超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
翌朝。ユウコが用意した朝食を食べてから、エヌラス達はルウィー教会を後にしてラステイションへ向かって移動を始める。
大臣からの話によれば、ブラックハートとグリーンハートの戦闘は日に日に激化しているとのことらしい。最近では国内の統治に取り掛かるのも昼までの話で、日が暮れるまで戦闘に明け暮れていると。この調子では寝食を忘れて一昼夜、四六時中戦闘するのも時間の問題だ。
エヌラスとブラン、ユウコの三人がギルドの前を通り過ぎると、これからクエストに出ようとしていた鉄拳ちゃんが出てくる。
「あ、昨日の……」
「ん? ああ、鉄拳か。昨日はラステイションの地図、ありがとうな。早速活用することになって助かった」
「いえいえ。私に出来るのはこれくらいです」
「そっちはこれからクエストか?」
「はい。でも、プラネテューヌ方面なのでエヌラスさん達とは逆方向になるので……残念です」
「気にしなくていい。ついでで良いんだ、向こうの様子も報せてくれると助かる」
「ラステイションから、プラネテューヌに向かうんですか?」
「まぁそんなところだ」
ついでにリーンボックスも。ゲイムギョウ界堂々巡りの旅になる。移動手段は面倒なのでハンティングホラーで突っ走る予定だ。
鉄拳ちゃんが拳を突き出しながら、笑みを見せる。
「今度よかったら、手合わせお願いしてもいいですか?」
「俺で良ければ。怪我人だからお手柔らかにな」
「はい。それじゃ」
エヌラスは手を振って見送り、ラステイションを目指して移動を始めた。
「なーにが、怪我人で良ければだよぅ。キミは怪我しててデフォルトでしょうが」
「程度って物があるだろ。それより、ブランは大丈夫か?」
「ええ。おかげさまで、だいぶ身体の調子も良くなったわ」
「ならよかった。道中でウイルス種と遭遇したら俺に任せて下がってくれ」
「どうして? あの結晶を破壊したのならわたしが倒しても問題ないはずよ」
「再発しないとも限らないからな。感染源を取り除いただけで、発症の原因がウイルス種であることに変わりはない」
胸元の紋様もまだ消えていない以上、また暴走状態にならないとも限らない。その言葉にブランが渋々と頷く。
「それじゃあ、あなたに任せるわね。ユウコは大丈夫なの?」
「んー、私も一応神格者だから下手に触れない方がいいかな」
「……ならエヌラスに任せるしかなさそうね。でも貴方大丈夫なの? 暴走したりしない?」
「ねじ伏せる」
「力づくでどうにかできるものかしら……」
「なんていうかな、かなり強引な手段になるんだが。全部魔力に還元する」
シェアエネルギーも含めて全部銀鍵守護器官で燃焼させることで限界を超えた出力を放つことができなくはない。あまり推奨されないが。制御できない魔力の暴走に等しいからだ。大魔導師からも固く禁じられている。
指向性を持たせない魔力の暴発、それが無限の魔力貯蔵庫から発生したものだとすればそれこそ次元世界ひとつ丸ごと飲み込んでもおかしくない。つまりは自爆技だ。一発限りのだいばくはつ。
それも指向性を持たせてやればいいのだが、今はそれに耐えられるだけの身体ではない。
「ちょっとくらい悪い物食べても何とかなる」
「……」
「うん、わかる。ブランちゃんの不信感しかない目も分かる。気持ちすっげぇよくわかるよ私」
「なんだよ、信用ねぇな俺」
「そういうわけじゃないわ。あなたに任せっきりになるのが不満なだけよ。わたしだってルウィーの守護女神なのに……」
「仕方ねぇよ。あんな姿こっちのルウィーで見せるわけにはいかないんだから。一応、普通の女神化と区別するためにケイオスハートにちなんで「カオス化」って呼ぶぞ」
「カオス化……あの力、なんとか制御できないかしら。そうしたら、ノワール達とも互角以上に戦えるかもしれないわ」
「そうだなぁ……それができたら頼みたいんだが」
そもそも守護女神の力は、信仰が根幹にある。それに何らかの作用が加わってカオス化するのだとしたら──頭を捻り、エヌラスは唸った。
あの時、ホワイトハート・カオスは「異なる次元のホワイトハートとルウィーの信仰を競う」という形で襲撃を仕掛けてきた。愛国心の暴走、と考えていい。それを参考にしてカオス化の要因を探ってみる。
