超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
騒動が収まったことから事情聴取などが始まるが、エヌラスはニトクリスの鏡で別次元のブランを隠してルウィーの教会まで運び出した。現れたもうひとりのホワイトハートに関しても、転換期に乗じて国家転覆を目論む組織が用意した偽物の女神、ということで処理させる。
目が覚めるまでの間、ブランの寝室で寝かせておく。
「……まさか、プルルートのいる次元のわたしだったなんて、驚きだわ」
「想定してたが、俺も驚いてる」
「どうしてわかったの?」
「俺のことを知っていたからな。過去、あちこちの次元世界を飛び回って邪神狩りしてたが……お前たち守護女神と出会った事がない」
仕損じた事もあった、と苦い顔をして付け加えた。
「しかし、あの女神化した姿。いつもと様子が違ったな」
「ええ。それに、手強かったわ」
「向こうで何が起きてるか見てこないとな。ノワールに連絡しとくか」
ポケットに手を入れて、D-Phoneを取り出すとロムとラムにしがみつかれて携帯を落としてしまう。それを拾い上げるのは、メガネを掛けた教師のような女性だった。
ルウィー教祖を務める西沢ミナが微笑みながら携帯を差し出す。
「どうぞ」
「ああ、これはどうも。世話になってます」
「いえ。こちらこそハァド大戦の折はどうもありがとうございます。あなたのおかげでルウィーの教会も街も無事でしたので。今回の件も」
「やんごとなき事情で俺が動かなきゃならないようで」
「そうですね。転換期を守護女神抜きで乗り越えるのはとても厳しい状況となりますし。そちらの怪我は大丈夫なのですか?」
左手で画面を操作するエヌラスが右手を振ってみせる。なんでもない、とでも言うように。
「大げさに包帯巻いてるが、見苦しいって理由。ちょっと電話してくる」
「ええ、いってらっしゃい。ロム、ラム。エヌラスから離れなさい」
「はーい」
「うん……エヌラスおにいちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
携帯を耳に当ててテラスに出る後ろ姿を見送り、ブランは深くため息を吐く。ミナも今回の件には頭を痛めているようだ。
「容態は問題なさそう。ただ、あの力は一体……普通の女神化とは状態が変わっていたようだし」
「そうね……本人が起きたら聞いてみるわ」
──何度かコール音が続き、ようやくノワールと通話が開始される。
ルウィーでの事件はひとまず解決したこと。偽物の女神、もとい別次元のブランが襲撃してきた犯人であること。包み隠さずエヌラスはノワールに報告した。
「──ってことだ」
《なるほど。それで、貴方の見解ではどうなの?》
「俺の推測だが、向こうで起きた事件の残滓が悪さしてるんじゃないかって思ってる。直接様子を見に行かないとなんとも言えないな、これ以上は」
《……すぐ行くの?》
「いや、向こうのブランが目を覚まして話を聞いてから動くつもりだ。だから、悪いなノワール。すぐ戻れそうにない」
《別に気にしてないわよ。夕飯までに戻ってこないのは何となく予感してたし》
「はは、信用されてんだかされてねーんだか……」
《……向こうのブラン、ということは。プルルートのいる次元?》
「そうなるな」
《貴方一人で大丈夫なの?》
「いや、今回ばかりは助っ人を連れて行く」
《今回はやけに素直なのね》
「……ま、色々事情があるんだよ。それじゃ、切るぞ」
《言わなくてもわかってると思うけど》
「ちゃんと帰ってくるよ。心配すんな──エキシビジョンマッチまでには帰ってくるさ」
《……期待しないで待ってるわ。それじゃあまた》
ノワールとの通話を終えて、別な番号に掛ける。
《もしもし、僕だけど? なにか?》
「ソラ。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
《手短に。クロギアちゃんならまだこっちで安静にしてるよ、ゲハバーンについては現在解析中。それが聞きたいんなら力になれないよ、ごめん》
