ――冷蔵庫の中身ありったけ持ってこい」
「えっ!?」
「早い話が、だ。食った飯を即行で消化して体内に取り込む」
トントン、と。自分の左胸――“銀鍵守護器官”を叩く。
「経絡秘孔って知ってるか。まぁかいつまむと“ツボ”ってことなんだが――俺の魔術理論はそいつに準じてる。回路がイカれるってことは氣の巡りが悪い状況でもある。で、魔術使うのにも氣を使うのにも資本は身体だ。身体機能の矯正と調整、ポテンシャル向上の為に教えこまれたのが――早い話が大飯食らいによる即行消化」
それこそ、エヌラスが“穀潰し”と言われる由縁だ。穀潰しの“穀”とは穀物のこと。
過去の修行において、師弟共々にその飯をひたすらに食った結果、店が潰れた。
「燃費悪いから俺は滅多にやらん。基本的に金持ってねぇしな」
「え~っと、つまりそれって……」
「大食らいって、ことぉ~?」
「……働きもしないで大飯食らいで生きててすいませんでした……! 人一倍釜の飯かっ食らって生まれてきてごめんなさい……!」
「そんな落ち込まなくてもいいじゃない。もちろん働いて返してもらうわよ」
「最悪、生でもイケる」
「えっ、何? ゴムの話?」
「テメェはとんでもねぇタイミングで戻ってくるんじゃねぇよネプテューぬぅおわぁぁぁぁ!? なんでお前裸なんだぁぁぁぁ!!」
「だってこの後どうせ汚れるし別に服着替えなくてもいいかなーって!」
「ちったぁ隠せよこの痴女!」
「家の中だったら別にいいじゃん?」
「逆に清々しいなこの野郎は」
「それにほら、誰に見られるってわけでもないんだしさ」
「いや、現に俺に見られてるわけだが……」
「別に恥ずかしくないよ?」
「はは、引っ叩きてぇコイツ……」
全裸でバスタオルすら巻く気のないネプテューヌにノワールはなぜか顔を赤くしてそっぽを向いていた。プルルートは相変わらずのほんわかとした表情で笑っている。
「じゃあ~、楽しんできてねぇ~ねぷちゃん」
「うん! ほら、エヌラスこっちだよー!」
「分かったから手を引っ張るんじゃねぇ!」
ネプテューヌに手を引かれ、それを嫌がったエヌラスが抱き抱えて階段を登っていった。
「……ま、あれはあれでお似合いよね」
「そうだよねぇ~」