超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「ねーぇー、ベール? 今日の勝負はどうしましょうか」
「そうですわねぇ。わたくし達の狩り競争もこれでは続行できませんし──」
クス、と。薄ら寒さすら覚える微笑みを見せてグリーンハート・カオスとブラックハート・カオスはブランとエヌラスを見下ろしていた。獲物は三人。
「どちらが先に仕留められるか。競いませんこと?」
「あっはははは! いいわね、それ! ──じゃあ、そういうことだから。悪く思わないでね、ブラン!」
「おい、ちくしょう! ユウコは下がってろ!」
ホワイトハートがユウコを突き飛ばし、大剣を戦斧で受け止める。そちらに気を取られる暇もなく、エヌラスの眼前には穂先が迫っていた。
身をよじってなんとか回避するが、矢継ぎ早に繰り出される刺突から石突の大鎌を横薙ぎに振るわれる。避けきれないと判断して防御に転じた次の瞬間、攻撃の手を休めないグリーンハート・カオスによってその場に縫い付けられる形となった。
「クッ、ソ……!」
「いつものキレがありませんわね」
長槍を回し、大鎌からの強烈な刺突の一撃によってエヌラスが防御を打ち崩されて後ずさる。掌から血が滴り落ちていた。
ノワールは、まだ分かる。しかし、ベールがこうなってしまった理由がエヌラスには思い当たらなかった。
「そういうお前はキレッキレだな」
「ええ。この姿になってからというもの、身体の調子がすこぶる良いんです。本当に」
「今の自分の姿に、何の疑問もないのか?」
「そうですね。多少、気に掛かることはありますが──どうでもいいことなので。この力に比べれば、些末事ですわ」
どうやら、グリーンハート・カオスは暴走というよりも制御に近い形でカオス化を扱っている。だからこそ厄介極まりないのだが、会話できるだけ冷静のようだ。しかし、やはり言葉の端々には不穏な空気を感じる。
穂先に付いた僅かな血を振り払い、指を唇に当てて舌で舐め取る姿は守護女神であるよりも淫魔のようにも思えた。
「普段よりも、ずっと開放的な気分でとても清々しいです」
「そんな薄着だったら、そりゃそうだろうよ」
接近し、再び自らの距離を保ちながらグリーンハート・カオスが長槍を振るうが、エヌラスは影の中から赤いハルバードを喚び出して打ち払う。普段はハンティングホラーに格納しているが、内部と通じている影から取り出すことも可能だったがそれが功を奏した。だがしかし、右腕の違和感を目聡く見抜いたのか、頬を綻ばせて距離を取る。
「……調子が悪そうですね?」
「嫌味な言い方しやがる……」
「遠慮なさらずともいいですわよ」
姿を魔法でかき消しながら、死角である左側に回り込んだグリーンハート・カオスが大鎌で首を狙った。大振りな予備動作に空を切る音でエヌラスが気づき、舌打ちしながらもハルバードを持ち上げて防ぐ。そして、素早く長槍を翻して目にも留まらぬ速度で刺突を繰り出した。
捌き切れずに頬を掠め、エヌラスは矛先を振るって後ろへ下がる。顔の左半分を隠すように覆っていた包帯がほつれて落ちていった。鬱陶しく思い、自分から剥ぎ取る。
「…………手負い、でしたのね。なるほど、以前に比べて動きが悪いわけです」
「人のこと気遣えるなら話し合いにしてくれねぇかな」
「お断りしますわ。ノワールとの勝負に負けるのは業腹ですもの」
「クソッタレめ、結局こうなんのか──!」
片腕でハルバードを振るって、女神の長槍を捌く。一撃が重い戟に払われて、これは分が悪いと見たのか一度下がろうとする姿にエヌラスは先端を放った。
「なっ──!?」
「九龍アマルガム製の仕掛け武器だ。舐めて掛かると痛い目見るぞ!」
しつこく追跡してくる先端を大鎌で払うが、鎖が絡みついて巻き取られていく。
グリーンハート・カオスがシレットスピアーの魔法円を展開しながら接近し、エヌラスは自分の影からもう一本。青い直剣を取り出すと逆手で持ち、回転しながら迫る魔法の槍を逸らした。腹部に向けてアクセル・ストライクで蹴り返すと地面を滑るように体勢を整える。
「わたくしの玉の肌に、よくも傷をつけてくれましたね。万死に値しますわよ」
「バカ言うな、怪我人相手に手加減してるからそうなるんだよ」
左手に赤いハルバード、右手に青い直剣という異種二刀流。
どうあれ、話し合いによる解決をするにはまず力づくで交渉しなければならないようだ。
──ホワイトハートとブラックハート・カオスの戦闘は大味な物で、互いの得物をいかに相手に叩き込むかになっている。しかし、そこは互いに相手の手の内が分かっている以上、隙を作れるかに掛かっていた。
今回は例外として、戦闘能力が以前に比べて引き上げられているブラックハート・カオスの剣撃の重さにホワイトハートが押されている。
「どうしたのよ、ブラン! あなたこの程度だったかしら?」
「うるっせぇ! テメェがそんな力使ってなけりゃ互角のはずだ!」
「だったらあなたも使えばいいじゃない。それとも、使えないのかしら」
「ッ……!」
ルウィーの守護女神として、国民からの信仰に背く形でシェアエネルギーを使うのはブランにとって躊躇われた。だが、今のノワールを止めるためには必要な力──。無意識に暴走した深層心理の経験から、ホワイトハートはカオス化に踏ん切りがつかなかった。