「いや……俺まだ何も言ってないんだが」
《じゃあなんだよ、忙しいんだってば》
「パンドラ・イルバードを覚えてるか?」
《もちろん。僕が君に加担した数少ない犯罪の一つだからね。それが?》
「どうも、まだなんか悪さをしているらしい」
《言っておくけれど、絶対に手伝わないからな》
そうだろうと思っていた。だが、聞きたいことはそれでもない。
「アイツの模倣体が居ただろう? お前アレの破片、どうした」
《破片? ああ……最終的に、僕が解析終わったあとは各国の女神様が管理するとかで向こうに置いたままだけど──ちょっと待ってくれ。まさかそれが原因で?》
「多分な」
エヌラスはソラに、今起きた事と推測を交ぜて話した。しばらく考え込んでいたのか、唸っている。
《……、確かに可能性はある。だけどあれは活動休止したし、封印……とまではいかないが何の効力も無いはずだ。何かしらの外的要因が作用しなければ起動すら出来ない》
「詳細は向こうに行ってから調べる。とりあえずそれだけ伝えておこうと思ってな」
《分かった。僕の方もなにか進展があれば報せるよ。今回は一人で行くつもり?》
「……ユウコに助っ人を頼もうと思ってる」
《そりゃ心強いことで。連絡は自分でしてくれよ、さっきも言ったが僕はクソ忙しいんだ》
「頑張れよ、じゃあな」
通話を切って、携帯をポケットにしまう。ルウィーの冷えた空気に当たっていると、くしゃみが出た。
風邪を引く前に中へ戻ると、再びロムとラムに抱きつかれる。屈んで二人の身体を持ち上げるとはしゃいでいた。
「わーい、たかーい!」
「わぁ……」
「ちょっと、二人とも。エヌラスだって一応は怪我人なのよ」
「すいません、ロムとラムの二人が……」
「あぁいや、気にしなくていい。好きでやってることだから」
両手に二人を抱えて、エヌラスは応接室に案内される。
ソファーに腰を下ろした姿に、ミナはメガネを直しながらじっと見つめていた。
「……少し、失礼させていただきますね」
「え? なにか?」
一言断りを入れると、エヌラスの右腕に触れて興味深そうな視線を向けている。
「外付けの魔術回路……だけじゃないですね。魔力の充填を早める為の配置、これは……神経系に沿った配置……まるで機械のように精密な……」
「……」
「──魔力を行使するために自分の肉体を改造しているんですね。ですが、それはルウィーにおいては違法行為です。倫理に反します。それもこれは、度を越していますね」
「どういうこと……?」
「彼の右腕は、魔力が神経伝達の代わりを果たしています。機械の電力と同じように。その右手、感覚がないんじゃないでしょうか?」
「……!」
「さすが、魔法の国の教祖様。ご明察の通り、ただ生憎と俺の魔力は無尽蔵だ。問題ない」
その言葉に、ミナは悲しそうな顔をした。そこまでして戦いに身を投じる理由があるのなら、あえて問わない。それほどの使命を追っているのだろうから。だが、魔術とは論理的に構築されるが倫理を犯してはならない。
「自分の身を滅ぼすことになりますよ」
「知ってる、嫌というほど頭で理解してるつもりだ」
「……あなたは、ルウィーの恩人です。出来ることなら、安静にしてください」
「女神は俺の命の恩人なんだ。出来ることなら力になってやりたい」
休んでいる暇などない、とでも言いたげにエヌラスは即答した。その意思の強さを折ることなど不可能だ。ミナは早々に諦めることにしたが、それでも気休め程度になればと杖を取り出す。
「少しだけじっとしててください」
「うん?」
「神経系に沿っての配置なら……この辺り」
魔法円を小さく描き、意識を集中させる。指先が肩に触れて、それからエヌラスは肩に清水でも掛けられたような冷たさに眉を寄せた。しかし、すぐにそれが身体に染み渡る。
「少しは楽になりましたか?」
「ああ……」
「これでも魔法の先生なんですよ。技術だけなら誰にも負けません──と、言いたいところなんですけれど、実は最近少しだけ悩んでいます」