邪な女神化、と考えるとわかりやすいかも知れない。
「う~~ん……」
「……真面目に悩んでいるけれど、すぐにはできると思っていないわよ」
「あー、ダメダメ。エヌラスは一回考え始めるとちょっと長いから」
「そうなの? 思慮深いようには見えないのだけれど」
とても失礼な言葉が聞こえた気がするが、エヌラスの耳には聞こえていないようだ。
「……いや、待てよ?」
「なんか思いついた?」
「女神化っていうのは、国民からの信仰心だ。ならカオス化っていうのは、その信仰心を女神が個人的に使うことで信仰の齟齬から発生する一種のエラーみたいな物なんじゃないか?」
「どういうこと?」
「シェアエネルギーは国民の信仰心。なら、女神化するのに必要なものだ。それを女神が悪用することで起こる、まぁ一種の裏技だな。国民の信頼に背くためにシェアエネルギーを使うっていう自己矛盾から、守護女神としての力を自分の思うままに振るえるってことだ。だから次元を超えてもブランはカオス化が解けなかったし、本来の能力以上に実力を発揮できたと考えれば、納得がいくだろ?」
「……そうね。女神失格って言われてるみたいだけど」
「むしろ俺は褒めてるんだけどな。カオス化したお前が口走ってたんだぞ? わたしが一番ルウィーを愛してるって。自分が相応しいって。暴走してても守護女神として変わりなかったんだしな」
「────」
自分の私利私欲のために、国民の信仰心を扱う。守護女神としてあるまじき行為だ。だが、それでもルウィーに対する思いは何一つ変わらなかった。カオス化状態の記憶は曖昧だけど、あれは自分が制御できなかった未熟さのせいだ。
もしも──カオス化を自分の物にするというのなら、国民の信仰を自分の物として扱わなければならない。
「昔、このゲイムギョウ界でも同じようなことをして滅んだ国があったわ。タリの女神がそれよ」
「……」
「その女神は、きっとその力に無意識に目覚めようとしたのかもしれないわね。だから国民が離れて消えていった。この力を使い続けていたら、わたし達もそうなるのかしら」
「ブラン。そうなりそうな時は、俺が止めてやるから任せろ。知ってるだろ? こう見えて強いんだぜ?」
「……ふふ。そんな怪我をしてるのに強がっても格好よくないわよ」
初めてそこで、ブランが柔らかい表情を見せてくれた気がした。
「さて。じゃあラステイションに急ごうか」
「そうだな」
パチン! 指を鳴らして、エヌラスがハンティングホラーを呼び出すと隣でブランが女神化して宙に浮かぶ。ユウコが後部座席に乗り込み、落ちないようにしっかりと抱きしめた。
「……ユウコ」
「言うな、バカ」
当たってる、とは言えない。本人も当てたくて当ててるわけでもないし、ブランに対する当てつけでもないのだから。
──ラステイションに到着し、そびえ立つ教会を見上げながら三人が途方に暮れる。
「……どういうことかしら?」
「俺に聞くな」
「まさか封鎖中とはねー」
「申し訳ございません。ブラックハート様からのご命令なのです。現在、ラステイションにおいて女神の入国を禁止させていただいているので、お引取りを」
まさかの門前払いを食らい、ブランが門番を睨みあげているが相手を恨んでも仕方ない。立ち入りできるのはユウコだけだ。エヌラスならば強行突破も教会を襲撃することも可能だが、得策ではない。
「さて、どうしようか。私だけでも教会に行ってノワちゃんと話をしてみる?」
「ノワールの様子に、最近変わったところは?」
「私からは答えかねます。教会からの指示に従っているだけですので」
「……ユウコだけ送るのは気が進まないな」
リーンボックスに向かって飛んでいく姿は門番も見かけているようだ。話ができないのなら、せめて自分たちが来たことくらいは伝えてもらいたい。ブランが来たことだけでも教会の耳に入れて欲しいと頼み、エヌラスは考えた。
ノワールと話をするチャンスといえば、後はリーンボックスに向かっていく時くらいだ。夜を待って国内に潜入してもいいが……やはり得策ではない。しかし、問題の原因は教会に保管されているであろう結晶だ。それを破壊しないことには解決しない。
「なぁ、門番さん。ラステイションでのウイルス種の対応は、どうなってるんだ?」