それを見ていたブラックハート・カオスがつまらなさそうに鼻を鳴らすが、容赦なく大剣を振り下ろす。それを戦斧で防ぎ切ると、力任せで弾き飛ばした。
「へぇ? やるじゃない」
「わたしは……、そんな力に頼らなくったってテメェに勝てる!」
「口だけじゃないってこと、証明してみなさいよ! レイシーズダンス!」
「テンツェリン・トロンベェェッ!!」
二人のシェアエネルギーを乗せた攻撃が衝突し、その衝撃波でユウコがハンティングホラーによりかかる。
白い髪。水色のインナー。右足の太ももには他の二人と同じ紋様が浮かび上がっていた。いつもの姿に比べて攻撃的なフォルムのプロセッサユニット。それに加えて、攻撃的な性格──は元からだったような気がする。
ブラックハート・カオスの斬撃にホワイトハート自慢の防御も崩されつつあった。ユウコはエヌラスの方を見やるも、怪我をしているとは思えないハルバードと直剣の二刀流でグリーンハート・カオスと鎬を削っている。まだ大丈夫だと判断して、ユウコはいつものフライパン──ではなく、戦闘用に改良を重ねた調理器具を用意した。
「そやー!」
パコォン。と間の抜けた音をあげて、ブラックハート・カオスの大剣の腹を横殴りにする。軌跡を逸らされてホワイトハートから外れた隙に、もう一撃。今度は振りかぶって一本足打法から勢いよく振り抜くが、当たるよりも先に避けられた。フライパンの風圧で土埃が待っている。
「ちょっと。まさかアナタまで戦うつもり?」
「いやぁ一応助っ人って体だから……私も本当はこういうことしたくないんだけど、状況が状況がだし? 臨機応変に対処しなきゃいけないじゃん。だからさ、何とか話し合いで解決させてくれたらいいなぁと私は思うよ?」
「はんっ。冗談キツイわ、ベールに負けるのは嫌だもの。ユウコも私の相手をするってことで、いいのよねぇ!」
空中から一気に距離を詰めてくる相手に、ユウコは両手でフライパンをひっくり返す。底ではなく、面を向けて思い切り空振る。まるっきり素人──とブラックハート・カオスが鼻で笑いそうになるが、空気の塊で顔を殴られた。例えるならぎゅうぎゅうに詰めた綿を思い切りぶつけられたような感覚。それに、思わず息が詰まる。
(素人、だけど素人じゃない……!? なんなのよ、一体!)
「よっしゃもういっぱーつ! そりゃー!」
ブラックハート・カオスの記憶にあるユウコと言えば……、主婦。料理が得意で、掃除も洗濯も家事全般が得意。世話好きで、子供(特にピーシェ)が大好きで。それでいてエヌラスの身元保証人兼飼い主(?)のはずだ。
「あ、あなた一体何者なの!?」
「なに? 何者って、主婦だ! あ、いや違う違う……商業国家ユノスダス国王ですけど!?」
「そうじゃないわよ! とぼけないで!」
「私、吸血鬼だって話したっけ?」
「……」
空を見上げる。青空に、眩しく輝く太陽。快晴で日照りもキツイ。さらに言えば海も近い。
「吸血鬼って、昼間から活動してていいの?」
「慣れた! だいたい、人が一番活動する時間帯は昼間なんだから商業国家の稼ぎ時でしょうが! そんな時に国王様が堂々と寝てたらお話にならないでしょ、なので私は日差しが眩しいなと思いながらも日焼け止めクリームで克服しました! 以上!」
「それで克服できたら苦労しないわよ!?」
「それに加えて、私は色素薄いから肌が焼けると赤くなって痛いの! 大体なにが海水浴だよこんちくしょう、私なんて海に入れないんだからね! 海に行ってもビーチパラソルの下で和気あいあいと楽しんでいるのを遠巻きに眺めながら荷物係やるしかない私の怒りと悲しみがわかってたまるか、こーんちきしょー!」
「八つ当たりじゃない!?」
その半ば八つ当たりですら凄まじい破壊力だ。ブラックハート・カオスが大剣の腹で防御するがホワイトハートと互角な威力で思わず歯を食いしばる。流石はアダルトゲイムギョウ界の神格者、国王の座についているだけはあった。人間から女神ではなく、吸血鬼から神格になったとあれば女神化した自分と張り合える理由も多少は納得できる。
「だけど、やっぱり私の敵じゃないわね!」
攻撃も大振りで予備動作もわかりやすい。戦闘に慣れていない証拠だ。──しかし何故調理器具? そんな疑問が浮かぶが、ホワイトハートの相手をしながら横槍を入れられては面白くない。先に排除しておこうと大剣を握り直す。
「トリコロールオーダー!」
「させるかっ!」
ゲッターラヴィーネで打ち出された氷塊を迎撃しながら、ブラックハート・カオスがユウコに向けて大剣を振り下ろした。左手で、鍋の蓋を指で挟むように持ち、斜めに
「えいっ」
「いッたぁっ!」
そのまま、フライパンで頭を叩いた。割と強めに叩かれたのか、ブラックハート・カオスが涙目になっている。
「あ、あなたそんなふざけた武器で戦うことないでしょ!?」
「えっ。でもほら、使い慣れてるし……私こうでもしないと危ないし」
「危ないってなによ、調理器具振り回してる方がよっぽど危険よ! 真面目にやれないの!?」
「真面目にやりたくないっていうか戦いたくないっていうか……」
「あーもう、煮え切らないわねっ! いいわ、そこまで言うなら私も手加減なしで相手してあげるわよ! せいぜい頑張りなさい!」
唇を尖らせて、拗ねた様子でユウコは視線を逸らした。
「手伝うどころか火に油注いだみてーだな……」
「ごめんね、ブランちゃん」
「別にいい。最初から期待してなかったしな」
「……本当に、ごめんね」