「そうなのか?」
「はい。貴方の魔法の師匠を見ていると、どうにも不安に駆られて」
「そのままの貴方でいてください、ホントマジで」
あんな常識外の怪物にならないで。良識と常識をわきまえたルウィーの心優しい教祖様のままでいてくれ。エヌラスは本気で思った。そうであり続けてくれと全力で願いを込めて肩に手を置いていた。
ミナの顔が赤くなる。
「あ、あの……私こういうの慣れていないので……手を離していただいていいでしょうか?」
「すいません……つい……」
「……」
「……」
「ちょっと、微妙にラブコメ臭を漂わせないで。わたし達が居づらくなるから」
ブランに怒られた。ロムとラムも頬を膨らませている。
「あー、はは……そうだ。もうひとりの様子を見にいってくる」
「エヌラスおにいちゃんが逃げたー!」
「三十六計逃げるに如かず! ふあははは!」
「怪我人とは思えない逃げ足の速さね……」
応接室から素早く走り去るエヌラスだが、あれでも怪我人に変わりはない。ミナが触れた限りでは、全身に施術された魔術回路の中でも右腕だけが過剰なまでに装飾されていた。あれでは人間としての形を保つのが限度のはず。
──あるいは、人としての形を保つためにそれほどの技術が必要だったのかもしれない。
「────、……?」
痛む身体に、ブランが目を覚ました。ゆっくりと眼を開けて、見慣れない天井と内装に上体を起こすが、胸元の痛みにすぐにベッドに身体を預ける。
(ここは……確か)
自分のいる次元とは別の、ルウィーの教会。どうして此処に自分がいるのか記憶を辿ろうとして頭痛に苛まれる。
扉が開かれ、室内に入ってきた相手の顔を見て深く息を吐いた。
「目が覚めたのか」
「……ええ。おかげさまで。此処は?」
「ルウィーの教会、こっちのブランの寝室だ」
「そう……」
「自分がどうして此処にいるか、覚えているか」
「ぼんやりと、だけど……」
「無理しない範囲で構わない。話してくれるか?」
顔をしかめて身体を起こすブランに手を貸してベッドに腰を下ろす。
「確か……わたし、いつも通りに女神の仕事をしてて……それから、異変が起きて」
「異変?」
「モンスターの、活性化……だったかしら。その辺りが少し曖昧……霧を纏ったモンスターを倒して、戻ってから……そこからよく覚えてないわ」
「……そうか。こっちにどうやって来たのかも覚えてない?」
「多分、ラステイションとルウィーの近くにあるタワーからだと思うわ。まだゲートが開きっぱなしのはずだもの」
「いい加減誰か直せよ……」
「誰も近づかないんだから仕方ないでしょ……」
むしろよく今まで平気だったな。
「……向こうは、大丈夫なのか?」
「ええ。あれから特になんの異変もなかったわ」
「ならいいんだ」
「……それだけ?」
「ああ。他に聞くようなことはない。現地に行かなきゃ話は始まらないしな」
「ねぇ……わたし、なんでこっちのルウィーにいるのか教えてもらえないかしら?」
エヌラスは何かを言いかけて、口を閉ざした。しかし、ブランの目は察している。自分がなぜ次元を越えてまでルウィーに倒れていたのかを。
「……女神が、世を乱すなんてことあっちゃならないよな。後味悪ぃもんな、そんなの」
「────」
「そんな顔するなよ。何とかするし、なんとかなる」
自分が傷つかないように、言葉を選んでくれたのだろう。だが、“なんとかする”という言葉にブランは自分の胸元に手を当てる。
きっと、あの時も同じように──何とかしなければならなかったんだろう。
どこまでも不器用で。自分が傷つくことなんて厭わずに。
「そんな怪我で、なんとかできると思っているの?」
「バカ言うな。俺が世界一頼りにしてる助っ人も連れて行く」
まずは向こうの情勢を確認してから動いても遅くはないだろう。
「身体、ちゃんと休めといてくれよ?」
「……エヌラス」
「なんだ」
「……その──ありがと」
「別に。礼が聞きたかったわけじゃない」
「自分勝手なのね」
「ああ。俺が好き勝手やってるだけだ」