「はい。通常の個体よりも凶暴なため、ブラックハート様が率先して討伐を担っています」
「俺はなんか嫌な予感がしてきた」
「どの辺りに出没するとかはわかります?」
「そうですね……リーンボックス方面、とだけ」
顔を見合わせて頷き、門番に礼を言ってリーンボックスへ向けて移動を始める。
「ノワールがベールと争ってる理由が何となくわかったな」
「ウイルス種の討伐で数を競ってる、てところ?」
「それだけじゃなさそうだけどな」
「女神の精神に作用するウイルスだっていうなら、多分ノワールは他の女神を排除しようとする。その矛先が、偶々近かったベールに向かってるだけだろうな」
「それでわたしには見向きもしなかったってことか」
「元々ルウィーではブランだけじゃなく大臣も軍を導入してたんだ。数は少ないから収入が見込めない理由からだろう」
「だが、それにしたってシェアを奪うでもなくただの競争でこうなるってのかよ」
「他からしたら仕事熱心に見えるだろうよ。飛ばすぞ、ユウコ!」
「はいよー」
ハンティングホラーのアクセルを吹かし、ホワイトハートがそれに並走する形で加速した。
──街道を越えた先の荒野。海辺に浮かぶ軍事大国リーンボックスが見える。
そして、黒い霧を纏う新型ウイルス種モンスターも多数確認できた。最初は少なかったのだろうが、感染したせいで増殖の一途を辿っている。これを片付けるのは手間だろう。
「ブラン、あれで間違いないか?」
「ああ。わたしが倒してたウイルス種と同じだ」
「それじゃ、ウォーミングアップも兼ねて蹴散らしてくる」
バルザイの偃月刀を手にして、エヌラスはそれを投擲すると自身も遅れて群れの中へ突入した。
海が近いからか、海棲系モンスターが多い。瞬く間にウイルス種を撃破していくエヌラスの姿を遠巻きに眺めながら、ハンティングホラーにより掛かるユウコにホワイトハートは眉を寄せた。
「なぁ、ユウコ。わたし達女神にあのウイルス種は害悪だっていうのは、当事者だから分かる。でもエヌラスは大丈夫なのか? 一応アイツもシェアを使うんだろ?」
「そだねー。そういえば、あんまり考えてなかったや」
「もしも暴走したら、やばいんじゃねーのか」
「多分大丈夫。ほら」
つい、と顎でエヌラスを指し示す。
モンスターに纏わりついていた黒い霧が行き場を失い、新たな宿主を求めて漂う。スモッグのような霧はエヌラスへ向かっていくが──近づくだけでクトゥグアによる神性を持つ炎で熱消毒されていた。陽炎のように揺らめく影は熱気によるものだろう。その中心に立っている本人は汗一つかいていない。
左手にバルザイの偃月刀。右手に炎の直刀を握りしめた二刀流でウイルス種を殺菌していく。右腕の調子も悪くない。左目が視えないのは不便だが、遅れを取るほどでもなかった。
「テメェで、最後だ──!!」
巨体を浮遊させていた陸クジラの頭部にバルザイの偃月刀を突き立て、そのまま尻尾に向かって駆け抜ける。頭から真っ二つにされて、最後の一匹が消滅した。取り入ろうとする黒い霧もしっかり右手の直刀で焼き払う。
静けさを取り戻し、胸を撫で下ろしたのも束の間。海辺から飛んでくる一つの人影にエヌラスが舌打ちを漏らした。
「──あら。これはこれは、珍しいお客様ですこと」
「……よぉベール。イメチェンか?」
「貴方も随分と痛ましい姿になりましたね。当然、それで手加減はしませんが」
黒いプロセッサユニット。長槍と鎌が一体化した女神武器。禍々しくも妖艶さが勝るグリーンハート・カオスが獲物を見つけて目を細める。極上の肢体を見せつけるようなインナーの左足、その太ももにブランと同じような紋様が浮かんでいた。
「──まったく、人の獲物を横取りだなんて。盗人甚だしいわね、ブラン?」
「ノワール! テメェ、なんで此処に!」
「なんで、とは心外ね? 貴方達がラステイションに来たって報告を門番から聞いたのよ。そのあとリーンボックス方面に向かったとも。仕事を片付けてきたら案の定ね。どうしてくれるのかしら? 私の今日の予定が狂っちゃったじゃない」
同時に、ブラックハート・カオスもまたホワイトハートとユウコを見下ろす。手にしている女神ノ大剣も普段よりも大味な物となっている。
──二人の共通点としては、カオス化以外に話し合いができるような空気ではないことだ。